「嘘…」 自分の姿は見えていても映っていないのだ。 事実に耐えられなくなった私は、扉を乱暴に開け、飛び出していった。 後ろから主人が驚いた声を出していたような気がしたが、そんなのにかまわず夢中になって走った。 凄い形相だった。 自分でわかる、でも町人達は気付かない。 そんな私の目の前に、ひとつの立札があった。 つる草に飲み込まれかけている文字を見ると私の顔から血の気が引いた。 ──トルッカ それは小さい頃プレイしたドラゴンクエストVIの世界にある町だった。 頬をつねっても痛かった。 どうやらこの世界は現実らしい。 まぁ、ドラクエVIの設定からいくと、ここは現実世界で…何妥協しているんだ。 とりあえず今の状況を確認しよう… Eぬののふく Eコート という感じか(コートはたぶん装飾品あつかいだろう) しかし…武器がない。 かなり重要な問題だ、たしか下の世界のスライムはかなり強敵だったはず。 某マンガみたく力が強くなっていたり視力がよくなっていないし。 ──とりあえず両手を広げて走るだけじゃ倒せないよな そんな事が結論として出たが…何を考えているんだ、私。 とりあえず北にある夢見る井戸へ行こう。 考えてどうなるかって問題じゃない。 幸いにも攻撃呪文を使う敵はいなかったはずだ。 そう思い、姿を見えないのをいいことに薬草をいくつかパクッていった。 こうして私は夢見る井戸に向けて出発した。 森に囲まれていたがそれもすぐに出れた。 しばらくの間平原が続き、順調なものだった。 そんな平原のしげみから青色のプルンとしたものが飛び出してきた。 スライムだ。 なぜか私がわかるらしく、私に向かって体当たりをするが柔らかいボールが当たったぐらいにしか感じなかった。 とりあえず、たいしたことないのでシカトする事にした。 それでも彼(彼女?)は攻撃の手を休ませる事はない。 欝陶しいと感じた私は青色を掴み、投げた。 いとも簡単に空を舞うスライム、少し罪悪感を覚えた。 彼(彼女?)が落ちた場所に行ってみると瀕死になったゼリーがいた。 そこで道具屋でパクッた薬草を使う。 半信半疑だったが、これは凄い、元気になった。 馬鹿みたいな話だがスライムに薬草を渡し、人間をこれからは襲うな、と言い聞かせた。 スライムは柔らかい体を曲げ、わかったと言っているかのように頷いた。 こうして私が立ち去ろうとすると何やらスライムがwktkした目で私を見る。 世に言う仲間フラグだろうか? 「来るか?」 その一言を待っていたかのように私の肩に飛び乗った。 ここに来てから初めて出来た仲間── スライムにサスケと名付け、夢見る井戸へ向かった。 途中魔物に襲われたがサスケの説得により戦闘は避ける事が出来た。 そして古びた小屋に着いた。 木造のほったて小屋、その中に入る。 土で出来た床を進んで行くと井戸があった。 本当に不思議…と言うよりも神秘的な色の光が井戸から溢れ出していた。 「サスケ…見てごらん」 1人と1匹は井戸の底をそっと覗く。 光が溢れ出ているのにもかかわらず、まったく底が見えないのだ。 上の世界に繋がっている入口── 落ちてきたのに、また井戸の中に落ちる事で上の世界へ行く事が少し不思議に思えた。 「サスケ、今から私はこの井戸の中に入ろうと思っているんだ」 私の肩にいたものが一瞬、ビクっと震えた。 「怖いんだったら、ついてこなくてもいいんだよ?」 そう言った私も怖かった。 だが、サスケには選ぶ権利がある。 今なら間に合う、そして私の肩から降りる。 そうだろう、当然の選択だ、それなのに涙が出そうになる。 「ピキー!」 ところが彼は井戸の縁にいたのだ。 ピョンピョンと跳ねると井戸の中に消えていった。 私も後を追って飛び込む。 井戸の中で味わった事のない感覚の中、私は思った ──サスケ、お前でよかった、と──