2/16 晴れ
今日は崩れた岩盤に試しにバギを使ってみた。
結果は失敗。やはり風を使う呪文なので、この狭い洞窟内ではうまくいかない。
仕方なくノルドと一緒に斧と大カナヅチで岩を砕いては運んでいく。
ノルド曰く、今日でようやく1/4ほど取り除けたらしい。…はぁ…。
アッサラームの商人から持って来てもらった
パンと炙り肉、青い果物の和え物、冷たいスープの昼飯を食べながら、
(週に一度、街の食事を楽しむために運んでもらうらしい)
ポルトガ王との出会いを聞いてみた。
懐かしそうな表情を浮かべたノルドが語ってくれた話によると、
王との出会いは30年以上前にさかのぼるらしい―。
ある日ノルドが北の森でいつものように狩りをしていると、
大勢の人間が叫ぶ声が聞こえてきた。
声のするほうへ急いで行ってみると、10人ほどの兵隊が
暴れ猿の群れと戦っており、兵隊達の足元には子供がうずくまっていた。
ノルドは、まず弓で数頭の暴れ猿を倒し、ノルドに襲い掛かってきた数頭は戦斧でなぎ倒した。
それを見て残りの暴れ猿は退散していった。
ノルドは動ける兵士に命令し、負傷した者全員を洞窟へ運び込み、
ホビット族秘伝の治療法で怪我を治してやった。
そして、怪我をし、うずくまっていた子供こそが若かりし日のポルトガ王であった。
兵士達に話を聞くと、イシスまでの長期旅行の途中で森に迷い込んだらしかった。
その後ノルドはポルトガに招かれ、多くの褒美をもらい、
ポルトガ王とはそれ以来交友関係が続いているとのこと―。
ノルドがポルトガ王の命の恩人だったとは知らなかった。
だがノルドのあの怪力を見た後では、納得の行く、目に浮かぶような話であった。
2/17 晴れ
天気の良い日が続く。
とは言っても日中のほとんどを洞窟の中で過ごすわけだが。
朝飯にノルドが持って来てくれた小粒のりんごの蜂蜜漬けがうまい。
皿に盛ってミルクをかけるとなおうまい。
甘味に飢えがちな旅を続けていたためか、つい10個も食べてしまった。
満腹になり、少し休憩したあと岩運びへと取り掛かる。
岩を運びながらノルドに年齢を聞いてみたところ、64歳との返事が返ってきた。
子供のころは、ここからずっと北東の大森林の辺りに
他のホビット達と住んでいたらしい。
そして成人する前に外の世界が見たくなって家を飛び出してきた…というくだりは
なんだかいかにもノルドらしいなと感じた。
いつのまにか外に運び出した岩が小さな山のようになっている。
こんなにも運んだのか…と感慨深く見ていると
「オルテガの旦那!最低でもその倍の高さにはしないとなぁ!」との声。
ノルドに苦笑いを返し、また岩運びへと戻る。
夕方にノルドが温泉へと連れて行ってくれた。
いつの間に見つけたのか知らないが、地震のあとに出来たものらしい。
紅色の空と巨大な木々を見上げながら入る温泉は最高で、
溜まっていた疲れが吹き飛んでしまった。
しばらく浸かっていると、人間にしてはいい体をしているな…と
ノルドがしきりに腕の筋肉を触りたがるので逃げるように湯から上がった。
明日も岩をガンガン運んでやろう。
2/18 雨
久しぶりの雨で洞窟の中も湿っている。
アリアハンは変わりないだろうか。
息子も小型モンスター相手に腕白ぶりを発揮していれば良いが。
じいさんもあれで昔はかなりの剣の使い手だったから、
ちょうど良い遊び相手になっているかもしれない。
昼に客人があった。
まだ若い僧侶で、転職を司る神殿ダーマへ向かう途中とのこと。
ノルドの代わりに洞窟の状況を話すと、自分も岩運びを手伝いたいと言う。
