ピサロの居城、デスパレスへは足で行く事になった。
マーニャが泣いたり笑ったり怒ったりちらりと脱いだりして(!)何とかソロに瞬間転移(ルーラ)を使わせようとしたのだが、
彼は頑として首を縦に振らなかったのだ。

「…ミニモン。ロザリーの事、頼むぞ」

「あいよ!俺っちにお任せください!」

「…いざとなったら、無理をしないで逃げるんだ。勝利は、敵を倒す事じゃなくロザリーを守る事で達せられる」

ミニデーモンに任せるのは如何なものかとも思うのだが、
ハッタリかますには丁度良い人材なのかもしれない。
ソフィアはロザリーと名残惜しそうにしている。
彼女達は、短い間にかなり仲良くなったようだった。
なんでも、ソフィアの幼馴染に似ているとかなんとか…。
俺があの村に居たのは極々短い時間だったので、ロザリーに似た娘が居たかどうかは……。
……赤っぽい髪の色の娘は居たような気もするな。

ロザリーヒルでの収穫は多かった。
しかし、その収穫をより実りあるものとするには少し時間がかかりそうでもあった。
恐らくは、その辺りの事も考えソロは瞬間転移を使わないのだろう。
マーニャもそれが解っているから諦めたと見える。
と、いうかそうでもないと、理由も無くわざわざ歩くなど何が何でも認めまい。
あの女はそういう女だ。

「デスパレスに行く前に…変化の杖があると良いんだが…。
なんと言っても、魔物の本拠だ。手は多い方が何かと良い」

「ほう。あの杖の事を知っておるとは、ソロ殿は博学じゃな」

「ブライさん、何処にあるかご存知で?」

「うむ…あれはエンドールの南にある、王家の墓にある。
サントハイムの王族とも縁の深い場所ゆえ、ワシが先導しよう」

出立前の会議の席で、そう言う話になっていた。
俺たちは海路を西に、王家の墓と呼ばれる建造物を目指す。


「此処は…そういえば小さい頃、お母様のお葬式で来た事があったわ。
もう!ちゃんと草むしりくらいしておけばいいのに」

アリーナが憤慨するのも無理は無い。
歴代の王族が眠る遺跡は荒れ放題であり、中には魔物の気配すらする。

「うぅむ…これは少し考えねばなりませぬな。
墓荒らしにやられていなければ良いが…」

ブライの懸念も最もだが、俺たちも墓泥棒と大して変わらないんじゃないだろうか…。
アリーナや宮廷魔術師であるブライがいるから大丈夫なんだろうけど…。

さて。
洞窟の探査をする訳だが内容としては特筆すべき事は無い。
滑る床のトラップがある位で目新しい仕掛けも無いとはブライの弁で、
事前にある程度ネタが割れてる以上大したピンチに陥る事もなかろう。

俺は先頭を行くアリーナ、と並ぶように歩くソロの背中を見遣る。
恐らく、最後尾にいる俺のすぐ前を行くソフィアも、その背を見ているのだろう。

ソフィアは言うまでも無く、声を取り戻せたことを皆に祝福された。
少女は恥ずかしそうではあったが、少しずつ仲間との会話を楽しんでいる。
だが……やはり、まだわだかまりがあるのか、ソロとは殆ど喋っていない。

ソロの方はアリーナやライアンを始めとしてやはり皆と少しずつ距離を縮めていっている。
唯一、ミネア位だろうか、時折彼を避けるような挙動を見せる。

俺としては他人の人間関係にまで首を突っ込むのは趣味では無いのだが…。
マーニャがまた面倒な事を押し付けるのだ。
あの女は俺に対してはほんと、便利な道具か何かと思ってる節があるよなぁ…!
とはいえ…俺がちょろっとでも呪文を使えるのはマーニャのお陰ではあるし、
あのミニデーモンのように発動しないという悲しい展開を避ける事ができたのは、大きな借りだ。
何とかしないとこのまま使いっぱしりかもな…。

