―商業都市オラクルベリー
北方大陸から隔てられた島の中央に位置するこの町は、交易の町として知られている。
東方と西方の大陸の中間に存在するこの島は、貿易船の物資補給の場として発生し、
西方大陸の玄関『港町ポートセルミ』~東方大陸の大国『グランバニア王国』間の
海路の中継地点として繁栄した。―

ふーん…交易の町オラクルベリーかあ。道理で商人の姿が多いわけだ。

…さて、この活気溢れる都市で俺達はなぜ途方に暮れているのだろう?



…なぜ俺達は無一文なのだろう?



「………」 びしっ!
「痛!」

ヘンリーのチョップが俺の脳天に叩き込まれる。
はい、チョップの理由は俺自身よくわかっています…

「………」

わかっています。謝りますから何か喋ってください。
謝りますから…(#^ω^)←こんな顔で俺を見つめないで下さい。

「まあ…ね…過ぎた事を責めても仕方がない。問題はこの後どうするかだ。」

サトチーの気遣いの言葉の裏に感じる疲労感が重いです。


オラクルベリーに辿り着いた俺達は、武器の新調を考え、武器屋に足を運んだ。
攻撃魔法が使えるサトチーとヘンリーはともかく、近距離戦がメインの俺にとって、
武器の性能は死活問題。
(…岩を降らすヤツもマスターしてないし…てか、あれから一度も成功してねえ…)
また、サトチーのチェーンクロスも10年前に買ったという事でだいぶガタが来ており、
攻撃魔法が得意なヘンリーも、魔力が尽きた時を考えるとある程度の武器は必要。
てなわけで武器屋に訪れたわけだが…

「う~ん…全然金が足りないなあ…」
「僕達は脱走した身だからね。何か売れる物あったっけ?」
「売れる物…さっき拾ったハンマーと…俺のブルゾン…結構気に入ってるんだけど…」

結局、ブラウニーが落としたおおきづちと、俺のお気に入りのブルゾンを売っても
145Gにしかならなかった。
内訳は汚いハンマーの売値が110G、俺のブルゾンが35G…

『はあ?下北沢で20000円もした俺のブルゾンが何で汚いハンマー以下なんだよ!
 旅人の服?何だよソレ?どこに目ぇ付けてるんだこの×××が!!』

…と、言いたかったけど武器屋の店主は筋肉隆々の覆面男。逆らったら多分死ぬ。
ガックリと三人で肩を落とす。俺チョット涙目。
コッチの世界ではファッション性よりも、武器防具としての性能が価値基準らしい。

「こうなったら勝負をかけるしかないな。」

最初に持っていた500G強と、今の145Gを合わせて700G弱。
この逆境から這い上がる方法は一つしかない。

「いざ行かん。俺達の未来を煌々と照らすあのネオン(カジノ)の下へ!!」


「ほら、止めなかった僕たちにも責任はあるからさ…」

むくれるヘンリーをサトチーが必死になだめる。

スロットには自信があったんですよ。
目押しには絶対の自信があるんでコッチでも何とかなると思ったんです。
世紀末の覇者だって何度も昇天させたしさ。
でも、コッチのスロットは目押しできねえの。自分でビックリです。

…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…

全額カジノのスロットマシーンにつぎ込んで、あっという間にスカンピン。
今夜の宿代も失い、暮れ行く都会の道端で佇む三人。
奴隷労働から逃げ出したと思ったら路上生活者か…世は無常だなあ…

ずっとむくれてたヘンリーは、カバンに入ってたガムをあげたら機嫌が直ったようで、
壁に背をもたれてクチャクチャやってる。
緑髪の男が道端でガムをクチャクチャやってる姿はどう見てもDQNだがあえて触れない。
店の主がマッチョな覆面だったり、バニーガールが普通に町を歩いてるような世界だ、
町の人もDQNには免疫があるのだろう。


…バニー?


ウサ耳、バニースーツ、フサフサ尻尾、網タイツのバニーを雑踏の中に見つけ、
俺の両眼がスナイパースコープのようにその姿をサーチする。

スキャン開始

顔偏差値…70
スリーサイズ…B91 W58 H86
足ライン…規格クリア
衣装ポイント…+500ポイント
総合偏差値…測 定 不 能
戦況…相手は重そうな袋を両手に下げ、さらに大きな箱を抱えている。

結論…
我々は今、このト・キ・メ・キ☆を結集し、バニーちゃんに叩きつけて
初めて真の愛を得ることが出来る。あのウサ耳こそ、男達全てへの最大の魅力となる。
俺よ立て!思案を煩悩に変えて、立てよ俺!バニーちゃんは俺の力を欲しているのだ。
ジーク・バニー!!
アホか俺…って、なんかコッチ見てる…え?向こうから近付いてきた。

「ねえ。ちょっとだけ私の仕事場に来てもらえないかしら?」

疾風の如くYES。
もうお兄ちゃん君の荷物を持っちゃうよ。

「ありがとう。それじゃあ箱は私が持つから袋をお願いてもいいかしら?」

(心の中で)高く飛び上がり、(心の中で)回転しつつYES。
なにやら食材が大量に詰まった買い物袋の重さも感じないぜ!

