一応ジジイにも世話なったし挨拶しとくか。頼むから無茶はするなたまには帰ってこいだと?
これだから辛気臭い年寄は嫌いだ。なにが悲しくてこんなじいさんの顔見に帰らなきゃいけないんだ。
まああのビールとバニーの姉ちゃん見にたまには戻ってやってもいいがな。ついでに生きてるかどうか
確認しに帰ってやるか。そうしてジジイはまた例の羽を使って帰って行った。

さて次の目的地だがどうやらここから南に大きな町があるようだ。どうせなんのあても無い事だし
とりあえず人の多いとこの方が色々情報があつまるかもしれない。俺は南を目指す事にした。
ちなみにここでの収穫は「たびびとのふく」と「やくそう」をいくつか買った。
道具屋のおっさんが旅にでるなら絶対もってけと勧めたからだ。
あっそれと城での飯は超絶最高にうまかった。あの肉の味は忘れまい。

町をでてしばらく歩く。頭に防災頭巾の顔色の悪いガキが道端にたっている。

!?

そいつは俺を見るや否や弓をかまえ矢を放った。必死にかわす俺。
なんてガキだ。親のしつけはどうなってるのだろうか。知らない人に矢を放っちゃいけませんとは
教えられなかったのだろうか。そんな事を考えてるうちに第二射が飛んで来る。
太ももに刺さった。痛い。しかしこの距離だと反撃できん。じわじわ弄り殺しになるだけだ。
さてどうしたものか。おっよく見ると連射は出来ないらしくリロード中に隙ができている。
ここだ。俺は勢いよくガキに向かって走りだした。矢が飛んで来る。盾で強引に叩き落す。
そして次の矢を弓に掛ける瞬間俺の中段回し蹴りが直撃した。中段といっても身長差でちょうど
ガキの顔面にヒットする。間髪入れずに左の順突き、右の逆突きが入る。
俺がもっとも得意とするコンビネーションだ。ガキはその場にうずくまる。勝った。
俺は親父の影響でジャリのときから空手を仕込まれてきた。まさかこんなとこで役に立つとは。
しかしこいつはおそらく魔族だろう。こんなガキの時から躊躇無く人に向かって矢が撃てるなんて
なかなか感心できる。昔連れにひとし君というのがいたが、そいつは親が極道で小学生のうちから
妙に刃物の扱いがうまかった。もしかして魔族はそれが一般的なのだろうか。
なんてデンジャラスな人種だ。

立ち上がった色の悪いガキは命乞いしてきた。無論俺は許した。子供を手にかける趣味はない。
法の道は外れようとも人の道は外れないのが族の粋ってもんだろ。イカスな俺。
そさくさと去っていくガキを尻目に俺は刺さった矢を抜いた。困った。
この傷で目的地まで歩けるだろうか。しばらく進むか引き返すか考え込む。
ん、そういや道具やでなんか買ったっけな。たしかこの辺に…あったあった。
俺はやくそうを取り出した。使い方がわからないので傷口にこすり付けてみる。
するとどうだろう。みるみるうちに痛みが引き傷口が塞がっていく。これは便利だ。
次の町ではやくそうを大量に買おうと心に決め俺は歩き出した。が、疲れた。
照りつける太陽がむかつく。やかましいセミの声がむかつく。あまりにもむかつくので大きな岩の
影で小休止する事にした。なかなか涼しくていい感じだ。いつのまにかうとうとし始める…

グゥウォオオォォッゥ!!!

とてつもない唸り声に飛び起きた。岩の脇から覗くと変なじいちゃんが2mは優に超す熊に襲われている。
状況は絶望的だ。貧相なじいさんに勝ち目は無い。俺は思った。ご愁傷様だな。
心の中で静かに念仏を唱えてやった。じいさんも観念したのか目を瞑ってブツブツ言っている。そして叫んだ。

メラミ!!!

