その後パンツは10人分の飯を食らい死んだように寝た。その間俺はひたすらマダンテを試みていた。
だがうまくいかない。いけそうな雰囲気はあるのだが最後の詰めが甘いのか集中しきれない。
これはどうやらまだまだ修行が必要なようだ。手応えはある。絶対に魔王のブチ込んでやるぜ。
パンツが目を覚ましイケメンの所へ行く。イケは言った。

これより最終試験を始める

?は?意味わかんねえ。こないだ最終試練終わったばっかじゃねーかよ。何言ってんだこいつ。馬鹿か?

こないだのは最終試練だ。次は最終試験。別物だ。

俺は軽く殺意を抱いた。これだから顔のいいやつは信用できない。こいつほんとどうしてくれようか。
しかしその試験の内容は「イケメンとピエロをぶっ飛ばす」というものだった。願っても無い事だ。
イケは静かに一言。…覚悟しとけよ…
近くのひらけた場所に移動する。こいつにはありえないくらい散々しごかれた。今積年の恨みを晴らす時が!
ハイテンションで身構える俺とパンツ。イケはブツブツと呟いている。チャンスだ。パンツが飛び掛かろうとした瞬間
イケとピエロが青白い光に包まれた。……!?どんどんその姿が変貌していく…これは!?
そこにはイケとピエロの姿は無く巨大な二匹の魔物がいた。ヤバイ。直感的にヤバイ。本気ださなきゃ普通に死ぬ。
修行中幾度と無く死にかけたが今回ばかりは洒落にならない。二人(匹?)とも目がイっちゃってる。
本気で俺達を殺る気だ。 

強い相手には先制パンチ。これ喧嘩の基本。俺はパンツに相手の注意を引き付けるように指示しスカラをかけた。
パンツは相手に特攻する。その間に俺は精神統一する。いきなり俺のもてる最強の呪文をぶつけてやる。くらえ!
俺はメラゾーマと叫んだ。特大の火炎球が元イケメン目掛けて飛んでいく。これはもらった!
元イケは大きく息を吸い込むと強烈な炎を吐いた。炎と火炎球が衝突し強烈な熱風が巻き起こる。

…相殺された。なんてこった。いきなり打つ手無しか!?作戦を変えよう。相手の戦力を分析し比較する。
総長たるもの馬鹿みたいに特攻してても駄目なのだ。時には冷静になる必要がある。

イケメン…デカい骨の竜。もの凄い炎を吐く。
ピエロ…でかいおっさん。石っぽい。固そう。力強そう。

俺…強い。
パンツ…頭悪い。

おいおい勝てんのか!?これはまずタイマンはっても勝ち目ないので二人がかりで一匹ずつ倒すしかない。
最初のターゲットはでかいおっさんだ。動き鈍そうだしできるだけ体力温存して潰したい。
と、パンツに伝えようとするがパンツはまた一人で骨に突っ込んでった。コラっバカ!死ぬから!
パンツは骨に一撃見舞ったがカウンターの炎を直撃した。やべえ!俺はとっさに地面目掛けてイオラを放つ。
大量砂埃が巻き上がり二匹の視界が奪われる。その隙にパンツを引っ張り出し回復させる。
パンツはおじいいちゃん…おじいちゃんとうなされている。駄目だ!おじいちゃんは駄目だ!帰ってこい!
何とか一命を取り留めた。俺はパンツに先におっさんから倒すぞと言った。パンツは頭を縦に振る。
…理解してくれてる事を祈る。 

俺は自分とパンツにバイキルトをかけあえておっさんに肉弾戦を挑んだ。なぜかというと骨の炎が危険過ぎるからだ。
あれは一撃で致死レベルだ。俺達がおっさんに接近し続ける限り巻き添えを食うから骨は炎を出せない。
というよりほとんど手を出せない。二匹とも図体がデカすぎる。実質2対2というよりは2対1×2といった所だ。
何とか活路を見出した。冷静に状況を分析し最良の策を立てる。自分の才能が怖いぜ。
とか考えてるうちにパンツはおっさんと殴り合っていた。すかさず加勢する。いける。おっさんの一撃一撃は
重いが単調だ。ある程度はかわせる。俺達はゴリ押しでおっさんを攻め立てた。
体中に傷が増えていく。だがそれ以上にハイペースでおっさんの体力をけずる。ついにパンツの渾身の一発がおっさんの
脳天を砕いた。ボロボロと崩れ落ちる。そして元のピエロの姿に戻った。気絶しているようだ。
さて次は問題の骨だ。……うお!!!!!!!???間一髪で炎をかわす。骨は次の炎を吐く体制に入っている。
第ニ射が来た。何とか避ける。チクショウこのままじゃ反撃できない。それどころかいつかやられる。
パンツが俺の近くきてあっしが何とか注意を引き付けますんで総長の魔法でなんとかして下さいと言った。
何か策があるのだろうか?まさか塔で超必殺技でも身に着けたのだろうか?このままでもジリ貧なので
こいつに賭ける事にした。パンツが骨の前に仁王立ちになる!




