「そうか。そういえば、また薄汚い人間がルビーの涙を求めてやって来たと聞いたな。
お前たちの事か?」
騎士の視線が一人一人を見定めていく。
ソフィア――そして、アリーナ。彼女ら二人で、僅かに止まりかけた気がした。
「私たちはそんな事しないわ!」
「……」
アリーナの叫びに反応し、騎士は暫く動きを止めた。
だが――。
鞘走りの音を立て、剣を抜いたのは…ソフィアだった。
「……いずれにしても戦いになるんだ。なら、君の言い分を信じた所で不都合は生じないな」
肩が揺れる。…笑ったのか。
どうもソフィアとアリーナの様子がおかしい。
ソフィアはまるで魔物に相対しているかのように好戦的だ。
いや、事実そうなのか?確かにあの鎧兜は…どうも嫌な感じだ。グロテスクというか、悪趣味というか。
雰囲気だけでなく、装飾も酷い。
しかし、彼をさまよう鎧等と同列に語るには、中身が入り過ぎている気がする。

アリーナはソフィアとは対照的に、交戦に迷いを見せている。
あの、アリーナが、だ。相手が魔物だろうが人間だろうが強さ比べをしたがる彼女らしくない。
…力比べなら、喜んでするのだろう。だが、その先で生死が分かれるなら、少女とて考える。
仲間達や俺などと言った相手と命の遣り取りをしたいとは思わない筈だ。

…つまり、どういう事なんだ?ちょっと空気を読み切れない。
だが、一行の意志を最も顕著に纏めるのはソフィアの無言の行程だ。
ソフィアは自己主張が強い訳では無い。だから、仲間たちが意見を言った後で、纏めるように指針を示す。
彼女の行動は、皆の行動。そうでなければ集団はバラバラになってしまう。
ソフィアが積極的に動くのは比較的珍しい事であったが、それは疑念と言う程のものではない。

騎士に向かってソフィアが突っ込む。
同じ前衛であるアリーナとライアンは静観だ。此処の通路は狭すぎる。同時に立ち回るのは難しい。
「――ふん」

血飛沫が中空に舞う。
あれは、ソフィアのか…?見れば、少女の頬と手の甲に紅い筋が走っている。
全く見えなかった…一度剣閃が走ったのは解ったが軌跡も追えず、しかも二度も走っていたなどまるで想定外である。
それでも、ソフィアには見えていたのか。傷自体は浅そうではあった。

「…あれは、隼の剣。
それに…そんな…なんと恐ろしい…」
トルネコの呟きが俺の耳朶を打った。
俺は時が時、場が場なら知っているのか雷電!と問い詰めたかった所だが、ここは自重しておく。

「…あの鎧は、魔神の鎧と呼ばれる呪われた鎧でしょう。使用者に、強力な防御力と魔法やブレスへの耐性を与えます。
とてつもなく重い為避けるという選択肢は無くなるそうですが…一説には避けられないのではなく、避ける必要が無いのだとも」
トルネコの顔面は蒼白だった。
武器商人だからこそ、あの騎士の纏う武具が恐ろしい物であると誰より理解してしまうのか。
「それ以上に…それ以上に、あの兜がいけない。いえ、兜ではなく本体は顔を覆う面にあります。
――邪神の面。最強最悪の呪怨武具。魔神の鎧と同じく一度装備したなら自分の力では外せない。
あの面を被っている限り物理的な攻撃で致命傷を与えるのは不可能に近いでしょう。
そして――あの面は……使用者の正気を奪うと言われています」

…なんだって?正気を、奪う?
では、あの男は……。

「恐らく、混乱してしまっているでしょう。私たちが見ているものとは全く別のものが見えている可能性もあります」
そう語るトルネコの表情に傷ましさのようなものが混じった。
騎士に実際何が起きているのかは推測の域を出ないが、物に操られるというのは余り良い気分はしない。

「…なんだかよく解んないけど、魔法はそこそこ効くんでしょ?援護するわ!」
「全く。なんでもかんでも相手を攻撃すれば良いというものでは無いわ…」
マーニャの火焔球(メラミ)が騎士に着弾する。
横合いからの乱入により呻いて後退する騎士に、ソフィアが追撃の一撃を放った。
そのインパクトの瞬間、ブライの攻勢力向上(バイキルト)が少女の背中を押した。
金属と金属の衝突する大きな不協和音が響く。これなら――少しは効いたと思いたい。