さりげなくミネアの隣に並ぶ。
占い師の娘は何やら恍惚とした表情でふらふらと歩いていた。
お、おい。ちょっとトリップしてるんでねーの?というか色っぽいなおい。
邪念が産まれるのを恐れた俺は早々に話しかけてしまう事にする。

「え?何か良い事でもあったのか、ですか?
ええ、私、こんな理想的な場所って初めてなんです。
地面の下、ひっそり静かで周りにはお墓がいっぱいだなんて!そう思いますよね!?」

……にっこり同意を求められても困るのだが。実は俺がずれてるだけでこれがグローバルスタンダード――なわきゃあ、無い。
姉のマーニャはこの年でお墓になんか絶対に入りたくないと言っていたのに…この二人は似てないよなあ…。

「ですが、お墓の物を持っていくなんてやはり気が咎めますよね…」

そ、そうだよね!いやあ、やっぱりミネアさんはこうじゃないと!
少ない常識人なんだから!!

「バチを当てるならどうか姉さんだけに……」

……。
もうやだ。

しかしこんな所で挫けてもいられない。
きっと、このお墓という特殊なフィールドがミネアをおかしくしているんだ。
地上に戻ればすぐ優しいミネアに戻ってくれるよ…な…。うん…。

「な、なあ。それは、そうとして…。…最近、元気ないようだけど…ソロについて、何か思うところとか、あるの?」

「――意外と鋭いんですね。……」

ミネアは暫し逡巡した後、一見まるで関係無さそうな事を問うてきた。

「……魂の相似、というのを聞いた事がありますか?」

「ん?いやあ…わかんないな」

「あ――それもそうですね。ごめんなさい。
…私達の間では、双子は忌み子とされています。私は、余りこういう言い方は好きではないのですが…ですが、時として本当に災厄をもたらす事もあるそうです。
全ての双子に必ず共通する訳でも無いのですが、双子、中でも魂の相似性を持つ双子が接触すると、恐るべき事が起こるというのが、伝承としてあるのです」

「それは、恐らく座標融解現象じゃな」

突然のブライの割り込みに俺とミネアは肝を冷やす。
少し声が大きいか。どうも内容的にソロやソフィアには聞かれない方が良い気がする。
とりあえず、二人がこちらに注意を払っていないのを確認し、話を続ける。

「けど、あの現象は全く同じじゃないとダメな筈じゃ…ソロとソフィアは見た目も性別も違うよ」

「ええ、その通りです。
ですが――二人と持っていてはならない属性、在り得てはならない存在であるならば、時に話は別になります」

「……?解らない。要領を得ないな」

「つまり、そう。――ソロさんも、また、勇者であると私には視えたのです」

……ソロも、勇者?
じゃあ、勇者が二人いるのか?

「それが、本来ならば『在り得ない』と、言うておるのじゃよ。
…とはいえ、それは本来なら、等という当てにならない予測であり推測でしかない」

「…私は、この件に関しては目の前に存在しているからと言って、素直にそうですかと頷き難いんです。
これは私の内面の問題ですから…。
ただ、恐らく、ですが――ソロさんとソフィアさんの接触においても、座標融解現象は発生するのでは無いでしょうか?
言い伝えられてきた伝承とも符合しますし…可能性は高いと思います」

む、む。
むー…だから、ソロとソフィアは何処か余所余所しいんだろうか?
だとすると、なあ…。なんだかちょっと、可哀想だよな…。
俺はかりかりと頬を掻いて、歩を進める碧の男女をぼんやりと視界に収めていた。

無難に変化の杖を手に入れた俺達は、今度は南の大陸を目指す。
順調すぎる航海である。
のだが、まだ天空の剣が手に入ってないのにデスピサロの所に行って良いんだろうか?
というか、行って斃してそれで終わりじゃないだろうな?
皆の冒険はそれで終っても良いかもしれんが俺はそれじゃ困る。


――オレはようやくのぼりはじめたばかりだからな。
このはてしなく遠い天空城への道をよ…。

                                       未完…!


なんて終り方は嫌ですよ?
そうならないように頑張るけどさ!

