・第1話 タロウの犬冒険

僕が目を覚ますと、そこは知らないところだった。
起き上がってうろうろ歩き回るけど何が起こったかわからないよ。
『きゃあ! あんたどっから入ってきたのよ!』
この家のおばさんに怒鳴られて僕はそこから逃げ出した。
僕だってどうしてここにいたのか分からないのに。
後で分かったことだけど、僕がいたのは宿屋という建物だったらしい。

僕の名前はタロウ。
どうして僕はこんなところにいるんだろう。
昨日はちゃんと自分のお家で寝たはずだよね。
ひょっとして僕、捨てられちゃったのかな。


ううー、僕が血統書のない普通の犬だからってひどいよー!


でも、まだ捨てられたって決まったわけじゃないよね。
もしかしたら僕のことを探しているかもしれない。
どうにかして戻らなきゃ。

だけど、本当にここはどこなんだろう。
周りは嗅いだことない匂いばっかりだ。
お家に帰りたいよー。

……あれれ、なんだか懐かしい匂いがする。
僕知ってる! これって香水っていうものの匂いだよ!
お家にいたとき嗅いだことがある。
僕はうれしくなって尻尾を振ってしまう。
どこから匂いがするんだろう……。

分かった! あのお姉さんからだ!
「くーんくーん。」
僕はいい香りのするお姉さんにピョンと飛びつくと小さく鼻を鳴らした。

お姉さんは大はしゃぎだよ。
『どうしました? そんなに犬が珍しいのですか?』
お姉さんと一緒にいたゴーグルのお兄さんが何か言っている。
そんなことをまったく気にしないでお姉さんは僕をなでなでしてくれる。
きゃあ肉球はやめて!

『犬に限らないが、動物は好きなんだ。』
お姉さんうれしそう。もしかしたら僕をお家に連れていってくれるかな。
なんだかお姉さんが僕を仲間にしたそうにこっちを見ている気がするよ。
『でもちょっと連れて行くわけには行きませんね。』
ゴーグルのお兄さんが反対している。このお兄さんは犬が嫌いなのかなぁ?
『一緒に行きたくないでちゅ~』
もう1人のお兄さんも反対してるみたい。まるで鬼だよ。角まで生えているし。
でも、何であんな変な喋りかたするんだろう?

しぶしぶお姉さんは僕をそっと地面に置いた。
ううう、どうやら連れて行ってはもらえないみたいだよ。
お姉さんは名残惜しそうに僕の方を何度も振り返っている……。
ああ、また一人ぼっちだー。

「よっ、どうした不景気な顔して。」
突然知らない犬に話しかけられた。
「あのね。僕、迷子なの。」
「おいおい、お前も犬なら自力で帰ってみろ。」
「そうしたいんだけど変なんだ。知らない町、知らない人、知らない匂い……」
「何も分からないってか。ここはレイクナバって町さ。」
「聞いたことないよ。」
「確かにこの辺じゃ見ない顔だな。お前、名前は?」
「僕タロウ。」
「タロウか。変わった名前だな。俺はトーマスって言うんだ。狐狩りの名手さ。」
「え、狐さんがいるの? 僕もお友達になりたい!」
「お前狩りの意味分かってないだろ。そんなことじゃ帰るどころか町から出られないぞ。」
「どうして?」
「町を出たらモンスターが襲い掛かってくる。戦えなきゃやられるだろ。」
「えー! ところでモンスターって何?」
「何って、モンスターはモンスターだよ。戦えないなら腕に自信のある人間について行け。」
「うー、そんな人の当てがないよ……。トーマスさんは外に出るとき誰かについて行くの?」
「そそそそ! 前はトルネコって人についていったんだ。もうこの町にはいないけどな。」
こんなことならさっきのお姉さんに無理にでもついていけばよかったよ。
「仕方ない。モンスターと出くわしても何とか逃げ延びる術を教えてやるよ。」
「本当! ありがとう!」
「なめまわしと言って相手の顔をなめてひるませる技だ。」
「うう、なんかやだな。」
「我慢して覚えろ。」

タロウはなめまわしを覚えた!

