その後俺らは村の中央にじいさんの墓を作った。そして村を離れ一旦ジジイのいる町まで戻る。
ジジイはじいさんが減ってる事に気づいたが俺らの表情から事を察し静かに十字をきった。
深夜鬼浜会議が開かれる。ピエロは気になる事があるので城へ帰ると言う。今まで黙っててすまないが
実はお前らが立ち寄ったロマリアと言う国の王様だったんだと告白する。いやいやわざわざ告白せんでも
未だに気づいてないヤツなんていねーよ。そんなヤツは正真正銘本物の極限のバカだ。
…隣でパンツが驚きの声を上げる…
勇者はまた一人旅を続けるらしい。いやいやちょっとまて。それは無茶だろ。
俺はなんならお前も舎弟にならないかと誘う。勇者はキョトンとしている。

いやだからな?俺は世界征服する為に鬼浜という族を結成しててだな…いや族っつてもわからんか…
世界を救うとかまったく興味無いんだが魔王は邪魔だからどっちにしろイワしとかなダメだし
おまえも魔王潰したいなら一緒に来るかって事!わかるか?

必死に説明する俺。勇者はやっと意味が飲み込めたのか笑顔になる。是非仲間にして下さい!と言った。
ここで明確にしておかなきゃいけない事がある。世間では勇者様様だがここで一番偉いのは俺だ。
俺の事は総長と呼ぶこと、勇者だか何だかしらんが俺の方が偉いことを説明する。
勇者はニコニコしながらよろしく総長さん!と答えた。ちっなんか調子狂うな… 

その日の鬼浜会議は深夜まで続いた。ピエロ改めバカ王からいくつか提案があった。
一個目はラーミアの復活。ラーミアとはバカでかい鳥らしい。なぜそんな鳥が必要かと言うと
魔王のいる城へは空路でしかいけないのだ。昔じいさん達が攻めてった時もこの鳥を使ったと言っていた。
鳥を復活させるには6つのオーブが必要だそうだ。そのオーブはじいさん達が自分達で保管してたり元あった
場所に安置したりで世界中にバラけてるらしい。ひとつはロマリアにあるので取りに来いと言われた。

二個目は戦力強化。今のままでは絶対に勝てない。強力な武器や防具が必要だ。
じいさんは生涯掛けて究極の魔法を研究していたので、イシスという国にある実家を訪ねれば何か手がかりが
あるかもしれないとのことだ。何の手がかりもないしとりあえずイシスを目指すか。

その日はジジイの家に泊まった。パンツのいびきがうるせえ。俺は洗濯バサミでマスクの上から鼻を摘んだ。
………………。
三分後。息をしていない事に気づく。あわてて洗濯バサミをとった。危うく永眠させる所だった。
朝食にはおなじみの野菜屑のスープが出た。それをたいらげると早速出発する事にした。 

ロマリアに向かう道中勇者とピエロが勇者の親父の冒険について話していた。
ざっとまとめるとこういう事だ。

昔バラモスという輩が人間を滅ぼそうとした。当時16歳の勇者の親父はロマリアの王子(現ピエロ)
世界でも有数の魔法使い(故じいさん)それと「賢者」と呼ばれる何だか凄いヤツと旅に出て、
長い冒険の末ついにバラモスを倒した。が、バラモスは大魔王ゾーマってやつのパシリでありゾーマこそが
真の親玉だった。そこで勇者の親父は賢者とゾーマのいる地底世界に殴りこみをかけた。
数年の月日が経過した。打倒ゾーマを果たし親父達は帰って来る。平和が訪れた。

そこから月日は流れ、勇者が生まれた。誰しもがこの平和な日々に何の疑問も抱かなかった。
しかし危機は着々と迫っていた。魔物の活動が徐々に活発となる。魔物は頻繁に「我が主」という言葉を口にする。
数年前、魔王の復活を直感した親父は旅に出た。そしてその後消息を絶つ。


だいたいこんな感じだ。それでじいさんもバカ王も旅に出るチャンスを伺ってたらしい。
ん?なんでじいさんとバカ王は地底世界に行かなかったんだ?沸々と疑問が湧き上がる。
バカ王はロマリアたった一人の跡継ぎである為、じいさんは魔王軍と戦争するさいに最高司令官として残ったらしい。
それであのじいさん各国の王様とあんな親しかったのか。なるほど。やはり只者ではなかった。

ロマリアで黄色いオーブを受け取る。バカ王は大臣に物凄い勢いで説教されていた。勝手に旅立ったらしい。
なんて無責任な王なんだ。国民の今後が心配だ。そんな事考えつつも俺は武器屋に向かった。
あった。こないだは貧乏極まりない為買えなかったドラゴンキラー。今ならギリギリ買える。おい店長これくれ。
断られる。は?客寄せの為に一本だけ仕入れたモンだから実際に売る気はないだと!ふざけんな!!!

俺:ふざけんな!売れ!今すぐ売れ!
店:すみません無理です。
パ:売れ!俺は大盗賊改め鬼浜の特隊カンダタだぞ!売れ!
店:無理なもんは無理です。
勇:お願いします!私達の旅にどうしても必要なんです!
店:いいよ。

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!????????????????