名をファンというその若者をノルドのところに連れて行き、事情を説明すると
「2人が3人になればその分早く片付くじゃろ。頼むぞ、若いの」とあっさり話は決まった。
あとでノルドに聞いた話だが、
ノルドが人間が2人も居つかせることはかなり珍しいらしい。
それだけ今回の落盤がおおごとだったのか、
それともノルドに心境の変化があったのかは分からないが
自分もファンも助かったことは間違いない。
ファンは僧侶らしく礼儀正しい性格で、
若さに任せて大きめの石もしっかりとした足取りで運んでいく。
さすがに初日なので仕事の後はすぐに寝てしまった。
明日は色々と話を聞いてみることにしてみよう。
2/19 曇り
今更だが、この洞窟内に湧き出る清水は冷たく心地良い。
これで顔を洗って目覚める朝はなかなかの物。
近くには温泉が湧いているというのに不思議なものだ。
朝食の、アルミラージと山菜のスープをすすりながら
改めてファンに色々と聞いてみる。…骨についたゼラチンがうまい。
年齢は23歳で、カザーブよりさらに少し西の、小さな集落の出身らしい。
代々僧侶の家系に生まれ、集落では神父も兼ねていた家だったそうだ。
そして家は6歳上の兄が継ぎ、ファンは1年ほど前に集落を出て、
ロマリアとカザーブを行き来する行商人達の専属僧侶として修行を積んだ。
そこで商人達から世界中の面白い話を聞いて、
さらなる外の世界に興味を持ち、力が付くのを待って、東を目指すことにしたらしい。
選ばれし者だけがなれるという「賢者」に、いつかはなりたいとも語った。
自分もダーマ神殿には興味があったし、
この洞窟を出てからはファンと旅をしようかと思う。
ノルドが言ったとおり、2人よりも3人のほうが仕事が速い。
持つ石が重ければ重いほど妙に楽しくなってしまい、
日が暮れるまで3人で競うように運び続けた。
晩飯はホビットの伝統料理ぬめりキノコの蒸し焼き。
地面を浅く掘り、熱く焼いた石をたくさん入れる。
その上に大きな葉っぱを入れ、その上に大きなキノコをこれでもかと並べ、酒と岩塩を降る。
しばらく待つと山の香りが立ち昇る。
我慢ならず、いっせいに手を伸ばし、ぬめるキノコを裂きながら頬張る。
うーーむ、うまい…。
さらに干し肉を巻いて食べたら、あまりのうまさに3人で見合って笑ってしまった。
2/20 晴れ
今まで立ち寄ったどの街でも聞いたことがなかったが、
ファンによれば「水にホイミをかけられる」らしい。
さっそく朝食後、器に水を入れて試してもらう。
ファンが水に指先を入れ、目を閉じ、指先に念を混め、「ホイミ!」と唱えると
無色透明だった水がすうっと光り、ほのかに青白くなった。
「オルテガさん、どうぞ」と微笑みながらファンが薦める。
まさか体調を崩すこともあるまい、と一息に飲み干すと、
喉、内臓、手足、頭とホイミ水?が通った場所に精気が満ちる。
効能はホイミと同じようだが、体内から摂取するとこうも感じ方が違うのかと驚かされた。
聞けば、ファンの育った集落では昔から病人への飲み薬に使った方法らしい。
昼過ぎに、崩れて塞がっていた洞窟の反対側が少しだけ見えた。
3人で汗を飛ばして喜び合う。
通ることだけ考えれば今日中にも洞窟を抜けられるだろうが、乗りかかった船だ。
洞窟の床掃除までしてやろうと、改めて3人で岩運びに精を出す。
夕方ごろ洞窟に訪れた行商人から聞いた話だが、
アッサラームにえらい美人の踊り子が現れたとのこと。
短い髪に切れ長の目で客を殺しながらこうやって踊るんですよ、と
にやけ顔で腰をくねらせる行商人。
…気にはなるが、向かうは東。
明日にはほとんどの岩を取り除けるだろう。