次に目を覚ましたのはあの酒場だった。そう例の神酒のとこだ。パンツがここまで担いできたらしい。
店長は号泣しながら礼を言ってきた。別にお前のためにデカブツと倒したんじゃねえ。
うざいから泣くな。と、ねーちゃんが手招きしている。ははーんさては俺の男の中の男の闘いっぷりに
惚れちまったか?ったくこれだからモテる男はつらいぜ。誘われるがままに店の外に出る。

勇者殿…

来た来た。いつでも準備は万端だぜハニー。今晩は最高級のスイートルームを予約しようかってぬお!
振り返った視線の先にいたのはおっさんだった。なんでてめーがここに居るんだチクショーが!!!
実は洞窟でこんなものを拾ったのですじゃとおっさんが勲章のような物を見せた。
竜の形をしていて真ん中にはよくわからない文字が刻まれている。なんだこりゃ。

それはジパングの紋章よ。それもかなり地位の高い人しか身に付ける事ができないものよ。

ねーちゃんが続ける。男心を弄びやがって酷いぜねーちゃん…ってえ!?どういう事だ!?
あの洞窟にこの国の偉い奴しか身につけられない物が落ちている。どうやら嫌な予感は的中した
ようだ。沸々と湧き上がる俺の怒り。すぐに酒場に戻り全員に召集をかける。

おまえらこれを見て欲しい。

みんなの視線が竜を象った紋章に集まる。

これは洞窟に落ちていたものだ。おっさんが拾った。ブローチだかペンダントだか何だかしらねーが
どうやらこの国のお偉いさんしか身に付ける事ができないものらしい。

勇者の顔が強張る。パンツが何か大発見をしたような顔で喋りだす。総長それはつまり…黙れ。
会議中においておまえに発言権は無い。

俺はハッキリ言ってブチ切れた。今から城に殴りこみに行くぞてめーら!

俺は大声を張り上げた。ちょっと待ってとねーちゃんが話し出す。

今日はみんな疲弊してる事だし準備を整えて明日改めて訪ねましょう。それにその格好じゃ
多分城の中に入れてくれないわよ。

自分の服を見つめてみる。ボロだ。これは服というより完全なボロだ。いやしかし服装など関係ない!
俺は今殴りこみをかけたいんだ!

あの…お取り込み中失礼しますがささやかですが出来る限りの料理と酒を用意しました!
娘の恩人です!遠慮なく食べて下さい!

……よし。出発は明日にしよう。


次の日。足取りは重い。場合によっちゃあの城にいる奴ら全員ぶっとばさなきゃ気がすまねえ。
相変わらず衛兵に止められる。ブン投げた。どけ。俺達は最短距離でヒミコの元へ向かった。


ブチのめしたぜ。やまたのおろち。まことか!?とヒミコが驚く。しかし俺たちの浮かない顔を見て
黙り込む。これに見覚えはあるかしら?とねーちゃんが例の勲章のようなものを見せる。
あの洞窟に落ちていた。…………説明してくれ。

一呼吸置いてヒミコは話し出した。

それは…我が国が公的に作っているものじゃ。各役職ごとに異なる紋章を授ける。
古くからの伝統じゃ。そしてそれは…もうよい。本人を直接呼ぼう。

ヒミコは衛兵に何か耳打ちすると衛兵は一礼した後出て行った。数分後。
部屋に入って来たのは最初にこの国に来たときに食ってかかってきた極右の老人だった。

これが封印の洞窟に落ちていた。説明してくれ。

ヒミコはそれだけ言うと紋章を老人に渡した。老人はため息をつくと右手を大きく振り上げた。
突然ドカドカと十数人はいるであろう武装した兵士が部屋になだれ込んで来た。
状況が把握できない。どういう事だ!?ねーちゃんと目が合う。
ねーちゃんが女王様を守って!と指示を出す。何が何だかわからないが俺達は王座を取り囲む様に
円陣を組み備えた。おいおい。ヒミコは顔を強張らせたままどういう事じゃ!と叫ぶ。

姫様…いや今は女王様か。わしは先代国王の時よりずっとこの国の為に心身を奉げてきた。

………?