何故だ!?店長を問い詰める。店長は言う。だってかわいいんだもん。
その後俺とパンツに袋叩きにされたのは言うまでもない。
こうして俺達は店側の好意により500ゴールドでドラゴンキラーを手に入れた。うむ。なかなかよい買い物だ。

こうして新しい相棒も手に入れ大満足の俺は一同東を目指す。目標はイシスだ。
バカ王にオーブのついでに世界地図も貰った。これで行き当たりばったりの冒険をする必要もなくなったようだ。
しかし筋肉ダルマのピエロ、火力抜群のじいさんの穴を埋めるのはキツイだろう。ここからは苦しい旅になりそうだ。
俺は気合を入れ直す。しかしそれは取り越し苦労だった。

この女べらぼうに強い。

まず剣だ。筋力こそ欠けるものの抜群にスピードが速い。俺は達人でも何でもないので素人じみた感想になるが
太刀筋が「活きて」いる。おそらく血の滲むような努力とともに天性の才能もあるのだろう。
次に魔法。数種類の攻撃魔法を使いこなす。だが何より驚いたのはこいつやくそうなのだ。やくそう魔法が使えるのだ。
ホイミ。それは優しい光と共に瞬時に傷を癒す。もうやくそう買わなくていいじゃん。おし俺にもその魔法教えろ。
勇者曰く、この魔法は「怪我をする前の姿」をイメージし、傷口に手をかざしその姿と今の姿を一致させる感じで
やるらしい。簡単そうだ。試してみる。誰も怪我してないのでとりあえずパンツぶん殴る。

ホイミ。

メラの件もあるので少し控えめに言ってみた。当然の如く何も起こらない。パンツはくすぐったいと笑っている。
まあこれはボチボチ練習してくか。俺につかえない魔法なんてあるわけいいんだから。やはり天才。

その日は一日中歩いたがまだまだイシスは遠そうだ。野宿する事にする。
しかし…じいさんとピエロが抜けて少しはまともになるかと思えばそうでもなかった。
ヤンキー、パンツ、少女。違った意味でヤバイ。犯罪の臭いすらする。俺の世界だと確実にポリに呼び止められ
職務質問くらうだろう。断じて俺達はこの少女さらったわけではない。 

その夜の鬼浜会議でとんでもない事が判明する。この女天然だ。やべえ…このパーティヤバ過ぎる…
以下会議議事録。

俺:イシス遠いから途中アッサラームという町に寄ろうと思うがいいか?
パ:総長明日の朝はパンがいいでやんす。
勇:異議アリ。パンもう無いよ。野草摘んでスープ作ろうよ。
俺:いやだからアッサラームにだな…
パ:総長!パンを切らすのは緊急事態でやんす!キメラの翼で一旦戻りましょう!
勇:異議アリ!ここまできたのにもったいないよ!だいたいカンダタちゃんがつまみ食いするから
  すぐなくなっちゃうんでしょ!!!
パ:異議アリ!違うあれは毒見だ!みんなのためを思ってこその…
勇:いいわけしないの!ちょっと総長黙ってないでなんか言ってよ!
俺:…………。

もうこいつらに意見を求めるのはやめよう。何なんだこの孤独感は。

翌日俺らはアッサラームを目指す。パンツと勇者はまだ口論している。無視して先に進む。
途中パンツが地図を逆さに見ていて迷うというアクシデントもありつつアッサラームには三日後についた。 

なかなか活気の溢れる町だ。よく見ると俺の服ももうボロボロだ。この辺で新調したい。という事で店を探す。
あった。店に入ると店主が話しかけてくる。妙に慣れなれしい。あ?友達だと?おまえんか知らねーよどっかいけ。
サイズ出しますよとか試着しますかとかうるせーんだよ!ゆっくり選ばせろ!てタイプの店員はどこの世界でも
共通だった。俺は真っ黒な動きやすそうな服を見つけた。なかなかいい感じだ。おいこれくれよ。
え?38400ゴールド!?マジで!?…信じられない値段だった。こいつニコニコしながらもなかなか悪どい野郎だ。
しかたなく店を去ろうとすると店主が友達だからまけると言ってくる。そこから交渉が始まった。
俺の巧みな交渉術(途中何度か俺とパンツの鉄拳が飛んだが)により800ゴールドで買う事ができた。
ついでに「てつかぶと」を200ゴールドで、「マジカルスカート」を400ゴールドで買った。パンツ、勇者に渡す。
鉄兜にパンツ一枚の大男、ミニスカの少女、やたら眼つきの悪い一見モジモジ君にも見える俺…
ひょっとして取り返しのつかない事をしてしまったのではないだろうか…
帰り際店主に頼むからもう来ないでくれと土下座されたがおそらくまた来るだろう。なんたって友達だからな。
道具屋にも寄るがこいつもさっきのやつの親戚らしく俺とパンツの交渉術により破格の値段で売ってくれた。
とても良心的な店が多い町だ。世の中まだまだ捨てたもんじゃないな。
町の人の話によるとイシスはここから西の砂漠にあるようだ。水と食料を大量に買いこんでおこう。
その日は宿をとり、翌朝出発する事にした。一同歩き疲れたのか早々にベットに入る。

明け方鋭い空気を裂く音で目が覚める。窓の外を見ると勇者が必死に素振りしていた。
この子は強い子だと思っていた。一人で旅に出て、数多くの魔物を倒し人から尊敬を集める。
だが本当はプレッシャーに押し潰されそうになってたに違いない。そもそもたかだか16歳だ。
俺の世界の16歳なんて携帯いじり髪を染め顔にとんでもないペイントしてヘラヘラ遊びまわっている年頃だ。
俺が16の時なんて朝から晩まで道場で親父にしごかれ、学校はほとんどさぼり深夜単車で走り回っていた。
無性に体を動かしたくなった俺はそこからニワトリの鳴き声が聞こえるまで延々と筋トレをした。 

