「11泊目RES:619」の物語

投稿期間 2007/12/28
スレッド 『もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら11泊目』

腰まで届く桔梗色の髪をブラシでとかして艶をだす。
軽く化粧を施し頭からシルクのローブを身に纏う。
セットしたあと手に気品ある緋色の天鵞絨に包んだ水晶玉を携える。
ドレッサーの鏡に写る自分の姿はまるで占い師の様な風貌。
否、今の私は占い師だ。

目が覚めた時、知らぬ場所にいた。
ココハドコワタシハダレと軽く混乱していると丁度よくドアから現れたのが…。

ちらり、とベッドでだらしない格好で寝ている踊り子マーニャを見た。
踊り子マーニャとくれば私はマーニャの妹、占い師ミネア。
そう、何故か私はミネアになっていたのである。
もうかれこれ一ヶ月たつと思う。

私には年子の姉がいる。
背丈も顔もそっくりだが姉は運動好きで明るくムードメーカー。
対する私は占いが好きな大人しいタイプ。
丁度小学生高学年に流行っていたドラクエ4のキャラクター、モンバーバラの姉妹の設定が似ていると良く言われた。

ドラクエ4。

そう言われたからプレイした。
姉ちゃんは見ているだけだった。
確かに似てるねって二人で話していたことがある。
顔は似ていても性格は真逆だから喧嘩やぶつかり合いも多かったし、姉ちゃんなんていなければいいなんて何度も考えた。

私は地元の専門学校を卒業してから地元で就職。
姉ちゃんは都会の大学へ行き卒業してそのまま就職した。
仕事は忙しい、だけどやり甲斐はあると以前電話で話してた。
大型連休がとれても遊ぶことがメインになってるようで、地元には一年に数回程度にしか帰郷することしかなくなった。
海外旅行に行った時はお土産だけは荷物で送ってくれてた。
仕事も遊びも楽しんでやる姉ちゃん。
最後にうちに帰ってきたのは結婚すると将来の旦那さんを連れてきた時かな。
もう随分前だ。
小さい頃から一緒に過ごしていた姉ちゃんがいつの間にか私の知らない他人の妻になり、やがてそのうち母になるなんて身内としては複雑だけれど…。
…姉ちゃん最近連絡を寄越さないな。
きっとまた忙しくしているんだろう。
あ、もう仕事の時間だ。
行かなければ。

私は寝ているマーニャを起こさないようにこの宿屋兼踊り子の寝所から離れた。

私は小さいながらも街の隅に店を構えていた。
お店っていってもテントだけど。
野外でやってもいいけど天候に左右されるのが難点だったので。
テント内の光源は数本の蝋燭だけにしている。
お香も焚いて雰囲気作り。
お客さんとは基本的には一対一。
カップルを相手することもある。
テントの外には既にお客さんは何名か待機中。
準備が整い次第お客さんを招き入れた。

私は小さい頃から占いが好きで占星術、風水、血液と様々な占いを勉強してきたけどタロットは一番得意だ。
姉ちゃんは占いは見向きもしなかったけど。
幸いドラクエ世界のタロットは現実世界と一緒だから占い方法も一緒だ。
私はお客さんに悩みを聞いてからタロットをシャッフル、その悩みに似合った展開をし、ガードから意味を読み取る。
それを悪い内容ならやんわりと、良いようならそのまま伝える。
もう一つの占い、水晶占いも人気。
これは「ミネア」になってから見えるようになったんだよね。
水晶から未来が見えるなんて嘘臭かったけど実際見えるんだからびっくりだ。
透視ではないから部分的なものを伝えるだけどね。
今が変われば未来が変わる。
自分が変われば未来が変わる。
これは私の持論。


占いはあくまでもより良い未来への手助けに過ぎない。
それに頼り過ぎたり占い内容を丸のにしてしまったりしてしまうのは違うと思っている。
占いの捉え方は人それぞれだからそれはその人に任せる。
そうこう考えているうちにお客さんはひっきりなしに入る。
いつもの倍かな?
それは今日でお店を終うからだと思うんだ。
別れを惜しむ人も多い。
だけど明日から父さんの仇討ちにマーニャと旅立つんだ…。

翌朝私とマーニャはモンバーバラの街を離れた。
父親の仇討ちの旅に…。

私はミネアではないが外見はミネアなのでマーニャは普段変わりなく話しかけてくる。
どうやらバレていないようだ。
まさか外見がミネアで中身は別人だなんて理解していないとは思うが。
私はゲーム内のミネアの言葉使いを思い出しながら言葉を選ぶ。
姉ちゃんと呼んできた私に姉さんと呼ぶのは照れがあるがそれは慣れだ。
性格もちゃらけた姉をみるしっかりものの妹のように。

私たちはモンバーバラを離れ、モンスターと戦いながら北へ向かう。
途中生まれ故郷コーミズに寄り、飼い犬のペスタと戯れたり洞窟に潜り父さんの弟子のオーリンを仲間にして…とゲームでいう第四章をリアルに体験してゆく。

私はこの物語の結末を知っている。
私にとってこの旅はドラクエとしてプレイした『ゲーム』だからだ。
これから何処へ行き、誰と対面して敗れ、逃げるようにして何処へ行くのか…。
だからこそ岬の御告げ所の占い師にあなたはこれから先を視ていると指摘されたとき頷いた。
マーニャはそのことに驚いていたが私は冷静であった。
「そう、分かっていた。今の私たちではバルザックに勝ち目のないこと…ううん何でもないの。姉さん」

