退屈な毎日から逃れ出るための逃避行の旅…


ある日俺は夢を見ていた。

耳の形が奇怪な、黒いマントをはおった集団が一人の少女を取り囲み、
何やら言葉を取り交わしている。

「…して……我…闇の主が……」
「……瑠璃……急…」
「エサ………剣さえ…」

少女は青みがかった白いローブに身を包ませながら、
脅えきった眼で周りの連中を見ている。

俺は全く身動きができない。

黒づくめの連中から一人、まがまがしい剣をもった奴が
一歩前に出、少女ののど元にその切っ先を突き立てた。
ゴウンゴウンという耳鳴り、くぐもった呪術の詠唱、重く垂れこめた空気。

俺は必死でもがこうと(少女を助けようとしたのか自分が動けないことが苦しかったのか、
今となっては定かではないが)、身をよじらせたが、吹き出るのは冷たい汗ばかり、
咽はからからで眼の前もだんだん暗くなってくる。

それでも必死に体中の全神経を使って失った器官の能力を再生しようともがき、

「や…め……ろ…」
と声にならない声を振りしぼった。

その瞬間、生贄に歓喜していた全ての悪魔達の眼がこちらに向けられ、
俺は目が覚めた。

「はは…は……夢か…」

全身汗びっしょりになりながら、不意の夢オチに虚をつかれながら俺は身体を起こした。

「だりい…風邪ひいたかな……」

などと独り言を言いながらゆっくりとベッドから足をおろす。
風邪などではないことは、はっきりとしていた。

なんだ?あの夢?

あのようなシーンは映画やゲームなどで見たような気もするが、
あんな生々しい感じではなかった。
あの夢の登場人物は現実に存在するものとしての体温や息遣い、そして
他者に対する嫌悪感を持っていた。

あんな…夢。

「まあ…仕事で疲れてんだろうな……」

ふらふらする頭をシャッキリさせるために、俺は冷蔵庫の雪印へと
向かおうと廊下へ出ようと扉をあけたその瞬間、
見たことも無い風景が俺の眼前に広がっていた。

「なんじゃ…こら!?」

どこまでも澄み切った青い空、その下に地平線まで広がる草原。
そこに一本、大きな樹がポーンと立っている。

「アホ…か?」

俺はとっさに振り返った。
確かに俺は、さっき自分の部屋から廊下に出たのだ。
しかし廊下に行くためのドアは無情にも俺を廊下へとはいざなわなかった。
開きっぱなしのドアが手持ちぶさたにキイキイ言いながら
さわやかな草原の風に揺られている。

待てよ待てよ。

俺は昨日どうやって家に帰った?
酒につぶれて帰宅したのか?
それとも知らないうちに死んでて、ここは天国だったりするのか?

「シュールすぎる。」

いつもあり得ないことが起こったときに使う言葉を吐いてみたものの、
世界に存在するのは俺一人じゃないかと思われるように
言葉は空気に散って、目の前にある風景だけが残った。

「会社……行か…なきゃ……」

そう言いながら俺は夢遊病者、はたまたアル中患者みたいに
白昼夢の中をパジャマのままふらふらと歩きだした。


「コンビニ…行かなきゃ……」

「ストップ!」

突然脳内に高い声がキインと響いた。

「そこから離れちゃ、いけないよ坊や。」

声から察するに小人、いやもっと小さい虫が、
精一杯羽音をばたつかせているようなか細く高い声。
しかしよく通るだけに、混乱した頭をいらつかせる声。

「自分の場所をそう簡単に捨てるもんじゃない。」

自分の場所?

「そうさ。あんたは言わば新参者。そう簡単にこの世界に飛び出すんじゃないよ」

こいつ、知ってる。
俺がこんな馬鹿げた状況になってる理由を知ってるぞ。

俺は少々ムカついてきた。
早くこんな馬鹿げた状況から抜け出て会社へ行かなきゃ。
遅刻などしたら、日頃の俺の業績に付け込んで上司が面倒なことになる。

「誰だよ!姿を現わせ!」

俺は宙に向かって叫んだ。

「ハハハハ。鬼さんこちら、手の鳴る方へ。」

なんだこいつ。完全にバカにしてやがる。

「何がしたいのか知らねえがとっとと元の世界へ戻せ!」

「元の世界?今いる世界が元の世界だとしても?」

「ハア!?俺は会社行かなきゃなんねえんだよ、
いちいちお前のお遊びに付き合ってられるかこのバカ!」

「バカはあんたさ、ぼ・う・や☆」

今度はどこから声がしたのかハッキリわかった。

俺は怒りで一杯の表情で、元いた自分の部屋(今は隔絶された空間にポーンと存在している)
を振り返り、ベッドの上にそいつ、つまり「妖精」を見つけた。

「ようこそ、初めまして。
そして、久し振り」

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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら@2ch 保管庫