結果的に俺達は骨を倒した。パンツが骨の前で謎のダンスをし、何事もなかったように骨が炎を吹いた時は本当に
終わったと思った。だがパンツが転んで偶然炎を避け、飛んでった武器が骨の口に挟まり塞いでしまい、その隙に
俺の渾身の鉄拳ドラゴンキラーを連撃でぶち込まれた骨はバラバラになった。運も実力のうちという事にしておく。
一つ学んだのはパンツはろくな事をしない。前から肝に命じていたのだが塔の試練で何か変わったんじゃと期待した
自分がバカだった。骨もまたイケメンに戻った。 

ようやくイケメンから修行終了宣言が出た。終了証明品として変なでかい本を渡された。塔の中で見たやつだ。
「さとりにしょ」というらしい。この先何かしらの役に立つから持って行けと言われる。俺は一瞬考えて答えた。

いらない。

イケが驚いた顔をして言った。いいのか!?賢者の証明だぞ本当にいいのか!? いらないものはいらない。
歩いて旅をするのにこんなでかくて重い本邪魔なだけだ。読む気しねーし。そもそも俺は賢者になりたいなんて言った
覚えは無い。何が賢者だ。ナルシストっぽくて寒気がする。イケメンが賢者なら俺は強者だ。
だいたい俺の肩書きは総長なのだ。勝手に変えんな。イケメンは俺が本気でいらないのを確認すると苦笑いしながら
その方がおまえらしくていいのかもしれないなと言った。

その夜はイケメンのでの最後の晩餐だった。パンツはここの料理が惜しいのでもう一週間ほど居たいと言った。
100%断る。早くこの山奥から開放されたい。確かにこのワインは惜しいが。
しかしここに居たのも二ヶ月程だろうか。思えば色々あったな。数え切れないほどイケの魔法をくらいパンツに
どつきまわされ死にかけた。今となってはそれもいい思い出…………ではない。絶対ない。本当に地獄だった。
結局俺達は4人でデカイ樽一つ分のビールを空け、二日酔いに苦しみ出発は次の日の昼になっていた。
まあいつもの事だ。 

イケメンは勇者と伝書鳩で連絡を取っていたらしく合流場所はバハラタになった。今日の夕方待ち合わせなので
ボサッとしてないで早く出発せいと言われる。最後の最後まで人使いの荒いやつだ。ピエロは羽で帰っていった。
さて行くか。とにかく俺達は走った。毎日アホみたいに走らされていたためこのくらい屁でもない。
バハラタには夕方を待たず着いた。まだ勇者達の来る気配はないのでパンツと二人で時間を潰す事にした。
久しぶりのシャバの空気はうまい。気分がいい俺達とは対照的に町人達の視線は冷たい。…というか絶対怯えている…
武器屋の前を通る。オヤジと目が合う。その瞬間物凄い勢いで窓、ドアその他ありとあらゆる外部と接触している場所に
鍵を掛けられた。…非道すぎやしないか。まるで凶悪犯扱いじゃないか!誤解を解こうとドアをノックする。

トントン     …。

トントントン   ………。

トントントントン …………………。


バキバッ!!!ドコッ!

思わずドアを破壊してしまった。中からうぅぅぅぅひぃぃぃいいい!!!!!!!!という悲鳴が聞こえる。
非常にやるせない気持ちになり俺達は武器屋を後にした。
そろそろ勇者が来る頃だろう。町の入り口で待ってやるか。


遅い。三時間程経過した。すでに真っ暗だ。あのバカイケまさかはめやがったのか!?

「総長ちゃんカンダタちゃんおひさ♪」
!!!!?????いきなり後ろから声をかけられた。驚く俺。いつのまに背後に!?入り口は一つしかないはず!?

