美しい海原にゲロを撒き散らす俺。 なんかダメだ。折角決意も新たになったというのになんでこうダメなんだろう。 そもそも俺は船なんて殆ど乗った事が無いんだ。 精々が北海道~東北間のフェリーくらいで、あの時も沿岸部をちょっと離れただけで酔ってしまった。 あまりの気分の悪さに船室に居る事もままならず、甲板に出てきたのだが、 案の定吐いてしまっていた。 まあ、吐くものさえ吐いてしまえばフェリーの時は多少楽になったので、今回もそれに期待したい。 船足は順調だった。スクリューのついていない帆船の為、風が重要になるらしい。 しかし…乗船してるのは俺たちのみというのはどうなのだろうか…せめて船員がいないと航行にも支障をきたすと思うのだが。 「あんたがやるのよあんたが。ま、全部とは言わないけど」 さいですか。はぁ。 そりゃ全部俺一人にやらせようものなら楽勝で転覆するわな。 暢気に日光浴をしているマーニャから視線を外し、ブリッジの方を見ると、ホフマンとトルネコが何か話している。 この二人、共に商人という事もあって、中々話が尽きないらしい。 特にホフマンにとってトルネコは敬意を払うべき相手のようだった。 まあ、俺やソフィアにしても彼がエンドール~ブランカ間のトンネルを開通させていなければ、 今頃どうなっていたか解らないのだが。 奇妙な縁と言わざるを得ない。 「汚したら、自分で掃除してくださいね」 大量の洗濯物を抱えたミネアが俺の前を通り過ぎる。 大丈夫。ちゃんと海に全部吐いたから。甲板には漏らしておりません。 それにしても、潮風がウザイ。 情緒を感じるには今の俺のテンションは相応しくないらしい。 太陽は普通に照っているし、風も鬱陶しいくらいにびゅーびゅー吹いている。 まあこの分ならすぐに着くだろう。地図によればそう遠くない。 コナンベリーから南に舵を取り、ミントスの街へ。 処女航海という事もあり、近場の新たな大陸へ行ってみようという事になったのだ。 すとん、と。俺の眼前に急に現れるのは碧の少女だ。 いやお前は別にそれでも良いだろうがな俺の方はそういう現れ方をされるとびっくりする訳でこんな位置でのけぞったら船から落ちるだr 「――!」 何やら身振りで船の向かう先を指差している。 見張り台に登っていたソフィアのこのリアクション、此処はお約束の台詞を言えるチャンスか! 「陸がみえたどー!!」 違う、どじゃない。どじゃないんだ。肝心な所で噛む己に萎える。 そんなしょんぼりな出来事もあったけど、船は順調に接岸するのであった。 ちなみに船はそのまま放置である。良いのか…。いや、何も言うまい。 ホフマンが出て行った。 工エエェェ(´д`)ェェエエ工なんでやねん! 何やらこのミントスの町にいる爺の元で商人の修行をするらしい。 ちょっと待てと。お前パトリシアどうするんだと。 「可愛がってくださいね!」 俺がかよ!?アホかお前!? 俺はお前がこの一行の最後の良心だと思っていたのに――裏切ったな!僕の気持ちを裏切ったな!父さんと同じに、裏切ったんだ! 某ロボットパイロット並に相手を一方的に責めてみるが、どうやらホフマンの決意は固いようだった。 一緒に風呂も入った仲のホフマンが去るというのはとても寂しいのだが、夢を叶えようとする友を止める訳にもいかないのか。 これからの旅路を思うと溜息しかでない。しぼむ~~。 飴をくれる年上なのに外見は幼いキャラがいれば和むのになと妄想しながら荷物を降ろす為、宿屋に行く。 一行の最後尾で廊下を歩いていると、途中の部屋のドアが僅かに開いていた。 特に意識を向けた訳では無いのだが何気なく、見る、というより視界に入ってしまった、が正しいだろう。 