目が覚めた。見知らぬ民家だった。どこだここは。

とりあえず外に出た。おっなんか水色のプルプルがいる。UMAか。かわいい。

頭をなでる。よしよし。

………噛まれた。

痛い。すごく痛い。むかついたからその辺の棒で潰した。


今度はスコップを持ったでかいもぐらだ。獣のくせにスコップとは生意気なやつだ。

しかもメンチ切ってやがる。むかついたからスコップ取り上げてぶん殴ってやった。

いつのまにか夜になってたのでとりあえず集落らしきとこに引き返す。

しかしなんだこいつらは。集団コスプレか?世の中不況だってのにおめでてえやつらだな。

こんなオタクどもには関わりたくないので今日は野宿する事にする。

うとうとしてると酔っ払いが絡んできやがった。うぜえ。

むかついたんでとりあえず殴った。ついでに金貨らしきものをもってたので貰っといた。

寝場所を探してうろうろしているとジジイに声掛けられる。こんな夜更けにどこ行くかだって?

うるせえ。話かけんなほっとけ。と、どうやら部屋に泊めてくれるらしい。いいやつじゃん。

そこは教会だった。こいつはどうやら神父らしい。日本にも神父はいたのか。

旅の人神のご加護をだとよ。はっこちとら仏教だっつーの。奈良の大仏なめんな。

その日は疲れてたらしく速攻爆睡だった。

次の日。

ベットの中で今までの事を整理してみる。

まず俺は朝から家で酒を浴びるほど飲んでいた。

ベランダに出た。ここまではなんとか思いだせる。

………あ……そうだ足滑らせて落ちたんだった……

…てことはここは死後の世界か!?なんてこった。これは斬新な展開だ。

俺のくだらない人生は終わってしまったらしい。

まあ朝から酒飲んでるような元ヤンのヒッキーなんて死んでも世の中には影響ないだろう。 

まてよ。この世界では俺の借金を取り立てに来る奴もいないんだよな?

警察も昔もめたヤクザも追ってこないいんだよな?最高じゃねーか!ヒャッホゥ!!

言いえて妙だが死んで始めて生きる希望がわいてきた。

ここでジジイが部屋に入ってくる。あ?よく休めたかだと?こんな硬いベットで疲れ取れるかボケ。

…と思いつつも非常に気分がいいのでよく休めたと返事しておく。

このジジイ朝飯まで食わせてくれるらしい。どこまでお人よしなんだまったく。

テーブルに並んだのは恐ろしく貧相な飯だった。

屑野菜のスープと硬いパン。しかし空腹の俺にとって食えるだけありがたい。一瞬で平らげる。

それを見たジジイが自分の分も食えと言ってきた。味見しながら作ったからもう腹いっぱいらしい。

ホントか知らんが老い先短いジジイより若い俺が食った方が有意義だな。遠慮なく頂く。

うっとうしいながらもしばらく雑談する。どうやら町の人のお布施で食いつないでるらしい。

昔はそれで十分事足りたのだが、最近教会の畑が夜な夜な魔物に荒らされて生活が苦しいとの事だ。

魔物って昨日のプルプルやもぐらの事か。

なぜか無性に腹が立つ。そこで俺は決心した。

「俺がそいつら全部ぶっ飛ばしてやるよ。人間サマにたてつくとは糞生意気な獣どもだ。」

ジジイが危険だからやめろと止めてきやがった。

こいつ俺が誰だかわかってないらしいな。元鬼浜爆走愚連隊の総長だぞ?