完全になめていた。砂漠。見渡す限り砂漠。歩けど歩けど砂漠。
灼熱の太陽が容赦なく降り注ぐ。ほんとにこんな地獄の向こうに町などあるのだろうか?
俺達は砂の山を登ったり降りたりしながらひたすら西を目指した。
目の前に何匹かのカニがあらわれた。涎を垂らし目は完全にイってちゃっている。カニの分際でラリってんのか?
俺は先頭きって切りかかった。ドラゴンキラーを手に入れてからというもの苦戦した記憶がない。
どうせこいつらも瞬殺だろう。

スクルト

?

スクルトスクルトスクルト

????

カニの分際で何かしらの魔法を唱えやがった。まあどっちにしろ俺のドラゴンキラーに敵は無い。
大きく振りかぶると腰を入れて目一杯突き込んだ。金属音と共に派手に弾かれる。
…硬い。こいつら異常に硬い。しかしカニ如きが俺の攻撃を…天下無敵総隊長の俺の攻撃を…

へこんでいる間に勇者が冷静に強烈な閃光で他のカニを焼き払った。
そっちも援護しよっか?とアイコンタクトを送る。いらん。これは俺とカニと男の意地を賭けたタイマンなんだ!
俺は狂ったように殴りまくった。カニはまったく涼しい顔をしている。
あっこいつ今笑いやがった!明らかに俺の事バカにしてやがる!甲殻類の分際で!
クレバーな俺は魔法に切り替える。くらえ!メラ!
多少効いたようだが火力が足りない。ちくしょうどうすればこいつを倒せる!?どうすれば!?

んメエエエェエエエラアアミィイイ!!!!!!!!!!

極限状態の俺はとっさに叫んでいた。じいさんの見よう見まねだ。俺の手からメラの数倍はある火の玉が飛び出す!
カニは一瞬にして灰になった。出来た。出来てしまった。
勇者はすごいすごい!と手を叩く。はっはっは当然だろうが俺を誰だと思ってやがる。 

戦闘後、パンツがこのカニ食えそうだと言い出す。おいおい勘弁してくれよ…
俺と勇者は断固拒否したのでパンツはふてくされながら一人で食っていた。ちなみにおいしかったらしい。
一日中あてどなく歩きついに陽が暮れた。しかしビックリした。砂漠の夜はハンパなく寒いのである。
今日はもうここで寝る事にした。三人身を寄せ合い寒さを凌ぐ。こんな状況なのに勇者は楽しそうだ。
聞くと「仲間」がいる事が嬉しくて仕方がないらしい。あっそうかこいつずっと一人で旅してたんだっけ。
急に表情が曇る。私のせいで魔物に狙われてみんなを危険にさらすのが怖いと言う。
俺は勇者を軽く小突く。舎弟の分際でいらん心配するな。おまえ俺をなめてんのか?天下の鬼浜の総長様だぜ!
勇者は笑顔でありがとうと言った。これからもほんとによろしくねカンダタちゃん!総長ちゃん!
…このアマついに俺までちゃん付けしやがった…しかしこの笑顔を見てると何も言い返す気がなくなる。
ちっほんと調子狂う子だぜ。

次の日。魔物を蹴散らしながらあいかわらず西を目指していた。遠くにぼんやりとだが町が見える。
みんなのテンションが一気に上がる。結局町に着いたのはその日の昼過ぎだった。

砂漠の町イシス。俺達はじいさんの家を探すべく聞き込みをする。
ああ大魔導師様の家ですね。この路地のつき当たりですよ。…大魔導師様!?あのじいさんが!?
情報通り進むとそこには家があった。かなりデカイ。困った事に入り口には鍵がかかっている。
扉の前で考え込んでいるとパンツが不思議そうな顔で近づいてくる。

バキッ

錠前ごと引きちぎった。こいつには「鍵」という概念が無いようだ。結果オーライて事で俺達は中に入る。 

一部屋一部屋見て回るが特に変わったものはない。一番奥の部屋に入る。ここが最後だ。
うわっ汚ねえ。そこには本だの巻物だのが散乱していてよくわからない実験器具のようなものが部屋中を
埋め尽くしていた。何か手がかりになる物はないかと足元の本を拾ったその時
おい!そこで何をしている!
振り返ると数人の兵士がこっちを睨んでいる。何をしてると聞かれても返答に困る。
怪しいやつだ。さては魔導師様の研究を狙う賊だな?こっちに来い!
近くにいた勇者の手を引っ張る。連行する気だ。俺は反論した。
何だと!俺達のどこが怪しいと言うのだ!どこが怪し…どこが…
明らかに怪しい。思いっきり不法侵入だ。バカパンツが鍵ぶっ壊してるし。

