アネイルを更に南下するソフィアと愉快な仲間たちは港町コナンベリーに辿り着く。
今までの旅の道のりは、主にソフィアが決めている。姉妹が相談に乗るのは稀で、もっぱら俺と二人で打ち合わせている。
ミネアとマーニャはソフィアに導かれているらしいのだ。
勇者であるソフィアに導かれる者たち。少なくともミネアはそう解釈しているようだった。
しかし、俺にはそれが引っかかる。
まだ10代後半の少女に少し背負わせ過ぎでは無いか、と。
マーニャたちは悪い人間では無いし、出会った頃よりかは少しは打ち解けてきた気もするのだが、
どうも時々首を捻らざるを得ない事がある。これも、その一つだ。
いや…ひょっとすると、彼女たちにも余裕が無いのかもしれない。
普段は明るいマーニャが、時折沈み込む事があるという事実に気づいたのも最近だ。
ソフィアに優しく朗らかに接するミネアが、瞬間だけソフィアに縋るような視線を送るのも。
俺の視界が広くなっているのか。…そうかもしれない。俺も、今迄余裕があったかと問われたなら否定せざるをえないのだから。
日々の業務に追われているから不安を感じる暇も無いのだが、
それでも新しい町や村では、元の世界に戻る法を探している。
その度に失望し、やるせない気分になりはするのだが――それでも、自暴自棄にならずに済んでいるのは、
マーニャにミネア、ホフマン、そしてソフィア――彼女たちのお陰であろう事は自明であった。
現状はまるで良くなっていないけれど、それでもこの連中と共に在る時間が増える分だけ、余裕ができているのかもしれない。

ソフィアとの相談の結果、とりあえずはコナンベリーまで出よう、というのがエンドールを出る時の方針だった。
勿論それには理由があって、

・ボンモール以北には田舎村が一つしかない事。
・北西にはサントハイムへの道があるらしいのだが、現在サントハイムは情勢が不安定である事。
・エンドールから出るハバリア行きの船は、あちらの港が封鎖された為に暫く出る予定が立たない事。
・コナンベリーなら船が一番安く手に入ると思われた事。大陸間移動や未開の地に行く可能性を考慮すると船は必要不可欠である事。


などである。
まあ何が言いたいかと言うと、こっちしか道が無かったという。
しかし、魔物と呼ばれる化け物達もさるもので。此処にも勢力を置いていたらしい。

「さて。これから灯台に向かう訳だけど。
んー。私たち以外は初めてよね。魔物の巣に向かうの」

マーニャの言葉に俺たちは顔を見合わせる。
言われてみれば、確かにそうだ。裏切りの洞窟はこっちの姿に化けるヤツラだけだったし、
草原や砂漠などといった所謂町の外は、化け物達の巣と言った感じでは無かった。

「今日はゆっくり休みましょう。
準備だけは怠らないようにしてくださいね」

女部屋での打ち合わせの後、部屋を出た所でマーニャとミネアに呼び止められた。

「あんたは無理に行かなくてもいいわよ?」

マーニャが少し、突き放した感じでそう言った。
確かに考えてみると、わざわざ魔物の巣の中に入ろうなんてのはかなり酔狂な話だ。
なんでも、港を照らす灯台が魔物に占拠された為に、海が完全に支配され船が出せないそうな。
コナンベリーに来た目的は船の入手でもあったから、このままでは面倒だと言う事で俺たちが灯台の解放に向かうという筋書きである。
ソフィア、ミネア、マーニャは言うに及ばず、ホフマンがこれまた強いのだ。
彼は所謂魔力を持たない人間で、その分身体的に優れた才能を持っているタイプであり、
攻撃の力や防御の技術こそソフィアに及ばないものの、体力は一行の中でかなり抜きん出ていた。
戦力外は、詰まる所俺だけなのである。
俺の存在が戦局を有利にする事は無いだろうし、逆に不利になるケースはあるかもしれない。
結局の所、足手まといなのだ。
だが――マーニャの言葉には、それ以外の意味もあるような気がした。
勘違いだろうか。そうかもしれない。他人の機微を悟るのは苦手で、友達も多いタイプでは無かったので。