「ねえ、あのターバンのお兄さんもお友達でしょ?一緒に来てもらえないかしら?」

あ…なんだか一気に袋が重くなってきたなあ…

仕事場まで一緒に来て欲しいと言うバニーちゃんの後を、俺たち三人がついて行く。
…俺だけが重い買い物袋を両手に下げて。

「ただいま~☆」

バニーちゃんの仕事場は町の一角の地下。
中にいたのは…爺さん一人?あれ?地下バーじゃなかったの?

「おかえり…おや?その人達はどなたかな?」
「町で見付けた旅の人なんだけど…どうかしら?」
「ふむ…」

爺さんが俺達の顔を交互に眺める。

「どうなの?おじいさん。」
「うむ、良くやったのイナッツや。合格じゃ。」
「きゃー☆ついに見付けたのネ☆」
「あの~…さっぱり話が読めないんですけど…」

サトチーが不安そうに、キャーキャーはしゃぐ二人の間に割って入る。
ヘンリーは…話を聞いてない…てか、まだクチャクチャやってる。
ガムがよっぽど気に入ったんだな。

「おお、初対面の方に失礼じゃったな。スマンスマン自己紹介がまだじゃった。
 ワシの名はエントレ。『モンスター爺さん』と呼ばれておる。
 モンスターと人の共存をテーマに、ここで日々研究をしておる。」
「そして私はイナッツ。モンスター爺さんの助手よ。ヨロシクネ☆」
「はぁ、よろしく…」

モンスター爺さんがサトチーを見つめ、話を続ける。

「ワシ等は、研究の一環として『モンスター使い』の素質のある人間を探しておった。
 本来、人間にとって敵であるモンスターを手懐ける事のできる能力者じゃ。
 イナッツが町で素質のありそうな人をスカウトし、ワシが判定しておったんじゃが、
 やはりモンスターへの恐怖心や敵対心が強すぎる者ばかりでのう…
 どうしても、モンスターが味方になるとは信じられないと言う者ばかりじゃった。
 じゃが、お主の目は違う。お主はモンスターをただ敵としては見ておらん筈じゃ。」

何か思案に耽る顔を見せていたサトチーが口を開く。

「…仰る通りです。僕は子供の頃にベビーパンサーと旅をしていました。
 理由あって、そのモンスターの子とは離れ離れになってしまいましたが…
 モンスターと人とが通じ合う事は可能だと思っています。」

静かだが、力強い答えにモンスター爺さんがうんうんと頷き返す。
「うむ、お主ならば旅の中で多くのモンスターを手懐ける事が可能じゃろうて。
 モンスターへの愛を持って戦えば、モンスターはその心に応えてくれよう。
 どうじゃろう?ワシの研究の手助けをしてくれる気はないかの?
 心配せんでも、お主等の旅が終わった時に旅の話が聞きたいだけじゃ。
 その話だけで充分に研究の助けになる。」

そのくらいなら…と、承諾するサトチー。

モンスターへの愛を持って戦う…かあ。
難しそうだな。
情熱的に『アイラビュー!』とか、叫びながら剣を振る?
それとも、控えめにラブレターを剣でモンスターに突き刺す?
組み伏せた相手の耳元でロマンチックに愛のポエムを囁きつつ絞め落とす?
遠くから激しいラブビーム(メラ)でモンスターの心臓(ハート)を狙い撃ち?

もしくはこうか?
\愛のイオナズン! スライムさんに届け!!
   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

  ⊂二 ̄⌒\  ハァハァ          ノ)
     )\   ( ∧_∧         / \
   /__   )*´Д`)    _ / /^\)
  //// /       ⌒ ̄_/
 / / / // ̄\      | ̄ ̄
/ / / (/     \    \___
((/         (       _  )
            /  / ̄ ̄/ /
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         / /   (  /
        / /     ) /
      / /      し′
    (  /
     ) /                          人
     し′                      Σ (∀・)<ビクッ!!
……違うよな。わかってる。

「ねえ…おじいさん…」

イナッツちゃんがモンスターじいさんにヒソヒソと耳打ちする。
何やら俺をチラチラ見てる。さては惚れられたか?

