「11泊目RES:416」の物語

投稿期間 2007/12/01
スレッド 『もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら11泊目』

目が覚めた。天井になんか違和感がある。周りを見渡したらどうも俺んちではない。
俺はちゃんとうちに帰ったよな?昨日は大学が終わってバイトをしてからいつものようにバイクに股がりうちへ直行したはずなんだが。
ここはベッドとカンテラとタンスぐらいしかない部屋。さながらホテルのようだ。ここ、何処だ?そして何で俺はこんなところにいる?
俺は悩んでいても仕様がないのでこの部屋から出ることにした。
あ、人がいる。何処にもいそうなおばちゃんだ。あのー、すみません…と俺は話しかけようとしたその時。
「キャー!魔物よ!」
おばちゃんが血相を変えて逃げていった。えっ?ちょっ、何?魔物ってなんだ?
「出ていきなさいよ!」
血相を変えたおばちゃんは箒を持って戻ってきた。俺に向け、俺を攻撃しようと何度も叩こうとする。
何をするんだ!俺はゴキブリじゃないぞ?俺はほうほうのていでおばちゃんから難を逃れた。
俺はあれから逃げ出し近くの湖へと辿り着いた。はぁ疲れた。喉渇いたな。
湖の水は澄んでいるし飲むかと手を差しのべようとしたら手がない。いや手が出なかったんだ。そして水鏡に写った俺の姿は紛れもない、ドラクエのスライムだった。

湖をそろそろとゆっくりと早く覗いて見ても俺の姿はどうみてもスライムです。本当に略。
何でどうしてこうして俺はスライムなんだぷるぷる!
うわー動きまでスライムっぽい。俺涙目。
…人の声がする。数人の大人と、子供の声。俺は身体を弾ませ近くの草の中に身を隠した。
姿を隠したはずだが、ちょっ、俺の目の前にスライムが現れた!
「ピキー?」
スライムが俺に話しかけてくる。あんたなんでこんなところにいるの?って言っているようだ。スライム語まで理解してしまう。切ない。
「ピキー」
逃げてきたんだ、と伝える。本当だ。
「駄目じゃないかスラリン。先に行っちゃあ。おや、そのスライムは?」
スラリンと呼ばれたスライムは紫ターバンを巻いた青年に俺の事情を話す。
「逃げてきたんだ。ここらへんはスライムはいない。モンスターが強いからスライムは生息出来ないからね。…どうやら野生ではないようだね。どこからきたんだろう?」
ここらへんは強いモンスターが出るのか…。ターバンの話を聞いて逡巡する。もし出会ったら瞬殺されるな。
なんせ今の俺の姿はドラクエ世界で最弱モンスターと銘打つスライムだもんな。
「ピキー、ぷるぷる」スラリンは身体を震わせターバンに請う。
「一緒に連れてってもいいか、か。どうだいビアンカ?テンとソラは?」
俺は仲間にして欲しそうに見つめている。
「いいんじゃないかしら」
とビアンカと言われた金髪の三つ編みの女性が言う。
テンとソラと言われた子供たちからも了承を得た。
良かった、俺は救われた。殺そうとする人間もあれば救う人間もいるもんだな。ターバンが俺の名前を聞いている。俺の名前はアキラだよ。
「アキラはレベル1なんだね。まだ戦闘要員にならないから馬車へ行こう」
テンと呼ばれた男の子が俺を馬車へと誘う。「君の仲間がいっぱいいるから仲良くしてね!」
女の子のソラが言う。
誘導された俺が見たものはグッドスメルのくさった死体と八本の腕が馬車内を狭くしているアームライオンと俺を鋭い目で狙うキラーパンサーだった。
アキラですが馬車内が最悪です。
そんななか、嬉しそうに寄り添って頬ずり?してきたスライム、スラリン。何とメスなんだそうだ。スラリンは何かと俺に教えてくれる。
この人間たちは家族であり、あの子供は双子とか、ターバンは魔物使いで魔物と仲良くなれることが出来ること、これから暫くレベルを上げて皆との旅は楽しかった。
子供たちやターバン夫婦は俺を愛してくれるし、アームライオンやキラーパンサーも見た目は怖いが所詮は猫科動物。なつけばゴロゴロと喉を鳴らす。
スラリンは当初から俺に好意を示してきた。一目惚れだったと彼女は言っていた。俺のどこがいいかは分からないが惚れられて悪い気はしなかった、スライムだが。
だから連れて行きたいと言っていたのかな?
人間の目にはスライムの顔なんてどれも一緒に見えるが、スライムの視点からみるととても表情豊かだ。
俺は幼い頃両親を早く亡くして母方の祖父母に預けられ、育てられた。とても良くしてくれ、今通っている大学だってお金を出してくれ、応援してくれている。
だが、どんなに良くてもやはり母や父から愛情を受けたいとずっと渇望していたんだ。
祖父母と俺。ターバン夫婦と子供たちと俺。俺が付け加えられ出来た家族。これだけでもとても幸せだ。
俺は今度は家族を創りたいんだ。子を成し、親になり、愛情を子供に注ぐんだ。自分が両親から受けられなかった愛情をさ。
スラリンならいいお母さんスライムになれる。スラリンも俺のことを深く愛してくれている。…俺も…。

ターバン夫婦と子供たち、それと俺たちモンスターは死力を尽くして最終ボスを倒した。
やった!俺たち間に喜びが駆け抜ける。皆笑顔だった。ハッピーエンドだ。
と。
俺やスラリン、アームライオン、キラーパンサーが少しずつ身体が透明になってゆく。
ああそうか。俺たちモンスターはきっと最終ボスより作りだされた存在。ボスが消滅してしまえば具現する力を失う。
ドラクエは、ボスがいなくなると他のモンスターもいなくなるもんな。
スラリンが飛び付いてきた。目からぽろぽろ涙が零れている。
アームライオンも、キラーパンサーも。
「行かないで!」
仲良くなったテンとソラ、涙でぐしゃぐしゃな子供たちが俺たちの身体を抱き締めようとしたが、既に触れられなかった。
さよならだ。
ありがとう。ありがとう。俺が消えても、どうか忘れないで下さい。
俺は、ドラクエの世界から消滅した。
俺の身体はベッドに横になり顔に白い布を被されている。俺の横には祖父母が俺の手を握りしめ涙していた。俺はその光景を…天井から見てた。
そうか俺…バイト帰りでバイクに乗って…跳ねられたんだ。
それから意識がなくなっていつの間にかドラクエ5の世界のスライムになっていたんだ。
俺がドラクエ5をプレイした時3代続く家族物語に感動した。全部のナンバリングをプレイしてきたけど俺の中で一番ずっと心に残る物語。
俺の夢見た夢をドラクエ5の世界は叶えてくれた。現実では俺の夢はもう叶わないから。
俺の身体が消えてゆく。ターバン夫婦やテンやソラ、スラリンやキラーパンサーやアームライオンとお別れした時のように。
今度は祖父母にお別れだ。さようなら。ありがとう。
消えゆく俺の視界にスラリンと両親がいた。迎えに来てくれたんだね。俺は手を差しのべた。

―了―

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