鍵の次は船が欲しくなった。船を手に入れるとなるといろいろ大変だ。船舶免許とか税金とか。
だが、それは俺の世界の話。この世界では黒胡椒さえあれば万事解決するらしい。
そんなわけで胡椒を求めいざ東の地へ。

胡椒売りの娘がさらわれたとかで助けてやったらただで胡椒をくれた。
ちなみに犯人はカンダタ。またカンダタか。
結果的にただで胡椒が手に入ったのである意味カンダタGJなのだが。
奴は人質に手荒な真似はしていなかったので許してやった。
また何かやらかして俺たちが手柄を立てることを期待したわけではない。断じてない。

あまりあっさり胡椒を持ち帰るとありがたみがないのではないかと思う。
だからもう少しこの地を探索して時間をつぶすことにした。
その結果、ダーマという神殿を見つけた。ここでは職業や名前を変えることができるらしい。
せっかくだからキャラ的に地味なゲンを、せめて名前だけでも素敵なものに変えよう。
こいつは最早いつかの幽霊のように素手で熊を倒せるくらいに強い。だが存在感がない。
お互いあまりしゃべらないのでこいつとの会話はこんな感じになってしまう。
「この世界で信じられるのは己のみ。だからこそ俺は強さを求めるのだ。」
「あ、そう。」
いい名前を思いついたが「名前というものをなめておるのか?」と言うので改名は断念した。

しかし、その後見つけた村の連中こそ名前をなめていると言っていいだろう。
こいつらオルテガと言う名前をポカパマズさんと呼んでやがった。
俺がそのポカパマズさんに似ていると言ってくるのは何かの嫌がらせだろうか。
だが、似ていると言う理由でポカパマズさんの使っていた兜をくれたのでよしとする。

探索も飽きたので胡椒を船と交換した。思っていたよりもいい船だった。
国王は胡椒をうまそうに食べていた。それは調味料だと教えてやらないほうが親切だろうか。
船を手にいれたら今度はオーブというものを集めることになった。
6個集めると何かが起きるらしい。7個集めるやつなら知っているのだが。

夜の船旅では交代で見張りをしている。今は俺とドルが担当だ。
しかし、俺はついうとうとしてしまった。
「うわっ!」
俺は叫び声を上げ夢から目覚めた。
「大丈夫? すごい汗よ。」
「すまん、寝てしまった。ちょっと寝込みを襲われる夢を見てな。」
「そうなの? それにしては寝顔がうれしそうだったわよ。」
まさか本当は猫耳に襲われる夢だったなんて言えない。
「夢と言えばさ。エンは将来の夢ってある?」
夢。……元の世界に帰ることが俺の夢なのだろうか。
「もちろん世界を平和にすることでしょうけど、聞きたいのはその後のことよ。」
俺が答えなかったのを、俺の夢は魔王討伐だと解釈したらしい。
「その後のこと?」
「うん。平和になったあと何するのかなと思ってさ。」
……確かに元の世界に戻れなかったときにことも考えておいたほうがいいかもしれないな。
エンの過去を知る者が多いアリアハンに帰って暮らすのはまずい。他でで働かねば。
この世界の通貨はゴールドで統一されている。為替のトレーダーにとっては住みにくい世界だ。
「そうだな。何か商売を始めてみるかな。よかったら教えてくれないか?」
「私が? いいわよ、教えてあげる。格安で。」
「金取るのかよ!」
「だって私が信じられるのはお金だけだもん。」
素敵な台詞を吐いてくれる。こういう金に執着する姿勢は嫌いではないけど。

「でもさ、バラモスを倒した勇者を周りが放っておくわけないわよ。」
そんなものか。『魔王の倒し方』なんてハウツー本の執筆の依頼が来るかもしれないな。
……待て。そのときにはもう倒すべき魔王はおらんではないか。
「それにさ、勇者が客商売なんてプライドが許さないんじゃないの?」
プライドなら捨てた。猫耳をつけたときに。……うーん、様にならんな。
それと俺は猫耳を引きずりすぎだと思う。

「ところでドルの夢って何だ?」
あまり自分の話はしないほうがいい。相手に話を振ることにする。
「私の夢はね、町を作ることなの。誰でも自由に商売ができる町よ。」
「今だって自由に商売できるんじゃないか?」
「まだまだ規制が多いわ。私が目指すのは、がんばった人ががんばっただけ稼げる。そんな町よ。」
どこの世界にも同じようなことを考える人がいるようだ。自由主義経済とか言うんだったかな。
ドルにとっては夢なのだろうが俺の世界では一般的なことだ。俺は知っている。その問題点も……
「そんな町を作りたいんだったらしっかりしたシステム作りが必要だな。」
「システム?」
「ああ、経済を動かす法律、法律を動かす政治、そういった町を動かすシステムのことだ。」
「ずいぶん難しいことを言うのね。」
「ああ、昔ゼミで……いや、昔読んだ本に書いてあった。」
「ふーん。あなたはずっと魔王を倒すための修行をしていたのかと思ったわ。」
「ああ、実を言えば俺はまったく違う世界の人間だからな。」