「いずれにしても、船を手に入れる為にはどうやっても港に戻ってきますし、今更貴方を置いて行こうとは私も思いません。
勇者様…ソフィアさんもホフマンさんも、良い顔はされないでしょうし」

此処で待つ。きっとそれが賢い選択だ。
だというのに。それだというのに――俺は、つまらない意地を張っているのだろうか。
もしくは、仲間外れにされるのが嫌だから?
子供の頃、かくれんぼで必死に隠れていたらいつの間にか皆帰ってしまって、一人で家に帰った記憶が蘇る。
あの時、俺は出迎えてくれた母親にどのような顔をしたのだったろう。
それは思い出せなかったが、唯――悲しかった思い出。
理由はそれで良いだろうか?いい大人が…バカにも程があるが。
今の俺に、命を張ってでもついていく理由は無い。
だが、もし此処で彼女たちを見送ってしまったらもう二度と――そんな、予感がするから。
俺は、俺の意思を伝えた。ミネアは黙って頷いてくれ、マーニャはいきなり背伸びをして、俺の頭を撫ぜた。

それは、想像を遥かに超えて巨大だった。
人々が大灯台と呼ぶに相応しい偉容を放っている。
俺たちはゆっくりと前進を始める。
先頭には初めてミネアでなくソフィアが立った。次いで、ミネア、俺、マーニャ、殿にホフマンである。
大抵の、知能の足りない魔物は大概前から順に狙ってくる事が多いのだが、
これを逆手に取るヤツラもいるらしい。
壁伝いに進むうちに、やがて昇り階段が見えた。

「――」

ソフィアがさっと手を振る。それに反応し、俺たちは皆身構えた。
階段の前に何かが居る――その、何かもまた俺たちに気づく――やいなや、何やらごむまりのような挙動でこちらに近づいてきた。

「おお!何方かは知りませんが丁度良い所へきてくれました!
この灯台にともっている邪悪な炎を消すつもりでここまで来たのですが、
魔物たちが強くてこれ以上進めなかったのです。
お願いです!私に代わって、邪悪な炎を消してきてくれませんか?」

転がるようにしてこちらの懐に飛び込んできた男は、一気にまくしたてながらソフィアの手を取って懇願している。
見た目は中々鈍重そうなガタイなのに侮れないおっさんだ。

「ええ。私たちもそのつもりで来ましたから。貴方は、ひょっとしてトルネコさんですか?町の皆さんが心配していましたよ」

「なんと!?それは心強い!いやあ、町の人には大見得を切った手前戻りにくいですがそうも言ってられませんな。
それでは、私は一足先に戻ってます!」

言うだけ言って、突き出た腹をぼよんぼよん揺らしながら場を立ち去ろうとする。
だが、これは――つまり、あの有名な商人トルネコが此処に向かった、というのは――町で聞き込みを行った俺にとっては想定内の出来事だったので。
それとなく彼の前に立ち塞がり、こう言った。

「トルネコさん。貴方は武器商人だって聞いたんすけど、何か良い武器は持ってませんか?」

「武器、ですか?ふぅむ、そうですなあ――天空の剣には及びませんが、中々の業物ならありますよ。
勿論、値は張りますが……」

天空の云々は何処かで聞いた気がしたのだが、思い出せないのでとりあえず今は置いておく。
現在、金はまとめてソフィアが管理している。確か、数千Gはあった筈だが――。
そこまで考えたとき、ミネアに耳打ちされたマーニャがずいっと俺の前に出た。

「良いわ。譲ってちょうだいな」

「ふむ、ふむ――そうですな。私には、このそろばんがありますし…それに、この灯台の魔物を何とかしなければどうしようもない。
私は、人を見る眼はあるつもりです。あなた方に託す意味も込めて、勉強しますよ」

その位なら、タダで譲ってくれても良いのになあと思ったものだが、
マーニャが機嫌よく金を払っているので何も言わない事にする。
こうして、俺たちは一振りの剣を手に入れた。トルネコが、最後に一つお辞儀をして、脱兎の如く塔から出て行った。
逃げて行った、が正しいかもしれないが。

