電波女ことミネアが先頭に立ち、その後ろにマーニャ、ソフィアと続く。
 俺は最後尾。とはいえ、名誉あるしんがりを務めている訳では無い。
 一人、大量の荷物を背負わされた為に足取りが遅々としているだけだ。
 その上、無理やり装備させられたこの鉄のかたまりが重い。しかも格好の悪いことにまえかけときている。
 …ま、鎧はこれ以上に重くて俺にはとても装備できなかったのだが。
 前の糞女どもはさっきからピーチクパーチク五月蝿く俺の神経を逆撫でする。
 いつの世も、女三人寄れば姦しいとは良く言ったものだと舌打ちをする。(ソフィアは喋っていないが)
 それが前二人まで聴こえたのか、ソフィアは心配そうにこちらを見、マーニャはまるで下等生物を見るような視線を俺に向けた。
 俺はマーニャみたいなギャル系は苦手なのだ。あまつさえ格好が格好だからまともに眼も合わせられない。
 そして、あの女はそういった機微に聡い。それを理解し、自分が優位な立場にいる事を自覚している。
 これが、最もタチが悪いのだ。


「それで、あんたは勇者ちゃんとどういう関係なわけ?」

 宿の一室。マーニャの値踏みするような視線に、俺は耐え切れず目を逸らす。
 ミネアはミネアで、訝るような、疑うような、少なくとも絶対に良い印象は抱いていないであろう。
 俺は自慢じゃないが、女に好意的な視線を送られた事など一度も無い。
 無職童貞ニートですからwww本当は人と喋るのも億劫なんですよwww
 成長した妹は目の周りを真っ黒にして、事あるごとにキモイという女に成長した。
 姉は、出来た人で母と二人なんとか俺を人間と見てくれてはいたものの、やはりそこには壁がある。
 しかも、ミネアとマーニャは姉妹、二人だ。二人というだけで、いつ
         し!     _  -── ‐-   、  , -─-、 -‐─_ノ
  小 童    // ̄> ´  ̄    ̄  `ヽ  Y  ,  ´     )   童 え
  学 貞    L_ /                /        ヽ  貞  |
  生 が    / '                '           i  !? マ
  ま 許    /                 /           く    ジ
  で さ    l           ,ィ/!    /    /l/!,l     /厶,
  だ れ   i   ,.lrH‐|'|     /‐!-Lハ_  l    /-!'|/l   /`'メ、_iヽ
  よ る   l  | |_|_|_|/|    / /__!__ |/!トi   i/-- 、 レ!/   / ,-- レ、⌒Y⌒ヽ
  ね の   _ゝ|/'/⌒ヽ ヽト、|/ '/ ̄`ヾ 、ヽト、N'/⌒ヾ      ,イ ̄`ヾ,ノ!
   l は  「  l ′ 「1       /てヽ′| | |  「L!     ' i'ひ}   リ
        ヽ  | ヽ__U,      、ヽ シノ ノ! ! |ヽ_、ソ,      ヾシ _ノ _ノ
-┐    ,√   !            ̄   リ l   !  ̄        ̄   7/
  レ'⌒ヽ/ !    |   〈       _人__人ノ_  i  く            //!
人_,、ノL_,iノ!  /! ヽ   r─‐- 、   「      L_ヽ   r─‐- 、   u  ノ/
      /  / lト、 \ ヽ, -‐┤  ノ  キ    了\  ヽ, -‐┤     //
ハ キ  {  /   ヽ,ト、ヽ/!`hノ  )  モ    |/! 「ヽ, `ー /)   _ ‐'
ハ ャ   ヽ/   r-、‐' // / |-‐ く    |     > / / `'//-‐、    /
ハ ハ    > /\\// / /ヽ_  !   イ    (  / / //  / `ァ-‐ '
ハ ハ   / /!   ヽ    レ'/ ノ        >  ' ∠  -‐  ̄ノヽ   /
       {  i l    !    /  フ       /     -‐ / ̄/〉 〈 \ /!
 などという暴言を吐かれるかと戦々恐々としてしまう。
 俺が黙っているので、マーニャは苛々したのか持っていた鉄扇をバチン!と締めた。
 何故、黙っているのか。どうも俺はこの状況が不愉快なのである。
 子供の頃万引きで捕まり、泣きが入った時のような。
 恐らく、俺という異物――ミネアに言わせるとつまり導かれし者では無い者――の存在を彼女たちも持て余しているのだろう。
 このままなら、俺は彼女達からはお払い箱となり放り出されるのは明白だった。だが、それも良いと思い始めている。
 それにしたって――それにしたって、酷い話だ。
 俺は何も好き好んでこの場所にいる訳じゃない。
 こんな――コンビニも無ければ本屋も無い、パソコンも無いまるで異世界じゃないか。
 どうして、何故、こんな事になったのか。解らないのは俺だし、訊きたいのは俺の方じゃないか。
 俺が導かれし者(この言い方からして、タチが悪いと思う。まるで選民思想だ。壷を買えと言い出したところで俺は驚かない)じゃない事は、俺の責では無いだろうに。
 俺は半ば自棄になり、放り出すならそうすればいいと考えていた。
 ソフィアだって、考えてみればいくら俺が彼女より弱いからと言って年頃の娘が男と旅なんてするもんじゃない。
 女同士の方が都合の良い事は何かと多いだろうし、ソフィアがまだあの化け物達に狙われる可能性は以前消えていない。
 そう、俺としてもこのまま訪れる結末は願ったり叶ったりの筈なのだ。

