その町のメインストリートである大通りを歩く人々の顔は暗い。
通りに沿って並ぶ家々の窓は全て壊され、人同士の争いの醜い傷跡を残す。
路地裏では、複数の衛兵が一人の男をを取り囲み、私刑の真っ最中。
それでも、道行く人々の誰もが、我関せず…
荒廃したスラム街。かつては北方の都と呼ばれたラインハット城下町の今の姿。

城下町に入ってから、ヘンリーはずっと険しい顔のまま歩き続けている。
その表情から読み取れるのは、国民を苦しめる王家への怒り…
愛する国が荒廃しきっている現実の悲しみ…
不可抗力とは言え、国を守れなかった自分への悔しさ…
それでも、メインストリートの奥にそびえる城を捕える眼光は力強い。

サトチー・ヘンリー・ブラウン・俺の四人は、逸るヘンリーを抑え、
城に程近い場所にある寂れた宿で部屋をとる事にした。
勿論、サトチーや俺にとっても、急いで城へ向かいたいのは同じだが、
夜営続きで一行の疲労は頂点に達しており、この状態で厳戒態勢の城へ
向かうのは危険だというサトチーの判断だ。
日中は出歩きたがらないスミスは、馬車番として町の外れで待機している。

寂れた宿の埃だらけの窓から見える、スラム街と化した城下町とは不釣合いな城。
ヘンリーの生家でもある城の城門は固く閉ざされ、一切の来訪者を拒むように
物々しい雰囲気を漂わせている。

「確かに、城の内情が把握しきれていない現状では、正面からの突入は危険過ぎる。
 城の外堀から城内へ通じる、王族専用の地下通路を使って浸入しようと思う。」
夜の話し合いで、ヘンリーが出した提案を採り、俺達は明朝ラインハット城内へ
地下から浸入する事が決定した。

「それじゃあ、今夜は良く休んで明日に備えよう。明日の隊列と作戦は…」

窓から見える夜のラインハット城は、昼間と同じく不気味な沈黙を保ったまま、
ちっぽけな俺達を見下ろして威圧しているかのように建ちそびえていた。

          ◇           ◇
…眠れない…

今夜に限った事じゃないけどさ。
何度も窓の外の月に目をやって、何度も無為な時間が過ぎた事を実感する。
森の中でのスミスとの会話が離れない…

―世界の流れを狂わせるバグ―

気持ちを落ち着かせようと、枕元の水差しを手に取る…が、水差しは空っぽ。
「…井戸はすぐ近くだったよな。」

宿帳をチェックしている女将さんに声を掛け、宿のすぐ傍にある井戸へ向かう。

井戸から掬った水は冷たく、渇いた俺の喉に染み渡り、血が上った頭を休息に冷やす。
色々と不便な世界だけど、こっちの世界の水はミネラルウォーターよりも純粋で旨い。

…今の俺がどうこう出来る問題じゃないのはわかってるけどさ…あれ?

「あれ?イサミ…そっか、お前も眠れないのか。」
カップを片手に宿から出てきたのはヘンリー。彼もまた眠れずにいたのだろう。

「水か?ほら。」
「ん。ありがとな。」
水差しから注がれた冷たい水を飲み干し、ふぅ…と、一息。
そして…暫しの無言。

「王家は…デールはどうなっちまってるんだろうな…」
月に照らされた城の方の目を向け、ヘンリーが口を開く。

デール…確かヘンリーの異母弟で、今のラインハットの国王だったな。
ラインハットが狂っている現状では、国王のデールに何かあったと見るのが当然だ。

「もし、この国がこうなっちまった原因がデールの弱さによるものだったら、
 俺は王家に戻って、デールを支えて国を建て直す。だが、もし…」
城の方に向けていたグリーンの瞳を地に落とし、深く呼吸をする。

「もし、元凶がデール本人であるのなら…俺がこの手でデールを斬る。」

王家の人間としてではなく、兄としての決意。
そうでないで欲しい…いや、そうでないに決まってる。
悲し過ぎる決意と、小さな希望。

「…全部、明日になればハッキリするんだよな…」
そう言うのが精一杯。何の答えにもなっていない曖昧な返事。
俺達が願う希望は夜の星のように小さい。

気が利かない薄雲は、夜空に広がって小さな星すらも覆い隠す。
薄雲に消え入りそうになりながら、儚く浮かぶ月はそれでもなお公平に、
荒れた町と、狂った城でもがく俺達を照らしている。