「――はじゃのつるぎ、ですね。確かにこれは良い剣です」

くくっと刀身を水平に掲げ、改めてその業物を見定めるミネア。
そうして、ソフィアに手渡す。
ひゅっひゅっと二度、素振りをしたソフィアはその剣が気に入ったのかにっこりと笑って見せた。

「けど、良かったのか?今のは結構な出費だと思うんだけど…」

俺はトルネコを呼び止めた責任を感じていた。
確かあの金は、コナンベリーで船を買う為に貯めていたものだった筈である。

「良いんですよ。――何故なら、トルネコさんも導かれし者ですから」

ミネアの台詞が一寸、要領を得ず俺は小首を傾げる。

「導かれし者は、ソフィアさんと出会えば何かをするまでもなく集うものです。
ですから――結局の所同じ事なんですよ。幾らで買ったとしても。お金などは共有するのが私たちのルールでしょう?
今建造中のトルネコさんの船も」

軽く背筋に悪寒が走るのを感じる。
ミネアは、ぺろっと小さく舌を出して見せた。
そうか、あの時マーニャに耳打ちしていたのはそういう事だったのか。
最初から道を共にする事を解っていたから――恐ろしい。大商人と呼ばれる男をペテンにかけるとは。
いや、トルネコ自身も決して損をする訳でもないのだからペテンでも無いのか……。
トルネコ自身の意思で、ソフィアの元に集うというのならそれは彼の責任だから。
それにしても、何かをするまでもなく集うと言い切るミネアの自信には舌を巻いてしまう。

ソフィアが今迄使っていた鋼の剣が不要になった為俺に回される事になった。ゆるやかに力を込め剣を握り、軽く振ってみる。
道中で一度試しに持った時は構えることすらままならなかったが、
今はかろうじて装備できるようだった。すぐに腕が震えてきそうだが。

「ま、それもこれもあんたがあそこで引き止めたからだし、これで少し楽になるわね。
珍しくグッドジョブじゃない」

マーニャがぐりぐりと肘を当ててくる。俺は照れ笑いを浮かべていた。
俺が成そうと思っている事。喋れないソフィアの手助けをする。それが、有り金をはたいてまで俺を生き返らせてくれた彼女への、
せめてもの礼であり償いだから。
今迄の道中もそうだし、現在、そしてその先も――いつまでかは、解らないが。

ソフィアの先導が良いのか、探査は順調に行われた。
途中、天井に頭をぶつけて気絶した魔物の額に『にく』と書いてみたり、安置されていた種火を手に入れてみたり。
…いやあ、前者のようなアホな魔物がいる以上思ったより大した事なさそうだ。
種火も普通に置いてあったし。
最後の階段を上る途中、壁にゆらゆらと影が映っているのが見えた。
ソフィアがまず最初に昇り切り、手招きをする。
そこには、不気味な黒い炎を囲んで踊る虎がいた。
しかも二足歩行だ。
俺たちはその奇妙で、陽気な宴に僅かに眼を奪われた。
それまでが順調だった為に、油断もあったろう。


「けけけ。ケケケ。燃えろ、もえろ。邪悪な炎よ。その光で全ての船を、沈めてしまえ」

あの魔物を倒して、先ほど手に入れた種火を投げ込めばイエス!ミッションコンプリィィィ!!だ。
ソフィアが駆け出す。それに倣い、俺たちも散会しながら前に出る。
絶妙なタイミングだった。
二足歩行の虎が、躊躇なく黒炎の中に手を突っ込み、こちら目掛けてその炎を投げつけてきた。
二筋の火炎が縦に走り、散会していた俺たちを分断する。
いや、分断するて。思ったより冷静だな。いや、ついていけてないのか?
左右に視線を走らせると、それぞれ炎の壁の向こう側で、ソフィアとミネアが、マーニャとホフマンが、
炎が人を真似たような姿をした化け物と対峙している。
そして、俺の目の前には。
あの、二足歩行の虎がいた。

