サラボナに行ったお師匠様が帰ってきた。 僕のいるオラクルベリーとサラボナって結構遠いけどすぐに帰ってこれるんだ。 ルーラって便利だね。 「これから火山に行くから暑さに弱いガンドフを預かって欲しいんだ。」 ガンドフは顔の真ん中にひとつ目がある毛むくじゃらのビッグアイっていうモンスターだ。 「うわー! もふもふだね!」 僕はガンドフに飛びついた。 「ううう……」 「どうしたのトモノリ?」 「……獣くさい。」 「火山というのは死の火山じゃな。厄介なところに行くことになったの。」 モンスター爺さんが心配そうに言う。 「これも天空の盾を手に入れるためです。」 サラボナにはすごいお金持ちがいて、その人が家宝にしている盾が欲しいんだって。 「気をつけるのじゃぞ。あそこにいるモンスターはかなり凶悪じゃ。」 火山に行くってだけでも大変なのに悪いモンスターもいるんだ。 「お師匠様、そこに行かなきゃ駄目? そんなに盾が欲しいの?」 「確かに盾は手に入れたい。でも……いや、何でもない。」 あれ。なんだか歯切れが悪いね。何か隠しているのかな? お師匠様が火山から戻ってきた。しかもまたモンスターを仲間にしたんだって。 「爆弾岩のロッキーだよ。」 ロッキーは大きな石のモンスターだ。生き物なのかな? 「こやつはメガンテというそれはそれは恐ろしい技を使うのじゃ。」 「わー、すごーい! 見せて見せて!」 「馬鹿もん! 恐ろしい技って言ったじゃろ!」 ……モンスター爺さんのけちぃ。 「メガンテって言うのは自分の命と引き換えに敵を倒す技なのよ。」 イナッツさんが恐ろしい技の正体を教えてくれた。 「こんなところで爆発されたらひとたまりもないぞ。」 「見せてなんて言ってごめんねロッキー。使ったらロッキー死んじゃうんだよね。」 「知っていたらそんなこと言わなかったよね。大丈夫だよトモノリ。」 「それで、このロッキーを預かればいいのか?」 ロッキーは預けないんだって。馬車に入れて連れて行くんだ。 お師匠様、今度は船に乗って冒険するんだって。 なんだか落ち着かないようなんだけど気のせいかな? お師匠様が結婚することになった。 僕もその結婚式に招待されたけど寝耳に水だったよ。 火山や船での冒険は結婚するための試練だったんだって。 僕と同じく結婚式に招待されたヘンリーさんとマリアさんが迎えに来てくれた。 「結婚のために危険な冒険をするとはあいつもやるなあ。」 「それがね、何故か最後にお嬢様と幼馴染とでお師匠様をめぐって戦ったらしいよ。」 修羅場だったのかな。うーん、僕もその場にいたかったね。 「俺の聴いた話と少し違うぞ。」 「あいつどんなプロポーズしたんだろうな。」 親分が茶化すように言った。 「そう言う親分はどんなプロポーズしたの?」 「ど、どうだっていいだろ。」 柄にもなく照れちゃってるよ。 「どんなプロポーズだったのマリアさん?」 親分がわーわー大きな声を出しているけどマリアさんは気にせず答える。 「白馬に乗って迎えに来て結婚してくれって言ったんですよ。」 これはまたストレートだね。 「私、プロポーズだって気づくのに3分くらいかかりました。」 強いねマリアさん。 結婚式が始まった。なんだか緊張しちゃう。 綺麗なお嫁さんだね。純白のヴェールを被って神秘的でさ。 お嫁さんと2人並んでお師匠様幸せそうだよ。 いいよね。憧れちゃうよ。 ホントお師匠様良かったね。 僕、うれしいはずなのに涙が止まらないよ。 お師匠様の奥さんの知り合いが僕のいるオラクルベリーの近くにいるらしい。 その人に結婚の報告をするためにお師匠様たちは夫婦で会いに行きたいんだって。 「それならさ、その間モンスターたちは僕が預かるよ。」 「いいのかい?」 「うん。新婚旅行だと思ってゆっくりしてきなよ。」 僕は彷徨う鎧のサイモンをつれて夜の町を散歩する。 「夜道を散歩しながらの一服は最高だね。」 「歩き煙草は駄目だよ、サイモン。」 「ああ、トモノリは煙草が嫌いだったな。」 「誰がそんなこと言ったの?」 「お師匠様だよ。お前のお師匠様だ。」 あれ、僕そんな話したっけ? 「ベネット爺さんの家から出る煙を嫌がっていたろう。だから煙草も嫌いなんだろうって。」 お師匠様そんなこと覚えていてくれたんだ。 「トモノリが煙草嫌いだから私は預けられない。預けるモンスターは大人しいのばかりだ。」 「そういえばホイミンもガンドフも大人しいね。」 うーん。でもそれじゃ僕、お師匠様の旅の助けになってないんじゃないかな? 旅がしやすいようにモンスターを預からなきゃいけないんだよね。 「トモノリは大切にされているんだな。」 「それは僕が別の世界の人間だからだよ。」 昔、別の世界から来た人が活躍したから同じことを期待してるんだよね。 「伝説ではその別世界の人間は滅んだ村を復活させたなんて話も残っているな。」 「もしかして魔法使いか宇宙人だったのかな。」 「天空人説というのはあったな。どうも別の伝説と混ざったようだが。」 