「あはは!驚き過ぎ!ルーラで飛んできたんだよあーお腹痛い」

ルーラ???なんじゃそりゃ????どうやらルーラとは一瞬で町を移動できる魔法らしい。羽のようなもんだ。
あれ?もしかして俺達もわざわざ走らんでも羽で来たらよかったのでは?おそらく今頃イケはニヤニヤしてるだろう。
あいついつか殺す。

とりあえずいつものように宿屋に移動した。全員集合で鬼浜会議を行うのもひさしぶりだな。
みんなの顔を見回す。ねーちゃんは相変わらず美人だ。ようやく、ようやく鬼浜にまともなメンバーが…
非常に感慨深い。勇者は髪が伸びだいぶ伸びちょっと大人っぽくなったようだ。
女二人旅ってのも色々苦労があったんだろな。

「ちょっと総長ちゃん!しきってくれなきゃ話進まないよ!」

おっといけないいけない。思わず娘に見とれる親の気持ちになってしまった。俺達は別れてからのお互いの出来事を
話し合った。まあこっちは山に篭ってひたすらしごかれてただけでたいして話す事もないのだが勇者達は
色々あって結局例の赤いオーブを手に入れたらしい。女二人旅なので辛い事もあったのだろうと思いきやかなり
楽しかったようだ。久しぶりに勇者の笑顔を見るとホッとしてしまいその日も俺達はしこたま飲んだ。
そしてうちのチームで一番酒が強いのはこのねーちゃんだという事が発覚した日でもあった。べらぼうに強い。
俺とパンツ二人がかりでも歯が立たない。なんて女だ。
途中酒を運んできた酒場のバニーちゃんがさすが勇者様はモンスターも仲間にしてるんですねとかわけわかんねー事
言いやがった。

総長!あの女総長見てあんな事言ってるでやんす!しめましょう!!

…おめーの事だ。 

次の朝俺達はロマリアを目指した。まあ目指したと言っても勇者の「ルーラ」とやらで一瞬で行けるのだが。
なぜバカ王のとこへ行くかというとこの先オーブを探すにあたり自分達の船が欲しいのだ。
勇者とねーちゃんは二人旅の間商業船に便乗してたらしいのだが、決められた航路外も探索したいし何よりも
自分達のせいで船員を危険に巻き込みたくないらしい。普通なら船一隻ほいほいとくれるはず無いだろうがおそらく
バカ王はくれるだろう。なぜならバカだからだ。

勇者が呪文をとなえるやいなや体が浮き上がり一瞬でロマリアへ着いた。しかし便利だ。一同真っ直ぐ城へ向かう。
階段を上がり王の間へ進む。???おかしい。王の玉座には誰も座ってない。隣の大臣にどこへ言ったか聞いてみる。

バカ王はこないだ勝手に城を空けた罰として部屋に監禁されているようだ。しかし家来に監禁される王なんて
こいつくらいのもんだろう。とりあえず大臣に聞いてみる。おい船くれよ。もの凄い剣幕で大臣が怒り出す。
よくわからんが俺達に関わると王様はろくな事をしないとかパンツはまだ無罪じゃないとか船なんかそんな簡単に
やれるかとかそんな事を言っていた気がする。埒があかないので無視してバカ王の部屋に直接会いに行く事にした。
途中兵士に阻まれたがパンツを見るなりすごすごと道をあけた。
王の部屋には何十にも鍵がかけてあった。例の如く扉を吹っ飛ばして中に入る。見たところ誰もいない。
あっベットが膨らんでいる。おそらくふて寝してるのだろう。思えばこいつが城を飛び出したのも俺達の修行の
為だった。そう考えると俺にも責任がある気がする。礼の一つでも言うかと思いさすってみる。
反応がない。熟睡してるのだろうか。軽く小突く。反応がない。大きく揺すってみる。…やっぱり反応がない。
俺は思い切って布団を引っぺがした。 


………。やられた。そこには王の姿はなく「だみーちゃん(はぁと」と書かれたでかい人形があるだけだった。
やっと駆けつけた大臣はその光景を見て怒りが再発したのかギャ-ギャー騒ぎ遂には倒れてしまった。
俺が思うにコイツは絶対カルシウムが足りてないな。勇者が心配そうに駆け寄る。結局兵士が担いでった。
脱走したとなるとバカ王はどこへ行ったのだろうか。意見を聞いてみる。

勇:きっと凹んでどこかへ気晴らしに行ってるんだよ。お花畑とか。
パ:ピエロの旦那は魔王の呪いで人形にされたでやんす!魔王めがなんて残忍な!許さないでやんす!
ね:しょっちゅう脱走してるみたいだし城の人に聞いてみたら?