そろそろ戻ろうか…そう言い掛けた俺達の耳に入る轟音。
ドン! ドン!と立て続けに数発、夜を引き裂くような轟音。

そして、元通りの夜の静寂。

「な…なんだ?城の中から…」
「イオよりも派手な音だな…こりゃ、本当に城の中がおかしいぞ。」
「とにかく今日は宿に戻ろう。全部、明日になればわかる。」

怪訝な顔をするヘンリーを促し、宿に戻る。
宿に戻った俺達の表情を見て、女将さんが溜息をつきながら話す。

「ふぅ…今夜も派手にやってるわね。驚いたでしょう?」

薄暗く、堀に通じるからかジメジメとした地下通路。

「…で?本当にヘンリーの王家はどうなってるわけ?」
いきなり喧嘩腰だが、今日の俺は機嫌が相当悪い。
と言うのも、昨夜は結局明け方まで眠れず、やっとの事で眠りについたところで、
ブラウンのハンマーによる爽やかな痛恨の一撃で起こされた。
朝一で側頭部にハンマーの一撃を喰らって、当然悶絶。
寝た筈なのに、HP15位は減った気がする。

本来の寝起きの悪さ+ブラウンによる爽やかモーニング+今の状況
これだけの要素が揃って陽気でいられるほど俺は聖人じゃない。

「いやあ、確かに外敵対策としては素晴らしいんだろうけどね。」
「サトチーも笑い事じゃねえってば。城の地下通路にモンスターが放し飼いって、
 どんなセキュリティーシステム採用してるんだよ?」

王族専用非常脱出経路に、ガメゴンやクックルーや腐った死体を放し飼いにする王家。
これじゃあ、いざ脱出って時にモンスターの餌になっちまうだろ。

まあ、機嫌の悪さが一つの原動力になってか、ここのモンスター達に苦戦はしない。
守りに入ったガメゴンですら、固い甲羅の上からの怒涛の連撃で叩きまくる。

コノヤロウナニビビッテヤガルゴルァテメエノスズシゲナメツキガキニクワネエンダヨグゲァーカミツキヤガッタコンチクショウ…

「…イサミ、相当荒れてるね…」
「まさか、あそこまで寝起きが悪いとはなあ…」
「ブラウンに『起こしておいで』って、曖昧な命令したからまずかったのかなあ…」
「あ…凄え、ガメゴンを剣で叩き潰しやがった。」
「…あれ?おかしいなあ。」
「ふぅ。相変わらず固ってえの。」
半ば八つ当たりでガメゴンを叩き潰し、一息。さすがに疲れるな。

「はーん…なるほどね、イサミはハンマーで起こせば戦力が上昇するんだな。」
ヘンリーがニヤニヤしながら恐ろしい事を言う。
「勘弁してくれよ。毎朝痛恨じゃ溜まったもんじゃ…ん?どうした?サトチー。」

普段は真っ先にねぎらいの言葉と回復魔法を掛けてくれる筈のサトチーの反応がない。
難しい顔をして、なにやら考え込んでいるような…

「サトチー?」
「ん?…ああ…お疲れ様、イサミ。怪我はないかい?」

やっぱり様子がおかしい。

「なあ、サトチー。何かあった?」
「え?…いや…そうそう、さっきガメゴンに噛み付かれたところ治療しなきゃね。」

サトチーが俺に回復魔法をかける。
その温かな光はいつもと同じだけど…

「あの…サトチー?…もう治ってるけど、いつまで続けるんだ?」
「え?…ああ、済まない。ついボーっとしちゃって。」
「おいおい、大丈夫か?サトチーも寝不足なんじゃねえの?」

ケケケと笑うヘンリーに、心配ないと返すサトチーの表情はいつもと同じ。
続いて、ブラウンの治療に入るサトチー。優しい言葉をかけながら回復魔法を唱える。

…いつもと同じ…かな?気にし過ぎか。

「はい、おしまい。ブラウンとイサミは最前線で消耗も一番激しいだろうからね。
 どこか調子悪くなったらすぐ言うんだよ。」
「そう言えば、ここは城の地下牢も兼ねてるんだったな。」
治療中、周囲を警戒していたヘンリーがボソッと呟く。