「はぁ。ま、いいわ。この娘は、私たちと一緒に魔物を倒す旅にでる。それは良いのよね?」
「姉さん。私たちの旅は、魔物を倒す旅じゃないわ。むしろ、世界を救う旅になるでしょう」
「――世界を、ねえ。ミネア、私はどうもそれは良く解らないわ。勿論、あんたには別のものが視えてるからそう言うのだろうし、私はあんたを信じてはいるけどね。
 で、勇者ちゃんは良いのよね?」
 ソフィアは、こくん、と小さく、だがはっきりと頷いた。
 その眼には、何処と無く暗い光が宿っているように俺には感じられた。
 考えてみれば、ソフィアは両親を、育った村を、大切な幼馴染を魔物に殺された事になるのだから、これは当然の選択なのだろう。
 ――それが復讐かどうかは解らない。恨むのは当然だと思う。だがそれ故に、陳腐だ。
 いずれにしても、今すぐには解らずとも、ひょんな事からもしソフィアの無事が魔族に知られたら、またあの破壊と殺戮が再現されるという事でもある。
 ソフィアには選択肢など殆ど無いのだ。
 そして、助けてくれるという人間が現れた。これは渡りに船というヤツなのかもしれない。

「で、あんたはどうするの?――私たちの旅は遊びじゃないし、相手はバカみたいに強いヤツラ。正直な話、あんたじゃみたとこ足手まといだわ。無駄死には、あんたも望む所じゃないでしょ?」

 それは、そうだ。
 俺は死にたくない。もう、あんな思いは御免だ。
 死、という感覚。あれは、ヤバイ。あの時はたまたま頭を最初に割られてしまった為か前後不覚に陥ったけれど。
 思い出しただけでも身震いが止まらない。

「…お前たちみたいな胡散臭い連中に任せられるかよ。 世界を救うだなんて、頭のねじが緩んでるとしか思えねえ。ソフィアをおかしな宗教に入信させられちゃ夢見が悪い」

 だが、口を出た言葉はそれだった。
 俺なりの打算はある。この世界の事を知り、そして俺がこれからどうするか、どうすればいいのかを考えようと思ったら、一つ所に留まっているのは良くない。
 一人になってこの街に置いていかれて、そして元の世界に帰れなかったら俺は本気で此処に骨を埋めなくてはならなくなる。
 俺一人では、もぐらにすら勝てないのだから。
 だが、それもソフィアに拒絶されたなら難しいだろう。姉妹の方は、俺の存在は邪魔でしか無い筈だから。
 だから、ソフィアを見た。彼女は――俺の言葉を聴いて、嬉しそうに微笑んだのだった。
 しかしその笑みは何処か――何処へのものだったろう。
 それは、『俺を通して俺じゃない誰かへ向けた笑み』のような。そんな気がした。

 ビキリッ!