「ここから昼に太陽のある方角に行くとエンドールというでかい町がある。
 そこから日の出の方角にある洞窟を抜け、山を登ると小屋がある。そこに勇者がいるそうだ。」
勇者は世界を救った英雄なんだって。彼だったら何とかしてくれるかもしれない。
僕はトーマスさんとお別れをして、勇者のいるという山奥の小屋を目指すことにした。



・第2話 タロウの犬転換

町の外では大きなバッタや空飛ぶネズミが襲い掛かってくる。
僕は噛み付いたりなめ回したりしながらなんとか撃退して行った。
でも、戦っているとき矢が当たっちゃった。痛いよお。

勇者さんを目指して僕は進む。
洞窟を抜けて山を登る。
でも、何か変だよ。なんだかくらくらする。
こんなときモンスターに襲われたら大変だよ……

『何だお前は?』
魚のひれみたいなものをつけたお兄さんがいる。
モンスター……じゃないよね?
『毒を受けているな。毒矢頭巾にでもやられたか。』
そういうとお兄さんは僕に葉っぱを食べさせてくれた。
『毒消し草だ。これで体の毒は消える。』
お兄さんは僕を助けてくれてみたい。
『お前、一匹で旅をしているのか? 気をつけていけよ。』
「わん!」
『ちょっと待った! なんだお前の格好は!? それじゃ旅はできないぞ。』
格好って言っても僕が身に着けているのは首輪だけだよ。
『袋のなかにいろいろはいっているから持っていけ。』

タロウは鉄の爪を装備させてもらった!

わー、かっこいい爪だね。僕も少しは強くなるかな?

お兄さんのおかげで僕は小屋までたどり着くことができた。
「くーん……」
『何だお前は?』
なんだか恐そうなおじさんがいる。この人が勇者なのかな?
『お前みたいなワンちゃんは一晩泊まっていきやがれ!』
えー! なにそれー!

「すまない。我が主は少々強引なのだ」
この小屋にも犬がいて僕に話しかけてきた。
「ううん泊めてくれてありがとう。ねえ、あの人が勇者なの?」
「いや、勇者は……おや、ちょうど来たようだな。彼が勇者だ。」

『じいさんいるかー。シンシアがスープ作りすぎたから持ってきたぞ。』
『何で毎度毎度シンシアちゃんは分量間違えるんだろうな。』
『知らん。おや、お前はさっきの犬じゃないか。』
さっきのひれのついたお兄さんだ。この人が勇者なのかな。
『迷い犬だったのか? そうだ、名前をつけてやろう。』
僕タロウなんだけどな。
『ボロンゴというのはどうだ? プックル、チロルなんてものいいな。』
ううう……不安だ。
『よし決めた。お前の名前はゲレゲレだ!』
いやー! お願いだから考え直してー!
『たっぷり可愛がってやるぞゲレゲレ!』
きゃー!

凄い名前をつけられて何をされるのかと思ったけど、普通に遊んでもらったよ。

「すまない。勇者殿は少々強引なのだ。」
「ううん楽しかったよ。ゲレゲレにはびっくりしたけどね。」
「そうか。それはよかった。」
「こんなに良くしてもらえるのは、きっと生類憐みの令以来だね。」
「何だそれは?」
「僕もよく知らないけど犬を大切にすることらしいよ。」
「ふむ。初めて聞いたな。」
そうなんだ。やっぱりここってどこか違う世界なのかな……
「僕ね、お家に帰りたくて勇者さんに会いに来たの。」
「家に帰るために?」
「うん。なんだか僕のお家、こことは全然違うところにあるみたいなんだ。」
「ふーむ。しかし頼みたくても勇者殿といえども犬の言葉は分からぬぞ。」
ううう、勇者なら何でもできると思ったのにな……
「とにかく今日は疲れているだろう。ゆっくり休むといい。」
「ありがとう。そうするよ。」
「楽しい夢を見れるといいな。夢には不思議な力があるそうだ。」
「不思議な力?」
「かつての勇者殿の仲間に夢で未来を見ることができる一族の者がいたそうだ。」
「それは凄いね。僕もそんな夢が見てみたいな。」
「何か未来につながる夢が見られるといいな。」
むしろこれが夢だったら楽なんだけどな。
僕はそんなことを思いながら眠りについた。



・第3話 タロウの犬予言

その夜、僕は夢を見た。
きれいな町、美しい空、空飛ぶベッド……
えええ! いやー! ベッドが空を飛んでるー!