「…なるほど。良い魔術師が居るようだ。息も合っている」

炎の中から姿を現した黒騎士。
その手には――小さな、珠があった。
それを見たミネアが一瞬、呆けたような顔をし、すぐに悲鳴に近い声を上げる。
「…え?――そんな!?どうして貴方がそれを!?」

「さて、な?――静寂の珠よ!!」

天に翳される珠玉。橙色を帯びた光が辺りを照らし出す――すると突然、まるで空気が停止したような感覚に陥った。
いや、違う。そうではない。普通に喋る事はできる。
では何故そう感じたのか。この感覚は魔法を扱う者達のみ共有したものだろう。
呪文が――封じられた。

「…!ちょっと、あんた、卑怯じゃない!!」
「この防具は、呪文に対しては完全な防御力を発揮できるとは言えないからな。
――当然、手は打たせてもらうさ」
どちらかといえばマーニャの方が理不尽事を言っているのだろうが、俺も全く同感だった。
呪文が無ければ足手まといになりかねないのだから必死にもなる。
…それにしても、あいつ、かなり強いぞ…。
っつっか、戦い慣れしてる…。

冷静にこちらの行動を潰してくる騎士に対し、ソフィアは余りに感情的過ぎた。
圧倒的な手数の前に、身体中から血を噴き出させる。
俺は堪らず少女に駆け寄った。だが、それより速く騎士とソフィアの間に割って入った者がいる。
「勇者殿は少しご休憩なさってください――私がお相手いたそう」
竜を冠する剣と鎧に身を包んだ戦士が、一歩前に出る。
騎士は一目で戦士の実力を看破したのか、慎重な様子を見せた。

「では…こちらからいきますぞ!」
地響きをさせるかのような踏み込みで戦士が距離を詰め、一挙動でドラゴンキラーを下から上へと跳ね上げた。
騎士はそれを隼の剣で受けようとしたが、細身の剣は易々と弾き飛ばされた。
続く二の太刀をモロに喰らい、数歩後退する。
「ひゅーひゅー!ライアンちゃん頑張って~!」
マーニャの、戦士の実力を信頼しているが故の、ふざけた声援が飛ぶがそれには両者共に無反応だ。
恐ろしい程に集中している。
ライアンは、今の攻防は技量の差というよりかは相手の剣の軽さが幸いしたと考えた。
事実、隼の剣とドラゴンキラーでは重量にかなりの差があると見られる。
でなくば――この手の痺れを説明できない。
それでも勝てなくは無い。剣の実力は、こちらに僅かながらも分がある。それが戦士の分析だった。
「…なるほど。認識を改めなければならないな。魔術師だけでなく、戦士も強い。
だが――」
騎士が、隼の剣を腰に差していた鞘ごと投げ捨てた。
――なんだ?よく見てみれば。――二本、いや、三本差し!?
「俺は負けられない。ヤツ以外には負けられない!ヤツを滅ぼせるのなら――この身がどれだけ呪われようと、構う――ものかぁ!!」
抜き放たれる魔剣。間合いの遥か外の行動だったが、ライアンは油断無く身構える。だが、此処ではそれが裏目に出た。
魔剣から赤みを帯びた光が一直線に伸び、辺りを眩く照らし出す!

「――これは、劣化装甲(ルカナン)の光!?」
「いけない、皆殺しの剣です!あんなものまで…!」
ブライとトルネコが驚愕する。
この光をまともに浴びているのは誰あろう――ライアンだ。
騎士は即座に剣を腰に戻し、流れるような動作で右手を首の後ろに回す。
そこには、柄があった。騎士が背負う巨大なもろはの剣が長き眠りから目覚める。
――魔剣が袈裟に振り下ろされた。
剣の強度と、劣化した鎧が相まって、死を誘う斬撃は易々と戦士の皮膚と肉を斬り下げた。
「む、ぐ……」
「ライアンさん!」
たまらず一歩、二歩と後退した戦士にクリフトが薬草を持って駆け寄り、処方する。
だが薬草では何処まで効果があるものか。

「――大爆裂(イオラ)」
騎士の左手からバチバチと音を立てて炸裂する光球が放たれる。
それは、戦士を通り過ぎ――後方の俺達の方へと飛んできた、って、うお!?
光の球体は空中で幾つにも分散し辺りに衝撃と炸裂音を響かせた。