王妃様はあなたを産んだ後直亡くなられた。偉大な王であった先代の血をひくのはヒミコ様
あなだだけじゃ。王位を継いだ事も女王となった事も何の間違いは無い。

………??

しかし…あなたの思想は危険すぎた。隣国と仲良くとな?笑止万全!何故選ばれた民である我が民と
下民である者たちが手を取り合う必要がある?崇高なるジパング国の指針は一つ!他の国を従える事
のみ!残念だが姫…いや女王様。あなたにはここで退官願う。死をもって!

老人が手をかざすないなや、兵士達が異形の物へと姿を変えた。
コイツ…魔王と手組んでやがったのか!?非常に混乱しているが今しなけりゃいけない事は一つだ。
こいつらを叩きのめす!

俺はねーちゃんと勇者にヒミコの護衛と呪文での後援を頼んだ。そしてパンツと敵陣に切り込む。

数は多いがやまたのおろちに比べりゃ雑魚だ。片っ端から片付けていく。暫く後目の前に敵対するのは
老人だけだった。

ぐぬうううぅぅ…愚かな者達よどこまでも神の国に楯突こうというのか…

老人が凄い形相でこっちを睨む。知るか。とりあえずコイツはとっつかまえてなければ。

ククク…お困りのようですね…

どこからともなく嫌な声が聞こえる。生理的嫌悪感をもよおすこの声。どこかで聞き覚えがある…

不気味な黒い霧と共に一人の覆面の魔術師的な男が現れた。
俺とパンツと勇者は絶句する。コイツは…コイツは忘れもしねえ!あの時あの時じーさんが自分の命と
引き換えに潰した奴あの時の…言葉が出ない。心の奥底からただ怒りが湧き起こる。

てめえ生きてやがったのか!おまえだけは絶対に俺の手で潰す!

今にも飛び掛ろうとした。が、体が動かない。

落ち着きなさい。相変わらず熱い男だな。今日はおまえらの相手をしにきたんじゃない。
後始末にきただけです。

と、次の瞬間魔術師の手が老人の胸を貫いていた。

今までよく働いてくれました。あなたがジパングに与えた恐怖や絶望…大魔王様もお喜びでしたよ。
ただやまたのおろちを失った今もうあなたは不要です。安らかに地獄に行きなさい。カカカ…

老人は口をパクパクさせながらうわ言のようにジパングと呟くとやがて動かなくなった。
魔術師はボロ雑巾のように老人を投げ捨てるとこっちに向かってきた。

やまたのおろちを倒した所をみると少しはマシになったようだが…この程度の邪気で
身動きが出来ないようじゃまだまだだな。大魔王様もおまえらが自分の存在を脅かすくらい強くなるのを
お待ちですよ。色々な国を回り様々な人を助けもっと勇者とその仲間として完成しなさい。
勇者は人々の希望であるから勇者なのですよ。ククク…

メェェラゾォォォォッッマァァァァァ!!!!!!!

極大の火球が魔術師を捉える!

轟音と共に大量の煤と埃が舞い上がり一瞬視界を遮った。

徐々に視界が回復する。

ほう…さすがこの状況で動けるとは…異世界より迷い込みし賢者よ。少しは楽しませてくれるようだな。

コイツ…俺の必殺技を食らって無傷なのか!?ヤバイ近づいてくるが今度こそまったく指一本動かせない。
く…殺られる……………!


魔術師が耳元で囁いた。

そして去って行った。


俺達の金縛り?も解けたらしく全員が一斉に動けるようになった。目の前にあるのは魔物の死骸の山と
老人の屍。外にいた兵士が何事ですか!?となだれ込んできた。ヒミコは力なく死骸の片付けと
老人の埋葬を命じた。

ひと段落ついてもう一度ヒミコの座の前に集まる。重い沈黙。

重ね重ね礼を言うぞ。勇者とその仲間達よ。やまたのおろちの件だけでは無く命まで助けてもらった
ようだな。こんな事言える立場じゃないかもしれんがあの者は手厚く葬った。許してくれとは言わん。
ただ誰よりもこの国を愛するが故の行動だと思っておる。わかってやってくれ。