おまwwwちょ、まwww 俺は余りに動揺してしまってつい前を歩いていたマーニャの手を掴んでいた。 マーニャが何よ?と問うてくるのを、俺はぷるぷると震える指でドアの隙間を指差す。 そこには、とてつもない頭をした老人がいた。 うはwwwこれは久しぶりにクォリティ高いwww あんな風に禿るってどんな遺伝子www 頭頂部が綺麗に禿げてる上に、髭と揉み上げと側頭部が繋がっている。 俺も最近、額が広くなってきているような気がするので頭に関して心無い事は言いたくない。 しかしあれは…側頭部の白髪が鬼の角のように、まるで意思を持っているかの如く重力に逆らっているのである。 ソフィアのとも違うのだ。彼女のはパーマっぽいのだが、あの老人は真っ直ぐだ。なんと骨のある髪の毛だろうか。 整髪しているのだとしても、老人の何と強き意思の顕現か。 俺とマーニャは二人でテラワロスwwwしていたのだが、その間に荷物を置いたソフィア達がやってきた。 笑いを押し殺している俺たちに怪訝な顔をした後、ミネアがこんな事を言い出した。 なんでも、この宿屋には重病人がいるらしいのだが、それがミネアは気になるらしい。 ソフィア、ミネア、トルネコの三人が目の前のドアに入っていくので、俺とマーニャはドアの入り口付近で待機する事にする。 それ以上近づくと笑いが堪えきれないかもしれないので。 ミネアが老人に話しかける。どうやら、老人の仲間がどんな病をも直ぐに治してしまうという薬を取りにいったらしい。 なんとも都合の良い物があるんだなとニヒリズムに浸りかけていた俺を、ある天啓が呼び戻した。 早速隣のマーニャに小声で話しかける。 (……もしや、あの頭は病気なんじゃ!?) (ええ!?そんな…つまり、禿げは病気だって言うの?) (そんな事はないよ。禿げは病気じゃない。童貞が病気じゃないように) (それは病気なんじゃないの?) (違うよ!?童貞だからって病人だとか社会不適応者とみなされるのは俺の世界だけで十分だ!) ((・∀・)ニヤニヤ。まあ良いけどね。後半は何のことか解らないけど) (そうじゃなくて姐さん。禿げは病気じゃない。だけど、あの頭はちょっと凄すぎる。――そう、禿げこそ、健康な部位なんじゃないか?) (――はっ、ま、まさか!) (そう!きっとあの爺さんの仲間は、あの髪の毛をきちんと脱毛する為に神秘の秘薬を求めて旅立ったんだよ!!!) 俺の素晴らしい推理にマーニャは、な、なんだってーと驚いてくれた後ぷくくくと笑いを噛み殺していた。 そんなアホ話をしている間にもミネア達と老人――ブライの話は続いていたらしく、 どうやら本当の所は、ベッドで寝ている男が病で動けなくなった為にアリーナと言う娘が一人で薬を取りにいったらしい。 だが、その娘が中々戻って来ず、やきもきしていたようだ。 どうにか娘を探し出して手助けをしてもらえないかと懇願された所で、 俺はソフィアに近づき、2,3言葉を交わした後彼女の意志を伝えた。 ブライは喜んで、自分もお供すると言い出し、宿屋の者にベッドで寝ている男の事を頼みにいった。 …それなら最初からそのアリーナとかいう娘についていけば良かったのに。 都合よく、ホフマンが宿屋の番頭に立ち修行を始めたようだったので、 俺たちからも病の男――クリフトの事を宜しく頼み、翌日、俺たち6人は一路万能薬を求めて旅立つことになった。 とりあえず、笑いが堪えられない為にブライをまともに見る事ができない。新手の拷問かこれは。 ツボにはまるという事の恐ろしさを実感しつつ、道中今までとは別の意味で厳しい旅になるかもしれないなと思った。 HP:48/48 MP:12/12 E鉄のまえかけ Eはがねのつるぎ Eパンツ