え?メラミ?最後の言葉にしちゃヘンチクリンだがまあ気が動転してたんだろう。誰だって死を目の前にして
冷静でいる事の方が難しい。俺は熊に気づかれる前にこの場を去ろうと逃げる準備をした。

その瞬間あり得ない光景を目にする。

じいさんの手からデカイ火の玉が発射され熊を直撃した。一瞬で熊は黒焦げになった。 

情けない事に俺は完全に腰を抜かしてしまった。じいさんが立ち去ろうとする。このまま帰すわけにはいかない。
おい!と声を上げる。裏返ってしまった。最悪だ。
とりあえずじいさんに駆け寄る。今の炎は何なんだと尋ねる。じいさんはキョトンとしている。
は?おぬし魔法を見たこと無いのかだと?あるわけねーだろバカ。おまえら変態集団と一緒にすんな。
どうやらこのじいさんは職業魔法使いらしい。魔法使いといっても俺には引田天功かウザイ眼鏡の外国のガキか
柔術マジシャン・ノゲイラしか頭に浮かばない。しかしこんなじいさんでも熊を倒せるなんて何て強力な力だろう。
じいさんに俺にも魔法を教えてくれと頼んだ。断られた。
かわいい年寄りの大ピンチを傍観しとるようなやつには教えてやらんとニヤニヤしながら言いやがった。

こいつ気づいてやがった…

じいさんが歩き出す。とりあえずついて行きしつこく頼み込む。…がこのじいさんほんとにとんでもない野郎だった…
肩がこっただの喉が渇いただの腹が減っただの俺を完全にパシらせやがる。元総長のこの俺様を!こんなヨボヨボが!
挙句の果てに疲れたら背負えと言いやがった。俺は顔面凹ましてやりたい気持ちを抑えつつおぶる。
だいぶ歩いた。もう少しで町だから降ろせと言うので降ろした。どうやら目的地は一緒らしい。
さあ教えろと詰め寄る。じいさんは一言言った。

無理じゃ。

無言で俺のジェットでこぴんがじいさんに炸裂する。じいさんあわてて説明し出す。
要点をまとめるとこういう事だった。
まず魔法には「信じる」力が必要だと。魔法に縁のない環境で育った俺にはできるわけないという意識が
先行してしまう。尚且つ人には向き不向きがあり明らかに戦士系の俺には厳しいだろうということだ。 

やれやれまったく凡人の考えだ。だいたいこんなじいさんに出来ておれに出来ないはずがないだろうが。
それでも教えろと脅しをかける。じいさんしぶしぶ基本を教えてくれた。

①頭の中で炎をイメージする。
②相手に手のひらを向ける。
③メラ

え?こんだけっすか?こんだけで手から火がでるんすか?楽勝じゃん。俺は意気揚々と構えそして叫ぶ。

メェエエエラァアアア!!!

静寂。
沈黙。
ああ今日もいい天気だなあ。
俺のシャウトだけが虚しくこだまする。じいさん腹を抱えて笑う。
俺のババチョップがじいさんの脳天に直撃する。じいさん悶絶。
その後色々聞いたがやはり素人が簡単に使えるものではないようだ。
毎日精神統一の為瞑想したり、よりリアルなイメージが出来るようにトレーニングしたり、
魔法の理論そのものを学んだりと色々やらなきゃ使えるようなはならないらしい。
ただ一つ希望があるとすれば、出来はしなかったが俺がメラと叫んだ時本人には「火が出る」という
確信があった。その気持ちがある限りいつかは使えるようになるそうだ。
当たり前だろ。乱立する100もの族を一つにまとめた男ぜ?俺に不可能はない。
町の入り口でじいさんと別れる。町長の家に呼ばれてるので一通り町を回ったら来いとの事だ。
町長=権力者=金持ち=肉
俺は即答でわかったと返事した。 

でかい町だ。一日かけても全部回りきれないだろう。適当に情報集めてからじいさんのとこに
肉食いに行くか。とりあえず道具屋に向かう。やくそうを買いだめするためだ。
途中柄の悪そうな三人のチンピラどもにからまれる。この世界にも恐喝はあるのか。なんかちょっと嬉しい。
とりあえず釘ひのきで一発ぶん殴る。