大陸に着くまでは時間があったので、手に入れたばかりの変化の杖に糸をつけ、釣りをしていたり。
別に訓練をさぼっている訳では無い。これはこれで食料の調達なのだ。
とはいえ、釣り自体には余り身が入っていないのも確かなのだが。
どちらかというと太公望気取りで釣りをしながら考えを纏めていると言った所だろう。

チームワークは大事だ。
足並みの揃った集団と、揃わない集団とでは運用性が桁違いである。
ぱっと見る限りでは問題はソロを中心に起こっているように見えるのだが、
実の所そうとばかりも言い切れない。
彼は思った以上にその辺りを理解しているらしく、ソフィア以外とのコミュニケーションは意外と進んでいる。
むしろ話しかけすぎて時折「……」が飛び出る位だ。ん?今のは何の話だろう?
その辺りを鑑みて観察して見ると、問題の中心はどちらかというとソフィアにあるような気もするのだ。
どちらからアプローチしたものかな…というのが今の俺の悩みなのだ。

ところで流れとあんまり関係ないんだけど、
    俺 ↓     
.            /| ←変化の杖
     ○  /   |
.    (Vヽ/     |
    <>      |
゙'゙":"''"''':'';;':,':;.:.,., |___________
             |
  餌(疑似餌)→.§ >゚++< ~←魚

の組み合わせだとまあ良いんだけど、
この辺りの海は魔物が生息しているんで、何も魚が引っかかるとは限らないんだよね。
これは、どっちかというと、



          ,~~~~~~ 、
|\     ( 釣れたよ~・・・)
|  \    `~~~v~~~´
し   \
゙'゙":"''"''':'';;':,':;.:.,.,  ヽ○ノ
          ~~~~~|~~~~~~~ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
                 ト>゚++<←突撃魚
              ノ)

こうなるかと思うんだけど、どうよ?
TU-KA、
今なってますからあああああああああああああああああああああああ!!!!
ちょおおおおお、まああああ、それはああああ本場ドイツで作られたソーセージじゃなくううう!!!
喰らいつかれて、ぱっくんちょ。ってちっとも気持ちよくないのね♪
ギギギ、歯を立てるな歯をーーーーー!!ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっく!!!!!!


ぶはあ、げふう、ああ、危うく子供が産めなくなる所だった…。

「…気をつけてくださいね?」

結局、通りがかったミネアとクリフトにロープを投げて貰い俺の息子は九死に一生を得た。
それにしても、酷い目にあった…俺は手早く上着を脱ぎ、水分を絞り落とす。
…ん?ミネアがなにやらそっぽを向いてるな。
珍しい…いや、久しぶり、か。そういえば、旅の始めはこういったリアクションも良く見たような…。

「着替えはどうされますか?ソロさん」

「んー、いや、いいや。これ、また着るよ」

助けて貰った礼を言い、そそくさとその場を離れる。
船室に入り、廊下を曲がった所でほぅと一息いれた。

ほああ!?
なんだ、俺がおまえでおまえが俺で。俺はソロでソロは誰?
い、いかん。自分が池面になった姿なんて――そんなの俺じゃないよ!
そうか、釣竿、もとい変化の杖を振ってる間に…。

う……?
それにしても、なんだろう……この一体感……。
お、お、お――なんか、気分が……悪い、な……。
そういえば……そうか……なんだっけ……あの、夢……と、状況が……似てる……。

違う……これは、違う……。
俺は、俺だから……だから……あの時とは違うんだから……。
勘違い……だ……してるだけ……。

「――兄さん!?」

遠くから何かが駆けてくる音が聴こえる……。
ぱたぱた……ぱたぱた……。
……少し離れたところから覗き込まれる気配。

「ソフィア……」

「…どうしたの、兄さん?具合が悪いの?」

「いや、大丈夫だよ……。……なあ、ソフィア……どうして……君は……――を、避けるんだ?」

「え…?そ、それは…」

一歩、後ろに下がり俯く少女。
それでも、この機会を逃してしまえば二度と前には進めない。

「…兄さんも、覚えているでしょう?
小さい頃、山菜を取りに山に入って…小さな川に、兄さんが足を滑らせて落ちちゃった時の事…」

双子は、親や師、村人たちから決してしてはならない事を教えられてきた。
子供心に納得がいかず、また、タブーにされればされるほど、それを犯したくなりながらも、
その瞬間まで兄妹は言いつけを護ってきた。