「僕とは大違いだね。僕……何もできないよ。」 「いや、何もできないなんてことはないさ。」 サイモンは僕を慰めようとしてくれようとしたみたい。 僕とサイモンはしばらく黙ったまま散歩を続けた。 「実を言えば、その謎の人物は何もしなかったという説もある。」 「何もしなかったのに伝説になってるほうがすごいよ。」 「はっはっは。まあ、本当のところは良く分からないのだ。」 まあ、昔の話だからね。 「このサイモン、守るべきものを守れず死に、その悔恨の念が鎧に宿ったモンスターだ。」 「サイモン?」 「私はただただ彷徨うしかなかった。我が主、お前のお師匠様に出会うまではな。」 「お師匠様に?」 「ああ、あの人に出会うことで私は救われ、生きる道を見つけたのだ。」 「そっか。お師匠様はすごいね。」 モンスター使いってかっこいい。でも僕は何もできないや。 「僕も頑張らなきゃいけないね。」 「うむ。お前のお師匠様も今頃頑張っているころだろう。」 え、何を? 「だけどな、私はトモノリにも救われたのだ。」 「ええ? 僕、何かした?」 「わが主は多くのモンスターを仲間にしている。お前のために。」 「僕のため?」 「お前が寂しくないように、お前が退屈しないように、な。」 ……やっぱりそうなんだ。 「だからお前がいなければ私はまだ彷徨い続けていたかもしれない。」 「うーん。それって何か無理やりじゃない?」 「そう考えたほうが人生楽しいってことさ。もっとも私は人間ではなく鉄の塊だがな。」 「鉄の塊じゃないよ。サイモンって熱い魂を持ってるもん。」 「はっはっは。うれしいこと言ってくれるじゃないか。」 おかしいよね。ホイミンやサイモンがモンスターって呼ばれちゃうのさ。 「そうそう。それからな、お前はお師匠様を救っているのだ。」 「えええ?」 「トモノリがいてくれたおかげでずいぶん助けられたと言っていたぞ。」 「お師匠様がそんなことを? でも僕何もしてないよ。」 「どういうことか、直接本人に聞いてみるといい。」 「うん。そうするよ。」 次の日の朝、お師匠様が帰ってきた。 僕は早速本当に僕がお師匠様を助けたのか聞いてみた。 「初めてトモノリと会ったとき昔の自分と重ねて同情していたんだ。」 「お師匠様も子供のとき知らないとところに連れて行かれたんだよね。」 「だからこそ助けてやりたいと考えていた。でも、いつの間にか逆に助けられていたんだ。」 「僕、何にもしてないよ。」 「そんなことないさ。この結婚だってトモノリの言葉で決めたようなものだよ。」 「僕がいなくてもお師匠様は結婚していたと思うよ。でも、僕が助けていたらうれしいな。」 「いつまでも助けられるばかりじゃないさ。人と人の関係なんて移ろい行くものだ。」 「関係が変わっちゃうのって、なんか怖いよね。」 「そんなことないさ。敵だったものが味方になることもあるんだよ。」 「あ、そっか。モンスター使いってそういうことができるんだ。」 やっぱりモンスター使いってすごいね。 「お師匠様、僕モンスター使い見習いだからどんなモンスターでも面倒見るからね。」 「うん。いっぱい仲間にするよ。」 「どんなモンスターとも仲良くなるから大人しいモンスター以外も遠慮なく預けてね。」 「よし、いろんなモンスターを預けるから頑張ってね。」 お師匠様はそう言うとにっこり笑った。 「うん! そういえばお師匠様も昨日の夜は頑張ったんでしょ? サイモンが言ってたよ。」 その後何故かお師匠様はすごい剣幕でサイモンを呼びつけた。 「サイモン。後で話がある。」 サイモンはホイミンと一緒にいる。 「ああー! お師匠さまぁー! サイモンが僕のホイミン取ったぁー!」 「ホイミンとは旧知の仲でね。」 ううう……サイモン嫌い。よく分からないけどお師匠様に怒られるといいよ! お師匠様は奥さんとモンスターをつれてまた旅に出た。 今度は船旅だって。どんなところに行くんだろう。 「お師匠様、早くお母さんが見つかるといいわね。」 イナッツさんが僕に話しかけてきた。 「そのためには勇者様を見つけなければならないのよね。」 勇者様を探すために天空の盾が欲しかったんだよね。 「勇者様ってどんな人なの?」 「地獄の帝王が復活するとき生まれて世界の希望となる存在なんですって。」 「なんだかすごい人だね。」 「かつての勇者様もその存在をめぐり多くの人や魔物の運命を変えたらしいわ。」 「今度の勇者様もお師匠様や、いろんな人の人生変えてるよね。歴史は繰り返す、だね。」 歴史は繰り返す。 男の人と女の人が結婚するってこともずっと繰り返してきたんだよね。 そう考えると何か不思議な気がするよ。 でもお師匠様は奥さんといちゃついてる場合じゃないよ。 早く勇者様を探し出さないとね。 僕にもっと力があればその手伝いができるけど、僕にそんな力はない。 でも、僕はモンスターの世話をすることで助けるよ。 僕はお師匠様の弟子、モンスター使い見習いなんだから。