バキ  あ…

折れた。今まで酷使していたせいで相当ガタがきていたようだ。さらば相棒…
一人は頭から血を流し倒れもう二人は明らかにビビッてる。所詮群れなきゃ何も出来ない雑魚か。
片方がナイフを取り出した。金を出さなきゃ刺すと凄む。
俺はナイフ程度の刃物はまったく恐くない。今まで相手の武器でびびったのは日本刀と
ひとし君が拳銃取り出した時くらいだ。あれは本当にびびった。
まあ素手で対抗するのも何なんで俺もナイフを取り出す。こないだの極道猪戦で血錆がべっとりのナイフだ。
それを見た二人の顔色がみるみる変わる。そして今日の所は見逃してやると倒れているやつを担ぎ
超速で逃げていった。なんてお約束なやつらだ。
しかし困った事に相棒の釘ひのきは折れてしまった。さすがにこのアウトローな世界を丸腰で旅するのは危険だ。
やくそうより武器が先か。そう考えると俺は武器屋を探し彷徨いだした。ちょうどすぐ角のとこにあった。
ついてるな今日は。中に入る。前のシケた武器屋と違い見るからに強そうな武器が並んでいる。
そこで一際目立つ武器を発見した。「ドラゴンキラー」と書いてある。まさに覇者たる俺にぴったりの武器だ。
店主は言う。

それは15000ゴールドだぜ。

ここで新たな問題が生まれた。俺は貧乏だった。残金38ゴールド。とても足りない。一応交渉してみる。
おまえには常識がないのかと言われた。正直裸覆面に言われる筋合いはないと思った。
むかつきつつも武器屋を後にする。金がなけりゃどうにもならんと町長の家に向かう。
途中道端の人に尋ねるが決まってこの町に町長はいないと言われる。あの糞ジジイ…はめやがった…
しかし代わりに新たな情報を得る。どうやら町長はいないが王様はいるらしい。城に向かう事にした。
その城はこんな見るからに怪しい俺でもすんなりと通してくれた。なんて無防備な城だろうか。
中央の階段を昇るとそこは王の間だった。 

王様の前にはあのじいさんがいて何か話こんでやがる。俺は何となく無性にむかついた。
しっぺの一発でも決めてやろうと前に進む。とここで王様が話しかけてきた。

前も言ったが俺は権力者が嫌いだ。金に溺れ腐った豚は死ねよと思う。

が、ここの王様は違った。ヤバイ。目がヤバイ。今まで数々の修羅場を潜り抜けてきた俺にはわかる。
例えるなら武闘派系の組の親分の目だ。只者ではない。俺は身構えた。

頼みがあるのだがー

突然王様は切り出した。そしてその頼みに俺は愕然とした。
盗賊に王冠が盗まれたらしい。それを俺に取り返せと。なんてやつだ…
まず王のくせに象徴である王冠を盗まれるという間抜けさ。
続いてそれを見ず知らずの旅人に取り返してくれと言うおおらかさ。本物のバカか大者かどちらかである。
てかとりあえず自分のとこの兵士送れよバカと思ったがそうもいかないらしい。城の警護で手一杯だそうだ。
王冠盗まれといて今更警備も糞もあるかと思ったが如何せん俺も貧乏だ。
王の願いともなるとかなりの報酬が出るのではないだろうか。
もし出なくともその王冠を売っぱらえばかなりの額になるのではないだろうか。
というわけで俺は引き受ける事にした。支度金として5000ゴールドくれた。さすが太っ腹だ。
じいさんの話によると盗賊の名前はカンダタ。手下を引き連れ東の党の塔にアジトを構えている。
かなりのツワモノのようだ。王様はじいさんも連れてけと言ったが断った。またおぶれとか言われても
めんどくせーし報酬も独り占めしたい。そもそもこんな性格悪いジジイと一緒に旅なんかしたくない。
早速俺は5000ゴールドを持ってさっきの武器屋を訪れた。
散々悩んだ挙句「てつのおの」と「くさりかたびら」を持って店主の所に行く。
なぜか店主は物凄く同情した目でこっちを見てる。
え?何自首した方が罪が軽くなるだと?ちょ!おま!俺は強盗なんかしてないっつの!
店主に完全に怪しまれたまま俺は武器屋を後にした。 

出発は明日の朝一でいいなと思い今日は宿をとり休む事にした。宿屋の看板を見つけ中に入る。
一泊12ゴールドらしい。これは安い。破格だ。と言ってもただベットが借りれるだけで飯も風呂も
ついてないようだ。ライダーズホテルのようなものか。おそらくこの世界は旅人が多いためこの料金でも
十分経営が成り立つのだろう。飯は城に行って勝手に食うとして風呂には入りたい。聞くと旅人は近くの川で
水浴びをすることが多いらしい。そこで俺も川に向かった。途中道具屋を発見したのでやくそうを買い込む。
服を脱ぎ水につかる。冷たさが心地いい。腹に目をやるとそこにはヤリが刺さった生々しい痕がある。
はたして俺はカンダタとか言うやつに勝てるのだろうか?また死んでしまうのではないだろうか?
いやいやまてまて。負けるはずがない。そもそも相手は同じ人間だ。だったら俺の方が強い。
と自身に言い聞かせ宿に向かった。しかし酒場の看板が目に留まる。明日に備えて軽く英気を養っとくか。