だが、兄が今にも川に攫われそうになった時にまで、優しい少女はお行儀良くしていられなかった。
石になんとか掴まっている兄の手を取り、引き上げようとする。

「あの時起こった、あの光…あの時と、同じ光…。
兄さんの手が弾け飛ぶのが見えた。そして、私の腕も…。
川に流されていく兄さんをただ見ている事しかできなくて、痛みを感じる暇も泣き叫ぶ余裕も無かった…。
幸い兄さんも私も、皆の捜索と救護で助かったけれど――。
――兄さんは私が声を失った責任を感じて自分を責めていたでしょう?…それが、私は悲しかった。
私の声が出ない事なんて、それに比べればどうでも良かったのに…なのに、私は弱くて…あの時の光景を思い出すだけで喉が…。
兄さんが…兄さんが、私の目の前で、私のせいで傷ついて、死んじゃうのが…怖くて…」

「…バカだな…いや…ひょっとしたら、それは尊い事なのかもしれない…。
その、すれ違い自体は…だけど…すれ違ったままじゃ、それは悲しすぎるから…」

頭を抑えながら、いつのまにか崩してしまっていた膝を伸ばす。
そして、廊下をずるずると歩き出した。
ソフィアは、俺の突然の行動に戸惑いながらも、心配そうについてくる。

「ソフィア…此処で、ちょっと、眼を瞑っていてくれ…」

少女がいよいよ要領を得ないと言った表情を浮かべるが、
それでも素直に瞼を降ろす。
俺はそれを確認してから、廊下の角を曲がった。

そこには、ソロが立っていた。

「…これ、手袋な。ブライさんとも相談してたんだ。これ一枚あるだけで、二人が混ざる事は無い。簡単な事さ」

「……。どんなに簡単な事でも、それに気付けない時は気付けないんだな…大丈夫か?」

「ああ、俺は大丈夫。…じゃ、後は頼むな」

本物のソロが俺の視界から消え、曲がり角の奥でソフィアの前に立つ。
少女が瞳を開くのと同時に、ソロはソフィアの手を取るだろう。しっかりと、手袋を嵌めて。
これで、良い。これが、っと一歩目で、二人の道筋はこれから始まる。

俺は彼らの邪魔にならないように、最も近くにあった船室の扉を開き、中へと滑り込む。
ようやく解った。ソフィアが、ずっと『何を視ていた』のか。
大灯台で、サントハイムで、『俺の危機』に『何を視ていた』のか。

解っていた事だ。
そもそも、俺みたいなのが女の子に好意をもたれる訳が無い。
いや、もたれちゃおかしいんだ。俺は特にそういう努力をしていないのだから。
もてようと思って、並々ならぬ努力をしながら中々実りを得られない男がごまんと居るというのに、
受け身で、
都合良く、
無償で、
可愛い女の子が自分を好いてくれるなど、在り得ない。

ソフィアは、俺の後ろにソロを透かし視ていたのだ。
丁度その時、傍に居た人が皆いなくなってしまったから――。
偶然、俺の見た目がソフィアよりも幾ばくか上だったから――。
たまたま、俺が男だったから――。

――――…………。
……まあ、だけど。
それで良いんじゃないだろうか。
最初からある訳が無いと考えていたのだからさほどショックでは無いし、
それに――ソフィアが幸せなら、それは良い事なのだ。悪い事である筈が無い。

やがて変化の杖の効果が無くなり、
俺の姿はソフィアが捜し求めていた男の姿では無くなった。
だがそれは、悲しむべき事では、無いのだ。

髪に絡んでいた海水が、ぽたぽたと数滴落ち、床に染みていった。

HP:98/98
MP:48/48
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戦闘:物理障壁,攻勢力向上,治癒,上位治癒
通常:治癒,上位治癒

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