冷静に周囲を見渡してみると、なるほど鉄格子がいくつも見える。
囚人は皆、生気のない恨めしそうな目で俺達を眺めている。
何となく、俺達が奴隷として放り込まれた神殿の宿舎を連想させて嫌な気分になるな。

「あれ?…まさか、あの人…」

突然、数多く並ぶ鉄格子の一つ目掛けてヘンリーが走り出す。
誰だ?知り合いか?

「誰か?わらわを助けに来てくれた者かえ?」
その初老の女性は他の囚人と違い、薄汚れてはいるが豪華なドレスを身に纏い、
言葉使いからも高貴な身分の出身である事が窺える。

「なんで…なんで太后のあんたが牢に入ってるんだ?デールはどうした?」
ヘンリーが牢の中の女性に詰め寄る。

ラインハット大后…王妃のいないこの国では、王に次ぐ身分の筈だが、
その王家の有力者が地下牢に幽閉されている。

「そなたは…まさか…ヘンリーかえ?」
「ああ、ヘンリー=ブローマ=ベルデ=ド=ラインハット、あんたの義理の息子だ。」
「おお、10年間よくぞ生きて…許してたもれ、わらわが間違っておった。」

大后の口から告げられた告白は衝撃的だった。
10年前、奴隷商にヘンリーを攫わせたのはこの大后。
王家の長男であるヘンリーを消し、自分の実の子であるデールを王位に就かせようと
裏で画策をした…とんでもねえ女だな。放置しといて良くね?…あ、ダメ?

「待てよ。あんたがここにいるって事は、誰がこの国を動かしてるんだ?
 誰がこの国を腐らせてやがるんだ?」
てっきり、大后が国を動かしていると思っていたのであろうヘンリーの語気が強まる。

「他でもない…我が子にして、ラインハット国王デールじゃ。」

場の空気が凍る…

呼吸も出来ないほどの冷たい空気…

湿っぽい地下牢の空気が、乾いた物へと変わる…

「デールは、ラインハット王国を世界の頂点に君臨する国にしようと国民に重税を課し、
 若い男達を兵役に就かせ、税金と兵役労働の者を使って他国侵略の準備を進めておる。
 さすがにやり過ぎじゃと進言したわらわをここに幽閉したのも…」

大后の言葉を聞いたヘンリーの顔色が見る見る青白くなり、唇が震え出す。
当たって欲しくなかった最悪の予測…


「ヘンリー…まだ、僕達は全てを知ったわけじゃない。城へ行こう。」
サトチーがヘンリーの肩を叩く。

そうだ、まだ実際にデールに会っていない。
直にデールの口から真実を聞くまでは…

「わかってる…大后さん、暫く待ってな。近い内に出してやるからさ。」
「待て!待つのじゃヘンリー!まさか、そなたデールを…」

無言で踵を返すヘンリーの目は、今まで見た事のない荒々しく悲しい炎を宿し、
その手は、腰に下げた鋼の剣に掛けられていた。

暫くの間、触ってみたり、ひっくり返してみたり、ハンマーで殴ったりしていたが、
中庭のアレについては、今の段階では何もわからない。
わからない物の正体を探るよりも、今の俺達が優先すべきはデールに会う事。
中庭に繋がる勝手口から城内へ侵入し、デールがいるであろう謁見の間を目指す。

「ストップ。」
先頭を走るヘンリーが大きな扉の前で立ち止まり、後に続く俺達の足を止める。

「大広間の中から大勢の人の気配がする。」
渡り廊下の突き当たり。謁見の間から階段を下りた真下に位置する大広間。
豪華な装飾が施された巨大な扉は閉じられ、中の様子を窺い知る事は出来ないが、
ヘンリーの言う通り、扉の向こう側からざわめきが聞き取れる。

ほんの少しの扉の隙間から中を覗き込むと、多数の兵士の姿が見える。
「なるほどねえ。ここに城の兵士が集まってたから、警備が手薄だったのか。」
「城下守衛兵に王家近衛兵…番兵まで集まってるな。一体、何が…」
「静かに。何か始まるみたいだ。」