3時間後残りの全財産を使い切った俺は千鳥足で宿に向かった。

ー次の日ー

目覚めるともう太陽は高かった。寝坊した。頭痛い。腹減った。
俺はふらふらしながらかろうじてポケットに残ってた5ゴールドでパンを買いかじりながら町を出た。

今日もいい天気だ。しばらく歩くと青寒天が出る。相変わらずかわいい。よくみると隣に色違いの赤寒天まで
いやがる。こいつらは噛み付かれるのにだけ注意すればウエイトが軽いため体当たりはまったく効かない。
殺すのも可哀想なんで無視する事にした。後ろから必死に追いかけてくる姿またかわいい。
俺がこの世界を制した暁には寒天を飼おうと思う。楽しみだ。
寒天が諦め追いかけてこなくなると今度は犬が現れた。が、よく見ると所々が腐っている。気持ち悪りい。
俺は買ったばかりのてつのおので真っ二つにした。何がショックかっていきなりおのが汚れた。
新相棒の最初の獲物が腐った犬とは…俺はテンションが下がりつつも塔を目指した。

道中ゾンビ犬だの寒天だのでかいきのこだのが現れるがてつのおのの威力により苦戦する事は無かった。
そしてついに塔が見えてきた。 


塔に入る。見張りなどはいない。ひとまず道なりに昇って行く。ややこしい。造ったやつちょっと来い。
しばらく昇ると妙な三人組みがいた。向こうは俺の顔を見るなり顔色が変わる。
あ!こいつらこないだボコったやつらじゃん。そうかカンダタの手下だったのか。
三人で何か話し合っている。そして逃げた。俺も追って階段を昇る。

そこにはカンダタと思われるパンツに覆面&マントというとんでもない格好のやつがいた。
しかし手下が手下なら親分も親分だ。なんてファッションセンスだ。俺の戦闘意欲はマックスで失せた。
めんどくせーからとっとと終わらそうと思いよくも俺の子分をだの俺の名前は大盗賊カンダタだの
言ってる間に近づいて一発脳天にてつのおのを見舞う。ガキンッと金属音が響く。
こいつ覆面の下になんか仕込んでやがるな。カンダタは激怒した。
おまえには倫理ってものがないのか外道!と言われる。盗賊が何言ってんだ…
そして子分にこいつは俺一人で片付けるから手を出すなと言った。アホだ。正真正銘のアホだ。
そこから俺とカンダタのタイマンが始まった。お互い腕が上がらなくなるまで斧を振り回し
顔がボコボコになるまで殴りあった。最後に立ってたのは俺だった。

カンダタは観念したのか煮るなりやくなり好きにしろと言う。俺は「きんのかんむり」を取り返した。
もうここには用はない。足早に塔を出た。入り口の所でカンダタらしき悲鳴が聞こえる。
無視してよかったのだが何となく見に行ってみた。カンダタがデカ蛙数匹に囲まれている。
手下は気絶している。…弱い…なんて弱い盗賊団なんだ…さすがに同情を禁じえない。
適当に蛙を追っ払うとカンダタが涙目で抱きついてきた。
痛いって!そんな力入れるなっつの!俺は男に抱きつかれて喜ぶ趣味はねーんだよ!離れろ!

カンダタは世界で一番蛙が苦手らしい。俺は命の恩人と崇められてしまった。なんだこの展開は。
だがしかし次にもっと驚く展開になる。カンダタが俺を子分にしろと聞かない。子分も同じく騒ぐ。
嫌だと言って塔を出たが後ろからゾロゾロついてくる。マジ勘弁してくれ…
そこで俺はこいつらを舎弟にする事にした。新鬼浜爆走愚連隊栄光の船出だ。
子分は塔の警備役(というか足手まといなんでいらない)として置いていく事にする。
一応俺らは盗賊じゃなく族なんだと言う事を言い聞かせたがこいつらはバカだから理解してないだろう。
まあいい。とりあえず親分じゃなく総長と呼ばすのだけは徹底させよう。