「けけけけ。此処までやってくるとはバカな人間だ。
丁度良い!この、炎の中に投げ込んで、焚き付けにしてやるわ!けけけけ」

間の抜けた笑いをあげる二足歩行の虎を前に俺は――思ったよりも落ち着いていた。
あの笑い方が余り恐怖を煽らないのもあるが。
どさりと背負っていた荷物を床に降ろし、腰に下げていた鋼の剣を構える。
ソフィアによって使い込まれた剣は、実によく馴染むのだ。
新品を使うより、お下がりにした方が良い、というのは何も金をケチった訳ではなく理に適ったものだった。
…ミネアはともかくマーニャはどうか知らないが。
剣を腰ダメに構え、一歩、踏み出したその瞬間――。

「グオオオオオオオオオオオォォォォォ!!!!!!!!!!!!!!!」

――何が、起こったのか。
理解できずに頭が真っ白になる。視界の隅で、ミネアとマーニャが何か叫んでいた気がするけれど。
二足歩行の虎が、遅々とした動きで俺に近づいてくる。
それなのに、それなのに、頭では理解しているのに身体が動かない。
眼前にまで迫ったソレは、俺より頭一つ分大きく、その爪は見るからに剣呑な光を湛えている。
動かない、動けない俺を目掛けて、虎はなんの躊躇いも無く圧倒的で凶悪な膂力を振るった。


「く、退きなさい! 炎熱(ギラ)!」

パン!と、勢い良く開かれる鉄扇が合図のように、放たれた炎が扇型に広がる。
だが、橙色の炎はあっさりと人を模った黒い炎――ほのおの戦士に飲み込まれてしまった。

「くぅ~!私の魔法が効かないなんて…」
「マーニャさん!ほのおの戦士を幾ら倒しても、あの炎がある限り何度でも出てくるかもしれない!
何とかあの虎を…!」
「そんな事言ったって――」

マーニャの目の前には、黒い壁が立ち塞がっている。
今の様子では、此処から虎めがけて魔法を放ったところで、結果は目に見えている。

「氷結呪文なんて、覚えてないわよ…!」

きりりと歯軋りの音が響いた。


「―――――!」

嵐のような剣戟が、炎を吹き散らす。
だが、炎はゆらゆらと揺らめいたかと思うと、すぐに再び人を模った。

「ダメです、ソフィアさん!焦ってはダメ!攻撃が荒く――」

ミネアの喚起は今一歩の所で届かず、ほのおの戦士の右拳がソフィアの腹にめり込んだ。
盛大に弾き飛ばされ、床を滑る。ミネアが慌てて駆け寄り、治療呪文(ホイミ)を施した。
剣を杖に立ち上がるソフィアを見て、ミネアはどちらの提案をしようかと迷う。
即ち、犠牲を強いて勝利を得るか否か。
彼女とて、できる事なら全員無事に全ての戦いを終わらせたかった。
だが、現実は時に厳しくて、それがままならない事はこれから幾度あるか解らない。
誰かが嫌な役を引き受けなければならないのなら、自分がやるべきだとミネアはそう思う。
――しかし。
やはり、それは最後の最後であるべきだ。決断を誤れば大惨事になる事であったとしても。

