あのゴタゴタの後、城の中はそれ以上にゴタゴタになっちまった。
当然だよな。国の在り方を変えちまう様な大事件だったんだもんな。

一堂に集められたラインハットの王族や貴族達で緊急対策会議中。
今回の事件を、どのような形で国民に発表するか、誰が発表するか、
どこまでの内容を発表するか…会議は揉めに揉めているらしい。

まず人選。強いカリスマを持つ大后は、長い幽閉の影響で床に伏せっている。
大后が無理のきかない体である以上、発表はおのずとデールからになるだろう。
次に内容。『散々国民の皆さんを苦しめていた王は正気じゃありませんでした。』
…なぁんて発表したって誰も納得しないのは火を見るより明らか。

長い会議の結果、
『王と大后は偽物だった。長旅から凱旋したヘンリー様とその一行が偽者を成敗し、
本物の王と大后を無事に助け出した。めでたしめでたし。』
…って内容の声明を国民に発表する事になったんだ。
大后が偽者だったのは事実だけど、王まで偽物だったいう内容にしたのは、
国民の反発心を最小限に抑える為…らしい。偉い人ってのは大変だな。

その夜、城の中庭には多数の国民が集められた。
不審そうな…不安そうな表情の国民達は皆ざわざわと落ち着かない様子。

バルコニーから国民の前に姿を現すデール。水を打ったように静まり返る中庭。

「この国を狂わせ、大事な国民を苦しめたのはこのデール。弁解の余地はない。」

皆の顔が凍りついた。勿論、俺達の顔も。

「国の混乱は全てこのデールの弱さが招いた事。謝って許される事ではないが…
 償いはさせて欲しい…兄さん、こちらへ…」

バルコニーのデールに手招かれ、ヘンリーがデールの横に立つ。

「兄さん…この場で僕を斬り捨てて下さい。」

デールが悲しい笑みを浮かべながらヘンリーに剣を手渡す。

「僕の命で許されるとは思っていませんが…せめてもの償いです。
 兄さんなら国を立て直せる…どうか…国をお願いします。」

償いって…命を捨ててどうするんだよ!ヘンリーと一緒に国を立て直せば…
間に入ろうとした俺達を制したのはヘンリー。

「そうか…俺も覚悟を決めていた事だ。そこになおれ。」

冠を外したデールは、ヘンリーの前に進み出て目を瞑る。
駄目だ…そんなの絶対に…やめろ…

「……でえぇぇぇい!!」 ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」

ヘンリーの渾身の平手がデールの尻を引っぱたく。
うわぁ…痛そう……って、アレ?

「覚悟決めてたんだ。国が乱れた原因がデールの弱さによるものだったら、
 城に戻ってその尻っペた引っぱたいてやる…ってな。」

ヘンリーが民衆に向かい合い、大声で叫ぶ。

「国の皆!こいつのしでかした事がこれっぽっちで許されるとは思っちゃいねえ!
 だから…今日は皆の気が晴れるまでこいつに灸をすえてやる!!」
ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」

「まだまだぁ!!」 ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」

延々と繰り広げられる公開お仕置き尻叩き。
最初は唖然としていた民衆だが、次第にその中から笑い声が漏れ始める。

「おらあっ!反省しやがれえっ!!」 ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」

笑い声は次第に大きくなり、やがて歓声となって中庭を埋め尽くす。

「子分のクセにでしゃばりやがってぇっ!!」 ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」
「俺が帰ったからには二度と好き勝手はやらせねえぞ!!」 ばちぃぃっ!
「痛あぁっ!!!」
『いいぞ!もっとやれー!!』 『ヘンリー様が戻られれば国は安泰だー!!』
『デール様ー!応援しておりますー!!』 『思いっきり引っぱたいてやれー!!』

「これからは…ずっとずっと俺と二人で国を守るぞおっ!!」 ばちいぃぃっ!!!
「痛あぁぁぁっ!!!」

涙で顔中をグシャグシャにするデールを引き起こすヘンリー。
ヘンリー自身も涙目で荒い息をしているが、息も正さずに民衆に向かって叫ぶ。

「俺は王家に戻って国を建て直す!!この泣き虫な馬鹿王と一緒にだ!!
 親分が直々に後見人になるからには、二度と国民に苦しい思いはさせねえ!!
 今宵、俺達兄弟の姿を目に焼き付けろ!!俺達の働きを見届けろーーーっ!!!」

わあっ と、一際大きな歓声が中庭に挙がる。
ヘンリーを讃える声…デールの名を呼ぶ声…二人を応援する声。
さながら大物ミュージシャンのライブ会場の如く盛り上がる民衆。
俺も素直に感心した。やっぱり、ヘンリーのカリスマは天才的だ。

        ◇           ◇
そして よがあけた …ってやつ?
ラインハット城下町を一望できる国賓用の寝室で朝を迎えた。
うん、なんて清々しい朝だ。

…この二日酔いの気分以外は…

昨日の演説の後、悪ノリしたヘンリーが国をあげての大宴会を宣言。
王族も兵士も国民も死体も一緒になって朝け方まで飲み明かした…ってわけ。

「昨夜はお疲れ様でした。僕も王という身分を忘れて楽しませて頂きました。」

旅立ちの前に謁見の間に立ち寄り、デールに別れの挨拶をする。
サトチーもデールも昨日の宴ではだいぶ酔っていた筈なのに清々しい顔をしている。
下戸のフリして実はザルなんじゃねえの?