来た道を戻る。もう日が沈みかけている。途中魔物も出たがカンダタが一人で暴れて片付けた。
なかなか使える野郎だ。特攻隊長くらいにしてやってもいいかも知れない。
そうして城に戻った時にはすっかり夜も更けていた。

門番はカンダタを見て腰を抜かしていた。無視して進み王様の前に立つ。
王様にきんのかんむりを渡した。衛兵がカンダタを連行しようとするので止める。
そしておうかんも戻ったしこいつを無罪にしてくれないかと頼んだ。大臣憤怒。
まわりがざわつき始める。もしこいつを引き渡すのを拒否すると俺も連行されるかもしれない。
しかし舎弟のために体を張るのは総長として当然の事だろう。俺はこの国と戦争する決意をした。
そして王の重い口が開く。


いいよ。


一瞬時が止まった。


大臣が物凄い勢いで王様をまくし立てる。なんてイカしたヤツだろう。最高だ。
じいさんはゲラゲラ笑ってる。次の一言がまたイカレた内容だった。

さあ!おうかんを取り返した英雄をもてなす宴の準備をせい!

数時間後おうかんを盗んだカンダタ、盗まれた王様、取り返した俺という異色中の異色の組み合わせで
宴会が始まった。カンダタは物凄いペースで酒を飲む。こいつ自分がしでかした事をわかってるのだろうか?
王様も王様でヘラヘラしながらこれまた凄いペースで飲み続ける。大臣は呆れて物も言えないといった感じだ。
まあそんな事よりも俺はこの国の肉料理に感動した。甘辛く重厚でそれでいてしつこくない。
三人の豪快な食いっぷり、飲みっぷりに即発され兵士達も騒ぎ出し、明け方には全員床で寝ていた。
ひたすら飲まずに食っていた俺はこの光景を見て思った。
ああこの国は純粋にバカなんだと。そらおうかんも盗まれるわ。
と、ここでじいさんが話しかけてきた。いきなり身の上話を始める。興味ねえどっかいけよジジイ。

だが話の内容は驚くべき内容だった。このじいさんと王様は昔一緒に冒険した仲らしい。
しかもその冒険というのも魔王討伐だというのだ。その時は多大な犠牲と共に魔王を封印できたらしい。
信じがたい話だが俺は妙に納得した。あの王様の目はカタギの目じゃない。絶対に人を殺めた事のある目だ。 

次の日このバカ王はまたまたとんでもない事を言い出す。
は?自分も久々に旅がしたいから代わりに王にならないかだと?こいつラリッてんのか?
……目が笑ってない。本気だ。俺は旅の目的があるのでと断った。
バカ王はそれなら今度こそこのじいさんを連れて行けと言う。
俺はそれも断ろうとした。だがじいさんを連れてく事がカンダタ釈放の条件だと言いやがる。
なるほどさすがに監視役もいないまま犯罪者を野放しにできないというわけか。俺はしぶしぶ了承した。
こうして不本意ながら新鬼浜爆走愚連隊(以下略して鬼浜)に新たな構成員が増えた。
現メンバーは

総長:俺
特攻隊長:カンダタ
構成員:じいさん、子分A,B,C

……非常に頭の痛くなるメンバーだ…硬派にも武闘派にも程遠い…俺は初めて自分のやってる事が
不安になった…だが今はもう前に進むしかない。バカ王は報酬として一万ゴールドくれた。

その夜、記念すべき第一回鬼浜会議が開かれた。議題は次の目的地についてである。
俺的には早く勇者にあってどんな輩か確かめたい。じいさんに勇者について何か知らないか
聞いてみた。知っていたのは勇者の故郷はアリアハンという町であるという事だった。
一方カンダタにも何か情報がないか聞いてみる。明日の朝は目玉焼きがいいそうだ。
こいつ今後一切の発言権は無い。とにかく明日から勇者の足取りを順に追ってみようと思う。
今日はもう遅いので宿で一泊する事にした。 