ねーちゃん…あんたがいてよかった…

そこから俺達は手分けして情報を集めた。どうやらバカ王は無類のギャンブル好きらしい。
そして城下町にモンスター闘技場があり隙をみてはそこに入り浸っているらしいのだ。ダメ人間じゃねーか。
他にあても無いので俺達は闘技場を目指す事にした。 

闘技場ー階段を降りるとそこは熱気で充満したいた。ギャンブル特有の熱気。
パチンコ狂の俺としては非常に懐かしい。何というか心地いい。
勇者はこういう所は初めてのようでキョロキョロしている。周りの視線がパンツに集まる。マズい。
おそらくみんな逃げ出したモンスターか何かだと思っているのだろう。俺はパンツに300ゴールド渡し、これで
何か食って来いと言った。パンツは嬉しそうに駆けていった。やれやれ一安心だ。

さてこの広い闘技場でこれだけの人の中でバカ王を探すのは苦労しそうだ。
そう思った矢先、モンスターが戦っているアリーナに向かって一際大声をあげて大騒ぎしている大男がいる。
見覚えのあるピエロの格好…バカ王だ…目立ち過ぎだろ…どうやら賭けていた魔物は負けたらしく全身で
悔しさを表している。暑苦しい上にうっとおしい。正直知り合いとは思われたくない。
暫く地面にへたり込んだ後、もの凄い勢いでチケット売り場へ向かった。まだやんのかよ…

バカ:次こそは!次こそはあああああ!!!!
売り場の人:はいはい毎度王さ…じゃなくてピエロさんどうします?
バカ:スライムベスに500ゴールド!
売り場の人:(相変わらずギャンブルの才能ねーな)かしこまりました。スライムべスに500ゴールドですね?

当然だがこの町の人みんなこのアホピエロが自分達の王様だと気づいているのだろう。
俺は売り場の人に話かけた。いいのかあんたらの王こんなんだぞ?苦笑いしながらこう答える。

売:いいんですよ!この町の人みんな王様の事大好きですから!世界を救った英雄なのに物凄く気さくでしょう?
  何しても憎めないんですよね~。この国の国民は王様の家族みたいなもんですからね。ほんといい国ですよ。

「人を治める」というのは頭がいいだけでも、力が強いだけでも駄目なようだ。きっと人を惹きつける「何か」が
必要なのだろう。そしてバカ王はバカだがその大切な「何か」を持っているようだ。何となく親父を思い出した。
バカ王に目を向ける。また負けたらしい。悔し泣きしている…いい歳してこんな事で無くなよ恥ずかしいからさ…
勇者が慰めに行った。ね?もう十分遊んだんだからお城帰ろーよ?みんな心配してるよー?
16歳の女の子に説得されて帰ってくる家出おっさん。俺達は再び城へ向かった。 

途中道端で寝ていたパンツと合流し本日二回目の城へ着いた。
バカ王はピエロの格好から王の格好に着替えた。入り口で兵士が敬礼する。
今回はお早いお帰りですねだと?今回はって…お早いって…いやもう突っ込むのはやめよう。
王の間へ着いた。大臣は部屋で寝込んでるらしい。ストレスの溜まり過ぎだろう。
王が王だけにさすがの俺ですら同情を禁じ得ない。まあいいや。バカ王に船が欲しい旨を話す。
暫く考え込む。船一隻ともなるとバカでもさすがにホイホイとあげられないのか。王が口を開く。
この国には船は何隻かあるものの、船乗りは必要最低人数しかいない。つまり船はやってもいいが
船乗りはつける事はできないという事だ。船があっても動かせなければどうしようもない。これは困った。

パンツ:あっし船操舵できるでやんすよ。

………。俺の聞き間違えだろうか。

パンツ:あっし盗賊になる前は海賊だったでやんす。

………。あり得ない。こいつに操舵ができるはずがない。超絶天然バカのこいつに!脳ミソまで筋肉化したこいつに!

勇者がすごーいカンダタちゃんすごい♪これで出航できるね!とか言って煽りやがる。
全会一致でパンツを船長にする流れだ。やべえ。これはやべえ。パンツも乗り気だ。
おいやめろバカおまえら考え直せ!こいつが地図逆さに見てて遭難しかけたのもう忘れたのか!?
パンツが船長の船なんてある意味魔王と戦う事なんかより遥かに危険だ!魔王に殺られるならまだしも
海の藻屑になるなんて死んでも死にきれねーぞ!え?何?今から船に案内するだと?バカだから待てって!
おいコラ人の話を聞け!殴んぞ!
俺の必死の抵抗も虚しくパンツが船長になった。終わりだ。俺達の旅は終わった。完全に。
しぶしぶついて行き船の前に着いた。なかなかいい船だ。この船が俺達の棺桶となるのか…
パンツはさすがに一人で操舵はできないらしく子分がいると言ってきた。子分?ああそういやこいつらのアジトの塔に
置いてきたな。そこでパンツは羽を使って子分を呼びに行くことになった。一人だと迷子になる可能性大なので
ねーちゃんも保護者としてついて行かせた。ほんとは最初に勇者がついて行くと言ったのだがこいつが行くと
余計に事態が悪化するからやめさせた。勇者はふてくされてずっと頬を膨らませている。ガキか。 

道具屋に行く。パンツとねーちゃんは羽を買うなりさっさと行ってしまった。俺はご機嫌ナナメの勇者様の子守だ。
二人が帰って来るまで町をぶらつく事にした。突然勇者が振り返る。なんだよ。

名前つけなきゃ…これからいっぱい働いてもらうんだし。うん名前がいる!