ざわついていた扉の向こうが一瞬で静まり返り、空気が緊迫した物に変わる。
コツ…コツ…と、張り詰めた静寂が支配する広間の中に己の足音を大きく響かせ、
大広間と上階とを繋ぐ階段をゆっくりと下りてきた男。
女性の様に艶やかな金髪とはアンバランスな、鋭い眼光が印象的だ。

「…あれは…デール…」

…あの人がヘンリーの弟、現ラインハット王デールか…イメージとは随分違うな。

ヘンリーの口から聞いていたデールは、優しい性格だが気弱で鈍臭い面もある…
いわゆる、イイ人なんだけど頼りない彼…って感じのイメージだったのだが、
今、姿を現したデールから感じられるのは、猛禽類のような油断のない目と、
王…と言うよりも、暴君のような威風堂々とした立ち振る舞い。
事前情報が間違っているのではと錯覚させる、冷たい威圧感を感じさせる。

恰幅の良い貴族風の男―大臣だろうか?―が、最敬礼を持って王を演説台へと導く。

「我がラインハット軍は、近日中に商業都市オラクルベリーを侵攻・制圧する。」

女性のような艶やかな金髪とはアンバランスな、鋭い…冷たい目で広間を見渡す。
王の言葉に、若干どよめく兵達…それを一通り眺め、さも満足そうに手を上げる。

ぴたり…と、元の静寂を取り戻す広間。王の演説は続く。

「自治都市であるオラクルベリーを落とし、それを拠点としてポートセルミに侵攻。
 西方の物資さえ手にすれば、テルパドールやグランバニアの軍も恐るに足らず。
 北方、西方、南方、東方、全ての大陸を制覇し、我がラインハット王国は未来永劫、
 世界の頂点に君臨する国になる!諸君等はその輝かしい歴史の目撃者となるのだ!」

熱を帯びたデールの言葉に、広間の中に歓声が挙がる。
城の中、全てが狂ってる…侵攻…侵略…制圧…誰もそれをおかしいとは思わないのか?

「デールの奴、マジで言ってるのか…」
世界の制圧…それを口にしたのは、紛れもないデール本人。
眉間にしわを寄せたまま、ヘンリーの手が鋼の剣に掛けられる。

「待つんだ。今、騒ぎを起こすのはまずい。」
今にも扉を蹴り飛ばして広間に乱入しそうなヘンリーを、サトチーが押し留める。

―元凶がデール本人であるのなら…俺がこの手でデールを斬る―
俺の頭の中でリフレインするヘンリーの言葉。

「ところで…」
声量は大きくないが、歓声を突き破って聞こえる王の声。
先ほどの熱が冷めたように、底冷えのする冷たい声。

「扉の外に来客のようだ。丁重にもてなせ。」

!!バレてる!?

頭が認知した時には既に広間の扉は開け放たれ、槍を構えた兵達に取り囲まれていた。

「参ったね…まさか、最初からバレてるなんて思わなかったよ。」
大人しく手を上げ、無抵抗の意思を示すサトチー。
さすがに、多勢に無勢。俺も仕方なくそれに従う。(ちなみにブラウンも)

「先日、オラクルベリーに浸入した密偵から―南の修道院に怪しい三人組が漂着した―
 そう連絡が入りましてね。調べてみたら、ヘンリー兄さんの可能性が大。
 本当にヘンリー兄さんだったら、城門が閉ざされていても王家の地下通路を通って、
 城の中に侵入してくるはず…まあ、僕の予想通りです。」

クスクスと笑いながら愉快そうに話すデール。
対峙するヘンリーの目は、明らかな敵意を放ち続けている。

「デール…さっきの話は本気なのか?」

剣の柄に手を掛けたまま問い掛けるヘンリー。それをデールは余裕の表情で眺める。

「よく聞いていなかったみたいですね。僕は本気ですよ。」

あっさりと肯定するデール。その言葉を合図に、ヘンリーが鋼の剣を鞘から抜き放ち
…かけた所で、その先の動作は再度サトチーによって阻止される。

「賢明ですね。兄さんが剣を抜いていたら、こちらにも多少の犠牲は出たでしょうが、
 僕の所に刃が届く前に、そちらは全員串刺しになっていましたよ。」

デールは相変わらず冷たい笑みを浮かべたまま、懐から取り出した葉巻を加え、
横に控える大臣に手を差し出す。
大臣から手渡されたのは、豪華な細工が施された小さな金色の…

「どうです?貴方達もラインハット軍に協力する気はありませんか?
 今なら、それなりのポストは用意できますが…」

金色の物体から迸る小さな炎を葉巻に点け、細く煙を吐き出す若い王。


…え?