『あら、可愛らしい犬がいるわ。』
『今は犬に構っている場合じゃないぞ。』
ベッドから降りてきたお兄さんとお姉さんが僕に気づいて近づいてきた。
空飛ぶベッドに乗っているなんて宇宙人じゃないよね……
『ふふふ、空飛ぶベッドが珍しいのかしら?』
『そりゃそうさ。俺も始めてみたときは驚いたよ。まさに夢の世界だな。』
『ええ。もう2度とここへ来ることはないと思っていたのに……』
『再び夢と現実の境目があいまいになってきている。何かが起ころうとしてるんだ。』
『夢と現実だけじゃない。私たちが知らない世界とも混ざり合おうとしているわ。』
なんだか難しい話をしているね。
『どうした、ミレーユ、ハッサン。』
今度はつんつん髪のお兄さんがベッドから降りてきた。
『犬か。お、人懐っこい犬だな。よしよし。』
お兄さんが僕の頭をなでてくれる。
あれ、このお兄さんの匂い、勇者さんに似てる気がする……。
『ねえ、この子何か不思議な感じがするわ。』
『この犬が? しかし犬に話を聞くわけにはいかないしな……』

『分かるかもしれないわよ、犬の言葉。』
どこからか女の子の声が聞こえてきた。
その女の子の姿を見たときベッドの人たちはなんだかとっても驚いていた。
『バーバラ……』
『みんな久しぶり! デスタムーア倒したとき以来だね!』

よく分からないけど、なんだか感動の再会をしているみたい。
『また……こうして会えるとは思わなかった。これは夢か。いや夢には違いないか……』
『ねえ、落ち着いてよ。……私も会えなんて思ってなかった。』
つんつん髪のお兄さんと髪を頭の上で結んだ女の子はなんだかうれしそう。
この2人は昔何かあったのかなぁ。僕、犬だからよく分からないけど。
『皮肉なものだな。誰よりも平和を愛する2人。
 この2人が出会うことができるのは世界が危機になったときだけなのだから。』
ハッサンという人が何かかっこいいことを言っているみたい。
きっとこのハッサンさんはかっこいい人なんだね。僕、犬だからよく分からないけど。

『さあ、この子の話を聞きましょう。』
やっと僕のことを思い出してくれたみたい。
ミレーユさんとハッサンさんは情報集めに行ってしまっている。
なんだか2人きりにしたかったみたい。僕は犬だから関係ないね。
『話を聞くって、どうするんだ?』
『ここは夢の世界よ。なんだってできるんだから!』

僕たちはジョンという人の家の前に来ていた。ジョン君は空飛ぶベッドの元の持ち主なんだって。
『わかりました。この子の言っていることを通訳すればよいのですね。
 いえ、私もみなさんのお役に立ててうれしいのです。犬は一度受けた恩は忘れないものですから。』
この家の前にいる人なら僕の言葉が分かるらしいよ。本当かな。
『それじゃ、この犬の名前とどこから来たのか聞いてもらえるかな。』
『ああ、駄目よ。見た目は人間でも相手は犬なんだから、もっとゆっくり聞いてあげないと。』
この人は夢の中では人間だけど現実では犬なんだって。変なの。
『言いたいことが伝わらないのは誤解の元よ。』
『そうだな。じゃあ、まずはこの犬の名前を聞いてもらえるかな。』
男の人がうなずくと僕に話しかけてきた。
「君の名前を教えてくれますか?」
男の人が犬の言葉でしゃべっている!
凄い! 本当にお話できるみたい!
僕はこの不思議な男の人を通していろんなことを話した。