どうやらあの船に名前をつけたいらしい。名前とかはどうでもいいがこれで機嫌が直るならそれでいいや。
どんな名前がいいんだと聞いてみる。え?ラブラブネコちゃん号?…それは嫌だ。え?キラキラチューリップちゃん号?
…それも嫌だ。確信した。コイツにはセンスが無い。てか「ちゃん」から離れろ。
じゃあ総長ちゃんもなんか案出してよって言われた。名前か…そういや俺の族時代の愛車はフレアラインのZⅡ…

「男の単車ゼッツー」

思わず口にでた。

何それ全然かわいくない。意味わかんないし。総長ちゃんセンスないね。

…おまえに言われたくねえ…その後白熱した討論の末名前は「みんなのゼッツーちゃん号」に決定した。
正直もう何でもいい。その後うだうだ喋りながらウロウロしてると向こうから柄の悪い集団が来る。パンツ達だ。
しかし見れば見るほど一緒に旅をしたくない連中だ。兄貴と旅ができて嬉しいっすとか言ってやがる。俺は一つも
嬉しくねーぞ。とにかく船着場に向かった。 

船着場に着くなりパンツ共は出航の準備を始めた。なんつーか妙に手際がいい。さすが元海賊といった所か。
俺は危うく感心しかけたがやめた。こいつに期待してもいつも裏切られる。もう騙されないぞ。
暇そうにボーっと船を眺める三人。そこにバカ王達がやってきた。なにやら馬車をひいている。
馬車には食料と水が大量に積んであった。餞別に持ってけという。気がきくじゃねーかよ。

ようやく出航の準備が終わる。さて問題は次の目的地だ。復習だが俺達はラーミアとか言う鳥の復活のためオーブを
集めている。バカ王曰くここから遥か南のランシールという町がある島に「地球のへそ」と言われる地下洞があり
そこに元々オーブがあったらしい。そして勇者の親父が再びそこに封印したらしい。
よしそれなら行き先は決まった。次の目的地はランシールだ。早速船に乗り込む俺達。
下手したらもうこの足で大地を踏みつけるのも最後になるかもしれない。覚悟を決める。

ちょっと総長ちゃん!何してんの早くおいでよ!おいてっちゃうよ!  …はいはい。

船の上から勇者達は楽しそうにバカ王に手を振っている。帆を張り碇を上げると船はゆっくりと動き出した。
バカ王がどんどん小さくなる。ついには見えなくなった。帆船てのもけっこうスピード出るもんだ。




あれだな、潮風がすげー気持ちいい。天気もいい。船旅も悪くない。これで船長がパンツじゃなけりゃ…。
勇者とパンツは持ち込んだおやつがどうだとか言い合っている。そんなもん持ってきたのかよ。
おそらくこいつらは遠足程度にしか考えてないだろう。しかし勇者は変わったな。
出会った頃は世界の運命を一身の背負ってますみたいな悲壮感漂うガキだった。今はほんとよく笑う。
ジャリん時から親父に戦闘の英才教育をされ、魔王が復活するなり訳もわからず旅に出され勇者として期待される。
もしかしたら今が一番楽しいのかもしれない。そんな事を考えてるとねーちゃんが話しかけてきた。 

父にひと段落ついたらこれを渡すように頼まれたんだけどと手紙を渡された。
………。内容は簡単に言うとおまえは賢者としてはまだまだ呪文のバリエーションも少ないし未熟だから
このねーちゃんに色々教えてもらえって事だった。はっ今更何を。俺が学ぶ事なんてもうねーよ。
キシャーッ!!!

突然海面から硬そうな凶悪な面した魚が群れで飛び出してきた!不意をつかれる俺!

バギッ!!!!

ねーちゃんの手からカマイタチのような線状の空気が飛び出した。悪魚達がひるむ。
この女俺が身構えてる間にもう反撃に移っていた。行動が早い。すげえ。

いい?これが風を操る一番基本の呪文。そして練度が上がるとこういう事もできるようになるわよ!

ねーちゃんは精神統一させ一呼吸置くと叫んだ。

バギッ!!!クロスッ!!!!