「国を救って頂いた事、国民を代表してお礼を申しあげます。本当にありがとう。」

デールは玉座から降り、俺達の前に片膝をついて頭を下げるデール。
その肩に手を置きながら、サトチーが優しく語りかける。

「頭を上げて下さい。デール王。あなたが頭を下げる相手は僕達ではありません。
 あなたを…国を信じて進み続けたヘンリーこそラインハットの救世主です。」
「ヘンリーの活躍がなかったら、俺達もとっくの昔に全滅してましたからねえ。」

…あれ?いつもならここで入る筈のヘンリーの茶々がない。

「えぇ、兄には一番にお礼を言おうと思っていたのですが…」

途端に難しいものになるデールの表情に思わず俺も身構える。

まさか…ヘンリーの身に何か…

「朝から兄の姿がないのです。城中どこを探しても…」
「いない?こんな時に一体どこに…」

デールの顔が横に振られ、嘆息した様な深い溜息をつく。
家出した子を案じる親の様なデールの表情を見ていると、どっちが兄だかわからない。

「ご存知の通り、兄は堅苦しい王家のしきたりを好まない性格の人ですから…
 勝手に城を抜け出してハメを外してなければ良いのですが…」
「これから苦労しそうですね。」

サトチーとデールの乾いた笑い声が謁見の間に響く。
二人とも声では笑っているが、顔は笑っていない。

「ところで…連絡ではビスタ港に船が入港するのは明日だったはずです。
 もしよろしかったら、今夜も城に泊まられてはいかがでしょう?」
「ありがとうございます。ですが、船出の前に立ち寄りたい所がありますので…」
「そうですか…何の力にもなれませんが、お二人の旅の無事をお祈りしております。
 どうか道中お気をつけて。」

開かれた城門をくぐり抜け、メインストリートから城を振り返る。
固く重く閉ざされていた城門は、全てを受け入れるかのように大きく開かれ、
その城の景観は、道行く人々の幸せそうな顔を見渡すように雄々しくそびえる。
町で無法を働いていた傭兵達は国外に追放され、代わりに子供達が走り回る。
常に耳にしていた怒声の代わりに聞こえるのは、王家を讃える詩人の歌声。
忌まわしい兵器の生産工場は、建築木材の加工場に改造するらしい。
町が元の姿を取り戻すのには、たいして長い時間はかからないだろう。

「そろそろ行こうか。スミス達が町外れで待ってる。」

町外れで俺達を待つ一台の馬車と二頭の白馬。

お待たせパトリシア…と……誰?

「遅せえ!子分の分際で親分をいつまで待たせやがる!」

パトリシアの隣。もう一頭の白馬の上から声が投げかけられる。
王族らしい豪華な衣服を身に纏い白馬にまたがるヘンリー。その手には花束。

「何やってんの?そんな似合わな…じゃなくって、珍しい格好して。」
「ん…世話になった修道院のシスター達に今回の件のお礼を言いに行くついでに、
 旅立つ子分達を見送ってやろうと思ってな。」

見送り…それはつまり、俺達との別れの証。
わかりきっていた事だけど、実際にその言葉を耳にすると…どうもね…

「そんな情けない顔すんな。最初からわかってたことだろう?それに…
 それにさ…場所が離れてたって俺達はずっと…その…」
「大事な仲間だからね。」

サトチーが発した言葉に、ヘンリーの顔が真っ赤になる。
…本当、素直じゃねえの。

「…っまぁ、辛い奴隷の生活も旅の間もさ…お前達と一緒で…その…楽しかったよ。
 本当に………ありがとうな。」

ぷいっ と、目線を逸らしながらヘンリーが言う。

「ヘンリー…君は本当に大事な仲間だ。体に気をつけて…」
「女の尻ばっか追いかけて、デールさんを困らせるんじゃねえぞ。」
「ふん。お前達が次に来るまでには、この国を今以上に立派な国にしてみせるさ。」

三人、拳を合わせて互いを讃え合う。そのエールに言葉はない。
それでも、そのエールはどんな言葉よりも俺の体の真ん中らへんを揺さぶる。
 ―負けるなヘンリー…負けるなサトチー。 何があっても負けるな…俺―
二頭の白馬が行く道は途中で二つに別れる。 それでも…俺達はずっと仲間だ。





イサミ  LV 16
職業:異邦人
HP:77/77
MP:15/15
装備:E天空の剣 E鎖帷子
持ち物:カバン(ガム他)
呪文・特技:岩石落とし(未完成) 安らぎの歌 足払い ―――

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