僕ってついてないよね。
何で僕ばっかりこんな目に遭わなきゃならないんだろう。
理由も分からずこんな変なところにいるんだから。
僕はこの場所でモンスター使い見習いとして生活することになったんだ。
そういえばここってベッドがひとつしかないんだって。
イナッツさんのらしいけど一緒に寝るってことでいいのかな?

「それでさ、モンスターってどこにいるの?」
「今はまだいない。あの青年が連れてくるまで待つのじゃ。」
お師匠様しだいなんだ。いつごろになるんだろう。
「モンスターは馬車に入りきれない奴を連れてくる。先の話じゃよ。」

モンスター爺さんはそう言っていたけどお師匠様はモンスターをすぐに連れてきた。
「このホイミスライムの面倒を見て欲しいんだ。」
そう言ってお師匠様が見せてくれてのは宙を漂う青い海月みたいな生き物だ。
「これがモンスターなの?」
「ホイミンって言う名前なんだ。可愛がってやってね。」
「うん!」
どんな怖いのが来るのかと思っていたらこんなに可愛いなら大歓迎だよ。
「ホイミスライムなら馬車に入れておけば何かと便利じゃろうに。預かっていいのか?」
「はい。よろしくお願いします。」

あ、もしかしてモンスター爺さんに押し付けたってことは暴れん坊なのかな?
「ホイミスライムはモンスターの中でも特に優しい性格をしておるのじゃ。」
そっか。良かった。
「こいつはホイミという回復魔法を使い傷ついた仲間を助けるのじゃよ。」
モンスターの次は魔法か。次は神様かな。
「かつては人間になったホイミスライムもいるというぞ。」
僕が子供だと思ってでたらめ言ってるでしょ。
そんなこと言ったら進化論の人が泣くよ。

そのあとしばらくして今度はお師匠様と親分が女の人を連れてきた。
マリアさんっていう綺麗な人だよ。どういう関係なんだろう。

お師匠様たちは不思議な鏡を使って何かをする相談をしている。
「ねえねえ、この鏡でどうするの。どんな作戦?」
「子供には関係ない。」
ううう……。親分が冷たい。
「マリアさーん。親分がいじめるよー。」
「まあ、酷い親分さんね。」
「いじめてない! いじめてないですよ! むしろ可愛がっています!」
マリアさんの言葉を親分は否定する。でも、ちょっと必死すぎじゃない?

「ヘンリーさんたちは大切なお話をしているの。私たちは向こうに行っていましょう。」
「うん。おいで、ホイミン。」
ホイミンはふわふわしながら僕に近づいてくる。
「あら、可愛いわね。」
「いいでしょ。お師匠様から面倒を見るように任されているんだ。」
「トモノリさんが寂しくないようにお友達をつれてきてくれたのね。優しいお師匠様ね。」
あれ、そうなのかな。

マリアさんによるとお師匠様たちはあるモンスターの正体を暴く計画を立てているみたいね。
そのモンスターは親分の故郷で人間に化けて悪いことをしているんだって。
お師匠様の故郷もそいつのせいで酷い目にあったらしいよ。
悪いモンスターもいるんだね。
「お2人とも子供のころから苦労してこられて、さらにこんな仕打ちはあんまりです……」
「苦労って、どんな苦労してきたの?」
「あら、2人とも話していませんでしたか。私の口から言ってもいいのかしら?」
マリアさんは話していいものか迷っている。そんなに酷い目に遭ってきたの?
「でも、奴隷だったなんて私の口からは言えないわ。」
天然だ! この人天然だ!
それより何、奴隷……?
「詳しく教えてください!」

その夜、僕は眠れずにいた。
ホイミンを抱えたままずっとベッドの上で考え事をしていた。
お師匠様と親分は子供のころ攫われて奴隷として何年も働かされていたって。
その上お師匠様はお父さんを殺されて、家も町も壊されていたんだ……
そんな酷い目に遭ったのにぜんぜんそんな風に見えないよ……

僕がそんな目に遭ったら平気でいられるかな。
ぜんぜん知らないところに来ちゃったのは一緒だけど……
僕はみんな優しくしてくれる。酷い目になんて遭っていない。

でも、これからどうなっちゃうんだろう。
すぐに帰れると思っていたけど、もしこのまま帰れなかったらどうしよう。
もしかしてずっとここで暮らさなきゃならないのかな。
お父さん、お母さん、今頃僕がいなくなって心配しているだろうな……

考えれば考えるほど不安になってくる。
僕は枕に顔をうずめた。
「ホイミ。」
そのとき僕に何かが起こった。まるで毛布で優しく包まれたような……
「ホイミン。君がやったの?」
これが魔法の力なのかな?
「ありがとうホイミン。僕、大丈夫だよ。」

お師匠様たちの作戦はうまくいったみたい。
親分はお城に戻って暮らすんだって。
……それにしてもヘンリー親分が王子様だったなんて。
人は見かけによらないものだね。

お師匠様は船に乗って新しい土地を目指すそうだ。
僕もついていきたかったけどできなかった。
ここでモンスターの世話をするのが僕の仕事できる精一杯のことだから。
どうか新しい土地でお師匠様にいいことがありますように。