結局俺達は城まで連行されてった。そして王の前に突き出される。
目の前にいたのは超絶美人の女王だった。思わず見とれてしまう。パンツなんて興奮しすぎてその場でスクワット
始めやがった。周りの視線が痛い。俺はこのままだと牢獄行きなので今までの経緯を必死に説明した。
……じいさんの死はさすがに衝撃だったようだ。その場の空気が一気に重くなる。
そんな話信じられるかと言っていた側近も勇者の目を見るなり黙りこくった。なんかこいつの目には力があるんだよな。
勇者は続ける。魔王を倒すためにはどうしても力が必要なこと。じいさんの家には何かヒントがあるかもしれないこと。
女王は口を開く。…いいでしょう。魔導師様が命を賭けて守ったあなた方を信じましょう。何か困った事があったら
いつでも力になります。顔だけでなく性格もいい女だ。かなり惚れた。俺達は再びじいさん宅へ向かった。

例の部屋に着く。みなそれぞれ散乱する本やら巻物を調べていく。パンツはどっかに行ってしまった。
まああいつに本を読めという方が酷だろう。正直俺もかなり眠い。勇者は何か見つけたらしく読みふけっていた。
数時間後。夢の世界にいた俺の頭に一本の巻物が落ちてきた。いてーなコラ。燃やすぞ。
まさにメラを唱えようとしたその瞬間ひとつの単語が目に留まる。「究極攻撃魔法」…究極攻撃魔法!? 

究極の破壊力を持った攻撃呪文。それは我々魔法に頼る者にとって生涯の研究課題である。
現存する魔法で最高の破壊力を持つのはメガンテであろう。これは詠唱者の生命エネルギーを燃料にして
大爆発を起こす呪文である。しかしこれではリスクが大きすぎると考えた古代の賢人達は生命エネルギー
の代わりに精神力そのものを燃料に出来ないかと考えた。そうして完成したのがマダンテである。
マダンテ。それは使い手の精神力すべてを一瞬にして増幅、圧縮開放してしまうのだ。
威力が使い手の精神力に依存する事、「一瞬で精神力を開放する」ためには人並み外れた集中力が要る事、
そして何よりその後しばらく一切の魔法が使えなくなる事。これは術使用者にとって致命的ではあるが、
その威力はそれを補うには十分であろう。私の知る限りこの呪文を使いこなせた人間は一人しかいない。
もしあなたがこの呪文を使いたいと願うのなら、日々の精神鍛錬を怠らない事だ。そして何よりも重要なのは
呪文の反動に耐え得るだけの強靭な肉体が必要とされる。想像を絶する心身の修練の果てに習得が可能なまさに
究極の呪文なのである………

その後は修行の方法やら何やらが延々と書いてあった。とりあえずこの巻物は貰っておこう。俺ほどの才能があれば
そのうち使えるに違いない。俺はその後も部屋を物色した。と、その時パンツが勢い良く部屋に入って来た。
両手には何かゴチャゴチャ何か抱えている。暇だから他の部屋で使えそうな物を取ってきたというのだ。
さっき回った時はまったく気づかなかったのに。こいつ頭悪いがお宝を発見する事にかけては天才なのかもしれない。
飽きてきた俺はパンツと一緒にチェックを始めた。とんでもないものを見つける。お。これ例のオーブじゃねーか。
そうかじいさんもひとつ保管してたのか。あっさりと緑色のオーブを手に入れた。他はすべてガラクタだった。
やはりパンツはパンツだった。勇者は気に入った本が何冊かあったしくいくつかの収穫を得て俺らはじいさんの家を後にした。 

その夜宿屋で鬼浜定例会議が開かれる。ここで初めて勇者がまともな意見を出した。
どうやら賢者に会いたいらしい。賢者とは勇者の親父、バカ王、じいさんと共に魔王を倒したあの賢者だ。
じいさんの本によると魔王を倒した時賢者は約300歳らしい。300歳!?どんなアグレッシブなジジイだよ。
きっと俺達の旅の助けになる何か知恵を授けてくれるんじゃないかと勇者は言う。俺は個人的に300歳の人間という
ものが見てみたかったので次の目標は賢者に会う事になった。

次の日。俺の独断で出発する事を女王に挨拶に行く。相変わらず美人だ。一応賢者について何か知らないか聞いてみた。
ここから遥か東に「ダーマの神殿」というとこがあってそこの神殿長がかなりの物知りらしい。そいつなら何か知ってる
んじゃないかという事だ。この美人が言うんだから間違いない。俺は3秒で次の目的地を決めた。
もう砂漠は懲り懲りなので羽を使ってアッサラームまで戻る。パンツはカニが惜しいのでもう一度砂漠に行こうと言う。
…こいつ砂漠に捨ててきたろか。友達の店に寄ろうかと思ったが勇者が頼むからやめてくれと言うので即出発した。

どうやらここから東の洞窟を抜けてくらしい。一同洞窟を目指す。ここで魔物の群れが現れた。
むさい鎧野郎とキモいでかいイモムシ。そして空飛ぶ猫だ。この猫かわいい。もの凄くかわいい。
俺が猫に見とれてる間にパンツは鎧男と取っ組み合い、勇者はイモムシを焼き払っていた。二人とも相手を仕留める。
二人の視線が俺に集まる。駄目だ出来ない。俺にはこんな愛くるしい猫を斬る事など…

ザクッ

猫の爪が俺の顔にめり込む。痛い。ザクッ。痛い。ザクッ。痛い。ザクッいた…
まったく反撃しない俺をみてパンツは大声を上げて猫を脅かす。猫はビックリして逃げて行った。
戦闘後。俺は勇者に叱られ列の一番後ろに並ばされた。なんなんだこの不当な扱いは。おれがボスなのに。 

