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2/6 曇りのち晴れ

モンスターを避けて早朝から旅をする癖が付き、家中の誰よりも早く目が覚めてしまった。
しかし自分の布団で目覚めるというのはいいものだ。
顔を洗い、しっかり髭を剃り、着替えていると、皆が笑顔で起きてきた。
4人でテーブルを囲み、アリアハンの話をしながらゆっくりと朝食を取る。

朝食を済ませた後は街へ。曇り空というのも何だか久しぶりだ。
教会にお祈りに行くと、僧侶のスタンさんが先に祈りを行っていた。
もう80歳を超えるはずだが立派なものだ。

そのスタンさんと、旅先での話を長々とするうちに回復呪文の重要性を説かれ、
あれよあれよという間にホイミを教わることになってしまった。

スタンさん曰く、回復呪文というものは
肉体の治癒力を瞬間的に高めることで、弱まった体力を回復するものらしい。
また、職業に関係なく、ある程度修練を積んだものであれば、
コツさえ掴めばホイミ程度ならすぐに覚えられるそうだ。

要は使い手の精神力の問題らしい。
ただし、他者に回復呪文を施す場合はまた別の能力を要するとのこと。

長い講釈の後に、ホイミを使うための精神力の高め方を教わる。
そして自分でも驚いたことに、数回目の挑戦ですんなりとホイミらしきものを会得。
どう例えていいか分からないが…、
呪文詠唱の直後、「気分の良い貧血」のような感覚が体内を巡った。

周囲からはアリアハンの勇者などと言われても、
無骨な戦士だと思っていた自分が、ひと月ほどでバギとホイミを覚えられた意味は大きい。
これからの戦いが楽になることは間違いない。

このあと街でたくさんの人と話をしたが、今日はなによりホイミが収穫だった。
2/7 曇りのち晴れ

妻と幼い息子とじいさんを残して旅立つのは心苦しいが、
今日でアリアハンを出ることに。
一昨日話しておいた王から使いの者が来て、2000Gもの大金を渡された。
今までの旅の労いとのことでまことに助かる。
妻に全て渡し、もしもの時に備えるように言いつける。

アリアハンの外れまで3人が送りに来た。
キメラの翼を使うのでここまで来ることもないのだが、
妻によると旅立ちというものは形式を重んじたほうが良いとのこと。
手を振る息子に軽く手を振り返し、キメラの翼を空に掲げた。

一瞬でロマリア城城下町入り口の前へ。
相変わらずカラッとした空気で過ごしやすい土地だ。
さっそくイシスの女王が言っていた、次の目的地への手掛かりというものを探す。
闘技場、宿屋と歩き回るがそれらしい話は聞かない。
ロマリアは今、先週カザーブに現れた窃盗団の話でもちきりのようだ。

西棟から城に入りうろうろしていると、小さな部屋で机に向かう一人の老人が。
何か知らないかと思い声を掛けてみると、
偶然にもロマリア周辺の地理に詳しい学者であった。
老人によると、ここから北西に1日半ほど歩いた場所に祠があり、ポルトガという国へ続いているらしい。
善は急げだ。老人に丁重に例を言い、宿屋で簡単に食事を済ませ、城を出る。

この辺りのモンスターはもはや敵ではない。
歩調を速め、宵を少し過ぎる頃まで北西を目指してひたすら歩いた。
2/8 雨のち曇り

目が覚めると雨。小雨なのでさほど気にはならない。
テントの中で水と干しブドウ、木の実の食事を取る。
防水マントを頭から羽織り、荷物をまとめて出発。

もう少しかかるかと思ったが、昼前には祠が見えてきた。
守衛らしき兵士が2人見える。
もう少し近づくと、向かって右側の兵士が手を招くのが見えたので手を軽く振り返す。

久しぶりの来客らしく、2人の兵士は上機嫌であった。
温かいお茶まで用意してもらい、少しの間談笑する。
手を招いてくれたラーベという兵士はアリアハンに古い友人を持っているらしく、
ルイーダの酒場の話に花が咲いた。
もう一人のミケーレという兵士は生まれも育ちもロマリアらしく、
闘技場で1000G当てた時の話をおもしろおかしく話してくれた。