「ソフィアさん。あの黒炎の壁とほのおの戦士は私が引き受けます。ソフィアさんは――」


どれだけの時間、気を失っていたのだろう。
此処はまだあの灯台のようで、少し離れたところにはあの虎がいて。ほんの僅かな意識の喪失だったのか。
ずきんずきんと痛む胸に無造作に手をやると、そこにはある筈の鉄のまえかけが無く、生暖かい感触と共にべったりと、真っ赤な鮮血が彩った。
痛い。
先ほどのは、あの虎の雄叫びだったのだろう。身の毛がよだつとはまさにこの事で、
俺は丸っきり身動きが取れなくなってしまった。
怖い。
今迄、自分がどれだけ庇護されていたかを思い知らされた。
この世界で俺はそれなりに頑張ってきたつもりだったけど、それでも俺の傍には常にソフィアが居た。
マーニャが、ミネアが、ホフマンがいた世界で、魔物との戦いを殆ど彼女らに任せっぱなしで来ていた。
そのつけが、回ってきているのだ。
俺はどうしてこうなのか。元の世界でも、俺は人並みに苦労していると思っていた。
こっちの世界に来てからも、荷物持ちに日々の修練と、それなりに大変な思いをし、努力もしてきたと考えた。
それなのに――何のことは無い。俺は常に庇護されていて、それが無くなった途端――痛みを嘆いて、恐怖に震える始末だ。
左手で身体を起こしながら、右手で床を探る。――あった。俺の、剣。
傷は痛いし、魔物は怖い。目の前には俺の身体を傷つける為に存在する、虎の爪。そして、退路も、無い。
それでも――それでも。いつかこうなる事は解っていたから。俺に足りないのは諸々の覚悟だという事をあの洞窟で知った時から。
俺は、敵を殺す。
そこには、魔物だとか人だとか、そういう区別は無い。
戦わなければならないんだ。戦わなければ生き残れない。それは、世界によっては命を奪う事や身体を傷つける事では無いかもしれないけれど。
何かを傷つける事には変わり無い。
痛いと思うことも、怖いと思うことも、止められないかもしれない。
だけど、それで情けなくうろたえる事だけは最後にしよう。無理かもしれない。それでも最後にしたいとそう想う。

身体を前に傾けて、一直線に虎目掛けて突貫する。
再び、ヤツの雄叫びが灯台内に響き渡る。だが――俺の足は止まらない。
右手から、強烈な火炎が吹き荒れたかと思うと黒炎を貫き、唸りを上げて虎へと襲い掛かった。
大炎熱(ベギラマ)――黒炎の向こうでマーニャがぱちり、とウィンクする。

「真空(バギ)!」

左手からはミネアの裂帛の気合が響き、巻き起こった真空の刃が黒炎を吹き散らし道を作る。
飛び出してくるのは碧の疾風だ。
まるで羽が生えているかのような跳躍で、人で言う所の鎖骨の辺りに破邪の剣を突き立てた。
痛みと苦悶の咆哮を上げながら、肩に乗るソフィアを弾き飛ばす虎。
――だが、その彼女に向けた意識が、致命。
俺が両手で突き出した鍛えられた鉄の刃は、吸い込まれるかのように虎の首を刺し貫いた。
ごぽり。
口から血泡を漏らしながら、ヤツが最後の爪を振るう。
俺の背中に三本の筋を残し、虎の巨体は床に沈んだ。

ソフィアが種火を黒炎の中心へと投げ入れる。
たったそれだけで、あれほど吹き荒れていた黒炎は散り散りになってしまった。
かろうじてほのおの戦士だけが実態を伴っていたが、ホフマンとミネアによってそれぞれ消滅の道を辿る。

「――やぁれやれ。なんとかなったわねぇ」

鉄扇でぱたぱたと扇ぎながらマーニャがぼやいた。
軽く生死の境をさ迷っていた俺はホフマンに肩を借りてかろうじて立っていた。ミネアが治療をしてくれる傍らで、ソフィアが鉄のまえかけを持って立っている。
虎の返り血に塗れた少女。その時の俺には彼女が美しく見えた。
手を、くるくると跳ねた髪の毛に埋めて頭を撫でると、少女は僅かに眼を細めた。

「お前は……凄いよな」

俺の呟きに、ソフィアは要領を得ないといった顔をする。
ミネアなんかは、勇者に何を当たり前の事を言っているんだと言いたげにしていた。

「俺も……」

どうしようもなく照れてしまって、それ以上が言葉にならない。
鼻をこすってから、いつもの薄ら笑いを浮かべて誤魔化す事にする。
だがこの時、どういう訳か――俺自身も、そして誰もが気持ち悪いと感じるであろう薄ら笑いを見た筈なのに、ソフィアは力強く頷く事で肯定を現したのだった。

「今より強くなれますよ。きっと」

少女はホフマンの言葉に我が意を得たりといった風に笑うのだった。

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MP:12

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