私は朝が嫌いです。 決まった時刻に目は覚めるのだけど頭の後ろの方がもやっとして気分がよろしくない。 今日も起きる気がしなくて暫く目をつぶっていると、決まって小うるさい目覚ましが時刻を教えてくる。 そんな日が延々と続いていて、毎日 毎日、私は、 テレレレ テッテテー♪ え?なんだこの間抜けな音は。と思っているとこんどはのどかな音楽が流れてきました。 テレビなんかはつけてないはずでした。おかしいな、と見渡すとそこは知らない部屋でした。ベットが一つタンスが二つ、シンプル極まりない。 そういえば地方の企画を任されて、ホテルに泊まったんだった。夜遅くに泊まってすぐ寝てしまったので忘れてしまったのでしょう。年をとったな、と思ったものでした。 バスルームくらい有っても良さそうなのだけど地方の安ホテルなのかない。この音楽も放送かなんかだろとおもいます。変なサービスです。 部屋を出て受付に鍵を渡そうと思いましたが、鍵は開いていました。というか鍵穴がない。いやそんなことより、鍵がない。 チェックアウトしたよな?ぼく不法侵入しちゃったの?いやただでとまちゃったから泥棒なのかなんかちがうかあqwせdrftgyふじこpに、にもつ荷物・・ 荷 物 も な い。 ・・・・・・。あ、わかった。泥棒に入られたんだ。いや泥棒は僕だから?いえ? 違う違う違う違う違う違う違う。 これはホテルのセキュリティーの問題です。断固、荷物の保証をしてもらわなければ。 勇んで受付に行くと、従業員は、なんというか 奇妙な動きをしていた。 行進するかのように規則的に足踏みをしています。昨日はこんなことはなかった・・気がする。もしかして、不手際があったお詫びなのでしょうか。大変理解に苦しみます。 それより特異なのは客と思われる若い男です。まるで従業員に会わせるかのように足踏みをしているのですが、これがまた。 その足踏みとは違うリズムで規則的に前進をしているんです。どこか、目的地に進もうという意図が感じられません。時々壁に向かって足踏みをしていることもありました。おかしいですよね。 従業員はともかく、彼はなぜあんなことをしているのか。まさか、何かもっと大変な事故が起きたとでもいうのでしょうか? 二人とも驚く私には気づかないようにひたすら足踏みを続けている。 異様な光景にすっかり勢いをなくした私はおずおずと訪ねました。 「あ、あの。」 「お泊まりは25ゴールドです。お泊まりになりますか?」 「そうじゃなくて。わたしのにもt」 「お泊まりは25ゴールドです。お泊まりになりますか?」 「え、ちがうくて」 「お泊まりは25ゴールドです。お泊まりになりますか?」 「・・・・・・・・・・いいえ。」 「またのお越しをお待ちしています。」 「それでなんですが、なにかあったんですk」 「お泊まりは25ゴールドです。お泊まりになりますか?」 「・・・・・・・・・・ぃぃぇ。」 「またのお越しをお待ちしています。」 ・・っ。出て行けということか。 地方とは思えぬ強引さにどうしていいのかわからなくなった。 絶望と不安にかられ、誰でもいいから助けてくれる人がほしかった。 電話はないようです。田舎だからもしかしたら、と思ったのだが。緑色の公衆電話が恋しい。もっとも非常時に助けてくれる友達なんていないのですがね(泣)。 となれば、あまり近づきたくないのだが壁の隅で姿勢良く行進する彼に話しかけるか・・。 「あのー。すみません。」 「こんにちは。」 爽やかではっきりした挨拶だ。なんだ話してみると普通の人じゃないか。 それどころか今時珍しい明るい好青年だ。 この辺な行進も新種のダンスなのだ。うんうんダンスは健康的でいいじゃないか。よかったこれで私は助かる。 いくらかほっとして聞いた。 「いや私はこのホテルに泊まったものでしてね なんだか泥棒に入られたみたいなんですよ もしかしてあなたも被害に遭っていませんかいや 私はね受付に訴えようとしたんですがねほんとに ふてぶてしいことに取り合おうとしないんですよおかしいですよねー こういったことはないもんだから私どうしていいかわからなくて」 気がつくと青年はいなかった。 あの変な行進ダンスで無辺世界を歩いていた。 背中を向けて延々と進んでいく。挨拶をすませて、そのままいってしまったのか。 そりゃちょっと矢継ぎ早にしゃべっちゃたけど、 いや最近の若いもんはせっかちでいかん。 「おい、きみ、 「こんにちは。」 まさか、また。いや、「あのちょっと聞きたいことがあるのだが、」 「こんにちは。」 若者は同じ表情で同じことを言った。行進も止まらない。私は変な汗が出る。質問するのが怖い。 「あの、質問をしているんですよ。こんにちわ、じゃなくて」 「こんにちは。」 「 」 そんな ・・・・・・・なぜだ。なぜ皆私を拒絶するんだ。みんなそうだ。 私をあざ笑っているんだ。この若者もそうだ。邪魔ないなくてもいいつまらない人間だと思っているんだ。 私は何も悪いことをしていないじゃないか。毎日毎日働いたじゃないか。一生懸命やったじゃないか。 それなのに、同僚にも、上司にも、部下にも、妻にも!子供にも! なぜ私ばかりが不幸なんだ。不公平だ。間違っている。 どこにも!どこにも目を覚ます場所などない。あんな厭わしい朝など、もうこなければいい あんな・・・ いたたまれなくなってホテルを出た。乱暴にとびらをあけて乱暴に閉めた。 太陽の光が世界を白く見せた。新しい目覚めからもうずいぶんと時間がたっていた。 白い世界はすぐに消えて、ここが昨日目覚めた世界とは違うということを気づかせた。 そして誰一人と彼がほしいものを与えなっかった。 この悪夢から目を覚ませるのなら何でもよかった。 彼は崖から身投げした。 時間にして10秒ほど。長い時間だった。体中がつぶれる、強く激しい感触がとても悲しかった。