その後三日程歩きバハラタに到着した。ここは「くろこしょう」の名産地らしい。
今日は一日ここで休憩して明日の朝出発するか。何気に武器屋を覗いてみる。なかなかいい品揃えだ。
道具袋の中を見ると2万ゴールド程貯まっていた。どこの店も俺とパンツをみるとサービスしてくれるので
金は貯まる一方なのである。ありがたい事だ。パンツがバカデカイはさみのような武器を持ってきた。
おいおいその格好にその武器は変質者のレベルじゃねーよ。俺はやめとけと言った。しかしパンツは
買ってくれるまでここを動かないなどとガキみたいな事言うので仕方なく買ってやった。今後コイツとはなるべく
離れて歩こう。俺と勇者は「まほうのたて」を買う事にした。しかしさっきの出費もあるのに一つ2000ゴールドは
高い。おいこれ二つで2000ゴールドに負けてくれ。店長はまさかそれはできないと言う。が、後ろでパンツ一丁で
おおばさみをジャキジャキ鳴らすカンダタを見てひきつった顔で負けてくれた。そして俺達が店を出るや否や
鍵を閉め「本日はもう閉店しました」という張り紙を貼った。せっかちな奴だ。その後町人からダーマ神殿の情報を集め
夜になったので宿屋に向かった。宿をとった後腹が減ったので酒場に向かう。そこで俺は運命的な出会いを果たす。
ここの肉料理はヤバイ。地肉とくろこしょうの絶妙なコンビネーション。俺達三人は久しぶりの御馳走を堪能した。
パンツはこれは上質の牛肉だとかこの味加減は中々だせないとか知った風な口を聞きやがる。モンスター食ってうまい
とか言ってた奴がなに言っても説得力ねーよバカ。結局最高の肉料理の力により町を出たのは二日後だった。 

俺達は町人に言われた通り橋を渡り北上した。段々と山道になる。砂漠の次は山越えか。正直萎える。
前の方でパンツと勇者が何やら楽しそうに話ている。ちなみに俺はまだ最後尾のままだ。そろそろいいんじゃないかと
勇者に聞いてみる。俺前行ってもいい?  ダメ。  わかった。  …確認しておくがここのボスは俺だ。 
しかし後ろからだと二人の闘いっぷりがよく見える。勇者の剣技は相変わらず冴えている。日に日に力強さが
増しているようだ。一方パンツは…いっつも隣にいたため気づかなかったがこの男計り知れない。行動が読めない。
まずムカついたのがせっかく買ってやった「おおばさみ」をほとんど使わない。どんな敵にもボロボロのてつのおので
殴りかかる。本人曰く相手によって使いわけているらしい。おまえ明らかそんな頭脳派じゃないだろ。
やっと使ったかと思うとそれを両手で持ちそのまま殴りかかる。その武器ってそうやって使うのか?
それならてつのおのでいいんじゃないか?おそらくこいつに拳銃渡そうが機関銃渡そうがそのまま殴りかかるであろう。
こいつはそういう男だ。そうこうしてるうちに俺達はダーマ神殿に着いた。

ダーマ神殿。相当古い造りの神殿だ。中には冒険者と思われるやつらが結構いる。有名な神殿のようだ。
中に入り道並みに進むと祭壇があり上に人がいた。こいつが神殿長か。まぶしい。ハゲだ。バーコードだ。
どんな偉い神殿長か知らないがそのバーコードっぷりはもろに俺のツボにはまった。まともに顔が見れない。
必死に冷静を装う。…ふう。もう大丈夫だ。よし。顔を上げる。が、次の瞬間

ぶほぉッぐへへへへへっうびゃっぱっ

パンツだ。腹を抱えて笑い転げている。俺も気持ちの糸がプッツりと切れた。神殿内を這いずり回って笑い転げる
俺とパンツ。そして数分後見事につまみ出された。ガッデム。そしてさらに数十分後神殿から出てきた勇者に
正座させられ俺達は延々と怒られた。ここのボスは俺のはずだが最近自信が無くなってきた。 

勇者の話。賢者は隠居してここからさらに山道を行った北の塔に住んでいる。また山道か。鬱だ。
ほんとは神殿で休憩して行きたかった所なのだがあのハゲと目を合わせる自信が無いため仕方なく出発する。
パンツはまだ笑っている。…こいつ本気でこの山に捨ててったろか。とにか俺達は出発した。

相変わらず後列で戦闘に参加させてもらえない俺は暇なのでこっそり「ホイミ」の練習をしていた。
俺にはこの呪文は向かないのか。破壊的なイメージはすぐに湧くのだが「治癒」がどうしてもリアルに
イメージ出来ない。ちょうど前でパンツが勇者にホイミをかけてもらっている。
そういや昔ひとし君と喧嘩して刺されて入院した時看護士さんに包帯代えてもらったっけか。
そんな事ボーっと考えながらホイミっとつぶやく。一瞬だが青白い光が俺の掌から放たれた。
…わかった。そうかコツは「病院」だ。そして俺はもっと重要な事に気づいた。所詮俺は余所者である。
魔法を使う際この世界のモノをイメージしてもうまくいかないのだ。単車なり病院なり自分に身近だったものを
強くイメージし、それを具現化する。つまりのとこ「魔法」とはそういうものなのだ。
こんな事に気づいてしまう自分の才能が怖いぜ。
俺は自分の天才ぶりにニヤニヤしながら歩く。勇者が心配そうに近寄ってくる。
総長ちゃん大丈夫?どっか頭打った?っておいどういう意味だよ!おまえらの方がよっぽど人としておかしいから!