アレって…もしかして…

「…っざけるなあっ!!」
怒りが理性のタガを弾き飛ばし、ヘンリーが剣を抜き放つ。

「抜きましたね…残念です。」
笑みの消えた表情…大臣が手にした灰皿に葉巻を押し付け、王が手を上げる。
手が振り下ろされた時、広間内の全ての兵が俺達に槍を突き出すのだろう。
そして、その瞬間は思ったよりもあっさりと…

「…やれ。」

無常な合図に、広間を支配する怒号…雄叫び…
一瞬視界から消え、その一瞬後には同時に繰り出される無数の先端…
剣を構える暇もない…死を覚悟する暇さえも…
誰かに肩を掴まれる…視界が真っ白になる…

思わず、目を瞑る…

…が、その瞬間はなかなかやって来ない。


そぉーっと目を開けると、ラインハット城下町の光景が目に入ってきた。

「危なかったね。キメラの翼を使うタイミングが遅れていたら今頃は…」
あの瞬間。サトチーが宙に投げたキメラの翼は、俺達を城下町の外れまで転送した。

そうだ…ヘンリーは?
弟の心変わりを目の当たりにしたんだ。正気でいられる筈が…

「何をボーっとしてるんだ?早くここを離れないと追っ手が来るぞ。」
俺の心配をよそに、ヘンリーは御者台に上がり、馬を繰る手綱を握っていた。

…あれ?意外と冷静。

「デールはオラクルベリーに侵攻すると言っていた。そして修道院も…
 今は修道院のみんなを安全な所へ非難させるのが先決だろ?」
言いながらヘンリーが手綱をグイッと引き、パトリシアが軽くいななく。

「ほら。イサミも早く乗り込まないと置いて行かれるよ。」
サトチーに促され、慌てて馬車に乗り込むと同時に全速力で走り出す馬車。

逃げるわけじゃない。守るのが俺達の役目。俺達はその為に戦う。

馬車に揺られながら、ふと、御者台に乗るヘンリーに目をやる。
荷台からは、手綱を操るヘンリーの顔は見えない。けど、その表情は想像できる。

ヘンリーは、俺達に背を向けてさめざめと泣くような弱い男じゃない。

「…な?ブラウン?」
よくわからないという表情を浮かべるブラウンの頭を軽く撫でてやる。


夕暮れの道を馬車が走る。

守る物の元へと急ぐ男達を乗せる馬車は、逢魔ヶ時の暗がりの中で一層輝いて見えた。

          ◇           ◇

日没の夕闇に溶け込むラインハット城、謁見の間。
玉座に座らせた女性の膝枕に寝そべる若い王と、その前に跪く大臣。

「申し訳ありません。追っ手を差し向けたのですが、取り逃がしました。」

深々と頭を下げる大臣を見下ろして、クスリと笑って見せるのは若い王。

「深追いせずともよい。どうせ、行き先はオラクルベリー南の修道院だろう。
 逃げ道を塞ぐ為に、わざわざ情報を与えてやったのだから…ねえ、ママ?」

ママと呼ばれたのは、王の頭をその膝に預ける女性。

その身を包むのは、華やかな紫のドレス。宝飾品の類は一切身に着けていない。
薄紫のベールに覆われた顔は、その目からしか表情を探る事は出来ないが、
鮮やかに彩色された長い爪が、王の柔らかな金髪をサラサラと撫でる。

恍惚の表情を浮かべながら、王が告げる。

「アレを放て…標的は、国賊ヘンリーとその一味。」



イサミ  LV 14
職業:異邦人
HP:56/71
MP:11/11
装備:E天空の剣 E鎖帷子
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌

ページ先頭へ
もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら@2ch 保管庫