恋をする男が一人居た。 男はドラクエ世界の宿屋で目覚め、そのまま暮らしていた。 相手の女は僧侶で、一生懸命にべホイミを練習している。 男は彼女の気を引きたかった。 素直な彼女はいつも人に囲まれていた。 やっと、一人になったのを見計らい話しかけ、約束をする。 男は約束に備え彼女が練習していた魔法を習得した。 時間が足りず、それしか習得できなかった。 それでも、実際の魔法を見せて喜んでもらえると思い、努力した結果だった。 彼女の気持ちは、わからなかった。 毎日、少しでもわかってもらおうと合間を見てほんの少しだけれど会話した。 時々は一緒に話しながら帰った。 男は怖かった。 約束の日に自分の気持ちを伝えようと思っていた。 不安だった。 今の関係が無くなってしまう事が、とにかく恐ろしかった。 約束したことを後悔したこともあった。 けれども、決めたことだからと毎日を精一杯過ごした。 とうとう約束の日の朝。 目を覚ますと現実世界の部屋に居た。 もうその関係が壊れる事はない。 けれど知ってもらうことも知ることも、なくなった。 男はつぶやく、べホイミと。 体中が暖かくなり、心が少し癒される。 男はもう二度と、彼女と会うことも魔法を唱えることもなかった。 これからずっと、焦がれた笑顔を取り戻すことも見つけることも、出来なかった。