「――あ、う」
呻き声がそこここから聴こえてくる。
広範囲に撒き散らされた爆発は、見事に全員を巻き込みダメージを与えていた。
俺は何とか身を起こし、ソフィアへ薬草を飲ませた。
ぐったりとしたマーニャとブライに、ミネアと戻って来たクリフトが薬草で治療を始める。
だが――それが、彼の騎士の狙いだったのだ。

紫電が辺りを走る。
静電気が背中から駆け上がって行くかのような感覚に、俺は薄ら寒さを覚えた。
騎士の左手に集う、裁きの光。
向けられるのは、傷の治りきらなかった戦士に、だ。
それでも、薬草はそれなりに効いたのか、ライアンは立ち上がり騎士に剣を向けていた。

「ライアンさん、すみません!…一度だけ、耐えてくださ――」
ミネアの願いは途中で止まる。
見てしまったのだ。戦士の右腕が、既にぼろ雑巾のように爛れてしまっているのを。
大爆裂が、ライアンにも及んでいた。
誰が見ても戦士は満身創痍であり、立っているのがやっとなのだ。
「――ええ、勿論ですとも。このライアン、一度と言わず二度でも三度でも耐え、剣を振るってみせましょう」
なのに。
戦士は、こちらを振り向く事無くそのような事を言う。
「…良く言った、戦士よ。この絶望的な状況で尚、仲間を鼓舞するとはな…」
「私は、本気ですからな」
「…では、耐えてみせろ!雷(いかずち)よ来たれ!招雷撃(ライデイン)!!」
その速度は正しく、光そのものであった。
戦士は仁王立ちで破壊の光刃を受け止める。

ッガァァァァァァァァン!!!!

閃光。爆裂。轟音。そして――静寂。
余りの眩さに眼を閉じてしまった。続いた轟音は天地が裂けたと言われても信じてしまうかもしれない。今は、視界を取り戻すのが酷く恐ろしい。

「――ライアン!!!」
仲間の悲痛な叫びが聞こえる。
俺は恐る恐る、瞳を開いた。
そこにあるのは――人の影、それだけだった。俺にはそうとしか見えなかった。
黒ずみ、炭化した戦士であったもの。
――死んだ。ライアンが。
あの誰よりタフで、生命力に溢れていた男、が、だ。
仲間の死を前に心臓の鼓動のペースがめちゃくちゃに乱れる。
それを俺は必死で抑え込んでいた。

戦士を完全に打ち倒した騎士が呪文の詠唱を行う。
「…瞬間治癒(ベホマ)」

絶望だ。それは、確かに絶望だった。
騎士に蓄積していたであろうダメージが、戦士が死してまで与えたダメージが瞬時に無くなってしまう。
ライアンは斃れ、魔法は封じられている。

……全滅?

全滅したら、どうなるんだ?
全員が死んだら――何処かで、生き返る?
それも無くは無いかもしれない。以前、クリフトが言っていた。
導かれし者達は、神の加護により蘇生呪文で再び立ち上がる事が出来るのだ、と。
だが――実の所、一行の中で全滅した者は誰一人としていなかった。
果たして、その先にあるものは何なのか――誰も知らない。
事が事であるだけに、試す訳にもいかない。

「安心しろ。逃がしは、しない」
かつり、こつり。
靴底の音がやけに高く響く。
今の俺には、目の前の男は鎧を着た死神以外の何者でも無い。

だが、縦横無尽に進撃をかける男に立ち塞がる者がいる。
サントハイム王女、アリーナ。
王女は騎士に立ち向かう意を決したようだった。
「…ピサロナイト!貴方はどうして…」
姫君が彼の騎士の名を呼んだ。
ピサロナイト。ピサロの、騎士。そうか、迂闊だった。この塔をピサロが訪れたのなら、ヤツの手の者がいてもなんら不思議じゃない。
「……。勘違いするなよ、アリーナ。俺は別に、ピサロに忠実な騎士じゃない。
ヤツは…ヤツは、俺から全てを奪っていった。村も、家族も、幼馴染も――」
「解らないわ!それじゃ尚更――」
「だが、俺は弱かった!ヤツに掠り傷一つつけられない位に!どんなに叫んでも、どんなに願ってもヤツを滅ぼせない――。
だから、最も確実で、最も速く目的を達する手段を選んだ。ヤツはどういう訳か、俺を殺さなかった。その上、力をつけろと言い出した。
――ヤツの思惑など知った事じゃない。俺はヤツを利用しているんだよ」
「そんなの…貴方の方がただ、利用されてるだけかもしれないじゃない…!」
「ああ……そうかもしれない。それも、解った上で、だ。
……アリーナ。俺は魔族が、魔物が憎くてしょうがない。ヤツラは弱き人をごみのように扱う。なのに――。
……醜悪なのは、魔族だけじゃなかった。人間も――同じ位に汚物そのものだったんだよ……」