もぐらや寒天なんかに負けるかっつの。

そして俺は準備のため教会を後にした。喧嘩は準備が大事だ。

町をうろついてると「武器屋」なる看板を発見。

……なんてこった。町の中で普通に武器売ってんのか。子供の教育によくないぞまったく。

俺はこの世界のアウトローっぷりに愕然としつつも店の中に足を進める。

またそこの店長が角付き覆面に上半身裸というぶっとんだやつだった。

もしかして俺はとんでもない世界に来てしまったのではないだろうか…

メリケンサックと木刀はないかと尋ねてみる。

ないそうだ。

使えねえ店だな。仕方が無いので「ひのきのぼう」を買って釘バットを自作する事にした。

ん?買う?て俺金もってねーじゃん!借金はもう懲り懲りなんで極力避けたい。

パクるにしても店長もかなりのつわものに見える。決戦に備えてできるだけ体力は温存したい。 

ん?そういや昨日たしか

あーあったあった。昨日の酔っ払いから巻き上げた金貨がポケットに入っていた。

おそらくこれがこの世界の通貨に違いない。

店長に見せるとひのきのぼうを買うには十分足りるようだ。むしろまだまだ買えるようだ。

そこで俺は「かわのぼうし」と「うろこのたて」を買った。完璧だ。

これはほんとに昨日の酔っ払いに感謝せざるを得ない。また会った際には協力してもらおうと思う。

太陽も高くなり腹も減った俺は一旦教会に帰る事にした。途中民家の柵から釘を拝借した。

教会にもどると何人かの町民が長椅子に座っている。ジジイは悩み相談的な事をしているようだ。

こんな辛気臭い教会に悩み打ち明けにくるなんてそうとうしょうもない連中だな。

まあどこの世界にも負け組みはいるってこった。そんな事を考えながら俺はせっせとほのきのぼうに

釘をうめていった。我ながら最高の一本に仕上がった。重量、長さ、見た目ともに申し分ない。

おっジジイが戻ってきやがった。昼飯は町の人が持ってきた料理だそうだ。

うまい。

朝飯に比べて遥かにうまい。てか肉。肉ヤバイ。肉うまい。肉最高。

大満足の俺は夜まで寝ようとした。しかし外がカンカンうるさくて寝れない。

外に出るとジジイが薪割りをしていた。明らかに斧の重量にジジイの腕力が負けている。 

斧を取り上げて薪を割り始める。ジジイが満面の笑みで礼を言ってきた。

ちっ。勘違いすんじゃねーよ。俺はただ早く寝たいだけだっつの。てめえがやってたら

いつまでも終わんねーだろうが。

薪割りを終えた俺は部屋で夜まで寝た。ちくしょう無駄に疲れたぜ。



ー夜ー



ジジイが寝た後教会を出た。というよりは起きてるうちは行かせてくれなかったのだ。

しばらく歩くと畑に着く。ここは町の共同畑のようなもんらしい。今はただの荒地だが。

中を見ると10匹程度の魔物と呼ばれるやつらが土を穿り返したり作物かじったりして騒いでる。

なんかあれだな。公園とかコンビニでバカ騒ぎしてた昔の俺みたいだな。

そう考えるとこの光景も微笑ましくすら見える。おっといかんいかん。最初の目的を忘れるとこだった。

喧嘩は先手必勝である。俺は先制パンチで青寒天を潰した。相変わらず手ごたえのないやつだ。

そしてここで相手をよく見る。喧嘩には冷静になる事も必要なのだ。

青寒天2匹、もぐら2匹、異常にでかいミミズ一匹、バカ面のコウモリ1匹、角うさぎ1匹。

格段強そうな奴もいないがいかんせん数が多い。さてどうしたものか。 

え?角うさぎが突進してくる。マジ早い。

とっさに盾を構えるが盾の上から吹っ飛ばされて岩に激突した。痛てえ。

どのくらい痛いかって昔原付に体当たりされたことあるがそれくらいの衝撃。このうさぎ強!

間髪いれずにまた突進してくる。俺は必死に横っ飛びで逃げた。

ゴベ!!!!