次の朝出発の挨拶をしにバカ王の所に行く。まだ王にならんかとか言ってやがる。しつけえ。
アリアハンへ行くと伝えると船をだしてくれるようだ。貸切で。VIP待遇じゃん。バカ王もたまにはやるな。
そうして船に乗り込んだ一行はアリアハンを目指した。道中暇なのでじいさんに魔法を習う。
どうやら俺には「リアルにイメージする力」が足りないらしい。じいさんは松明や焚き火ではなく、
もっと攻撃的な炎を頭の中に思い描けと言う。攻撃的な炎…
そういや昔抗争中の族にひとし君の単車のオイルタンクに穴開けられて、気づかずに乗って引火して
炎の塊になって爆走した事あったっけな。よく生きてたなあいつ。
そんな事をぼんやり考えながら俺は手のひらを構えメラッと叫んだ。

出た。

炎の塊が船のマストを直撃する。燃えるマスト。じいさん慌てて手から氷の塊を発射し消化する。
じいさんとカンダタと船長が物凄い勢いで詰め寄ってきた。船を沈める気かと叫んでいる。
しかし俺にはそんな声まったく届いてなかった。出来たのだ。俺にも魔法が使えたのだ。
そこから二日後アリアハンにつくまで俺はひたすら練習を重ねた。徐々に火の玉も大きくなる。
俺は天才かもしれない。自分で自分の才能が怖いぜ。
しかしじいさんはそのくらいの魔法ならガキの頃にもうできたわいと言った。くっ目の上のタンコブが。


アリアハンに到着する。なかなかきれいな町並みだ。じいさんは王様に挨拶に行った。
おまえも来いと言われたが堅苦しいのはいやなんで一人でぶらつく事にした。カンダタは腹が減ったと
うるさいので50ゴールド渡してどっかやった。 

きれいな町並みだがシケた所だった。強い武器もない。きれいなねーちゃんもいない。典型的な田舎町だ。
こうなったら昼真っから酒でも飲んでやろうかいと酒場に入る。町の規模にしちゃかなり大きな酒場だ。
そこは酒場兼人材派遣センターのような所らしい。冒険に出る人が有志を募れるシステムだ。
年齢や職業や性別を指定すると合致した人と出会える…え?これって出会い系サイトと同じじゃないか?
もしかして表向きは「冒険者の集まる酒場」だがほんとはただの出会い系酒場なんじゃないのか?
とりあえず俺も利用してみる事にする。その時だ。奇抜なピエロの格好をしたかなり大柄な男に声を掛けられる。
どうやら仲間にして欲しいらしい。腕には自信があるそうだが俺はこれ以上色モノが増えても敵わないので
丁重にお断りした。ジーッと見つめてくる。こっち見んな気持ち悪い。クソが。俺は仕方なく酒場を後にし城に向かった。

城に入り王の間まで行く。じいさんが王様と親しげに話している。しかしこのじいさん侮れない。
各国の王とここまで親しいじいさんは他にいるだろうか。食えないジジイだ。
その後王様と話し、勇者は北に向かったと聞く。北か。今出来ることは追う事だけだ。
この町にこれ以上いる必要もないと思い早速出発する。あっカンダタ忘れてた。
町中探し回ると結局さっきの酒場の中にいた。となりにはあのデカピエロがいる。
二人で酒を飲み意気投合しているようだ。バカ同士気が合うのだろう。
…嫌な予感がする…
案の定カンダタはこいつも連れてけと言う。じいさんはなぜかまたニヤニヤしている。
はいはい。もうわかりましたよ。好きにしてくれ。という事でまた一人舎弟が増えた。
見るからに怪しいピエロの大男。服装が服装だが相当なマッチョだ。ん?この目どこかで見たことがあるような…

町を出て北に向かう。振り返る。後ろにはヨボヨボじいさん、覆面パンツ男、ピエロの大男…
これから世界征服を狙う組織とは思えない。次は絶対まともなやつを入れよう。
しかし戦闘は楽になった。実際このピエロ男がバカ強い。大体の流れはこうだ。
まず敵を見つけるや否や俺、パンツ、ピエロが突撃して袋にする。それでも仕留め切れない場合
後方からじいさんが炎なり何なりだしてTHE ENDだ。むしろ魔物の群れなんかより俺らの方が全然柄悪い。

特に強い魔物も出て来ず暇なので鬼浜軍事訓練を行いながら進む事にした。要は俺がパンツ、ピエロと
ど突き合いながら進むのだ。これがまたしんどい。この二人その辺の魔物より遥かに強い。
しかし俺も総長としてのプライドがあるため負けるわけにはいかない。次の町に着いた時は三人とも
血だらけのボコボコだった。みんなやくそうをアホほど買って全身に塗りたくる。
その日は疲れたので宿で一泊した。

