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2/21 曇り

恐らく旅立ちは明日になると考え、早朝に干し肉作りをした。
キャットフライを6匹捕まえて、皮を剥いで肉を切り分け、木の枝に干す。
ファンは干し肉作りの経験がなかったらしく、終始手付きがたどたどしい。
ノルドはさすが慣れたもので、次々に肉を干していく。

そしてノルドが「餞別だ」と言いながら、黒く小さい粒を肉にすり込んでいく。
最初、砂かと思い静止したところ、これがポルトガ王の大好物であるコショウらしい。
確かに、コショウをすり込んだ肉に鼻を近づけると、なんとも良い匂いがする。
コショウ多くしてポルトガ船山登る…か。食の魔力というものは恐ろしいものだ。
さらに塩をすり込んで、干し肉の仕込み終了。

干さなかった肉と骨、木の実、野菜を煮込んだスープをたらふく飲み、
一息ついてからさっそく岩運びに取り掛かる。

今日も洞窟内にノルドの達者な口笛が響き渡る。
ファンも数日のうちにすっかり曲を覚えたらしく、一緒に口笛を吹いている。
自分は相変わらず不器用で、さっぱり音が出ない。
そういえば、ハリスにもそれを笑われたな…。

岩運びは順調に進んだ。
夕方前にはあらかた岩を運び終わり、細かい石をまとめて片付けるのみとなる。
細かく砕けた石を3人がかりで運び、ついに全てが片付いた。
「天井が高くなったわい」とノルドが笑い、それに釣られて我らも笑う。

気持ちよい温泉のあとの夕飯は、
肉、魚、野菜、キノコ、木の実に加え、酒まで並んだ宴となった。
首まで赤くしたノルドから、東の国バハラタ、ダーマ、ジパングの話を聞いた。
10日近くもこの洞窟に留まったわけだが、
ファンとも出会えたし、大いに実りある期間であった。
2/22 快晴

再出発の日にふさわしく、朝から雲一つない快晴になった。
乾パンのミルクびたしが温かく優しい味だ。
昨日の今日でこれはありがたい。

荷物をまとめていると、ノルドが感謝の言葉をかけてきた。
そして、これを持って行けと、大カナヅチを手渡された。
この先の旅が辛いものになることをノルドは分かっているのだろう。
礼を言い、ありがたく頂くことにした。

またこんな落盤があったら、その時はどうするんだ?と聞くと、
「その時はオルテガの旦那にそっくりな暴れ猿にでも手伝わせるさ」と豪快に笑った。
それを聞いてファンが笑う。

ノルドがファンに、お前にはこれだと、美しい指輪を手渡した。
「祈りの指輪」と言って、魔法力を回復する力を持っている
希少価値の高い指輪だとファンが興奮して語ってくれた。

全ての荷物をまとめ、東口でノルドに別れを言う。
「気を付けてな」の言葉に身が引き締まる。

洞窟を出て少し歩き始めた時、ファンが思い出したように
「北の祠へ向かってみませんか」と切り出した。
ファンが持っている地図を見ると確かに北に祠がある。
バハラタへ行ってしまってからでは寄ることが難しそうな場所なので、
急遽行き先をその祠へと変えた。

それにしても、どこまで進んでもこの辺りは森と山ばかりだ。
「オッットー オッットー」という、
聞いたことのない鳥の鳴き声が森に響き、不気味であった。
2/23 晴れ

南北にどこまでも深い森が続く。
朝は妖しげな霧が深く立ち込め、晴れても昼なお薄暗い。
洞窟から抜けたと思ったのに、またおてんと様から離れた旅か…と一人苦笑いする。

じめじめした空気がモンスターの発育には良いのかもしれない。
デスジャッカル、アントベア、ハンターフライなど、
アッサラーム地方では見ることのない凶暴なモンスターが木々の間から時折襲い掛かってくる。
ふいを突かれて負った傷も、湿気で治りづらいようだ。
気のせいか、ホイミが放つ光も弱々しく見える。

昼食後、この先の戦いを意識して、ファンと一緒に武具の手入れをする。
とはいえ自分は大かなづちなので、握る部分の布を補強し、接合部を確認するのみ。
ファンはナイフを使って槍の切先を研ぎ、木の枝で試し切り。

