「さぁいざゆかん、天空の塔へ~ですよ~」 緊張感の無い鬨の声を上げて一同の戦闘を進む女。 その背には羽…いや、翼が生えていた。 怪奇!?鳥人間!!と、いった感じだろうか。 まあ、喋り方がキモイお陰で外見ではそこまでびびらずに済んでいたりもするのだが。 ソフィアのリハビリも兼ねて木登りをしていた俺たちが、枝の先で見つけた女。 なんでも彼女は空から降りてきたのだという。 世界樹の葉を摘みにきて、魔物に羽を折られたそうな。 彼女の言うとおりに引き続き世界樹を探索してみると…確かに、そこにあった。 空の、剣が。 こうなってくると、彼女の話も信じざるを得ないのだが…。 ただ、トルネコだけが首を幾度も捻っていた。天空の剣。確かに装飾は見事だが、それほど素晴らしい武器だとも言い切れない。 そう呟いては意気消沈したようにため息を吐く。 無理も無いだろう。この人は、この剣の為に元々得意では無い戦闘に身を置き、これまで危険を乗り越えてきたのだから。 その剣が…言っちゃなんだが思ったよりしょぼかった、ともなれば凹みもするだろうな。 それでも、やがて元気を出して、全てが終るまでついて行くとソフィアに告げ、彼女と、そして皆に喜ばれていた。 なんでも戦いが終った後には天空の剣を譲ってもらい、家宝にしたいそうな。勇者が振るった伝説の剣を所持する事こそが、世界一の武器屋であることの証明になる…。 正直言うと少しピンとこない話ではあったのだが、そこには例えようのない…浪漫があるような気がした。 天空の武具を揃えた者は空へと昇る。 ルーシアの指し示す通りに気球を飛ばすと、はたしてそこには険しい山々に囲まれた、空を衝く塔が聳え立っていたのだった。 鎧、盾、兜…そして、剣。 それら全てを身に着けたソフィアが塔の前に立つと…ゆっくりと、その荘厳で巨大な扉が押し開かれる。 「…さあ、行きましょう」 「おう!!!」 ソフィアの号令に、一同は鬨の声を挙げた。 「うわー!みてみて、クリフト!ほら!あの海の先に見えるのってひょっとして…」 「……姫様……すみません……このクリフト、戦いに負けたのではなく、高さに負けました……」 「ちょ、ちょっと、クリフト!?」 バタリと倒れるクリフトを引き摺って馬車へと戻るアリーナ。 どうやら彼は高所恐怖症だったらしい。いや、今迄よくもったよ。ほんと。 気球といい世界樹といい高いとこばっかりだったしさ。 二人の代わりにライアンとミネアが馬車から降り立ち、天空の装備を纏ったソロ、そしてブライと共に俺たちは再び塔を昇り始める。 ソフィアはまだ病み上がりという事もあり、無理はせずソロと装備ごと交代して馬車の中にいる。トルネコさんは御者台だ。 マーニャは…寒がって出てこない。 いや、そりゃそうだろうさ。あの格好じゃ寒いよ。どんな装備でも兎に角薄くしようとするのは職業柄というより最早ろしゅつきょ――。 ひゅんひゅんさくぅっっっ!! 「うごごごご!!」 「きゃあ!頭に鉄の扇が刺さってますよ!」 「説明的台詞をありがとうミネアさん」 ミネアの治療を受けている間、馬車の中からはトルネコをからかうマーニャの声が聞こえてきた。 傍若無人すぎる姉に対して、何故か妹のミネアが申し訳なさそうにする。 相変わらず苦労してるな…そう考えると、ついくすっと笑ってしまった。 それに気づいたミネアは流血のせいで遂にヤバクなったのかと、一層哀しい顔をするものだから、俺はまたつい笑ってしまった。 「いよいよですね…」 治療と俺の笑いがひとしきり収まった後、ミネアがぽつりと呟いた。 いよいよ――。 彼女が俺にだけ聴こえるようにそう言うのだから、それはつまり――。 「良いんですか?…皆さんに伝えずとも」 「……」 良いのか、悪いのか――と聞かれると、決して良くはない気がする。 なんと言っても、薄情な話だ。 だが、そうだとしても…迷うのは、この先に本当に神がいるのか、この先で本当に俺は元の世界に戻れるのか、という事だ。 できもしない話なら余計な事を言うのもどうかと思う。 そして、もう一つは…それは本当に皆に伝えるべき事なのか、という事。 「…すみません、前の方はともかく、最後の理由の意味がよく解らないのですが」 「だからさ。…例えば、病気になったとするじゃないか。 後数年しか生きられない――と、なった時に自分の大切な人を最も悲しませない方法って言うのはさ。 全てを正直に話す事なのかな、っていう事。わざわざ数年で死んでしまう、なんて事は言わない方がさ…」 「馬鹿じゃないですか?」 ミネアにしては、強い語調だった。 