待ち合わせをしていた。 先日、仕事の帰りに見つけた目立たないこの喫茶店で、コーヒーを飲みながら。 もう結構たつのに来る気配を感じない。 なんだか眠たくなってきた。 店に張り巡らされた地味な電飾が、ぱちぱち眠気を誘ってくる。 だいぶ待ってるんだ。 少し、居眠りするくらいは構わないよな… …… 「そろそろ起きて。 今日は約束してた日じゃない」 目を開けると喫茶店ではない、どこかの部屋で眠っていた。 「きたか……」 ここはドラクエ世界だ。 そんなに離れていない過去にも、来たことがある。 「なんのこと?」 「…夢の、話だよ」 宿屋を出て歩く。 町は何も変わっていなかった。 「私との約束、覚えてる?」 以前、この夢みたいな世界へ始めて訪れたとき彼女と出会った。 約束を交わし、約束の朝にはこの夢から覚めてしまったんだ。 「もちろん、覚えてるよ」 「よかった。 さっそく行こう」 見渡す限り緑に包まれる平地を並んで歩く。 やがて町と建物と人の波が押し寄せ、二人で混ざる。 「今日はやっぱり人が多いね。 またにする? どうしよう」 「…このまま行こう。 次の約束は、しないほうがいい」 「どうして?」 「約束をしてしまうと… いや、なんでもないよ」 お互い手を離さず人をなんとかかきわけ、その場所へようやく着いた。 「わぁ…!」 彼女が喜ぶ。 その姿を見る事ができて、もちろん俺はうれしい。 「今日は連れてきてくれてありがとう」 「いいんだ。 けど、もう約束をしていないから会えなくなるな…」 少し、寂しくなりうつむく。 「何を言ってるの? それより遅れてごめん!」 顔を上げると夢のままの彼女が居る。 ここはもとの喫茶店だ。 「電車が遅れちゃって。 携帯の電池もなくなっちゃったんだ。 公衆電話から電話したのに出ないから…」 ポケットに収まるマナーモードの携帯は着信履歴であふれている。 「…大丈夫だよ。 行こうか」 ゆっくりとした時間が流れる店を出た。 外は暗く、ツンとした寒さがコートを通して伝わってくる。 「なぁ。 前に約束してた場所に行ってみないか?」 「いいの? だって人が多いから…」 「構わないよ。 ここからならそう遠くないんだし」 人が行き交う大通りへ出て人の波と二人で混ざる。 姿は完全に波の一部となり、やがてきらきら瞬く街へと消えていった。