『うーん。やっぱりこの子こっちの世界の犬じゃないみたいね。』
『こっちの世界じゃないというのは現実の世界ということか?』
『ううん。夢でも現実でもない、今繋がっている世界でもない。さらにその外側の世界……』
『やれやれ、世の中ってのはどこまで広いんだ。』
『こんな噂を聞いたわ。異世界の迷い込んできた人間がいて、彼らが元に戻るためには石版が必要だって」
『石版?』
『魔力のある石版には何かを封じる力があるそうよ。世界の一部とか魔王クラスの魔物とかね。』
『おいおい、この犬が魔王だっていうのか?』
『そうじゃないわよ。そんな石版なら違う世界のものでも封印できるかもしれないってこと。』
『封印か……』
『石版はかけらになっていて異世界の人間だけがいける不思議な神殿に収めるそうよ。』
僕は犬なんだけどね。
『世界の命運はこの犬が握っているってことか……』
バーバラさんが通訳役の人を通して僕に話しかけてくる。
「ここは夢の世界なの。あなたはもうすぐ目が覚める。そうしたらあなたは石版を探すのよ。」
石版を集めて神殿に行く。これが僕がお家に帰る方法らしい。

『しかし、違う世界って言うのは凄いな。普通の犬が鉄の爪を装備しているんだから。』
『それはこっちの世界でつけてもらったんじゃないかな。』
『……そうだよな。いや、鉄の爪を装備している時点で普通の犬じゃなかったんだよな……』
『ねえ、落ち着いて。こんなことで落ち込まないでよ。』
『そうだな。よし、俺からもタロウにプレゼントをあげよう!』

タロウは鉄の胸当てを装備させてもらった!

世界を頼むと言ってお兄さんたちは行ってしまった。

「ねえねえ、『恩を忘れない』って、あのお兄さんたちは何をしてくれたの?」
「私のご主人様が旅立つために必要なものをくれたのです。」
「へえ、何をもらったのかな。」
「旅立つために必要なもの。それは勇気ですよ。」
勇気? 石版探し旅をする僕にも必要なものなのかな……。

タロウはすてみを覚えた!
タロウはみがわりを覚えた!

『なあ、あんた。犬と話ができるのか?』
『ええ。 出来ますよ。』
通訳してくれた男の人に別の男の人が話しかけてきた。
その男の人は鳥みたいなモンスターの口を押さえている。ううう、怪しいよー。
『面白そうだな。ちょっとやってみてくれよ。名前はなんて?』
「僕ゲレゲレ! じゃないタロウだ!」
『ゲレゲレじゃないだろうか。と言っています。』
『何で自信なさげなんだ? まあいいや。 ゲレゲレは石版について何か知らないか?』
「ゲレゲレじゃないよ目が覚めたら探すの。」
『ゲレゲレにはいない嫁探しならするそうです。』
『え、嫁探しだって? 石版は知らないのか……
 じゃあ、不思議な神殿の話を聞いたことは?』
「神殿は知らないよ。行かなくちゃいけないんだけど。」
『死んでも知らない。行けないと言っています。』
『ん… よくわからない答えだけど…
 神殿についてもっと詳しく聞いてくれないか。』
「僕も行きたい。だから戻らなくちゃいけないんだ。」
『生きたいなら戻らなければならない、と言っています。』
『え。どういう事なんだ…… なるほど…… よくわかったよ、ありがとう。』
ううー、もうちょっとゆっくり話してよ。なんだか話が通じてない気がする。



・第4話 タロウの犬誤算

目が覚めると僕はきこりさんの家にいた。
「よく眠れたかなゲレゲレ。いやタロウ。」
「あのね、変な夢を見たんだ。石版を探して神殿に行かなきゃ行けないの。」
「夢のお告げか。お前はそれを信じるのだな。冒険を続けるなら一度エンドールまで戻ったほうがいい。」
「どうして?」
「ここから先は砂漠だ。とても犬一匹では越えられまい。エンドールの先にいけば旅の扉と呼ばれるものがある。」
「旅の扉ってなあに?」
「私も詳しいことはわからぬが空間をつなぐものらしい。お前が異界から来たというのなら何かヒントがあるかもしれない。」
「ふーん不思議だね。ありがとう。僕行ってみるよ。きこりのおじさんと勇者さんにもありがとうが言いたかったよ。」
「人間が犬の言葉を理解できぬのが残念だな。その勇者殿も世界の異変を調査するためにかつての仲間たちと旅に出た。」
「そうなんだ。」
きこりのおじさんは勇者さんが持ってきたスープをおいしそうに飲んでいる。
「あのスープおいしかったよ。僕ね、おいしいものが大好きなんだ!」
「それはよかったな。」
「おじさんも僕と一緒だね。残り物が大好きなんだね。」
「……人間が犬の言葉を理解できない方がいいこともあるようだ。」
あれ、僕変なこと言ったのかな?
「私からの餞別代りだ。ひとつ技を教えてやろう。危険だと思ったら使うといい。」

タロウはすなけむりを覚えた!