鈍い音と共に角うさぎは岩に激突した。そして死んだ。

所詮獣か。相手がバカで命拾いしたぜ。

残りの青寒天も粉砕する俺。ああ神様強すぎてごめんなさい…

とそこに調子乗ってる俺を奈落の底までビビらせるやつが現れた。

「人間風情がオイタしてくれんの小僧。」

猪だ。猪が喋りやがった。

「久しぶりに人間の肉も悪くないかのう。」

ヤクザだ。昔愛人にちょっかいかけて追い掛け回されたヤクザにそっくりだ。

俺は瞬時にこいつの事は今後ヤクザ猪と呼ぼうと決めた。そして次の瞬間覚悟を決めた。 

太い。

腕が太い。

首が太い。

おまけにヤリなんか持ってやがる。反則だ。

まあ一度捨てた命だしタイマンなら負けなしの俺だ。案外なんとかなるかも知れない。

とにかく自分より強いやつに勝つには先にいいの一発入れるしかない。

そう思った俺は盾を捨て両手で釘ひのきを握り締めた。もはや防御は不要特攻あるのみ。

そして勢いよく走り出すと思いっきり釘ひのきを振りかぶり……

投げた。

相手の視線は一瞬宙を舞う棒に釘付けになる。

ブシュー!

その隙をついてヤクザ猪の喉に隠し持っていたナイフを突き立てる。

ちなみにこのナイフは元の世界から常に携帯してた護身用のナイフだ。

暴走族たるものナイフの一つくらい常に携帯してるのが嗜みってもんだろう。

動脈をスッパリやられた極道猪は口をパクパクさせながらその場に崩れ落ちた。 

勝った。俺はこの化け物に勝ったんだ。
緊張が安堵に変わる。体が熱い。返り血に染まった自分の体を眺める…

……え……

一瞬目を疑った。そこにはヤリが深々と突き刺さっている。思わず声をあげる。
が、出ない。代わりに口からはおびただしい量の血が噴出す。
そうか俺はまた死ぬのか。今度目が覚めたらそこにはどんな世界が広がってるのだろうか。
こんな俺の姿を見てジジイはどう思うだろうか。

今まで生死の淵を彷徨った事は二度ある。いやここに来た経緯を入れると三度か。
一度はガキの時に肺炎をこじらせて死に掛けた。あの時は両親そろって心配してくれてたっけ。
二度目は単車で事故った時。すでにその時親父しかいなかったが俺の意識が戻るまで三日間絶食してたらしい。

激しくどうでもいい話だ。なんで俺はこんな事考えてるのだろうか。不思議とやすらかな気持ちだ。
段々と意識が遠のいていく。いよいよここまでだな…さよなら俺…


次に目を開けた瞬間目の前にジジイがいた。まったく状況が飲み込めない。
ジジイが口を開く。どうやら俺は生き返ったらしい。この世界では神様の気まぐれで稀に死人が甦るようだ。
そして生き返ったやつは必ず教会に現れる。ジジイも何度か経験あるらしく意外と冷静だった。
俺は結局生きていたという結果に妙な脱力感を覚えその場に座りこんだ。
ジジイは俺が無事だとわかると長々と説教を始めやがった。うぜえ。
無視して教会を出ようとすると町民が数人駆け込んできた。あろうことか皆俺に向かって礼を言いやがる。
ちっ他人にすがる事でしか救われない弱者どもが。負け組みのオーラがプンプンするんだよ俺に近寄るんじゃねえ。
心身共に疲れ切った俺は無視して部屋で寝ようとする、が、その時意外な言葉が舞い込んできた。

よっ町の英雄さん今夜一杯どうだい?

酒…つまりこういう事だ。こいつらは畑の魔物を追っ払ってくれた礼に酒を飲ませてくれると。
ちっ…………………気が利くじゃねーか!この俺様に酒を振舞うとは殊勝な心がけだ!ははははは
という事で夜町の酒場でささやかなパーティが開かれる事になった。それまで俺は寝る事にする。


ー夜ー


町の小さな酒場につくとそこには十数人の人がいた。みな笑顔で気持ち悪い。
進められるままにまずビールを一杯飲む。癖があるがなかなかこれはこれでうまい。
ガキがこっちを見てる。あ?目が恐いだ?うるせー殴んぞあっち行け。
と、ここで凄いものを見つけてしまった。バニーの姉ちゃんだ。しかもかなりの食い込み具合。
こっちの酒場ではこれがスタンダードなんだろうか。だとしたらかなり顔がにやける。
最初は気持ち悪いオタのコスプレ集団のような世界だと思ったがこれなら悪くないかもしれない。
ここからの大量の酒をがぶ飲みし意識がなくなる。例のごとく気づいたらベットの上だった。
うー頭が痛い。今日は一日中寝てようと決めた矢先ジジイが勢いよく部屋に飛び込んで来た。
うるせー殺すぞジジイ!あっ?これから会わせたい人がいるからすぐ準備しろだ?
知るかボケ!俺は二日酔いで死にすなんだよ!寝かしとけや!
しかしどうやら相手はかなりお金持ちらしくしかも昼飯を食わせてくれるらしい。
金持ち=肉。俺はすぐに準備を始めた。