初めてアリーナが息を呑む。
騎士の告白は続く。
「ロザリーヒルを訪れる人間たち、バルザック…。
そしてお前たちもそうだ。仇討ちに狂う者達…特に、そっちのヤツは身体中が憎しみの炎で包まれていて姿も見えない」
ソフィアの方を見て、吐き捨てるように言う。
「…何の事は無い。ピサロの言うとおりだった。俺は幸せな村にいたから、何も知らなかっただけで――。
魔物と人間なんて、大して変わらない。
…だが、一番醜いのはこの俺だ。俺の身体こそ業火に灼かれ尚形を保っているかどうかも確認し得ない。それが解ってからは――尚更手段なんてどうでも良くなった」
「…私には、解らないわ。何がそんなに醜いのか――それほどまでに嫌悪する事なんて無いと思う。誰に対しても。
だけど――これだけは言える。倒そうとしているヤツの下に居る限り、どんなに強くなってもそいつを超える事ができるとは思えない。
貴方はヤツ以外には負けられないと言った。だけどそれは、あいつには負けても良いって言ってるのと同じよ!」

「アリーナ…君の姿が見える理由はそこにあるのかもしれないな…。…では、どちらの手段が正しいか、死合いで証明するとしよう」
「ええ。結局、言葉を交わすよりも解りやすいもの!
私は貴方と殺し合うんじゃない。試合って、解り合って、その先に行けると信じてる!」
アリーナが騎士へと駆ける。
迎え撃つ騎士は、横薙ぎに諸刃の剣を振るった。
弾き飛ばされる少女。だが、すぐにその勢いを利用し壁を蹴り、再度迫る。
その機動の高い戦闘に俺はまるでついていけず、かろうじて視線で追う事しかできない。
――だけど。
自分より年下の娘があんな風に戦っているのに、自分は何もせずにいる。
そんな事――認められない。よな?誰より、俺自身が。
じゃないと、あの誓いに、新品の剣に、申し訳無さ過ぎるから。
少女達と騎士の剣が交差するのを尻目に、俺は後退しミネアに話しかけた。
「ミネア、あの珠の事、何か知ってるの?」
「え?え、ええ…あれは、静寂の珠。父の、形見のような物です」
「それを、どうしてあいつが持ってるんだ?」
「解りません!――どうしたのかしら、私は、ねえ、姉さん。私たち、アレを捨てたりしてないわよね?」
「…当たり前よ。…なのに、私もミネアも覚えていないわ。こんなバカな事ってあると思う?
お父さんの形見を、失くした事にすら気付かないなんて…」
悲しげなミネア。悔しそうなマーニャを見て、彼女達は本当に覚えていないのだと悟る。
しかし、俺はもう少し簡単に考えていた。
つまり、あるんじゃないか?――こちらにも、静寂の珠が。
むしろ話を聞く限り無い方がおかしいような気がする。
荷物を探る。これはちからの種…かやくつぼ…。
無い…やはり、無いのか…?失望感に襲われながらも最奥にまで伸ばした手が、丸い物に触れた。

「え――?」

ミネアが小さく声を上げる。
それは寸分違わずあの騎士の持っている珠と同じ物だった。

「ありえないわ!どうして、此処にもあるの!?」
「落ち着くんじゃ。…あるのじゃから、これは存在しておる。それに疑問を挟むのは今すべき事では無い」
パニックに陥りかけるマーニャをブライが窘めた。
老人に諫められたのが少し腹立だしそうではあったが、現状を理解し口を噤む。
「ですが、これで逆転の目が出ましたか?あの騎士の呪文を封じる事ができれば…」
「…いや、仮に封じる事ができてもあの装甲を剣のみで破るのは現実的では無い。
――旗色はいずれにしても悪い……」
クリフトの言葉を否定し、ブライが唸る。
これじゃ、ダメか…同じ珠…在り得ない筈の存在。……。
そうだ。それならば、ひょっとすると。

