待ちに待った夏休み。いつもはプール三昧のはずの俺たちの間で今年はあることが流行っていた。 「じゅーんー!!あったどー!!!」 「マジで?」 小さな川に足をつけた幼馴染みのかずやが右手を掲げて叫んでいる。 手にはひらべったい石が握られていた。 「やったー!」 「あと何枚で完成すんのかなぁ~」 川の中で発見されたその石は、太陽に翳されてキラリと光る。 僕は背負っていたリュックをひっくり返した。 ガラガラと音を立てて、中から今かずやが拾ったのと同じ様な石が出て来る。 「えっと…いち、にぃ、さん、よん」 「これで5枚目だな」 「腹減ったー」 この石は、俺たちの間で『せきばん』と呼ばれている。 なんでって、かずやの兄ちゃんが「なんだソレ、石盤のカケラみたいだな」って言ったからなんだけど… まぁ、それは良いとして。今俺たちの間ではこの『せきばん』集めが流行っている。 俺たちっていっても、俺と、かずやと、あと一人の幼馴染み、とも、三人だけだ。 ともは、俺たちより年が一コ下で小学四年生。今は習い事の習字に行っている。 「じゃあ昼飯食ったら、また集合な!」 「昼からはともも連れてくな」 「おう」 俺はリュックにせきばんをしまってかずやが走って家に帰ってくのを見送った。 じりじり暑い。頭から足の先まで汗でびっしょりだ。 俺はくるりとかずやに背中を向けて走り出した。 家に帰ろう。 「ただいまー!」 「潤、手ー洗っておいで…ってなーに、あんた。汗まみれじゃない」 「うん。姉ちゃん、お母さんは?」 「お仕事。」 「仕事?飯は?腹減ったー」 「その前にあんたシャワー浴びといで」 「えー」 「えー、じゃない。ほら行った行った」 家には姉ちゃんしかいなかった。 姉ちゃんは高校生になってから、化粧をするようになったんだけど、今日はしてないみたいだ。まゆげが薄い。 (これを姉ちゃんに言うと途端に機嫌が悪くなるから黙っておくことにする。俺、賢い。) 廊下を歩きながらTシャツの裾を引っ張って脱いだ。汗をかいてたせいでひんやりする。 ばたばたと服を全部脱いでしまって、洗濯機に放り込んだ。 台所ではジュウジュウと何かを焼く音がしている。 「ね、あんたリュックに何を入れてんの?」 「えっ?」 お風呂からあがると、姉ちゃんが作ったチャーハンを食べた。 姉ちゃんはダイエットとやらをしているらしくて、牛乳に変な粉を混ぜたものを飲み終えて、俺がチャーハンを食べるのを見ていた。 「なんで?」 「あんなに汗かくなら水筒持って行った方が良いでしょ?」 「い、いらないよっ!いらない!」 「なんでよ、良いから持って行きなさい」 姉ちゃんはうむをいわさないってかんじで、水筒を三つ俺の前に並べた。 「なんで三つも?」 「どうせ和也と智紀くんも行くんでしょ?」 「えー、重いもん」 「文句言うな。リュックに入れとくから」 「あっ、だめ!!」 「なにこれ」 姉ちゃんがリュックの中を覗きこんで、せきばんを取り出した。 「ダメだってば!」 姉ちゃんの手からせきばんを取り返してリュックに突っ込む。 「何よ、それ」 「なんだっていいだろ!」 「もう、変なことしてんじゃないでしょうね」 「してない!」 「ねえ、それ…」 「ごちそうさま!俺、もう行く!」 残りのチャーハンを掻き込み、水筒を三つ抱えて、逃げるみたいに走り出した。 もちろんリュックも忘れないで。 「暗くなる前に帰んなさいよー」 家を出て走ってると、後ろから姉ちゃんの声がした。 振り返ると姉ちゃんが手を振ってる。 「 い っ て き ま ー す! !」 ありったけの声で返事をして俺はまた走り出した。