そして一冊の日記のような物を差し出した。あの老人の部屋にあった物らしい。
内容は要約するとこうだ。ジパング再興のため魔王軍と手を組んだ事。やまたのおろちを使って
ヒミコの世評を下げ退官させようとした事。そして最終的に魔王軍が世界征服した後
ジパングだけは独立を守ることを契約した事…何があの老人をここまで駆り立てたのだろうか。
さっぱり理解できねえ。


さて話を本題に戻そう…。ぬしらが求めていたオーブの話じゃが…

オーブ…ああそうだ忘れてたたしかあの鳥居の洞窟の奥にってオイ!入り口はもう塞いじまったぞ!
やべえすっかり忘れてた。今から掘り返すのか…しかしあそこは俺とデカブツの名誉ある死闘の場所…

あの洞窟にはありませんでした。

ねーちゃんがこれまた驚き発言をする。えっあの状況で探してたのか!?当たり前でしょと多少冷たい目で
こっちを見る。正直先にオーブ見つけてやまたのおろち退治は後回しにしようと思ってたわ。
勝てそうにもなかったし…結果論から言うと勝ててよかったけど総長さんも私達を率いるリーダーなら
その辺もっと慎重に行動して欲しかったわね。……こんな所で説教しなくてもいいじゃないか…

あやつの手記と共にあったわ。もう我々には必要ないもの。好きにするがよい。

と紫色に輝くオーブを渡された。そうかあの老人が持ってたのか。いやいや結果オーライだな。

ヒミコはさすがに顔色が優れない。そうだろな。これからこの国の奴らにこの一件を
どう説明するのだろうか。差し出した生贄…支払った犠牲を考えると黒幕が魔王とうちの大臣でした
なんて簡単に言えるもんじゃない。事情をしってる周りの大臣や兵士も表情は重い。

俺は考えた。この空気。この雰囲気。問題は山積だがだからこそ立ち止まってはいけない。
一歩ずつでも前に進まなくては。そしてこの状況を打開するには…酒しかねえ。

おいヒミコ。今すぐ宴会の準備をしろ。国をあげて総出の宴会だ。異論反論は許さん。
逆らったらこの国ごと潰すぞ!

一気に城内はザワついた。バカな…あの異国人は何を考えてるのか…この状況で…空気読めよ…
あちらこちらで陰口が聞こえる。ええい黙れ!世界の覇王に最も近い俺に逆らう奴はブン殴るぞ!


数時間後。夜もすっかり更けたころ、国で一番大きい広場に物凄い人数が集まった。
ブツブツ文句をいってた兵士や使用人もいざ宴の準備を始めるとちょっと楽しそうだった。
頃合を見計らって一番高い演説台に立つ。

…誰も見ちゃいねえ。それどころか何の為に集まったかも知らされていないので不審そうな顔をしている。
目の前には大量の料理と酒。家にあるありったけの酒と料理をもって広場に集まれという
女王からの謎の通達。不審がるのも無理はないか。ここは一発派手に民衆の心を引くしかないようだ。
花火でもあげるか。俺は天を仰ぐと夜空に向かい叫んだ。

イ オ ナ ズ ン !

けたたましい轟音と共に一瞬真昼かと思う程に夜空が光った。突然の出来事にへたり込む奴や
当然子供は泣き出した。うんうん。この反応を待っていた。一息つくと俺は声を張り上げた。


コホン…えー俺は鬼浜爆走愚連隊の総長である!
近い将来この世界の王となる男だ有難く目に焼き付けておけ!

あっけにとられる民衆共。

えーここで一つ報告がある!おまえらを悩ませるやまたのおろちはもういない!
俺達が死闘の末今アイツは洞窟の奥で永遠の眠りについた!感謝しやがれ!

そんな話信じられるか!いやまてしかしヒミコ様の命でここに集められたんだから…あんな異国人の
たわ言など!やっぱ全然信じてねーなコイツら。おいヒミコ出て来いや!