僕は再びお礼を言うと旅の扉を目指してきこりさんの家を後にした。
ゲレゲレという名前ともお別れだ。
きっと人間にこんな変な名前をつけられた動物は僕だけだろうな。

小さな建物の中に青い渦のようなものがあった。これが旅の扉なのかな?
飛び込むのは怖いけど旅立ちには勇気が必要だという言葉を思い出して僕は渦の中に飛び込んだ。

僕はぐるぐる回ってやっと渦から抜け出した。
気持ち悪いよぉ……
ここはどこだろう? さっきよりも大きな建物みたいだ。あ、誰か人がいるよ!
『何だお前は。俺様の子分にしてやろうか?』

……僕は今、コリンズという子の子分をしています。
『いいだろう、新しい子分を手に入れたんだ。』
『わー、かわいい犬だね!』
『いいなー。』
コリンズ親分は遊びに来た男の子と女の子に僕を紹介している。
僕は石版を探さなきゃいけないのにな。僕は小さく「くーん」と鳴いた。
『ねえ、コリンズ君。この子何かを探しているみたいよ。』
「え! 僕の言葉がわかるの?」
『うん。ねえ、何を探しているのか教えてほしいの。』
女の子は僕の言葉がわかるみたい。この世界は不思議な人がいっぱいだね!
僕は女の子に石版の話をした。

『このこの名前はタロウで、元の世界に戻るために石版を探しているんだって。』
『ねえ、コリンズ君。タロウを連れて行っていいでしょ。』
『よし! 親分からタロウに石版探しを命じる!』
そんなわけで男の子と女の子と一緒に石版を探しにいくことになったよ。

『ねえ、お父さん、この子連れて行ってもいいでしょ。』
『ちゃんと面倒見るから。』
2人はお父さんに僕を飼ってくれるようにおねだりしている。
『いいんじゃないかな。でも、ちゃんと面倒見るんだぞ。』
お父さんは連れて行ってくれそうだね。
『でも結局面倒見るのはいつもモンスター爺さんですよね。』
と、お父さんの家来みたいな人が言う。
って、モンスター爺さんって誰ー!
『そういえばルドマンさんが不思議な石版を手に入れたって話を聞きましたよ。』
『本当なのピピン。それじゃサラボナに行ってみようよ!』
『その前にタロウをみんなに紹介しておこう。おいでタロウ。』
お父さんが僕を馬車に連れて行ってくれる。僕、お馬さんってはじめて見たよ。
そんなことを思っていると馬車の中から大きな猫が出てきた。モンスターだ!
『怖がらなくていいよ。とってもいい子なんだ。』
そういえばいやな感じはしないや。すごい、モンスターを仲間にしちゃったんだ!
『紹介しよう。キラーパンサーのゲレゲレだ。』
いたー! ゲレゲレいたよー!
『せっかくだから面白いものに乗せてあげよう。』
1人ではしゃぐ僕の目の前でじゅうたんが広げられる。
みんながじゅうたんに乗るとふわふわと浮き上がった。
『驚いたかい? 魔法のじゅうたんなんだ。』
凄い! 僕車に乗せてもらう時は窓から顔を出さなきゃいけないけどこれなら必要ないね!
なんてことを考えていたけど乗ってみると空飛ぶじゅうたんって怖いよー!
怖がる僕とみんなを乗せてじゅうたんはサラボナという町を目指して飛んでいった。



