「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁっ!」 どう見ても基地外です、本当にどうもありがとうございました、と言われるほど私は爆走しています。 「たまねぎ怖いたまねぎ怖いたまねぎ怖いたまねぎ怖い」 オニオーン シェーナ周辺に出没するたまねぎ型の魔物…ゲーム内では序盤ザコとして登場、単体であれば初期装備で叩けるが… 「まだ追ってくるー!」 集団で出てこられるとかなり厄介なのはゲームでも、ここでも同じようだ。 サスケの知り合いがここにはいないため、説得して平和的な方法が実行出来なかった。 私の腰にはメイサさんに渡されたナイフ(たぶんブロンズナイフだろう)が出番を待っているが、攻撃力があっても勇気がないため、攻撃をためらってしまった。 相手は姿形は人や見知った動物でなくても生き物だ、いざ攻撃となると胸が痛くなる。 「ピキーッ!」 あれこれ思案しているそばからサスケの悲鳴が聞こえた。 囲まれた、完璧に。 逃げ道はなさそうだ、ついに最終手段実行だと思った。 ベルトに収まっていた刃物に手をかける。 もう、ためらっては駄目だ。 すっとその刃が姿を表す。 曇りのない刃、私は恐る恐る右手に構える。 傍から見ればへっぴり腰で顔もひきつっていて、見るからに弱そうなのは私でもわかる。 初めて構えた命を奪う物はとても重い気がした。 「さぁ来い!」 勇気を持って叫ぶ、自分で言うの何だと思うが、かなり声が震えていた。 その言葉を待っていたと言わんばかりにオニオーン達が私に飛び掛かる。 複数の敵に取り囲まれた私は戦うと言うよりも、相手を振り払うような形になった。 たまねぎの魔物どもは攻撃の手を休めない、休めているのだろうが、数が多過ぎる。 戦闘に集中しているがゆえに仲間へのミスが出る。 「ピーッ!」 「サスケ!」 サスケはオニオーンの角(と言うよりも茎?)によって跳ね飛ばされてしまった。 どうしよう、助けたい、助けられない。 仲間のピンチなのに、このたまねぎめ、うら若き乙女を囲むとは、もう許せない。 「──っ!ぎゃっ!」 サスケを突き飛ばしたオニオーンの中心にナイフが突き刺さる。 会心の一撃だろうか、オニオーンはそのまま動かなくなった。 その様子を見た他のオニオーン達は我れ先に、とでも言わんばかりに退却していった。 倒した、オニオーンはもう動かない。 私の中には安心と小さな罪悪感が渦巻いていた。 倒したと言う事は相手の生を奪った事。 危なかったとは言え、殺してしまった。 「ピキーッ」 涙目になったサスケが私に飛び付く。 敵の命を奪う事で私は仲間を助けた。 自己中心的な考え方だが、サスケが死んでいない、私はサスケを助けた、それでよいじゃないか。 自分を正当化させなければきっとこの世界ではやっていけれないんだ。 「ピキー!」 サスケが倒れたオニオーンの方に誘導する、そうだナイフを回収しなくちゃ。 とっさに投げたナイフが当たってよかった。 ナイフの持ち手に力をかけて引き抜く、生々しい音とともに刃が顔だす、そしてその先には宝石のようなものがくっついている。 「なんだろう」 まさかとは思ったが、どうやらこの世界の魔物は宝石モンスターに属するらしい。 「アベル伝説かよ」 小さくつっこむ私だった。