この者のいう事は真実じゃ。

ヒミコが台の上に立った。一斉に静まり返る。

勇者率いるこの者たちの手でやまたのおろちは倒された。そして今みなに伝えなければならない事がある。

ヒミコはありのままを国民に伝えた。内容が内容だ。中には敵意むき出しでこっちを睨む奴もいる。

再び俺が前に出る。

えー色々思うとこがあるかもしれないがおまえらに一つ命令しておく!今回の事は全て水に流せ!
そしてやまたのおろちと言う天災が去った今、今日この日を記念日にしようと思う!
毎年今日を「鬼浜祭り」として未来永劫祝え!飲め!歌え!踊れ!騒げ!

一気にヒートアップする広場。賞賛と怒号が飛び交う。

えーそれでは鬼浜祭りに…乾杯!!!!!!!!!!!!!!!!!!

そう叫ぶと俺は持っていたグラスに注いである酒を一気に飲み干した。
かんぱーい!と勇者も声をあげパンツやねーちゃん、ヒミコ、兵士、城の使用人、その他みんな一斉に
酒に口をつける。なんだかよくわからないがその雰囲気に呑まれあちらこちらで乾杯の音頭が上がった。

そう叫ぶと俺は持っていたグラスに注いである酒を一気に飲み干した。
かんぱーい!と勇者も声をあげパンツやねーちゃん、ヒミコ、兵士、城の使用人、その他みんな一斉に
酒に口をつける。なんだかよくわからないがその雰囲気に呑まれあちらこちらで乾杯の音頭が上がった。

もうあとはとにかく酒を注いで回る。飲ます。飲まされる。一時間だか二時間だか過ぎた頃には
かなりの人数ができあがってきていた。もう誰も恐い顔をしている人はいない。

うんうんこれでいい。やはり祭りはこでなければな。と、むこうから女の子がいっぱい駆け寄ってきた。
これは…もしかして…そうだ。俺はこの国を困らすデカブツを倒した。つまりこの国の英雄ってやつだ。
キャー本当にやまたのおろち倒したんですね!すごーいつよーい!かわいいーーーー!!!!
へへへよせやい照れるべ!?え!?かわいい!?案の定俺を素通りして女の子軍団は勇者とねーちゃんの
元に向かった。パンツが総長総長と寄ってくるなんだよ気持ち悪いな。こっち来んな。
え?あっちで俺の武勇伝聞きたい奴がいっぱいいるって?しゃーねーなおい行ってやるかデへへ
…そこにいたのは明らかに土方系のイカツイにーちゃん達…あっちの世界でもこっちの世界でも
こんな奴らばっかにモテるのはなぜだろう。チクショウ…



それから更にしばらくたった。ねーちゃんがこっちに来る。ねえ一つ聞きたい事があるんだけど…
あの魔王軍の魔術師最後総長さんの耳元で何か言ってたでしょ?何を言ってたの?

そう…あの時からずっと心にひっかかってる事。アイツは…あの時信じられないが俺の事名前で
呼びやがった。この世界に俺の本名を知ってる奴はいない。俺が誰だろうと関係ないし
総長の方が昔から慣れ親しんでる呼ばれ方だ。それどころか俺が異世界から来た事を…

いや違う。無論それも不思議ではあるのだがあの声、あの声はどこか懐かしい。
口調はまったく違うのだが俺の良く知るアイツにどこか似ているーちょっと?大丈夫?聞いてる?

いけないいけない自分の世界に浸りこんでしまった。ねーちゃんには本当の事話すべきだろうか。

いいわ…誰にだって知られたくない事はあるし無理に聞こうとは思わないわ。

そう言って微笑むとねーちゃんは去ってしまった。別に隠す程の事でもないんだが…もし
仮に俺が異世界から来た事をぶっちゃけるとコイツらはどう思うのだろうか。

この国のやつらは生まれた国が違うというだけでかなりの偏見を持っていた…俺の場合はそもそも
世界が違う。……ていったい何考えてんだろうか。酒のせいだ酒のせい!
今目の前にうまい酒がある!それでいいじゃないか!



俺はその日も結局浴びる程飲んだ。

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