だから、俺は小さく息を呑む。 「何を言ってるんですか?本気ですか?本気なら…私も本気で怒りますよ?」 「ま、待って…なんだよ、俺だって色々考えたのに、そこまで言う事…」 「…私、貴方の事見損ないました。それに、凄く悲しいです」 ミネアはそういうと、ぎゅーっと俺の手の甲を抓る。 痛い。痛いのだが…なんだか妙な雰囲気で。痛いのは俺の筈なのに、むしろ痛がっているのはミネアで、それを何とか我慢しているかのような。 「貴方にとって、私たちは…仲間でもなんでもなかった、という事なんですね」 「そ、そうじゃない。仲間だから…大切な仲間だから、どうするのが一番良いのか考えるんじゃないか…」 「…本当の本当に、そう思ってます?」 「本当の本当の本当に!」 じっと、何もかも見透かすかのような占い師の瞳が、俺を覗き込む。 どれだけそうしていただろうか。やがてミネアは小さく嘆息した。 「嘘じゃ…ないみたいですね」 「当たり前だろっ」 「なら、幼い貴方に特別に教えてあげます。私たちを…ソフィアさんを大切に思うなら…嘘は、つかないでください」 「だけど…」 「嘘が巧いなら、それも手かもしれません。ですが…貴方には向きません」 ぐさり。 それは褒められてるんだろうかけなされてるんだろうか…。 そうちゃかしたら、物凄い勢いで睨まれた。どうやら、あのミネアが本気で怒っているらしい。 「解った…言うよ、言う。神様に会えて、戻れるって事が解ったら、ちゃんと…言うから」 「絶対ですよ?」 「絶対!」 「……よろしい」 ずっと抓られていた手を解放されて、俺はようやく人心地ついた。 ふーふーと息を吹きかける俺を見て、ミネアはくすくすと笑っている。全く、誰のせいなんだか…。 不満なのか嬉しいのか、俺は自分でもよくわからない笑みを返していた。 俺たちがさぼっている間、前線はライアンとソロで保持されていた。 ブライが後ろから氷結呪文と補助呪文で援護し、ルーシアも時折例の気の抜けた声で呪文を唱えている。この娘もいまいち掴めない。天然か? ミネアが治癒の呪文を唱える中、俺はライアンとソロの後ろ、1.5列目に立ち、ドラゴンキラーを構える。 「大分、板につきましたな」 現在、俺が剣について師事しているライアン。彼に褒められると素直に嬉しい。 それが面白くないのか(なんで面白くないのかは知らないが)こういう事に関してはやたら地獄耳なマーニャが馬車の中からにゅっと顔を出した。 「ま、呪文の方はまだまだだけどね。結局攻撃の呪文は殆ど使えないしー」 「そうでもないじゃろう。取捨選択としては間違っておるまい。攻勢力向上との相性は悪くないしの」 ああ…俺としては、ブライに褒められるのは嬉しいのだが、この状況だとそれも半減だ…。 一気に険悪な雰囲気になる二人。 理論のブライと、感性のマーニャ。こうなってくるとこの二人はいつも荒れるのだ。 「あによお爺ちゃん。私の下僕を庇うなんて良い度胸じゃない」 「下僕じゃないよ」 「ワシは事実を言ったまでじゃ。そろそろ少しは認めても良い頃合じゃろう」 「余計なお世話よ!奴隷の事に関しては師匠である私が決めるのよ!」 「奴隷じゃないよ」 「理論について教えたのはワシじゃからな。権利の半分はあってもおかしくないわな」 マーニャの髪がうねうねと揺れる様はメデューサのよう。 対するブライの髪はツインタワー。サ○ーちゃんのパパか三島平○か。 「珍しいわよねー。ブライが人の事褒めるなんて」 「いや、姫様に関しては特別厳しいのですよ…教育係ですし…うぷ…」 「あーもー、いいから寝てなさいってば!」 「申し訳ありません…」 謝ってる割に嬉しそうだなクリフト。 しかし、ブライがアリーナに厳しかったのはある種仕方がない気はする…教育係がいながらあれじゃ、なあ…。 それとも、口ではなんのかんのと言っても理解を示して、のびのびと育てようとしている? …ひょっとすると、ありえなくもないかもしれない。 「はい、その辺りにしておきましょう」 「マーニャさんも、落ち着いてください」 こういう時止めに入るのは決まってライアンとトルネコの役目だ。 なんとも貫禄のある感じだ。ライアンはともかくトルネコにもあるのは、やはりこの中では一家の長であるというのが大きいのだろうか。 「ほえぇ…皆さん、仲が良いのですね~」 それもまたどこか抜けた感想だなとつっこもうと思ったが、ソフィアとソロがルーシアに同意しているので止めた。 まあ、見方によってはそうも見えるかもしれないしな。 マーニャとブライも仲が悪い訳ではない。