寝苦しくて目が覚めた。
寝返りを打とうとしても何かに当たって動けない。
目を開けてみたら真っ暗だった。
全く何も見えなくてやばいくらい焦る。

いつもと違う事態に一気に目が覚める。
とにかく起きようとするが狭くてほとんど動けない。
どうも何かに閉じ込められているみたいだ。どうしてこんな状態なのか全く分からない。
確か昨日は・・・大学行って後はずっと2ch見てて・・・1時過ぎには部屋で寝たよなぁ。
俺なんかしたっけ?


「************、****」
考えにふけっていると人の声が聞こえてきた。
咄嗟に助けを求めて叫ぶ。
「******」
「**********」
「********」
俺の声に驚いたのか一気に騒がしくなる。
ガチャガチャと音がした後、目の前にあった天井が開いた。
ようやく起きれると立ち上がって周りを見わたして・・・・自分の脳を疑った。


そこは石造りの大広間だった。周りの人物も日本ではありえなかった。
玉座に座っている王冠被った爺さん、派手な服を何着も着込んでいるおっさん
鎧と槍で完全武装の兵士達、そして俺のすぐそばにいる帯剣した黒髪の少年と3つの棺桶。
その場にいる全員が俺を見て騒いでいるがこっちはそれどころじゃなかった。
いくら昨日『DQ世界の宿屋だったら』スレ見てたからって・・・。俺もう死んだ方がイイのかな。
自分の脳味噌が膿んでしまった事を嘆いてうつむいたら、そこにも棺桶があった。

ああ、そうなんだ。僕は棺桶に入ってたんだね。
「ふっざけんな何で棺桶なんだよ宿屋どころかいきなり死体扱いか!!」
キレて叫びながら棺桶を蹴ったら有無を言わさず少年に取り押さえられた。情けないが全く動けない。
「*******!!」「*****!」「**********!」
おっさんと爺さんが怒鳴り出し、兵士達に何か指示を出しているのを聞いてようやく言葉が分からない事に気付いた。
なんと言っているのか全く聞き取れない、日本語と英語でない事だけは分かるが全く救いにならない。
ショックで固まっていると兵士達に引き渡され、押されるようにして別の場所へと連行された。


連行された場所はどう見ても牢屋だった。牢屋に入るまいと必死に抵抗していると数人がかりで無理やり投げ込まれた。
俺を投げ込み、錠前をかけ牢番と幾らか話した後兵士達は行ってしまった。
何でいきなり投獄されなきゃいかんのだ。せめて事情聴取が先だろうが。
何とかして牢から出してもらうべく無理を承知で牢番に呼びかけ、謝って、事情を話して、謝って、怒鳴って、脅して、罵ったあたりで諦めた。
分かっていたことだけど言葉が通じない時点で説得できるわけが無かった。
やることが無くなったのでしばらく不貞腐れていると、眠くなったころに食事が出た。
ほとんど具の無いスープで味も素っ気も無かった。おまけに量まで無かった。
それでもありがたく完食し、その日は空きっ腹を我慢して牢屋で寝た。
ちなみに牢番は俺の呼びかけに対して完全に無反応を貫いた。驚くべき職業意識だと思う。


翌朝の目覚めは最悪だった。牢番に水をぶっ掛けられて無理やり起こされた。
鼻に少し入ってしまい随分咳き込んだ。
見ると牢番は他の牢にも水をかけて回っている。どうやら囚人を起こす事が目的みたいだ。
空腹のために2度寝もできず、ただ只管に暇だ。
考えれば昨日丸一日と今日もDQ世界?にいることになる。

これからもこの世界にいる事になるかもしれないので今までの事を振り返ってみる。
まず最初の部屋にいた爺さんは王様だろう。ということはこの国は王国になる。
なら爺さんを説得するなりできれば、牢屋から出してもらえるはずだ。
おっさんや兵士達は王様の部下だとしてあの黒髪の少年はどういう立場なんだ?
彼だけは普通の服を着てた。まぁ日本ではまず見ない服装ではあるけどそこは別の世界みたいだし。
それに俺が入っていた棺桶を開けてくれたのはあの少年だ。王の部下という感じではなかったな。
何者なんだろうか。中学生くらいに見えたが・・・。
3つの棺桶も気にはなるが死体を見たいわけではないので見なかったことにする。   するったらする。

それで次は・・・言葉。言語が違うのはもっともな話だけど、でもどうしろっていうんだ。
辞書も無いのに外国語なんか理解できるわけが無い。身振り手振りでどこまで通じるやら。先行き不安だ。
それから牢屋か。ベットらしいでかい木の箱と石畳の床、それから頼もしすぎる鉄格子と牢番。
本当になんだってこんな事になったのか。いきなり牢屋行きはやはり酷過ぎる。
最後は自分の所持品か。これはもう何回見ても2日前寝た時のままだった。
パンツ・ハーフパンツ・Tシャツ・ソックス。ソックスがあるのは最近寒かったからだ。
これが所持品の全て。他には道具も財布もなにも無い。
せめて眼鏡は欲しかった。俺はかなり目が悪い。
眼鏡がないと視界全てがぼやけてろくに見えない。室内ならまだしも屋外だとかなりきつい。
この世界にも眼鏡はあるんだろうか。無かったらどうしよう。