モンスターと戦っている時にも感じていたことだが、
ファンが槍の切先と柄を巧みに切り替えながら
無数の枝をなぎ払う様は見事で、思わず見とれてしまった。
ひとしきり終わった後拍手をしたら、照れたような顔をしてファンが槍術の出自を語った。

ファンが生まれ育ったカザーブ西の集落では、
モンスター(特に軍隊ガニのハサミ)から身を守るために、
槍術を身につけることが一般的だったらしい。
武術も盛んな地方ゆえ、自然と全身を最大限に使った槍術になったとのこと。

自分の剣や斧はアリアハン流だろうか?
否。そう呼べるような特徴はないような気がする。
それは少し寂しいことのように感じた。
2/24 雨

起きた時は曇りだったが、じきに雨が降り始めた。
幾重にも重なった葉と枝にさえぎられて、落ちてくる雨は少ない。
しかし、その代わりに霧はいつもよりさらに濃い。

視界が利かない今日のような状況でモンスターに不意打ちを食らうのは避けたい。
自然とファンも自分も、そろりそろりと音を立てない歩き方になる。
それでも時折、足元の枯れ枝を折ってしまい、乾いた音を響かせてしまうが、
こんな日はモンスターもお休みなのだろうか。
体をすくめても、遠くに鳥の鳴き声が聞こえるのみだ。

間抜けなことに、ここに来てようやくメラの利便性に気付く。
指先から放たれる小さな炎なので、戦いにはいささか頼りないが、
旅に欠かせない「火」を簡単に起こせるのは魅力的。今日のような雨の日はなおさらだ。
案外、元々は生活と魔術が合わさって出来た魔法なのかもしれない。
いまさらながら旅立ち前に教わっておくべきだったと後悔する。

薄暗くなった夕方頃、恐れていた不意打ちに遭う。
左後ろから熱を感じた瞬間、足元に丈の低い炎がぶわっと広がる。
さっと飛び退き、体の向きを変えると、
2匹のハンターフライが、強い羽音を立てて空中静止している。
巨大な木を背にし、後ろから襲われぬよう体勢を整えると、さっそく一匹が向かってくる。

尻尾の毒針をかわすと、狙っていた通り毒針が木に刺さり、身動きが取れなくなる。
そこを狙って、かなづちで木に叩きつける。
ファンのほうも見事な縦のバギであっさり倒したようだ。
膝の辺りを少し火傷したので、ホイミをかけてもらい、落ち葉を当て冷やしておく。

暗くなるのが早いので、早めに就寝。
夜でも油断はならないので武器を握っておくことに。
2/25 晴れ

昨日とはうって変わってよく晴れた朝。
比較的空が見える位置にテントを張っていたので、
目が覚めた時、テントに光が充満しており心地よい。

熱いお茶を沸かし、炙った干し肉をお湯に入れて、スープにして食べる。
食後は腹に温泉が出来たようですこぶる具合が良い。
少し休んだあと、荷物をまとめて出発。

永遠に続くかと思った森林だったが、昼前に森の終わりが見え始めた。
ファンと顔を見合わせ、うなづき合う。
前方から明かりが近づいてくるのがこんなに嬉しいとは思わなかった。
歩調を速め、群れで現れたマージマタンゴをなぎ倒し、
さらにしばらく歩くと、ようやく森を出た。

一転して、ずーっと先まで綺麗な草原が続いている。
すがすがしさに思わず雄たけびを上げてしまい、
森の鳥達はもちろん、ファンのことも驚かせてしまった。
とはいえ、ファンも笑顔だ。

風が、北から南へ絶えず吹き抜ける。
高地だからだろうか。やや濃い青の空が広がり、雲も南に流れていく。
草原はモンスターを把握しやすく、歩きやすい。
風下の後ろにさえ気を付ければなんということもない。

夕方近くまで早足で進み、少し早いが
森で集めておいたキノコと、草原の野草、干し肉を煮込んだスープで晩飯に。
固パンを浸しながら食すと幸せな気分に。

細い沢で水を浴び、森でたまった汗を落とす。
今日はよく眠れそうだ。