昼飯も一緒にと誘われたが
あまり長く居座るわけにもいかないので断り、魔法の鍵で重厚な扉を開けた。
国の大使以外で魔法の鍵を持っている人間を見たのは2人も初めてらしく驚かれた。
別れ際に餞別として近くで採れるという赤い木の実を袋にたくさんもらった。
ひたすら感謝しきりであった。
人柄の良い兵士とは本当に気持ちの良いものだ。

祠を出ると雨は止んでおり、遥か先まで平原が続いている。空が広く、雲が不思議な形をしている。
兵士に教わった通りに南西を目指して歩く。
途中赤い木の実をしゃぶると甘酸っぱく大変美味。
種にも味があり、いつまでもしゃぶってしまう。

夕方頃、大木の陰にテントを掛ける。
2/9 晴れ

風が強い一日だった。

木の葉とテントが風で煽られる音で目が覚める。
テントから体を半分出して空を見ると、風のせいか雲一つない。

大木の側を流れる沢に、手よりも少し大きいぐらいの動きの遅い魚がいたので、
盾を使ってすくいあげたら簡単に取ることが出来た。思わず笑みが浮かんでしまう。
風を避けるためにテントの側で火を起こし、
魚の内臓を取って木の枝に刺し、焼く。

思えば久しぶりの魚だ。焼けた皮の匂いに唾が出る。
行儀悪く両手を使って骨だけになるまでしっかりと食べた。
少しでも大木の栄養になるだろうかと思い、気まぐれで魚の骨を大木の下に埋める。

ドルイドというらしいモンスターに初めて遭遇した。
ぶよぶよとした肉体からは想像がつかないが、バギの使い手で杖まで持っている。
最初は驚いたが、バギは鉄の装備にはまったくと言っていいほど効かない。
皮や布の装備ならば切り刻まれるのかも知れないが、
鉄の盾でしっかり守れば怖いことは何もなかった。

滑稽なことにドルイドのほうがバギに弱く、
隙をついてこちらが繰り出したバギを守る手立てもなく真っ二つになってしまった。
こちらが風上だったのもバギの威力を増したのだろう。

草原を歩き続けると、右手に山地が見えてきたので、
岩のくぼみを探して休憩した。明日にはポルトガに着けるだろう。
2/10 曇り

朝から赤い木の実を頬張りながら歩いていると、すぐにポルトガの城が見えた。
吸い込む空気には潮の香りが混ざるようになった。
内陸では見かけることのない海鳥が異国情緒を煽る。

街に入ってすぐに目についたのが巨大な船。
アリアハンにも湾内用の小型船はあったが、これほど大きな船を見るのは初めてだ。
道を歩いていた少年に船のことを尋ねると、
やはり巨大な船は国民の誇りらしく、嬉しそうな表情を見せた。

少年の話によると巨大船は国の所有物らしく、
普通の船乗り達の多くは小〜中型の船を使って漁に出るらしい。
そうして取られた魚介類は街の市場へと運ばれると聞き、さっそく市場へと足を向ける。

朝の市場はさすがに終わったらしいが、
巨大な市場にはまだ熱気冷めやらぬという雰囲気が漂っていた。
近くにいた元気の良い若者にお勧めの魚を聞いてみると、
「旅の人なら黙ってマリン亭!」と威勢良い声が返ってきた。
マリン亭というのは市場に併設された、新鮮な魚介料理が自慢の宿らしい。
ポルトガを訪れる旅人はもちろん地元民にも愛されているとのこと。

若者に礼を言い、さっそくマリン亭を覗くとすでに昼時の客で賑わっている。
少し時間をずらそうと思い、先にポルトガ城へと向かう。
しかしあいにく王様は多忙らしく、明日少しだけ謁見の時間を頂くことが出来た。

街をぶらぶらしながらマリン亭へ戻ると夕方になった。
先に部屋をとって荷物を置き、飯の前に湯に浸かった。
窓からは夕陽が差しこみ、潮の匂いがかすかにし、夢心地のようであった。

晩飯も評判以上のものだった。
特に、貝と魚をミルクで煮込んだスープには思わず笑みがこぼれた。