「……なにそれ?」
ドルは俺言葉の意味を探っているようだった。なぜ俺はこんなことを言ったのだろうか。
ちょっと親しくなっただけで自分の秘密を打ち明けるなんて。
いや、親しいどころか俺は彼女の本名すら知らないではないか。
「いや、修行中にそんなことを考えていたということだ。つまらない冗談だったな。」
俺の言葉にドルは納得していなかったようだが深くは追求しなかった。
そのあと俺たちはドルの夢と俺の昔の知識について語り明かした。
さほど昔のことではないはずなのに大学での勉強はあまり覚えていない。記憶なんて曖昧なものだ。

そして、夜が明けた。

「見て! 陸地が見える!」
朝日の光によって遠くまで見渡せるようになり、うっすらと陸地が見えたようだ。
新しい朝に新しい大陸、まるでドルの夢を象徴しているようじゃないか。
そんなことを考えていた。
ただし、上陸するまでの話だ。……新しい大陸かと思ったらアリアハンでやんの。

アリアハンの城に魔法の鍵で開けられる扉があったことを思い出し探りを入れる。
せっかくだから俺は宝物庫の扉を選ぶぜ。
「勇者オルテガにはいろいろ世話になった。ここで何をしようと見てみない振りをしよう。」
宝物庫の番をしている兵士がそう言うので遠慮なくもらうことにしよう。でもオルテガって誰?
「あなたの仕事はこの宝を守ることでしょう。そんないい加減なことでいいの?」
なんとドルが説教を始めた。遠慮なくもらっていきそうなものだが意外と熱い女だ。
仕事と言うものに誇りを持っているのだろう。
最終的に倉庫番の兵士のおっさんが王様に話を通し俺たちが宝をもらえることになった。

おっさんはずっと独り身で身内がいないとのことだった。
だからこそ国王に掛け合うなんて真似ができたのだろう。
おっさんは1人は寂しいと言う。……俺も母に顔くらい見せたほうがいいかもしれない。
そういえばユーロにも身寄りがなかったな。
……これっていい巡り会わせではないだかろうか。
この人がユーロを養子にもらってくれることを俺は想像していた。
砂漠の女王様のところに行くという手もあるが、これはやめておこう。
あの女王の元にいて幸せを感じるかは、何と言うか個人差が大きい。
冒険が終わった後のそれぞれの人生。平和な世界での生活。
仲間たちは俺のつけた名前から元の名前に戻るのだ。
俺はここで思い出した。オルテガとはポカパマズさんのことだと。

ひと時の帰郷のあと本格的なオーブ探しが始まった。
レッドオーブは海賊のアジトにあった。
海賊の女のおかしらに「女が海賊をやるのはおかしい?」と聞かれた。
「うちではこんな子供が盗賊をやっている。」と答えておいた。
パープルオーブはジパングと言う国にあった。まるっきり昔の日本だ。
そうか俺はタイムスリップしていたのか! いや、昔でもヤマタノオロチはいない。
ブルーオーブは1人で入らなければならない神殿の奥、地球のへそにあった。
俺がとりに行った。無事に帰ってきたときはユーロは泣いて喜んだ。
グリーンオーブは廃墟にあった。確か夜には村人がいたようだが気のせいだろう。
ユーロはここでもちょっと泣いていた。もっとも泣きたいのは俺も一緒だ。

「ユーロお前ちょっと泣きすぎだぞ。」
「何だよ。さっきはエンあんちゃんだって泣きそうだったじゃないか。」
見られていた。
「……とにかく男は涙を見せないもんだ。泣いているとチャンスも見逃すぞ。」
俺の顔はしっかり見ていたようだが。泣き顔より笑顔のほうがいい。
以前は笑うと歯が欠けているのが見えてかなりナイスだった。今は歯が生えてきているが。
それに養子に出るにも泣く子より笑う子のほうがいいだろう。
あれから何度かアリアハンに立ち寄っている。ユーロもおっさんに懐いているようだ。
俺も母に顔を見せている。そういえば最近、実家に爺さんがいることを発見した。
「わかった。おいら泣かないよ!」
「そうだ。男が泣いていいのは財布を落としたときだけだぞ。」
俺のジョークは受けなかった。俺は顔で笑って心で泣いた。