「はぉう!?」

 幼い姪と戯れていたときに間違ってか故意にかは知らないが少女の正拳突きが股間に入った時のような声を上げる俺。
 いかん…持病の椎間板ヘルニアが…。
 極端な話、俺の場合はギックリ腰になり易いというだけであるが。
 ズキンズキンと大地を揺らすような痛みが腰にリズミカルに打ち鳴らされる。
 これは…も、もうダメだ…。

「なによ。もうへばったの?ま、良いわ。今日の目的地は、ほらあそこに宿屋が見えるでしょ?きりきり歩く!」

 前方にはなるほど、宿屋らしき建物が見える。
 …どうもその奥には、砂漠が広がっているかのように見えるのだが、俺は夏休みの宿題は最終日にまとめてやるタイプだったので見なかった事にする。
 死に物狂いでそこまで歩く。途中からどうやらランナーズハイに入ったらしく、痛みが気にならなくなりまた一つ人体の神秘にお目にかかってしまった。
 宿屋の主人に代金を払い、部屋を取る。マーニャが仕切り、大部屋を一つ借りたようだが…嫌な予感がする。
 荷を置いた後、俺たちは二手に分かれる。
 野宿をしていた時もそうなのだが、ソフィアはミネアに剣を習い、俺はマーニャに(途中からミネアも混ざり)魔法を教えられていた。
 ソフィアの腕は中々のものらしく、ミネアには余り教える事はできないらしいのだが、それでもまだミネアの方が強いらしい。
 人は見かけによらない感じだ。
 そして――本来、マーニャもミネアもソフィアに魔法を教えるつもりだったらしいのだが、彼女が喋れない為に急遽俺にお鉢が回ってきてしまった。
 はっきり言って、ちんぷんかんぷんで俺はこの時間も辛いのだが、足手まといは悔しいし、身を守る術はやはり欲しかったので素直に師事を仰いでいる。
 だが、マーニャも理論は苦手なのかそれとも俺の覚えが極端に悪いのか、余り眼を見張る成長ができているとは言い難い。


「はぁ。あんたダメだわ。才能ないよ」
 らしい。鬱出し脳。
 俺がOTZしていると、マーニャはけらけらと笑いながら足で小突いてきた。
「あ、そうだ。そういえば、勇者ちゃんっていつから言葉が喋れないわけ?」
 突然の問い。
 ――いや、それは解らない。言われてみると、確かに少し気にかかる。
 あの失語症は、先天的なものなのか、後天的なものなのか。
 俺が解らないと答えると、マーニャはふーんと言ったきりその話は終った。
 中々、ソフィア本人に訊ねるのはタイミングが難しいと思う。
 そんな事を考えていると、ミネアとソフィアが戻ってきた。
 ソフィアが落ち込んでいたので何かあったのかと訊ねると、砂漠越えに馬車を使えないかと持ち主に交渉したのだが断られたらしい。
 そういえば、宿屋の隣に馬小屋もあった気がするが――あ!?
 俺はぐるん!と、物凄い勢いでマーニャを見た。あの痴女は、俺がドキリとするような色っぽい笑みを浮かべた。

そうして、俺は馬小屋で寝ている。
明日には少し臭くなっているかもしれない。

PS
そういえば、道程でレベルが上がったようです。頭の中にメッセージがぐわんぐわん響いて死ぬかと思いました。
幸い、それだけだったので脳を破壊されずに済みました。
普通はちからとかかしこさとか上がるものじゃないかなあとも思いましたけど、まあ、しょうがないかなと思いました。

HP:18
MP:0

装備:E:てつのまえかけ E:パンツ

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