そして、本懐を遂げられないまま私たちは大陸を離れる―――。

私たちはエンドールで暮らすことになった。
世界の中心地。大都会エンドール。
ここで私たちは劇的な出逢いを果たすことになる。
それがいつになるか分からない。だが待たなければならない。

それまでに生活もしなければ食べていけないので仕事をしていた。
占いが好きで自分で占いをするようになってから実は恥ずかしながら占い師になりたいとは思っていた。
だが現実は厳しいもので得られる金額が微々たるものと知ると副業にするには良いがそれだけではご飯は食べれないと。
副業といっても現実世界では本業が忙しく副業にまで手が出せないのでせめて趣味でと占いをしていたのだが。
都会で人が多いからなのか、占いの腕がいいからなのか。

連日お客は途切れなかった。
外見は違うけど中身は私。
占い一本でごはんが食べれるようになり夢が叶った。
仕事は大変でも好きなことをしていく苦労は辛くなかった。

エンドールで生活をして数ヶ月たったある日。
その日はやって来た。絶望に打ちひしがれた顔でこの都会をさ迷う緑髪の青年。勇者と定められた者の姿を。

勇者を加え、エンドールを離れ、私たち姉妹の旅はまた始まる。
旅の途中同じ光を持つ仲間たちを導く。
最後の戦士を迎える為に私たちは大陸を渡る。

故郷の地。
再度踏むことが出来た。
二人では不可能だったことが仲間を得てようやく叶った。
本壊を遂げられた。
仲間たちは我が身のように喜んでくれた。
今度は私たちが皆にお返しをしてゆく。

旅の仲間は面白い人たちばかりだった。
時には深い話しもした。
深い話しが出来るほど仲間たちの絆は深まっていた。
だがやはりマーニャ以上にはなれない。
それは血の繋がった二人っきりの姉妹だからなのか。
旅の仲間たち以上に長い時間を過ごしてきたからなのか。
ミネア一人では仇討ちを決意しなかった。
性格上泣き寝入りしていただろう。
姉が、マーニャがいたから、行動に移すことが出来た。
それはきっと―――マーニャも同じだっただろう。

苦労した。
だけどそれ以上に笑顔で旅が出来た。
あんな散々に姉のことを愚痴っていたけどそれは愛嬌。
他者がマーニャのことを悪く言ったらミネアは怒り狂っているかもしれない。
私は…ミネアは…悔しいけれど…マーニャが大好きだった。
それは…真逆の性格をした私の姉に対する感情と同じだった。

旅を続け、大いなる運命に導かれ、私たちは最後の戦いに挑む。

マーニャは火炎呪文メラゾーマを唱え、巨大な火炎球を進化の秘法を使い進化した巨大な敵にぶつける。
敵は開口し冷たく輝く息を吐いた。
「フバーハ!」
私はすかさず光の粒子の衣で仲間を守る。
「ありがとミネア」
マーニャがウインクした。
「進化の秘法は父さんのものよ。あんなものに悪用されてたまりますか!」
マーニャは再度メラゾーマを唱えた。
私は回復呪文ベホマを唱え、仲間の傷を全快する。
回復呪文で傷を癒すのが私ならば精神的なフォローをしていたのはいつもマーニャだった。そして今日も。

以前から思っていた。
この戦いが終わったらもしかしたら私、元の世界に帰還するんじゃないかって。
だってこれで『ゲーム』は終わりだもの。
隣で攻撃呪文を舞うように放つマーニャ。
そこにいるのはマーニャなのに、何故だろう。
自分の姉ちゃんに見えてしまっていた。
「姉さん…」
「こら、これは戦いよ。ぼっとしている間もないわ!」
「姉ちゃん!」
マーニャは驚愕した顔だった。
「姉ちゃん、わたし、姉ちゃんが結婚してもずっとずっと好きだから。
 喧嘩しても、離れてしまっても。だって、二人っきりの姉妹だもの!」

私は何を口走っているんだろう。だけど言わずにはいられなかった。
マーニャは私を見つめ…そしていつものように笑った。
「あたしもミネアがいて良かったよ。ありがとう。結婚して離れてもあたしたちはずっと一緒よ」

まだ感傷に浸るのは早いわ。さぁ、片付けちゃいましょとマーニャは再度メラゾーマの呪文を紡ぎ出した。

私たちは敵を倒した。
魔族と人間の戦いに人間が勝った。
父エドガンが発見した進化の秘法は私たち姉妹が奪回し封印した。
マーニャはまたモンバーバラのステージを踏んだ。
私はまた占いを始めようとしていた。そこで…記憶は途切れた。

…私はどうやら夢を見ていたようである。
現実と間違えてしまいそうな長い長い夢を。
部屋の中は真っ暗。今日が休みだとはいえ一日潰して夜まで寝込んでいたようである。
身体を伸ばすと間接がパキポキ乾いた音を立てた。
携帯をチェックする。メールが届いていた。姉ちゃんからだ。久々だ。

『おひさー。元気でいる?あたしは元気だよっ。別に用事はないんだけどさ、夢にあんたが出てきたんだ。だからどうしているかなって』

更に続く。

『昔ドラクエに出てきたモンバーバラの姉妹っていたじゃん?あたしが姉のマーニャであんたがミネアになっているの。
 それで最後の敵いるじゃん。その時ミネアが姉ちゃんってあたしに話しかけるの。姉ちゃん好きだって。なんだかすんごくリアルだったんだ』

え…もしかして…。
姉ちゃんの告白に私は驚きを隠せない。

『離れてしまっても、ずっと思っている。だって、二人っきりの姉妹だもの』

姉ちゃんには、私も同じ夢を見たよとメールを打ち返した。

―――了―――

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