いや、悪いのかもしれないが、嫌い合っているという訳ではないから。 これは恐らく俺だけが知っている事だろう。二人について師事していた俺は、ぽそっと呟く言葉を聴く事が多いから。 ブライはマーニャの事を稀代の天才魔術師だと思っている節がある。だが、理論をほぼ極めた老人にはまだ彼女がその才に振り回されているように見えるらしいのだ。 それが、惜しい。故に、口煩くなる。 そしてマーニャもまたブライの経験には一目置いているのだ。 何度かマーニャがブライを頼った時、その的確なアドバイスは幾度となく彼女を袋小路から救い出したのだと言う。 それが、悔しい。故に、憎まれ口を叩く。 「あの二人は…もっと協力したら、想像を絶する術も使えそうだがな」 「だけど…もしかしたら、今のままでも良いのかもしれない」 ソロとソフィアがそれぞれ感想を漏らす。とても対照的だと思った。 俺としては…そうだな、どちらが良いというよりかは…どちらも…なら、更に良いのかもなあ。 こうして皆で塔を昇るというのも珍しい気がする。 大体、洞窟や塔といったものは魔物たちの巣になっている。それというのも、理由の一つとして魔物たちは狭い所を好む習性みたいなものがあるのかな。人と同じように天井がある方が良いのか。 しかし、だったら洞窟大好きっこなミネアは魔物かという話に…はっ、殺気… ((((;゜д゜)))ガクガクブルブル …この話はやめておこう。 で、狭いところにあるから馬車ごと入る訳にいかず、苦しい時に仲間皆で立ち向かうという事が中々できないのだ。 地上ではさほど窮地に陥ることも…人数が増えれば増えるほど無くなっていったしな。 だから、今のこの感覚…調子が悪くなったら馬車の面子と交代したりとか、そんな事は中々できなかったんだが。 「凄いち~むわ~くですよね~素敵です~」 そう…この間延びした台詞にはいらっとするが、此処に来て俺たちは…かなり仕上がってきている感じがした。 「ところで、ルーシア。この塔を昇った先には何があるの?」 クリフトを寝かしつけ、トルネコに代わり馬車の御者台に上ったアリーナが訪ねた。 その質問は皆が聞きたくて、だがどこか遠慮してきたものだった。 興味津々といった雰囲気で視線を投げるものが多い中、ミネアなどはあまり聞きたくないのか視線を逸らしていたりする。 …そういえば、ミネアにとっては今迄声だけ聞いていた存在っていうのが、そこにいるのかな。それは少し緊張したりするかもしれない。 「はい~詳しくは、やっぱり着いてからのお楽しみという事で~。 で、す、が♪空の上には竜神様がいるのですよ~~~☆」 …やはりいるのか。竜の神が。 彼女は空の住人だ。マーニャが引っ張ったり毟ってみたりして本物だと確かめたあの羽を持つ女が言ってるんだ。 あの時…キングレオ城で導かれし者達が集い、サントハイム城でバルザックを討ち…。 全員揃った仲間たちが改めて踏み出した道、それが…竜神を探す我等が旅だった。 大陸を足で、船で、気球で横断し、深い洞窟を進み、今はまた空に続く高い塔を制覇しようとしている…。 町で、王宮で、村で…楽しい事も哀しい事も。色々…色々あった旅が…。 それが…終る、のだ。 そう考えるとなんだか鼻の奥がツンと痛くなってくる。 見ると、感慨深い顔をする者、目頭を軽く拭う者、皆それぞれがやはり俺と同じように複雑な顔をしていた。 俺は…導かれし者達ではないけれど…。 それでも、この長い旅を共にしてきた…皆の仲間だと。思って…いい、よな? こんな事、訊いたら物凄い非難されるんだろうな。皆、良い奴だから。 だから、訊かない。 そっと添えられた碧の少女の手を、俺は強く握り返した。 この先に何が待つかは解らない。 俺が元の世界に戻れるのか、戻れないのか。戻れるのなら、戻るのか、戻らないのか。 先の先の事を考えて取らぬ狸の皮算用をするのが嫌だったから今迄あまり考えずにきたが、そうも言ってられないのだろうか。 だが、デスピサロの件もある。考える時間は…まだあるように思うから。 今は、進もう。 考えて、足が進まなくなる事のないように。 よし、元気出して、ガンガン行こうぜ! 近いか遅いか、旅立ちか死か、それらは解らずとも俺と『皆』の別離はいつか必ず訪れる。いや、多少のズレはあるかもしれないが、それは今迄に比べたらかなり近づいている。 だが、それは…悲しいだけの事じゃ無い筈だから! HP:110/125 MP:20/61 Eドラゴンキラー Eみかわしの服 Eパンツ 戦闘:物理障壁,攻勢力向上,治癒,上位治癒 通常:治癒,上位治癒