轟音と共に巨大な真空の刃が竜巻となり相手を切り刻む!一瞬で悪魚達はバラバラになった。すげえ。
さすがイケの娘だけある。強い。何よりも凄いのはその反応速度。まるで相手が襲ってくるのを知ってたかのような
行動だった。ねーちゃんの説明によると俺達は視力に頼るから感覚が鈍ってるらしい。
心眼というのは超能力でもなんでもなく、極限まで研ぎ澄まされた感覚の事のようだ。そのくらい感覚が冴えると
相手の殺気が読める。そうなると敵が近づいてくるのも簡単に察知できるとの事だ。わかったようなわからんような…

さっ早速始めるわよ。まずは空気の流れをイメージする事からね。しばらくは私が総長さんの師匠よ。


え!?その後ねーちゃんはイケメン並のスパルタ女だった事が発覚した。俺の安息の日はまだ、来ない。 



早くも海に出てから早くも一週間が経った。そこで重大な問題に直面する。食料が尽きそうなのだ。
水は海水を蒸発さして造れるため何とかなるのだが食料はそうはいかない。みんな腹が減ってイライラしてきた。
引き返すべきか。このまま進むべきか。決断を迫られる。ん?今船が不自然に揺れたような…
パンツの子分Aがランシールまでは確実に飢え死にするので航路を変えて近くの町で補給しましょうと言う。
それもそうだな。……。いややっぱ船の揺れ方がおかしい。腹減っておかしくなってきたんだろうか。
世界地図を見ながら現在地と近い町を探して…またまた船が大きく揺れる。あーもう何事だうぜえええ!!!
と、船の下に巨大な影が見えたと思うとバカでっかいイカの化物が現れた。こいつが下から船を揺さぶってたようだ。

普段なら間違いなく秒殺してるとこだ。しかし今回はみんなの眼つきが違う。おそらく考えてる事は一緒だろう。



こいつは…………食える!!!


俺達の異常な殺気にビビッたのかイカは引き腰になっている。やべえこのままじゃ逃げられる…

逃がすかあああああああああ!!!!

一斉に飛び掛る俺達。ここ最近で一番本気の戦闘だ。パンツなんてすでに足に噛み付いている。
イカもでかい図体してるだけあってなかなか強かった。しかし飯の懸かってる俺達の敵ではなかった。
太い足を数本頂戴した。さてどうしたものか。いざ目の前にするとさすがに躊躇する。
ねーちゃんが私にまかせてと言うと足を一本持って厨房に入って行った。パンツは生でイカにかぶりついている。


暫くしてねーちゃんが大きな皿を持って戻ってきた。これは…皿の上にはうまそうなイカの炒め物?が乗っている。
有り合わせの調味料を使ってイカのソテーを作ったらしい。味は…………うまい!これはうまい!
イケメンも料理うまかったがねーちゃんもかなりの腕だ。本当にこいつがいてよかった… 

そしてさらに一週間後。俺達はランシールに到着した。とりあえずゼッツーの処女航海は無事に終える事ができた。
二週間程の航海だったが俺達は色んな意味で逞しくなったと思う。魔物を食うなんて一昔前じゃ考えられなかった。
魔物よりも魔王よりも一番しぶとい生き物は人間なのかも知れない。何はともあれ久しぶりの大地だ。

碇を降ろし船を固定すると早速町へ向かった。毎度の事ながら住人の視線が痛い。場所が場所だけに滅多に
旅人も来ないのだろう。それに加えてこの面子だ。好奇の目に晒されるのは仕方が無い。

オーブがある「ちきゅうのへそ」の入り口は町の中心にあった。今日は一晩宿屋で疲れをとってから明日攻める
事にしよう。俺達は宿屋へ向かった。


その夜無事航海終えた記念の宴会が開かれる。久しぶりの酒だ。船にもある程度積んでたんだが初日で
飲み干したからな…。ここの地酒はウイスキーだ。確かにうまい。が、キツい。調子のってるとすぐ潰れそうだ。
言ってる先からパンツの子分三人組がねーちゃんと飲み比べを始めた。アホだな。こいつらはまだこの女の殺人的な
酒の強さを理解してない。案の定一人、また一人と倒れて行く。ねーちゃんは涼しい顔してる。

勇者もかなり飲んだらしく相当ヘラヘラしてる。ピーピーうるせえ。途中料理を運んできたおばちゃんに
何の目的で旅してるの?と聞かれてあのねー私達海賊なの!この町のお宝奪いに来たの!と言った時の
おばちゃんのひきつった顔は笑えた。まあ間違えてはないしな。その日の宴も明け方まで続いた。