他に考えること・・・  考えること・・・
後はこれからの事とかか。
例えば何とかして牢屋から出れたとしてそれからどうするか?
異世界に来たのであればいいが、俺の脳味噌がイカレてしまっただけという可能性もあるので下手な行動は取りたくない。
家族から見てすごく痛い人になっただけならまだしも黄色い救急車や官憲のお世話にはなりたくない。
だから犯罪沙汰になる行為は可能な限り避けたい。具体的には傷害とか窃盗とか殺人とか。家族に迷惑かけるしな。
しかし後ろ盾も無く職も金も無い状態で犯罪に触れずに生きていけるとも思えない。
本当に異世界に来たんだったら特に拘る気も無いが、それでも異世界に来たという確証は得たいし。
もしDQ世界に来たのであれば魔法か薬草辺りで十分だからこれは早いうちに・・・ん。

「************」
見ると牢番がこちらに何か話している。全く分からないが話しかけられたことが嬉しくてつい分かった振りをしてしまう。
するとすぐに俺の牢の前に人がやってきた。

昨日の王様とおっさんに少年、それと昨日の兵士達とは違う色の鎧を着た兵士がやってきた。王の護衛だろうか?
「***********」
王様達はやってくるとすぐに俺に話し始めた。雰囲気から察するにどうも質問しているようだ。
何度も話しかけてくるがやはり全く分からない。韓国語や中国語・スペイン語なら聞いたことはあるがどれとも違うようだ。
おまけに訛っているせいかめちゃくちゃ聞き取りにくい。
「*** *ル*  *ルす」
こちらの様子から言葉が通じていないことが分かったのか少年が自分を指差しながら同じ言葉を繰り返す。
きっと名前だ。俺も彼を指差し彼の名前を言う。
『ルス』 「*ルス アルス」『ルス アルス?』
当たったのか少年が嬉しそうな顔をする。
「アルス アルス」『アルス アルス』「アルス」『アルス』
少年が笑顔で握手を求めてくる。握手しながら彼の名前を連呼する。馬鹿みたいだがとにかく嬉しい。
今度は俺が自分を指差しながら繰り返し名前を言ってみる。
『木原 健太』『木原 健太』「*** け**」「キ** ケ**」
アルスも察してくれたらしい。でも発音が難しいみたいだ。なので名前だけにする。
『健太』「ケンら?」『健太』「ケンツ?」『ケン』「ケン」
それでもうまく発音できなかったので名前も短くする。こんなのは通じればいいんだ。
お互いの名前が分かったのが嬉しくて握手しながら呼び続けてたら、おっさんが呆れた顔でこちらを見ている。
それに気付いたのかアルスが途端に大人しくなる。  少し寂しい。

アルスとのやり取りを見ておっさんが王様を指しながら繰り返し喋る。
先ほどと同じやり取りを何度も繰り返すが正直長すぎて殆ど聞き取れない。
おっさんもゆっくり話してくれてるのは分かるので聞き取れた箇所だけでも繰り返す。
さっきの何倍もの時間をかけて少しずつ近い音にしていく。
「*** ア*アハ* **ウ *イ」『アアハ ウィ?』「*** アリアハン *ゥウ *イ」『アリアハン?』
おっさんは俺を見ると溜め息をつき頷いた。どうやら王様の名前はアリアハンで正しいようだが・・・。
アリアハンか。アリアハンといえばDQ3の王国だ。すると此処はDQ3の世界になるのか?
DQ3は好きではあったけどクリアしたことないんだよなぁ。途中でセーブ消えるし。最後にやったのは何年前だろ。

「*******ルビス***」『ルビス ルビス』
考えこんでいると王様がこちらに何か話しかけてきた。ルビス神?精霊ルビスだっけ?もう殆ど覚えてない。
とにかく知っている単語が出たので笑顔で繰り返す。
途端に王様が真剣な表情になり牢番に命令した。命令を受けた牢番はすぐに牢の鍵を開け俺を出してくれた。
牢を出るとアルスが握手してきた。もう片方の手で肩を叩き何か話しかけてくる。
展開が理解できないままとにかく笑って手を握り返すと、アルスは手を離し王様に向き直りなにやら話している。
王様とおっさんが真剣な表情で二言三言話すとアルスは何処かへ歩いていく。
俺が呆けているとおっさんが怒ったような顔でアルスを指差し何か話してくる。
アルスを見やると手招きして俺の名前を呼んでいる。彼に付いて行けという事みたいだ。
異世界冒険というのは楽しそうだし、言葉も通じない上暮らす当てもない。
あれこれ理由をつけて頭をよぎる不安を振り払い、アルスを追いかける。

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