お師匠様が旅立って何日か過ぎた後、親分が僕を訪ねてきた。
「荒れていた国もだいぶ落ち着いてきたよ。デール……弟が頑張ってくれてな。」
「そっか。良かったね。それで、僕に何か用?」
「いやさ、あいつからお前のことよろしくって頼まれたからな。」
お師匠様、やっぱり僕のこと心配してくれてるんだ。
「それでな。トモノリさえ良ければ俺の国で暮らさないか?」
「ありがとう。でも僕、モンスターの世話をするって約束したから。それに……」
「それに何だ?」
「親分が迎えに行くべきなのは僕じゃなくてマリアさんだよ。」
僕の言葉に親分は慌てふためいている。親分、分かりやすい。

「親分、マリアさんゲットするなら今しかないよ。」
「だから何でそういう話になるんだよ!」
「いいの? マリアさんお師匠様に気があるみたいだから取られちゃうよ。」
「ちょっと待て。それ本当か?」
「マリアさん、お師匠様のこと優しい人だって言ってたよ。気になってる証拠だよ。」
親分は無言になってしまった。
「まあ、冗談だけどね。」
「冗談かよ!」
「ふふふ。親分ってやっぱりマリアさんが好きだったんだね。」
「大人をからかうもんじゃない。俺が子供のころはもっと素直だったぞ。」
本当かなぁ。
「ま、そりゃ気に入った奴を子分にするなんてことはしたけどさ。」
「それ、今でもやってるじゃん。」
あ、親分が凹んだ。

「でもさ、マリアさんに告白するならちゃんと伝えなきゃ駄目だよ。」
「何でだよ。」
「マリアさん天然だから遠まわしに言っても気づかないよ。きっと。」
ストレートに言っても気づくまで1分くらいかかりそうだけどね。

ヘンリー親分とマリアさんが結婚した。
親分、行動が早かったね。僕も結婚式に呼ばれたよ。
「マリアさんの花嫁姿すごく綺麗だったよ。」
僕はホイミンにご飯をあげながら話しかけていた。
「それは見てみたかったな。」
どこからか聞き覚えのある声がした。
「お師匠様!」

お師匠様はルーラって言う便利な魔法を覚えて帰ってこれるようになったんだって。
「そのルーラを復活させたのがベネットって言うおじいさんなんだ。」
ベネットさんの家では魔法の研究をしていていつも煙を出しているんだって。
「そのお爺さん、天才は理解されないものだってなんて言っていたよ。」
「でも、きっとそのお爺さんが理解されていないのは天才だからじゃないよね。」

「そうだ、紹介しておくよ。キラーパンサーのプックルだ。」
そう言うとお師匠様はトラのようなモンスターを連れてきた。
ううう……。ちょっと怖いかも。
「心配しなくてもいいよ。とってもいい子なんだ。本当はね……」
あれ、今お師匠様ちょっと寂しそうな顔をした気がする。
「ねえ、何かあったの? 僕でよければ聞いてあげるよ。」
「いや……実はプックルがある村で恐ろしいモンスターだと誤解されちゃってね。」
確かに見た目はかなり怖いからね。でも……
「僕は誤解しないよ。だから安心して。」
お師匠様はちょっと驚いた顔をして、その後にっこり微笑んでありがとうと呟いた。

「ところでお師匠様、親分には会ってきた?」
「うん。幸せそうだったよ。だからヘンリーに言ってやったんだ。」
「何って言ったの?」
お師匠様が辛い目に遭っているとき、親分は幸せの絶頂にいたんだよね。
「許さないって言ったのさ。」
「え?」
「マリアさんを不幸にしたら許さないって言ったんだ。」
もう脅かさないでよ!
「ねえねえ、お師匠様は結婚しないの?」
「ん……。まずは母さんを探さなきゃいけないから……」
うーん。それってどうなんだろう。

「あのね、お師匠様。僕さ、今こうして知らない世界にいるよね。」
「うん。なんとしても帰れる方法を見つけるからね。」
「ありがとう。それでね、もしも僕がお師匠様の子供だったとしてさ。」
「トモノリが? いきなり大きな子供ができちゃったね。」
「仮の話だよ。それで僕がお師匠様のところに帰ってきたらどう思う?」
「それはもちろん良かったと思うよ。すごく安心するだろうね。」
「じゃあさ、いなくなっていた間、僕が幸せに暮らしていて欲しいって思う?」
「もちろんだよ。たとえ会えなくても幸せを願うはずだよ。」
「それって、お師匠様のお母さんも同じだと思うよ。」

きっと僕のお父さんとお母さんもそう思っているよね。
お父さんお母さん心配しないで。僕はこっちの世界で幸せに暮らしているよ。
みんなとっても良くしてくれているんだ。

お師匠様はまたルーラで戻っていった。
今度はサラボナっていう町を目指すんだって。
きっとお師匠様も自分の幸せを考えてくれると思うよ。
でも結婚はまだ先だと思うけどね。10年くらいかかるかも。

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