・第5話 タロウの犬決戦

サラボナの町につくとお父さんたちは大きなお屋敷の中に入っていった。
僕は男の子と女の子といっしょに外で待つことになった。
ずっと気になっていたんだけど男の子は誰かの匂いに似ている気がするよ。誰の匂いだろう?
『あ、リリアンがいる。ほらタロウ、かわいい子がいるよ。』
男の子が指を差す先にはメスの犬がいた。
「こんにちは! 僕、タロウ。」
「はじめまして。私の名前はリリアンと申しますわん。」
「リリアンさんはこのお屋敷で飼われているの?」
「そうですわん。私、飼い主のようなお嬢様を目指しておりますの。」
「わー面白そう! 僕もお嬢様になる!」
「……それはちょっと難しいと思いますわん。御覧なさい、あの子も笑っていますわよ。」
僕の言葉で女の子がくすくすと笑っている。
「飼い犬は飼い主に似るといいます。あなたの飼い主は面白い方なのでしょうね。」
「ふーん。飼い犬はご主人様と似てくるんだ。」
「そう。飼い犬というのは自然と飼い主の真似をしてしまうものですわん。」
「そうなんだ。」
「主人だけではなく戦いの相手の技を真似るというもの有効ですわん。」
ふーん。僕も真似してみよう。

タロウはまねまねを覚えた!

「あれ、ご主人様が面白いって、僕が面白いってことだよね?」
「そうですわん。お嬢様はあまり直接的な表現はしないものですのよ。」
「うう、面倒くさいなー。」
やっぱり僕にお嬢様は向いていないみたい。
それにしてもリリアンさんのしゃべり方ってどこか不自然だよ。
どこか不自然なのか犬の僕には難しくてわからないけどさ。

『ルドマンさんがタロウの力を見てみたいそうです。』
『どういうこと?』
お屋敷から戻ったピピンさんの言葉に男の子が質問する。
『タロウの話では石版というのは大切なものだろう?』
『うん。そうよ。』
お父さんの言葉に今度は女の子が答えた。
『タロウにその石版を神殿に持っていけるだけの力があるのかどうか知りたいというわけなんだ。』
『そっか。それでタロウは何をすればいいの?』
『戦っているところを見せればいいんだ。仲間の誰かを相手に戦ってもらおう。』
『タロウ戦えるのかなぁ。』
『見たところそれなりの戦闘を経験しているようだね。』
『わかった。タロウ、お外に行くよ。』
ううー、戦うのはいやだけど仕方ないみたい。

『この犬がタロウか。ふーむ、どこからどう見ても普通の犬だな。』
うん、僕は普通の犬だよ。
『いや、見た目は普通だが石版を欲しがるとはおかしな犬だ。』
おかしくないよ。このおじさんがルドマンさんらしい。

『メッキーが相手になってくれるそうだ。』
馬車から鳥さんみたいなモンスターが出てきた。
『バトルスタート!』
始まりの合図とともにメッキーさんが飛び掛ってくる。
僕はすばやく横に飛んでよける。
攻撃が外れてメッキーさんは岩にぶつかった。
隙だらけになったメッキーさんに僕はすかさず噛み付く。
逃げようとするところをなめまわしで動きを封じる。
戦いは僕のペースだ!

そう思った瞬間メッキーさんの周りをきれいな光が包み込む。
『あれは回復呪文のベホイミという魔法なの。』
不思議そうな顔をする僕を見て女の子が教えてくれた。
それって何? うわー、傷が見る見るふさがっていくよ!
元気になったメッキーさんが息を吸い込むと口から何かを吐き出してきた。
「うひゃあ! 冷たい!」
冷たい息が襲い掛かってきた! 何でそんなもの吐けるのー?
びっくりしている僕に間髪いれずメッキーさんが攻撃をしてくる。
僕はその攻撃をまともに食らってしまった。
ううー、痛いよぉ……

メッキーさんが再び息を吸い込んだ。
僕はその攻撃を受けるべく身構えた。
冷たい息を受けきると僕は同じ技で反撃した。
さっき覚えたまねまねの特技だ。
あれ? 僕、氷を吐き出してる!
みんなびっくりしてるけど1番驚いているのは僕だよー!
僕、普通の犬じゃなくなっちゃったのー!
何とか気を取り直し鉄の爪で攻撃を仕掛ける。
するとメッキーさんがまた魔法を使ってきた。
『あれはラリホーだ!』
男の子がそう言うのが聞こえたと思うと同時に、僕は急に眠くなった。

寝・ちゃ・駄……目…………だ…………

そう思う気持ちはだんだん薄くなって、僕はその場で眠ってしまった。
僕は負けたんだ。



第6話 タロウの犬団円

僕は男の子の回復呪文で怪我を治してもらっている。
目を覚ましたとき勝負は終わっていたんだ。
ああ、これじゃ石版はもらえないよー。
『タロウ、ルドマンさんに認めてもらえるよう僕と特訓しよう!』
ううう、大変だー。