「うむ…その話は後でよい。…で、その箱は何じゃ?」

モンスター爺さんがイナッツちゃんの持っていた箱を指差す。

「そうそう、さっき町外れで泣いてるモンスターの子を見付けてね、
 可哀想でココに連れて来ちゃったの。何かワケありの子じゃないかしら?」
「ふむ、話を聞いてみようかの。どれどれ?」

爺さんが箱の中を覗き込み、なにやらブツブツと話し掛ける。
箱の中からはギュイギュイと意味不明な声が聞こえる。
あの箱の中身はモンスターだったのか…持たなくて良かった。

「ふむふむ…なるほどのう。この子が大事にしていた武器を人間に奪われたそうじゃ。
 可哀想に…酷い人間がいるもんじゃ。」
「はぁ~…とんでもねえ人間がいるもんだ。同じ人間として恥ずかしいや。
 ホラ、チビスケ。ガムやるから泣きや…め…??」

箱の中のモンスターにガムを差し出した俺の手がピタリと止まる。
箱の中で泣いていたのは、さっき戦闘でぶっ飛ばしたブラウニー。
やあ、久しぶりだね。

ん~?て事は、こいつの武器を奪った酷い人間って俺?
こいつの武器って確か…

「あぁ~…ゴメン。あのハンマー売っちゃった。テヘッ☆」

―!!!?!?!!!!―

「だからゴメン…痛!!暴れるなって、な?もう泣くな。ホラ、ガムやるから。」

カバンからガムを取り出そうとした俺の目に、とある物が映る。

「…なあ、サトチー。魔法効果があるアイテムって、いくらくらい?」
「魔力がこもったアイテムは高いよ。消耗品の爆弾石で600Gくらいするし、
 破邪の剣とか炎の爪みたいな魔法武器になると5000G以上はするね。」
「小さな火が出せるアイテム…高く売れるかな?」

俺の手に握られていたのは『100円ライター』
コッチの世界ではさしずめ、
―メラの効果がある道具。何度か使うと壊れる。(コッチの世界では)非売品。―
…って所か。結構いい値段で売れるんじゃねえ?

「へえ~、初めて見る物だけど、それなら相当高く買い取ってくれそうだ。
 …でも、売ってしまって良いのかい?珍しいアイテムじゃないの?」
「いや、俺の世界では安く買えるんだ。さあ、早く武器屋に行ってみようぜ。
 コイツのハンマーも買い戻さなきゃいけないしさ。」

大人しくガムを噛んでいるブラウニーを挟んで、顔に希望を浮かべるサトチーと俺。

「…なあ、その前に教会に行かないか?」

唐突に、さっきから黙っていたヘンリーが口を開く。

「え?どうしたヘンリー。毒でも喰らってた?だったら毒消し草が…」
「…いや…(クチャクチャ)このキャンディー呪われてるらしくてさ。
 いくら舐めても、いくら噛んでも全然なくならないんだ。(クチャクチャ)
 もうさ、顎が疲れて泣きそうだぜ…(クチャクチャ)」

いや、ソレはガm「呪いだって?大変だ。すぐに教会で解呪してもらわないと!」
説明する俺を無視して、血相を変えたサトチーが半泣きのヘンリーを教会へ引っ張る。

…コレが異文化交流の難しさってヤツかね?

三人(+ブラウニー)が出て行き、静まり返った地下室。
三人を見送ったイナッツが、モンスター爺さんと向かい合っている。

「ねえ、おじいさん。さっきの男の人…」
「彼は良いモンスター使いになろうて…心配することはない。」
「ううん…違う。」

チラチラ揺れるランプの炎と、その炎によって揺らされる二人の影以外、
この場所で動く物はない。

「…魔王の魔力によって歪められた存在。それがモンスターじゃ。
 そして、魔王の魔力は生きている人間の魂を歪める事はない。」
「……うん。でも、あの人の魂はモンスターより…」
「…モンスターを超える魂の歪み…魔王の魔力によらない歪んだ存在…
 どちらも存在するはずはない…のじゃがのう…」

爺さんの座る椅子が、キィ…と小さな音を立てて軋む。
そして、再び無言の時間が流れ出した。




イサミ  LV 5
職業:異邦人
HP:41/41
MP:7/7
装備:E銅の剣 E布の服
持ち物:カバン(ガム・ライター他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成)

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