その後さすがに疲労の見える二人にかわりようやく先頭に復帰した。久しぶりの出番に暴れまくる俺。
相棒のドラゴンキラーもすこぶる調子がいい。デカ猿だろうがデカアリクイだろうが俺のドラゴン正拳突きの前に
敵はいない。圧倒的な強さで蹴散らして俺達は順調に塔を目指した。

そこからどれだけ歩いただだろうか。山道上り下りを繰り返し遂に塔の前に立つ。でけえ。
俺達は早速塔に入ろうとした。が、ドアが開かない。今回ばかりは相手がデカ過ぎてパンツの怪力も通用しない。
仕方ないので辺りを一周してみることにした。ちょうど入り口の反対側に一軒の家があった。
もしかしてここが賢者の家か?ドアをノックする。出てきたのは300のジジイとはかけ離れた若い女の人だった。 

女の目は固く閉じられている。とにかく話かけた。おいここは賢者の家か?女はコクリと頷く。
じゃあ話は早い。おい賢者に会わせてくれ。女はまたコクリと頷き家の中に手招きする。
おかしい。実におかしい。事が順調に運びすぎる。俺達の旅ではありえない展開だ。まあ尻込みしてても仕方ないので
入るか。中は普通の民家と変わらない。と奥の部屋から一人の男が出てきた。イケメンだ。
青い目、金髪のロンゲ、整った顔、長身。…なぜか無性にムカつく。俺は基本的にイケメンが大嫌いだ。
とりあえずガン付けつつ話かけた。おい賢者に会わせろやイケメン君よーちょっと顔がいいからって調子乗ってんじゃ
ねーぞコラ。イケメンはプッと吹いた。あああ!!!??なんじゃ純日本人顔純日本人体型の俺がそんな面白いか!!?
明らかに見下されている気がする。ここでなめられてはいけない。俺がまさに胸倉を掴もうとした瞬間みんなの視線に
気づいた。みんな揃ってイケメンを指さしている。俺は5秒ほど考えた。そしてある一つの結論に至った。
…こいつが賢者なんすか?…あり得ない。絶対あり得ない。こいつが300歳とかあり得ない。
一応確認する。おいおまえが賢者なのか!?イケメンはニヤニヤしながら頷く。こいつ賢者だか何だか知らないが
ムカツク…勇者が駆け寄ってきてイケメンに話かけた。長くなりそうなんでテーブルを囲み茶でもシバキながら話す事に
なった。そしてその話の中で俺は心臓止まるくらい驚いた。いやマジで。

まず何よりも一番ビビッた事。このイケメンとうの昔に死んでるらしい。俗に言う「幽霊」というやつだ。
こいつはこの世界の神様(精霊ルビスというらしい)に任命されて世界に危機が訪れる度に救うのが使命らしい。
なんてスケールのでかい野郎だ。だが前回の戦いで力の大部分を使い果たしたため今は魔力の込められたこの塔周辺
でしか自分を保てないようだ。幽霊も大変だな。
そしてこの女(よくみるとかなり美人。しかも年上。俺の好み180%超)はイケメンの娘だとのこと。
といっても実の娘ではなく、前の戦争孤児で賢者が引き取って育てたようだ。魔物に襲われたショックで視力を
失ったがイケメンとの修行で「心眼」を会得して今では世界トップクラスの僧侶らしい。この女も只者ではなかった。 

その後もここに俺達が来ることは予言で知ってたとかごちゃごちゃ言ってた。俺はあんま真剣に聞いてなかった。
それで最後に一言。私はもうついて行けないのでかわりにうちの娘を……   
!!!????おっこのきれいなねーちゃんも参加すんのかよ!イケメングッジョブ!
ようやく…ようやく鬼浜にまともな面子が追加されそうだ。しかも美人。やったぜ。

その夜はささやかな宴会が開かれた。イケメンがつけたとかいうワインが出された。味はいいのだがやはりムカつく。
きまってイケはワインに詳しかったりするんだよな。ねーちゃんはわりと飲めるクチのようだ。勇者はヘラヘラしてる。
久しぶりのアルコールだ。がぶ飲みする俺。お約束通り意識が飛ぶ。

ー次の日ー

頭は痛いが爽やかな朝だ。さて新メンバーも加わったとこで楽しく出発するか。俺はベットから降りて下に向かう。
もう勇者とねーちゃん旅の準備を済ませ待っていた。

じゃあ行ってくるね!総長ちゃんもカンダタちゃんも賢者様の言う事聞いてしっかり修行するんだよ!

……???????