「くえー!」
突然メッキーさんが大きな声を上げる。
声のする方向を見ると大きな岩が動いていた。
あれはさっきメッキーさんがぶつかった岩だ。あれ、岩に顔があるよ!
『爆弾岩だ!』
『メガンテをされる前に倒さなくちゃ!』
『待つんだ!』
お父さんが止めるのも聞かず男の子が岩に斬りかかる。
でも、その一撃では爆弾岩は倒せなかった。
岩のモンスターはいまにも何かやらかしそうだ。

あの子が危ない!
僕は本能でそれがとても危険なものだと感じていた。
すなけむりを巻き起こして目をくらませ捨て身で攻撃した!
でも、爆弾岩は倒せなかった。
そして……

爆弾岩はメガンテを唱えた。

僕は大きなダメージを受けていた。
体がばらばらになりそうだよ。息をするのも辛い……
魔法が使われる瞬間、僕はとっさにみがわりを使って男の子をかばっていた。
何でそんなことをしたのか僕にもわからない。

『うう、ごめんよタロウ僕のために……』
僕は町の中に運ばれて治療を受けている。
男の子は今にも泣きそうだ。
『泣かないで。タロウは大丈夫だよ。』
『うん、泣かないよ。僕は勇者だもん……』
あれ、この子も勇者なんだ。
この子の匂いはきこりさんのところにいた勇者さんの匂いと似ているんだ。
それに夢の中であったお兄さんにも。
だから僕はこの子をかばったんだね。
勇者さんたちは僕に親切にしてくれた。犬は1度受けた恩は忘れないんだ。
……でも、これで恩返しできたことになるのかなぁ?

『勇敢なタロウはさしずめ犬の勇者だね。彼には勲章をあげなくちゃいけないな。』
『あのね、タロウが勲章っておいしいのかって聞いてるよ。』
『あははは。タロウには名誉よりもご馳走のほうがうれしいよね。』
うん。僕おいしいもの大好きだよ……

数日後、回復魔法のおかげで僕はすっかり元気になっていた。魔法ってすごい!
「もうお体は治りましたのね」
「あ、リリアンさん。うん、もう大丈夫だよ!」
「よかった。あなたみたいな勇敢な犬はそうはいませんわん。」
「きっと僕の飼い主が勇敢なんだね!」
「うふふ。きっとそうですわね。飼い主のほうも飼い犬に似てくるものですからね。」
リリアンさんの言うことはやっぱり難しいね。

『タロウの怪我は治りましたが特訓するまでもう少し待ってください。』
『その必要はない。私はあの犬が気に入ったのだ。
 タロウをリリアンの婿として認めようではないか!』
えええー! よく分からないけどお嫁さんゲットー!
『いや、そうじゃなくて石版をですね……』
『そうだったな。もちろんタロウに石版を渡そう。』
そうだった。僕が探していたのは石版だったよ。
石版じゃなくてお嫁さんを探すなんておかしな話だよね。
『タロウは石版を託すべき勇敢さとやさしさを持っている。私の目に間違いはあるまい。』
こうして僕は石版を手に入れた!
『でも、もっと強くなったほうがいいから特訓はしようね。』
えー! うう、世間は厳しいよー。

『ここが神殿の入り口みたいだね。』
『せまいな。でも、タロウだけなら通れるだろう。』
僕の訓練中、お父さんは神殿へ続く洞窟を見つけてつれてきてくれた。後はこの奥にいけばいいみたい。
『石版は道具袋に入っているね。』
『武器と防具も装備させたよ。』
『タロウとはここでお別れか。ちょっと寂しいね。』
『それじゃタロウ、がんばっておいで! これは僕たちからのプレゼントだよ!』

タロウは風の帽子を装備させてもらった!

『タロウ最後に聞かせて。この世界は楽しかった?』
うん、楽しかったよ。だって……

『ねえ、タロウはなんて答えたの?』
『楽しかった。この世界も元の世界と同じように、犬と人間が仲良く暮らしているからって。』

こうして僕の石版探しは終わり、神殿を目指す冒険が始まった!

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