ガーデンブルクの南、アネイルの東。
 大河を挟んだその先に、一つの大陸がある。
 手強い魔物が住み着いていた。地理的に人の侵攻し難い難所でもあった。
 様々な要素と諸々な理由が噛み合い、その大陸は人の殆ど住まない土地となっていた。

 この大陸の川沿いに、ホビット達が作った一つの集落が存在した。
 彼等は日々を穏やかに、まるで時が止まっているかのように過ごしていたが、とある日に来訪した二人の男女が、彼らの生活に色と、華やかさを与える事となる。
 それはホビット達が望んでいたもの、という訳でも無かったのだが、彼等は二人を歓迎した。

 一人は、魔族の青年。
 もう一人は、エルフの少女。

 集落の近くの丘に、朽ちかけた塔が立っていた。
 それは、遥かな古代の技術が用いられ、造りに仕掛けが施されていた。
 青年はそれに目を付け、少女の為にその塔を蘇らせた。

 魔族の青年は冷たい瞳をしていた為に最初はとても恐れられた。
 だが、エルフの少女は村人に分け隔てなく接し、とても優しくて、綺麗な声で詩を歌ってくれたので、ホビット達はやがて少女の住む丘の塔の周りに新たに家を造り住み始めた。
 青年が、少女と話す時にとても穏やかな顔をするのも、次第に伝わっていった。

 やがて、ふらりと訪れた魔物や動物、そして人まで住み着くものが現れた。
 ホビット達は余所者に平和が脅かされるのを恐れ、困惑した。
 だが、移り住んできた者達は一様に、誇り高き魔族の青年の前では秩序を乱す事など到底できず、美しきエルフの少女の前ではどんな者もまるで毒気を抜かれたかのようになってしまう。
 それは、青年と少女、どちらが欠けても維持できないであろう一つの理想郷であった。

 ホビット達と他所から移り住んだ者達は、この素晴らしい集落に改めて名を付ける事にした。
 少女の住まう丘――ロザリーヒル。



「…むむむ!これは、中々…」

 トルネコが唸り声を上げる。
 彼は一本の大剣をあらゆる角度から検分しようと大きな身体を左右に揺らしていた。

「これは、私にも解りますな。良い剣です」

 ふむう。トルネコとライアンが言うからには、かなりの物なのだろう。
 俺?いやいや、そう言われれば良い物のような気はするけど、はっきりは解らない。

「此処でしっかりと準備をすれば、きっとこれからの戦いの役に立ちますよ」

 にこにこと笑いながらトルネコがそう言った。
 願ったり叶ったりだ。実力不足を武器のせいにするつもりは毛頭無いが、不足しているからこそ、武器で補う事もまた必要だろう。

「…ほう。それは、ひょっとするとドラゴンキラーでは無いか?」

 珍しく、ブライが武器に興味を示した。
 店主の老人(この店主は、他にも道具屋、防具屋、神父の真似事までするマルチな爺さんだ。一々口調まで変えるこだわりっぷりである)が、軽く頷く。
 俺は、その大剣がどうしたのか訊ねてみる。

「うむ、これこそ特殊な武装として最も顕著な例と言える。
 …見る限り、少し大きな普通の剣じゃろう?じゃが確かに、この剣を使えば竜族をより屠れる。
 それは何故か?炎が出る訳でもなく、氷が出る訳でも無い。
 もしかすると、別に竜に限らずその切れ味を発揮するやもしれぬ。唯、単純に強い剣かもしれぬじゃろう?」
 ドラゴンキラー…竜にだけ特化した大剣。
 だけどそれが本当に竜にのみ優れた剣なのか、それとも総合的に強い剣なのかを証明するのは難儀だ。
 だが、それでも、この剣はやはり竜に特別な効果を発揮するとブライは言う。
 それは使ってみれば『なんとなく』感じる事ができるかもしれない、らしいのだ。
 眼に見えて強い、とまでなるかどうかは人に依る。
 言い方を変えればその程度の武器でしかないのだが――これを侮るのは、少々考え物だなと思った。

「まあ、総合的に見てもこの店随一の物じゃなかろうかな?
 のう、トルネコ殿?」

「ええ。仰るとおりだと思います。これを、ソフィアさんとライアンさんに…貴方は、どうします?」

「……けど、ちょっと、高いねえ」

 俺はかりかりと頬を掻いた。
 値札を見ると、他と桁が一つ違う。
 次に高いまどろみの剣の、およそ二倍の値が張るのだ。恐ろしい話である。

「一端の剣士になるには、やはり武具も大事です。
 選ばず済むのは、達人でなくば。…今までずっとお下がりを使っていたのですから、それで得られるモノは十二分に得たでしょう。
 戦いへの意志も決まったようですし、此処は一つ扱って見てはどうですか?」