状況がまったく飲み込めない。あっ行っちまった。どういう事だ。呆気にとられてる俺を見てイケが口を開いた。
…俺が酔いつぶれてる間に話は進んでたらしい…まとめると

・勇者とねーちゃんは引き続きオーブを探す旅に出る。
・俺とパンツはここで修行する。

ということだ。ちょっと待て。何が悲しくて男三人で山篭りしなければいけないのだ。俺も後を追うぞ。
追いかけようとする俺にむかってイケがボソッと呟いた。…マダンテ。 マダンテ!?
このイケマダンテの使い手らしい。ちゃんと修行をこなせば俺にも使えるようにしてくれるという。俺は悩んだ。
やはり世界征服及び魔王をボコるために強力な魔法は必要だ。俺ほどの才能があればすぐに覚えれるだろう。
ということで俺とパンツはここで修行する事にした。とっとと済ませて後を追うか。
そこから俺とパンツの苦悩の日々が始まるとはこの時は知る由も無かった。

このイケ洒落になんねえ。もはや修行という名の拷問である。

朝:ひたすら走る。山道をどこまでも走る。ちょっとでも手を抜くと炎や氷の塊が飛んでくる。危ねえ。
昼:ひたすら闘う。イケが連れてくるよくわかんない魔物と闘う。強い。負けたら死ぬから気をつけるようにと
  言われる。笑えねーよ。
夜:ひたすら寝る。死んだように寝る。

これの繰り返しだ。本人曰く「健全な肉体には健全な精神が宿る」からまずは基礎体力から鍛えなきゃ駄目らしい。
俺は幾度と無く脱走を試みるがその度に捕まりボコボコにされた。こいつは絶対Sだ。極度のドSだ。
しかし珍しくパンツは文句一つ言わない。つらくないのかと聞いてみると飯がうまいから平気らしい。
ああなるほど。おそらくこいつは魔王に最高級のステーキを食わせてやると言われたら簡単に寝返るだろう。

一ヶ月ほど経っただろうか。やっと次の段階に入る事になった。次の修行はようやく魔法の修行に入るようだ。
そしてここからはスペシャルゲストも参加するらしい。どうせこのクソイケだからろくな奴じゃないだろう。
予想は的中した。そこにいたのはピエロ…おまえまた城から脱走してきたのかよ…しかしちょっと雰囲気が違う。
どうやら塔の魔力により一時的に若返ってるようだ。こうしてここからは魔法は賢者と、格闘はピエロと地獄の
特訓が始まった。

とりあえずピエロ強え。こいつの全盛期はこんなに強かったのか。組み合っても普通に力負けする。チクショウ。
わしに勝てないようじゃ魔王になんて簡単にひねり潰されるぞだと!?俺の負けず嫌い魂に火が着いた。
俺も陰ながら毎日筋トレに励んでいた。しかし今のままじゃ駄目だ。今日から今までの三倍しよう。

そしてイケメン。こいつ笑えねえ。よくわからん強力な呪文を連発してきやがる。危ないとかそんなレベルじゃない。
「実際にその呪文をくらって痛い思いをする事で覚える」のがこいつの教育のポリシーらしい。
いやいやそのうち死ぬから…俺とパンツは毎日瀕死になりながら修行した。後一歩で死ぬって絶妙のタイミングで
イケメンが回復魔法をかける。生殺し状態だ。徐々にだが俺の魔法のレパートリーも増えていった。 

そしてさらに一月ほど経った。正確な時間の経過はもう覚えていない。俺達は確実に強くなった。
パンツ。こいつヤバイ。もともとガタイよかったのだがここ二ヶ月でさらにでかくなった。
どのくらいヤバイかってもはや見た目人間か魔物かってわからんくらいヤバイ。一人で町に入ったら町人総出で
討伐されそうだ。城とか絶対入れてくれなさそうだ。子供が見たら確実に泣き出すだろう。
俺も確実に一回りでかくなった。イケメンが変な種を調合した薬とか飲ますせいで飛躍的に身体能力は向上した。
おそらくこっちの世界でいうステロイドみたいなもんだろうか。副作用が心配だ。ちょっと聞いてみる。
最悪死にはしないから問題無いらしい。それって問題無いって言うのだろうか。もうあまり考えない事にしよう。


俺達は幾度と無く死に掛け(死んだおじいちゃんにこっちきちゃだめだって言われた:パンツ談)
最終試練に入る事になった。最終試練とは塔の中で行うようだ。ずっと近くにあったのに一度も立ち入る
事のなかった塔。ついにその中に足を踏み入れる時がきたようだ。イケは最初に俺に中に入るように言った。
大きな扉の前に立つ。扉は簡単に開いた。中は真っ暗だ。しばらく足を進める。後ろの扉が消えた。
もう前進するしかない。暗闇の中をズンズン進む。段々感覚が麻痺しどっちが前でどっちが後ろなのかわからなく
なる。右も左もわからない。それどころか自分が上に向かってるのか下に向かってるのかすらわからない。
もの凄く広い部屋の真ん中にいる気もするがもしかして細い平均台の上を歩いている気もする。
だがパニックはなく何故か心は落ち着いている。俺はひたすら奥を目指した。

どのくらい進んだだろうか。急に視界がひらける。見覚えのある村。魔物に荒らされ破壊された村。
俺はその村を空中から見下している。なんとも不思議な感覚だ。やがて数人の人間が入ってくる。
あれは………俺だ。おれとピエロとじいさんとパンツだ。体中から嫌な汗が噴出す。
勇者と出会う。やめろ。墓を掘る。やめてくれ。そして魔物と鉢合わせる。もういいだろ。
俺達は命ギリギリで魔物を倒しそこへ増援が現れる。絶望。そしてじいさんの決断。

やめろおおぉおおお!!!!!!!!!!