次の朝。

勇者は「いざないのどうくつ」なるとこに向かったらしい。何か痕跡が掴めるかも知れないので
そこに向かう事にした。今日はじいさんに魔法を習いながら歩く。なんとなくコツがわかってきた。
要はイメージなのだ。炎が上手くイメージできるやつは炎系の呪文が得意だし、氷を上手くイメージ出来る
やつは氷系の呪文が得意なのだ。何にせよ、「イメージ」と「確信」と「集中力」が大切なのだ。
俺はやはり天才なのかもしれない。そんな事を考えているうちに洞窟についた。

薄暗い陰気な感じの洞窟だ。なぜか洞窟の中にもじいさんがいたが俺はもう年寄りはお腹一杯なので無視した。
いかにも怪しい吹き飛んだ壁を抜けしばらく歩くと紫色の角うさぎが数匹でてきた。
どうせ雑魚だろうといつものように三人で突撃する。

ラリホー

そこからの記憶は無い。目が覚めるとじいさんが一人でゼーゼー言いながら汗だくで立っていた。
じいさんはなぜかキレ気味で初めての敵にはもっと慎重にだの何だの説教を始めたが無視した。
鬼浜には特攻あるのみだ。これだから年寄は嫌いだ。

洞窟を抜ける。妙に懐かしい感じが。とりあえず近くの町に…っておい!ここバカ王の城じゃん!
なぜかピエロがここは無視して先に進もうと言う。俺はもうこの町に特に用は無いし先に進む事にした。

しかしこのまま北に行くと俺が初めてこの世界に来た町に着くな。ジジイは元気でやってるだろうか。
いやそんな事よりもあのバニーの姉ちゃんはまだあの格好で仕事してんのだろうか。そう考えると足取りが
軽くなる。軍事訓練にも気合が入るというものだ。段々三人のボルテージが上がっていく。
町に着く頃には三人ともボロ雑巾のようだった。このままいくと訓練中に死人が出てもおかしくないかもしれない。

町に着いた。いきなりガキとすれ違う。ガキはヤンキー、パンツ、ピエロという三人組を目の前にして
固まった。そりゃそうだろう。正直俺も怖い。まだ酒場は開いてないようなので教会に向かう。
ジジイに再会する。まだ生きててくれたのかと喜ぶジジイ。たりめーだろうが。
ジジイの話によるとこの町に三日前勇者が来たらしい。なんて事だ。勇者はさらに北の村へ向かったそうだ。
が、その村は数週間前に魔王に滅ぼされた町だというのだ。一応止めたが聞かずに行ってしまったらしい。
それならまだその辺にいるのかもしれない。俺らは急遽そこに向かう事にした。

そこには半日歩くとついた。そこで俺は自分の認識の甘さを思い知る。


村。いやもうそこはそう呼べないだろう。民家は原型を留めていない。生々しい血の痕がそこらじゅうにある。
魔王はやはり魔王だった。生易しい相手ではなかった。ひとまず村を一周してみる。
普段は陽気なパンツもピエロも終始無言だった。しかし気になるのは血の痕のわりには死体が一つもない。
答えはすぐそこにあった。

そこには墓を掘る一人の少年の姿があった。

おそらく村に着いてからずっと掘り続けてたのだろう。服は真っ黒で顔は疲弊しきっている。
だが目は凄まじく澄んでいた。それをみたパンツとピエロとじいさんが無言で墓堀を手伝う。
墓堀が終わった。少年がこちらに向かいありがとうと言う。…え!?その声は少年ではなく少女のものだった。

どうやらこの子が勇者らしい。

俺は全身ありえないくらいの脱力感に襲われた。屈強な大男との死闘を想像していたのだ。
俺がこんな女の子をぶん殴ったらそれこそ問題じゃないか。こいつを倒す必然性は無くなった。
パンツが話しかける。じいさんも色々聞きたい事があるらしくこの子に駆け寄る。 


だいたい話の内容はこうだった。
何故一人旅なのか。この子は先代勇者の娘らしい。それで常に魔物に狙われるのでできるだけ他の人を
危険に晒したくないと。それで16歳になり先代が旅に出たと同じ年齢なったので旅に出たと。

俺は無性にむかついた。この世界のやつらはみんなそうだ。「勇者」という名にすがりたがる。
実際16歳のガキに一体何を望むのだ?魔王がむかつくなら自分で喧嘩売りにいけばいいじゃないか。