静寂の珠を持ち、立ち上がる。
俺は極小の可能性に賭け、やれる事をやろうと一歩足を踏み出した。
だが、二歩目が前に出ない。
怖気づいた訳じゃない。俺の意思とは別に、抑制しているものがある
ソフィアの掌。

それが、俺の肩に乗っていた。
手、肘、肩と順に伝い少女と視線を合わせる。
少女の意志は言葉ではなく、口の動きと文字をなぞる指と、その強い光を湛えた瞳で語られた。

『私が行く』

少女は言外にそう語る。
ああ、思い出した。あの話は、君も聞いていたっけ。

「…こんな役目、女に任せる訳いかないじゃないか」

『男とか女とか、関係無い。
あいつは強い。私でも巧く行くかどうか…同じ事をするのなら、成功率の高い方が実行するのは当然』

「…それは――」

『時間が無い。アリーナも、もうもたない。お願い。じゃないと、私は貴方を傷つけなくてはならない』

「――――」

俺は、それでも彼女に静寂の珠を渡すことができなかった。
この思い付きそのものである行動、分の悪い博打を人任せにしたくない。
だが、何かそれ以外の所でも嫌な予感がするのだ。――なんだろう。心がざわめくと言うか。
…そんな当てにならない話よりはむしろ、脅すような事を言われてしまったからには、の方が正解に近かったかもしれないが。

『……。ごめんなさい』

少女の当身が俺に直撃する。
悶絶する俺に泣きそうな瞳を向けた後、零れ落ちた静寂の珠を拾い、一直線に駆け出した。
俺は少女を掴まえようと必死に手を伸ばすが、後一歩の所で届かない。

アリーナがソフィアの存在を感じ取り、後ろに目があるかのような動作で横に飛ぶ。
ソフィアの唐竹割りを騎士は諸刃の剣で受け止めた。

「炎の爪よ!」

アリーナの炎の爪から、特大の火球が飛び出した。
此処で呪文に準ずるモノが飛んでくるとは思わなかったのか、騎士に僅かながら動揺が走る。

そこに、ソフィアの手が滑り込んだ。
騎士の腰にくくりつけられた静寂の珠と、ソフィアの持つ静寂の珠が接触する。
一ミリ。それ以下であろう。だというのに――それは、発生した。










――――景色が歪む。空気が歪む。音が歪み、存在が歪んだ。
――――存在しない筈の存在に、世界が悲鳴と警鐘を鳴らす。
――――警戒、警報、対処、在り得ないモノは、在るべき形に。










なんだ!?騎士を中心に――捩れた渦が発生してる…?何が捩れてるんだ。空気?空間?
いけない。あれは、マズイ。いくら俺がこの世界に疎かろうが、元来鈍感だろうがはっきり解る。解ってしまう。

「ソフィアー!」

その予想を遥かに超える異常な状況に、己の見通しの甘さを呪い自己嫌悪しながらも俺は必死に叫んだ。
せめて声で少女を護る事ができれば、と。だが、叫んだだけで何かを護れるのなら誰も苦労はしない。そんな都合の良い話は存在しない。
筈だった。

「…ソフィア?」

その呟きは、本当に小さく聴こえた。
余りにも小さかった。そして、余りにも遅すぎた。開けてはならない悲劇の幕が上がって行く。
遅きに失したその中で、尚、騎士は意志を体現せしめた。

騎士が全力でソフィアの身体を突き飛ばす。
小柄な少女は俺の足元にまで吹き飛んできた。
身体を丸める騎士。まるで、これから起こる事象の余波をできる限り押さえ込もうとするかのように。

――世界が鳴動した。

収縮した星の爆発にすら匹敵すると言われる現象。
剣が砕け、騎士の鎧が、兜が粉々に砕け飛ぶ。
呪われた武具ですら破壊する究極的且つ、局所的な爆発。
ソフィアが死後硬直を起こしたかのように、身体を固まらせた。
破壊の奔流に巻き込まれていく男の姿が、一瞬見えたから。

『――――…………兄さん?』

騎士の髪はソフィアと同じ、碧色をしていた――。

HP:34/88
MP:42/42
Eドラゴンキラー Eみかわしの服 Eパンツ
戦闘:物理障壁,攻勢力向上,治癒,上位治癒
通常:治癒,上位治癒

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