準備ができジジイの所に行く。外へでてジジイが羽のようなものを放り投げた。

その瞬間信じられない事が起こった。

体が宙に浮き空を飛んだ。あっという間に小さな城の前に到着した。
そしてさらに驚いたのが会わせたいというのはそこの王様らしい。粗相のないようにと注意された。
連れられるがままに城の中を進む。さすがにあちらこちらに兵士がいる。
そして階段を上るとそこには大臣らしき人物と王様らしき人物がいた。

俺は権力者が嫌いだ。権力で肥えた豚は死ねよと思っている。

適当に話を流していると突然聞かれる。

で、きみは旅人なのかね?何の目的で旅をしてるのかね?

考えた事もなかった。訳もわからずこの世界に来て、ノリで化け物相手に喧嘩売って、ぶっ殺されて、
生き返って、今王様の前にいる。俺はこれからどうしたいのだろうか。元の世界に帰りたいのだろうか。

否。

もはや別に帰りたくはない。俺はしばらく黙りこくった。そして一つの単語が頭を過ぎる。

…世界征服…

そうだ。どうせならこの世界を手に入れてやろうじゃねーか。正直今更恐いものなんてない。
男なら一度は誰もが夢見る世界征服。この世界で実現してやろうじゃねーか!
妙に興奮してきた俺は一応自分を磨くための旅をしていると答えておいた。我ながらかなり恥ずかしい。
王様はうんうんと頷くと無茶なお願いをしてきた。今この世界のどこかを勇者が旅をしている。
会ったらそいつに協力しろだとさ。生き返った事、魔物を倒したその腕力はもしかしたら俺も選ばれし
ものかもしれないとの事だ。たくどこまでもおめでてえやつらだな。そんなわけあるかっつの。
しかしながら旅の軍資金として500G、ちなみにこの世界の通貨はゴールドというようだ、と
うまい昼飯を食わせてくれるそうなので頑張りますと答えておいた。

その日は一日中情報集めと旅の準備に走り回った。得られた情報は

①魔王と呼ばれるやつが世界征服しようとしてる
②勇者と呼ばれるやつが魔王討伐の旅に出てる
③勇者一向は選ばれしものなので高確率で生き返れる

つまり俺にとって魔王も勇者も邪魔な存在なわけだ。この世界の覇者になる為にはこいつらを
どうにかしないといけない。俺は考えた。やはり最初どちらかに味方して片方を倒す。
そしてその後もう片方を潰すのが一番効率がいいかもしれない。ではどちらに味方するべきか。
普通に考えて勇者の味方だろう。しかし待て。どうも魔王がそこまで強いやつとは思えない。
おそらく単純な喧嘩なら恐ろしく強いだろう。ただそんな強いやつが手下を使ってちまちま
小さな町の畑なんぞ襲わせたりするだろうか?もしかして世界征服などたいそうな事しでかしてる
わりには小心者なのかもしれない。もしくはただのバカか。仮に勇者が屈強な大男だとした場合
トータル的に勇者>魔王だろう。そこで俺は勇者討伐の旅に出る事にした。
ただ今のままではどちらにも勝てそうにない。アホ猪に苦戦するくらいだ。
やはりここはどう考えても強力な武器がいる。さすがに釘ひのきだけじゃ心もとない。
それと仲間だ。忠実にして強い舎弟が必要だ。
ここで旅の目的が明確に定まった。

「この世界で新鬼浜爆走愚連隊を結成して勇者を潰したのち魔王にカチ込みをかける」

こうして俺の冒険は今始まった… 

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