世間の理不尽さはどこの世界も変わらないようだ。と、その時、

「カカカこれはこれはこれは勇者サマ!」

突然背筋に寒気の走る声がする。振り返るとそこには腕が6本ある骸骨二体と覆面魔術師が立っていた。
この村を襲った残党だろうか。

「その首ヲ我が主への手土産にシましょうカ!」

俺達は武器を構える。しかし皆顔に余裕がない。それもそのはずだ。こいつら雰囲気がかなりヤバイ。
明らかに今までの敵とは次元が違う。

均衡状態を撃ち破ったのはじいさんだった。じいさんの手から巨大な火の玉が発射される。
骸骨はそれをかわす。その瞬間残りの4人が飛び掛った。てつのおのにかなりの手ごたえがある。

やったか!?

残念ながらさほどダメージは与えられなかったようだ。逆にパンツとピエロが血を流している。
あの状況できれいにカウンターをきめやがった。こいつマジで強ええ。 

じいさんが今度は強烈な氷の突風を放つ。これはかわしようが無く骸骨はその場でふんばり耐える。
このチャンスを逃すまいと俺は骸骨の脳天に全身全霊を込めて一撃を見舞った。
そこにパンツ、ピエロ、勇者と続く。骸骨の6本の剣が踊る。
俺は全身なます切りになりつつも骸骨に留めの一撃を決めた。
もう一体は!?振り返るとじいさんが必死に杖で対抗している。が、体には深い斬り傷が刻み込まれていく。
骸骨が剣を振り上げじいさんの頭に狙いを定めた瞬間、パンツが後ろからはおい締めにした。パンツGJ!
骸骨の剣がパンツに深々と突き刺さる。しかしじいさんの火炎球が至近距離で骸骨に直撃する。
骸骨は体半分吹き飛ぶ。



辛勝だ。とくにパンツとじいさんの傷がひどい。ありったけの薬草を塗り込む。
ひとまず危機は去った。みんな安堵の表情を浮かべる。…しかしそれはすぐに打ち消された。

ーそこには見たことも無い魔物の群れを引き連れ薄ら笑いを浮かべる魔術師がいた。 
増援。

絶望。

皆一応武器を構える。しかしもう顔に覇気が無い。ちくしょう俺の野望はこんなとこで潰えるのか。
誰もが諦めたその時、じいさんがおかしな事を言い出した。俺の目を見て
いいか、魔法で一番大事なのは信じる心だ。おぬしは絶対にわしをも越えるだろう。自分の可能性を信じろ

そして勇者に向かい
父は優しく、強く立派な男だった。その存在が重荷に感じることもあるだろうが自分の血筋に誇りを持ちなさい

そしてピエロに
さらば我が戦友にして親友よ。一足先にむこうでまってるぞ

と言ったと思うと魔物の群れに向かって駆け出した。








メガンテ








数十秒だったのだろうか。数時間だったのだろうか。一瞬とも悠久ともとれる時の後
そこには何もなかった。あるべきはずのものは何もなかった。




パンツは大声を上げて泣いている。ピエロは恐い顔をして考え込んでいるようだ。
勇者は涙ぐみ俯いている。パンツと勇者は口々に魔王軍絶対許さないと言う。

違う。

悪いには魔王軍ではない。俺だ。俺が弱いから悪いのだ。結局これは弱肉強食の潰し合いなのだ。
この村の人も、じいさんも相手より強ければ死ぬ事はなかった。俺は自分の弱さが許せなかった。
何が鬼浜だ。何が世界征服だ。自分の舎弟の命すら守れなくて何が総長だ。
これは相手からの強烈な宣戦布告だと受け取った。俺は売られた喧嘩は必ず買う男だ。
魔王…絶対原型わからなくなるまでぶん殴ってやる。顔面ボコボコに凹ましてやる。

あああああああああぁぁあああぁああああああ!!!!!!!!!!!!!!

突然俺は叫んだ。頭の血管ブチ切れるくらい腹の底から叫んだ。
パンツと勇者はビクッとなりこっちを見る。俺は空に向かってさらに叫んだ。

新鬼浜爆走愚連隊総隊長、魔王のとこまでブッこんでくんで夜露死苦!!!!!!!! 

ページ先頭へ
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら@2ch 保管庫