そんな会話があったあと町を作りたいと言う老人に出会った。
町を作るには商人が必要であるという。
……これってまさにドルのやりたいことではなかろうか。
俺たちはドルをここに置いていくかを相談することにした。
「俺は反対だ。ここでドルが抜けると戦力的に大きなロスになる。」
「おいらもドル姉ちゃんとお別れするのは嫌だよ。」
ゲンとユーロは反対している。
「俺は……ドルの夢を応援してやりたい。」
「本当に、本当にいいの?」
「ああ、魔王退治だけがすべてじゃないさ。」
「でも……」
「魔王なんて俺たちが倒さなくても柱に小指をぶつけて急死するかもしれないぞ。」
「もう、そんなわけないじゃない!」
分からんぞ。奴がたまたまバリア床で体力を消耗しているときだったら、あるいは……
「とにかく自分のやりたいことを優先させろ。」
「……ありがとう。」
「みんなが幸せに暮らせる町を作れよ。」
「うん! お別れだけど、笑顔で送り出してね!」
「俺は泣くかもしれないけどな。」
「うれし泣きじゃないでしょうね。」
「違うよ。お前がパーティーから抜けるのは財布を落とすようなものだからな。」
空気が凍りついた。あれ俺ってヒャド使えたっけ?
「……そう、私は財布なのね。いいわ。財布は財布らしくお金のために生きてやる!」
ギャグが滑ったことで怒らせてしまったようだ。なんて笑いに貪欲な女だ。
……なんてな。俺に気の利いた台詞は似合わない。これでよかったのだ。
こうしてドルはパーティーから外れた。自由な町を作ると言う彼女の夢を実現させるために。

ドルの抜けた穴を埋めるべく、ルイーダの酒場で新たな仲間を加えることにした。
初めて酒場で仲間を募ったときビジネス上の付き合いだと思っていた。
だが、今ではそれ以上の存在になっている。それがいいことなのかは俺にはわからない。
仲間にしたのはポンドと名づけた男の僧侶だ。苦労人という感じがする。
なんとなくリアルの俺の親父を思い出す。親父は平凡なサラリーマンだった。
親父は俺が一回のトレードで自分の年収ほどの金を動かしていたことをどう思っていたのだろうか。
この新しい仲間を見て、そんなことを考えてしまった。

新しいパーティーでサマンオサというところに行き、ラーの鏡ついで変化の杖を手に入れた。
それが船乗りの骨、愛の思い出、ガイアの剣へ変わっていき最後にシルバーオーブにたどり着いた。
ポンドはいきなりレベルの高い戦いに参加することになったがよくやってくれている。
しかし、このパーティーには弱点がある。男ばかりで旅が楽しくないと言うことだ。
……それだけではなく、いろんな意味でドルの存在は大きかったということだろうか。
俺の感想にもいまひとつ面白みがない。

最後のオーブを探し世界中を回る途中、ドルの町に行ってみることにした。
はじめはただの草原であったその場所は見違えるほど立派な町になっていた。
しかし、この町は荒んでる。町の中には為政者への、ドルへの不満がたまっていた。
何とかドルと話をしようとしたが叶わなかった。仕方なくその日は宿に泊まることにした。
そして、夜が明けてしまった。

革命がおき一夜のうちにドルは牢屋の中に入れられていた。
あの日、船の上で語ってくれたドルの夢はこうして終わった。
夢は夜明けとともになくなるもの。俺はそんなつまらないことを考えていた。
「私、自分の夢をみんなに押し付けすぎたみたい。」
牢屋から出してやることはできた。だがドルはもうしばらくここで反省すると言う。
あるいは俺たちに自分の姿を見られたくなかったのかもしれない。
「……屋敷の椅子の後ろを調べてみて。」
別れ際ドルはそういい残した。椅子の後ろにはイエローオーブがあった。
ほかのオーブと同じはずなのにそれはひどく重く感じた。

すべてのオーブがそろいラーミアと言うでかい鳥が出てきた。
こいつに乗っていけば魔王の城まで飛んでいける。
魔王さえ倒せばすべての問題は解決する。根拠はないがそんな気がする。
俺は元の世界に帰ることができるのではないだろうか。
ユーロは新しい親の元で幸せな生活を始めることになるだろう。
ゲンにとっても武闘家として魔王を倒す以上の名声はあるまい。
ポンドも僧侶として平和な世界と平穏な生活を望んでいる。
そしてドルも……俺が裏から手を回すことで牢屋から出られるはずだ。
世界を救った勇者の頼みとなればあの町の連中も断れないに違いない。

しかし、世の中そんなにうまくいかないものだ。
俺たちの希望の光は、つまらない理由でかき消されてしまった。
そう、呆れるほどつまらない理由で。

―下の巻に続く―

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