 うーん…。
 別に、ソフィアのお下がりが嫌だった訳では無いのだが、確かに…新品の剣、というものに、僅かながらも憧れが無いと言えば嘘になる。
 ちらりとソフィアに視線を走らせた。
 少女は何処と無く、寂しそうな眼をしている、気が、するうううう。
 いやいやいやいや、それは俺の勝手な思い込みではないか。
 ううーむ。別にソフィアから巣立つとかそういうんでも無いのだが。
 ――しかし、そう。俺が彼女の剣になるのだとしたら、財布の事情が苦しいとかならともかく、俺の方から背中を向ける訳にはいかないと思う。

 腰に新しい剣を帯びる。
 なんだか異常なまでに気恥ずかしい。トルネコが、お似合いですよ、と言ってくれた。いい人だ。
 ソフィアもまた、笑みを向けてくれる。俺はそれにほっと安堵の息を吐くのだった。

 結局、ソフィアとライアンにもドラゴンキラーを。
 後はクリフトとミネアにまほうの法衣、そしてライアンにドラゴンメイルが渡された。
 魔法使いが扱うような武具は無かったのだが、マーニャが後でごねるかもしれない。
 ちなみに、ソフィアの防具に関しては既に彼女は天空装備で身を固めている。

「あの…」

 アリーナがトルネコに何かを手渡した。きらりと光る小さな物である。

「ふむ?これは…キラーピアスですか。
 ですが、今のアリーナさんには炎の爪の方が恐らく良いですよ?」

「うん。私もそう思う。
 …だけど、ね。ちょっと、色々戦い方について考えることがあって――これって、両手に装備する物でしょう?
 もしかしたら――なんだけど」

 余り歯切れが良くないアリーナというのも中々お目にかかれない。
 確信は無いが、自信はある。そういった雰囲気だ。
 しかし、どうしてこそこそしてるんだろう?

「だって、ブライにピアスが欲しいなんて聴こえたら何言われるか解らないじゃない」

 …あの爺さんは喜ぶんじゃないかな?
 お洒落に目覚めたとか、勘違いして。それとも、耳に穴開けるなんて持っての外!って感じなんだろうか?
 お姫様ならその位ありなんじゃないかなあとも思うが。

「…解りました。では、これも購入しましょう」

 トルネコが、まるで娘に相対するような表情を浮かべる。
 アリーナがトルネコの出っ張ったお腹に抱きついた。全く。微笑ましい光景である。
 …けどこれって、俺の世界じゃ下手したら援助交際とかそんな風に見られる可能性もあるよな。
 なんだろうねえ。大人と子供ってのは、俺は目の前にある光景のような感じであるべきだと思うのだが。
 大人が悪いのか、子供が悪いのか。それとも、何かが悪いと言うような問題でもないのか。
 まあ、いいか。今は目の前の事を考えねばならないし。



「むううううううぅぅぅぅぅぅ……」
 夕食の席にて。
 マーニャさん、ご立腹である。
 こういう場合、触らぬ神に祟りなしを決め込むのが常道なのだが、この時は新しい剣のせいで気が大きくなっていたか、つい触ってしまった。

「あの…マーニャさん…じゃなくて師匠(マスター)…一体どうしたん?」

 途中、石化してしまいそうな凶悪なメンチを切られたので慌てて敬称にするヘタレ。
 それが俺だ!

「…さっき、あんたたちと分かれてミネアと宿取ってた時。この村じゃ珍しく人がいたもんだから話しかけてみたのよ。
 そうしたらそいつ、何て言ったと思う?
『オレはルビーの涙を流すというエルフを探してこの村にやってきた。
 もし、そのエルフを見つけて捕まえる事ができたなら、きっと大金持ちになれるぞ!』
 って、こうよ!?ほんと、あさましいにも程があるわ。同じ人間であることがイヤになってくるわよ…」

 一気に捲くし立てられ、俺は飛んでくるご飯粒を避け、防ぐので手一杯である。
 そんな事自慢げに話すヤツって頭大丈夫なんだろうか?――エルフを攫うって事に罪悪感なんて微塵も無いのかもしれない。
 マーニャは特にその手のタイプの人間を嫌う傾向がある。
 俺にしてみればカジノで豪遊するマーニャさんも軽く危ないのでは無いのかと思うのだが、彼女の中では明確に線引きがされているらしく、エルフを捕まえると言うのは完全にアウトらしい。
 まあ、俺も考えるまでも無くマーニャに同意だ。

「全く。けしからん輩がいるものですな」

 ライアンが憤慨したように呟いた。
 しかし――具体的にどうにかしよう、というのも中々難しい話である。
 その男を見つけてボコにするのは可能なのだろうが…。
 そいつをボコにした所で根本的な解決にはならないし、それにまだ何もしていない人間を痛めつけるってのも…。
 とはいえ、放っておいたらエルフはどうなる?今の所お目にかかっていないが、本当にいるのだとしたら…。
 …ん?エルフ?