しかし俺の声は届かない。激しい閃光と共にじいさんは魔物のと共に塵になった。

その後何回、何十回、何百回とその場面がフラッシュバックする。気が狂いそうだ。
俺は自分の弱さを呪った。俺が、俺が強ければ。もっともっと強ければ。
この先旅を続けるとまた誰かが死ぬのかもしれない。それはそれで仕方ないだろう。
強い奴が生き残り弱い奴は死ぬのだ。当然の事だ。だが、だが俺は納得できない。
自分の舎弟が俺自身の弱さの為に死んでいくの事など納得できるはずがない。強くなりたい。
誰よりも圧倒的に強くなりたい。俺は心の底から力が欲しいと渇望した。
思えば俺の人生は「強さ」へのあてつけだった。親父は小さな工場の社長だった。
豪気な性格に腕っ節の強さ。けっして裕福とは言えないがそんな親父を慕って従業員も集まり幸せに暮していた。
だが突然王手の企業がそこに大きな工場を建てたいと言い出し親父に立ち退けと言ってきた。
無論親父は断る。そこから執拗な嫌がらせが始まった。裏に手を回され受注は激減した。
雪ダルマ式に増える借金。従業員も一人、また一人と去って行く。おふくろは過労で倒れた。
そしてそのまま帰らぬ人となった。あろうことかあいつらは俺のチームにまで目を付けた。
「鬼浜爆走愚連隊という暴走族は薬の仲介をしている」事実無根のでっち上げだ。しかし世の中金というもので
事実なんてどうにでも変えれるらしい。俺は無実の罪で刑務所に入った。獄中に一通の手紙が来る。

親父が自殺した。 

「リュウジへ


 おまえが無実なのはみんな知っている。馬鹿で喧嘩っぱやくて暴れまわっていたが薬なんぞに手を染めるような
 
 まねは絶対にしない子だ。俺が保障する。おまえが族のみんなを守るため一人で無実の罪を被り刑務所に入った

 事を父は誇りに思う。世の中汚い奴が多いがそんななかでもしっかりと自分の信念を貫いて欲しい。
 
 日頃命は粗末にするななんて言っておいておかしいかもしれないが、一足先に母さんの所へ行く事にする。

 工場は閉める。借金の事は何の心配もしなくていい。刑務所には入っているが、出てきたら堂々と胸を張って

 歩きなさい。リュウジの人生に何一つ負い目を感じる所はないのだから。自分のやりたい事を見つけ、精一杯

 生きなさい。父は母さんと天国から見守ってるぞ。 
     
                                            父より    」 

出所してから知ったのだが親父は自分の保険金で借金を返済した。俺の工場兼実家はもう無くなっていた。
そこには馬鹿でかいきれいな工場があるだけだった。

そこからの俺の人生はひきこもり酒に溺れる毎日だった。そして何の因果かこの世界に迷い込む。
俺はずっと考えていた。ベランダから落ちて何故あのまま死ねなかったのだろうか。
これはもしかして神様とやらがくれたチャンスなのではないだろうか。結局この世界も元の世界と何も変わらない。
強い奴が弱い奴を喰いものにし、弱者は弱者で勇者にただひたすら救いを求める。どっちも腐ってる。
なら自分で理想の世界を創ればいい。魔王を潰し自分がこの世界の覇者になればいい。
もう誰も俺の「弱さ」のせいで死なせたりはしない。



急に視界が変わる。見下していた自分の視点に戻ったようだ。じいさんが魔物へ向かって駆け出そうとした瞬間
俺が遮り逆に魔物の前に立つ。目を閉じ精神を極限まで集中させる。

魔物のが一斉に飛び掛かる。

マダンテ!!!!!!!!!!!!!!

俺の叫びと共に強力な光が発生しそれは球体となり魔物の群れの中心で爆発した。

閃光で視界が無くなる…

次に目を開けた時、そこはもうあの村ではなかった。暗闇の中一冊の本がぼやけている。
俺は誘われるがままにその本を手にし、開いた。ぼうっと扉が現れる。開けるとそこには
イケメンとパンツが立っていた。 

「おめでとう。」

イケメンがニヤニヤしながら手を叩く。こいつには言ってやりたい事が山ほどある。
なんなんだこの胸糞悪い塔は!俺は素でコイツをぶっ飛ばしたかった。イケが口を開く。

「塔の中で何を見たのかは私にもわからない。ただおまえは己の内面に触れた。答えを見つけるのは
 自分自身だ。」

まったく何を言ってるのかわからない。意味不明だ。ただ小難しい事をスカした顔で言ってかっこつけてるのは
わかった。これだからナルシストは嫌いだ。うぜえ。もう撲る気も失せた。

パンツが目をキラキラさせながら今度はあっしの番でげすねとか言ってやがる。コイツはこの塔の恐ろしさを
何一つ理解してない。俺は軽く肩を叩き頑張れと一言だけ伝えた。パンツは意気揚々と塔に入って行った。

パンツが塔から出てきたのは二日後だった。ちなみに俺は一週間いたらしい。なんというかパンツの目付きが違う。
鋭く、隙が無い。全てを悟ったような顔をしている。きっとこいつも塔の中で想像を絶する体験をしたのだろう。
俺は初めてパンツに感心した。こいつも普段はチャランポランだが色々辛い経験をしてきたのだろう。
じゃなきゃ裸パンツ覆面盗賊なんてできるはずがない。パンツが重い口を開く。成長したパンツは何を言うのだろうか。

「腹減ったでやんす…」

…………。最終試練も終えた事だしそろそろ出発の時期かな…。

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