次の日の昼。パンツの子分三人組はまだ潰れてるので宿屋に置いてきた。洞窟の入り口の建物の入る。
入り口にはおっさんが一人いた。邪魔だどけ。無視して進もうとすると慌てて止められる。なんだようぜえな。
この洞窟には一人でしか挑めないらしい。何だよそれ。意味わかんねえ。そんなきまり当然無視だ。
しかしおっさんも頑固で一歩も退かない。目がマジだ。
わしの人生に懸けてここは通さん!通りたければわしを倒してか…ドスッ。俺の中段突きをモロにみぞおちにくらい
うずくまるおっさん。よし。おまえら先に進むぞ。

勇:ちょっと総長ちゃん!かわいそうだよ!ちゃんときまりは守らなきゃダメだよ!

パ:総長!男ならここは一人で攻めるべきでやんす!それが真の漢でやんす!

ね:一人じゃなきゃ先に進めないとかそんな仕掛けがあるんじゃない?無意味にそんなきまりがあるとは思えないわ。




おまえら…多数決により誰か一人で探索に行く事になった。 




おっさん:ゴホッゴホッなっ…なんて乱暴な若者じゃ…こんな奴は初めてじゃまったく…
     いいか?ここは由緒正しい試練の洞窟でな。一人で攻略してこそ求めている物が得られるのじゃ。
     といってもそんな危険なとこ誰も探索するはずがなく今までは未知の空間じゃった。
     勇者様がおそらく歴史上初めて攻略されてオーブを持ち帰ったのじゃよ。
     それで次に必要な時が来るまでまたここに封印なされた。ただオーブを封印するだけの為に
     これだけ大掛かりなものが造られたとは思えん。きっとまだ謎が隠されておるかもな…

謎…ねーちゃんがピクッと反応した。とにかくそうなれば誰が行くのか決めなければならない。
ここは総長である俺が行くのが筋ってとこだろう。文句ないなおまえら。……明らかに不満顔だ。


勇:あたしも行きたい!お父さんも行った洞窟なんだし…絶対行きたい!

ね:謎…謎が私を呼んでるわ!未知…なんて素晴らしい響き!ここは譲れない!

おいおい…てかねーちゃんあんたそういうキャラだったんだな…さらに輪をかけて


パ:よくわかんないけどズルいでやんす!あっしも行きたいでやんす!仲間外れは嫌でやんす!

もうこうなると収拾がつかない。どーせこいつらは総長である俺の意見なんてきかないだろう。
いいんだわかってた事だから…俺がここのボス…自分でそう思ってたらいいんだ…
しかし絶対話し合いでは結論がでない。こいつらはそんなメンバーだ。
ここは公平にじゃんけんで誰が行くか決めようじゃないか。じゃんけん…!?何それ??
どうやらこの世界には「じゃんけん」はないらしい。ルールを説明する俺。
へー楽しそう!と勇者とねーちゃんはすぐ理解したようだ。パンツはまったく理解できてない。
とにかくグーかチョキかパーか何でもいいから出せと教えた。じゃあいくぞ。せーのー

じゃーんけーんポンッ!


………………。やっちまった。おそらく考え得る中で最悪のパターンだ。勝ったのは…パンツだった。

一瞬の静寂。勇者は本気で悔しがっている。パンツは当然の如くわかってない。ねーちゃんが勝ったのはあなたよと
教えてやった。途端に大喜びするパンツ。しかし勿論こいつには何のメリットもない。

やったでやんす!これでお宝は俺の物でやんす!

明らかに勘違いしている。もういい。こいつが無事にオーブを持ち帰って来るのを期待するしかない。
ここまでくると運の問題だ。直ぐにでも出発しようとするパンツを制止してありったけの薬草を持たせた。

勇:いいなぁ…お父さんに関係あるものあったら必ず持って帰ってきてね!
ね:いい?こんな手付かずの古代遺跡に入れる機会なんてそうそうないんだから気を引き締めて行ってくるのよ!
俺:あの…その何だな…無理しなくていいからな…適当に頑張れ…

パンツは嬉しそうに頷くと意気揚々と行ってしまった。
入り口を守ってたおっさんがほんとのあいつでよかったのかと驚いている。こっちが聞きてーよバカ。
今更ジタバタしても仕方が無いのでここで大人しく待つ事にする。 










丸一日が経った。パンツはまだ帰ってこない。





だからあいつに行かしたくなかったんだよチクショーが!
おっさんの話によると勇者の親父は半日ちょっとで帰ってきたらしい。という事は明らかに中で迷っている。
という事で第二陣が出発する事になった。問題は誰が行くかだ。
とりあえず勇者だけはマズい。パンツの救出に勇者が行くなんて火に油を注ぐようなもんだ。確実にミイラ取りが
ミイラになる。今回に限ってはねーちゃんもヤバい。テンションがおかしすぎる。遺跡に夢中になりすぎて
パンツの事を忘れて帰ってくる可能性が高い。やはり…俺が行くしかない。しかし選出方法はじゃんけんじゃきゃ
こいつらは納得しないだろう。さてどうしたものか。

はやくじゃんけんで決めよーよーカンダタちゃんお腹空かせて待ってると思うよー?