「うむ?エルフとは、か?お主の言うとおり、白い肌に尖った耳が特徴の種族じゃな」
「ここは、ホビット族の村のようですからエルフは居ないでしょうね。
 ホビット族は、言い方を変えると小人さんたちです。服が可愛いですよね」
 ブライとミネアが説明してくれた。
 ふむ、やはり、そうか――。


 夜の帳が降りた後、俺は宿を出た。
 どうもこの辺りは見覚えがある――ゆっくりと、丘を登っていく。
 そこには、塔が立っていた。

 ――既視感(デジャヴュ)

 そう、この場所は見た事がある気がする。あの塔から顔を覗かせるエルフの娘――。
 訪れたのは間違いなく初めてだ。それなのに、どうして――。
 ……いつか見た、夢か?
 あの時は確か、銀髪の男が何か笛のようなものを吹いていた筈だ。

 常に背負っている荷物の山を降ろす。
 笛なら何でも良いという訳でも無いだろうが、とりあえず試しに吹いてみようかと思ったのだ。

「なにしてるのー?」

 ホワッツ!?
 だから急に声をかけるなっつーの!この姫さんは俺を驚かして楽しんでるな!?
 俺にだってそんな沢山引き出しないんだからさあ…。

「なんかね。皆、眼が冴えちゃってるみたいで。すぐに来るわよ。
 私はクリフトと一緒に先に来てみたんだけど――まさか、貴方が先に居るとはね」
 何故か悔しそうな姫君を放って置いて、俺はクリフトに捜索を手伝ってもらうことにした。

「何を探せば良いのですか?笛、ですか。――ああ、これなんてどうでしょう?」

 おお、凄い。ごちゃごちゃした荷物の中からクリフトが一発で取り出した笛は、少々奇妙な笛だった。
 何が奇妙なのかと言われると答え難いのだが、管の部分が曲がってる時点でまともに音が出るものなんだろうか。
 いつ手に入れたんだったかな?俺が拾ったもんじゃないから、ちょっと解らない。

 やがて、ぞろぞろと導かれし者達が集う。
 いい感じに挙動不審だ。夜だし。職質されたら一発でアウトだな。

「誰が吹きますか?」

 クリフトが何気なく訊ねると、それはやはり奇妙な程に――自然な動作で、ソフィアが笛を手にした。
 それは元から少女が吹く事を定められていたかのように。

「…あやかしの笛ですか」

 トルネコの小さな声は、すぐに響きだした音に掻き消された。
 物悲しい――落ち着かない、余り心地良い旋律とは言えない、音色。
 何処と無く、不気味さすら感じさせる――。

 ガコン。

 足元の地面がへこんだ。
 こ、今度はなによ!?――あ!そういえば、夢でもなんか地面に沈んでってた!
 ――そうか、しまった、ボッシュートか…!
    ⌒ ⌒ ⌒
   _⌒ ⌒ ⌒__
  /:::::Λ_Λ:::::::::::::::/
 /::::::(∩;´Д`)∩ :::::/
/:::::::(  >>俺  /::::/  チャラッチャラッチャーン
 俺のスーパーヒトシ君がぁぁぁぁぁぁ!!!
 と、一人緊張感の無い事を考えている間に、柵の無いエレベーターみたいなものが終点についたようだ。

「…とりあえず、進んでみる?」

「うん!行こう!」

 マーニャに対しアリーナが元気に答え、歩み始める。
 うちの女たちは非常に積極的なので、男たちはそれに唯々諾々と従うのみだ。いや、そんな事も無いけど。
 通路を進むと、やがて登り階段が見えてきた。なるほど、塔だからな。登っていくわけね。
 …ここにもエレベーターつけてくれよ…。
 空気の読めない建築家を非難してから一歩ずつ階段を登る。
 登りきった先に、また出現する階段。どれだけ登れって言うんだ…。
 もう帰りたくなってきていたのだが、泣き言を言う訳にも行かず必死で喰らいついていく。
 …おお、目の前に大きな扉が現れた。やった、なんとかてっぺんにこれたようだ。
 アリーナとマーニャが一度視線を合わせた後、ゆっくりと扉を押し開く。

 通路が伸びていた。
 その先には、もう一枚の扉。構造から推測するに何かしらの部屋があるのだろうか。
 そして――。

「――まさか、此処に入り込める者がいるとはな。……しかも、よりにもよって人間か」

 煩わしそうに、不愉快そうに。
 苛立だしげに響く男の声。
 邪悪な鎧兜に身を包んだ黒い騎士が、最後の扉を守護するかのように立ちはだかっていた。

HP:88/88
MP:42/42
Eドラゴンキラー Eみかわしの服 Eパンツ
戦闘:物理障壁,攻勢力向上,治癒,上位治癒
通常:治癒,上位治癒

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