……こうなったら最終手段を使うしかない。これだけは避けたかったのだが。


わかったいくぞ!せーのー!じゃーんけーん…ぽんっ!       …今だ!



勇&ね:…………………!!!!????


勝った。俗に言う「後出し」というやつだ。勇者が騒ぎ出す。うるさい。世の中勝ったやつの勝ちなのだ。
反発する二人を無理やり丸め込み何とか次の挑戦者は俺になった。目的はオーブ発見&パンツ救出。
ちくしょう最初から俺が行けてればこんなめんどくさい事には…やり場の無い怒りを覚えつつ俺は出発した。 

出発前に勇者に大量のパンを持たされた。ふざけんなてめー荷物になるだろうがと思ったのだがパンツの為に
持ってけときかない。もう一回じゃんけんとか言われてもややこしいので黙って持ってく事にした。しかしかさばる。


通路を抜けるとそこは大理石のでかい人工的な洞窟だった。不気味な所だ。俺まで迷ってしまってはシャレにならない
ので慎重に地図をつけながら進む。

シャー!!!!キシーッ!!!!!!    ビッチャザアアアアアア!!!!!
グェェェェエエエエ!!!

ブッヒョーるるる!!!     ギブアァアアア!!!!


クソが!ここはなんて魔物が多いんだ!倒しても倒しても後から後から湧いてきやがる!
俺のブチ切れスイッチが入りかける。呪文で一気に木っ端微塵にしてやりたい所だがこんな入り口付近で精神力が
尽きてもいけないと俺の残り1%の理性が制止をかける。仕方なく相棒のドラゴンキラーでぶっ飛ばして進む。


かなりの魔物を潰した。ひと段落して辺りを見回す。どうやらここからは一本道の長い通路のようだ。
ん?よく見ると通路に大きな顔型の彫刻が並んでる。気持ち悪い。ここを設計したヤツのセンスを疑う。
まあいい。とりあえず進もう。 


……………せ……

ん?

ひ……………せ

ん?ん?

何か声が聞こえた気がした。パンツだろうか。耳を澄ませながら進む。


ひきかえせ

ひきかえせ??今はっきりとひきかえせと聞こえた。誰だ!?誰かいるのか!?


ひきかえせ


ひきかえせ



ひきかえせ


…わかった。この顔型の彫刻喋りやがる。おそらくへタレ冒険者をふるいにかけるためだろう。
フッ…こんな子供騙しにひっかかる俺じゃない。無視だ無視。

ひきかえせ



ひきかえせ



しかしこの洞窟暑い。というかジメジメする。


ひきかえせ






ひきかえせ






ひきかえせ



うざい。暑いので黙ってろ。てか迷った。同じ通路をループしてるような気がする。地図は捨てた。 

ひきかえせ





ひきかえせ





ひきかえせ




ひきかえせ

ひきかえせ
ひきかえせ
ひきかえせひきかえせ
ひきかえせひきかえせひきかえせひきかえひきかえひきかえひきひきひきひき



うるせえええええええええええええぇえええええぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!


俺はあらん限りの魔法を放った。轟音が狭い通路に反響する。かおの彫刻は大半が吹き飛んだ。 


ー地上ー


勇:総長ちゃん大丈夫かなぁ…

ね:魔物にやられる事はないと思うけどね。

お:ここは試練の遺跡じゃぞ。一筋縄にはいかんわい。


ー揺れる地面。鳴り響く轟音ー


勇:キャッ!!!!今の何!?

ね:ただ事ではないわね…総長さんもずいぶん派手に暴れてるみたい。

お:おい!わしは長年ここを守っておるが今のはなんじゃ!初めてじゃぞ!

勇:助けに言った方がいいかな…!?

ね:そうね。

お:ちょっちょっと待て1何人たりとも二人以上でここを通すわけには…

ね:はいはいお話は後で聞くからちょっとどいててね!

勇:ごめんね!すぐ戻ってくるから!

お:こっコラ!待たんかい!おぬしらにはほんと常識てもんが…あ…行ってしまいおった…

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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら@2ch 保管庫