……あー臨職切れたなあー次どーすっかなーもーまたハロワ通いたりぃしー。
「エイコ、エイコってば」
……来週の合コン、どんな人が来るのかなー。ハズレじゃなきゃいーなー。
「エイコ、起きてよ」
……あーその前に家賃振り込まないとなーめんどくせーなーもー。
「エイコってば!!」
「うっせえな何だよテメェコラ誰だよ!! ……ってアレ?」

目覚めたら、やっぱりドラクエ8の宿屋だった。
ここはサザンビークの宿屋。昨日はあのまま泊まったのだった。実質2泊目の私。
ゼシカは男2人女2人で部屋割りをする事が出来るようになって喜んでいたのだが、
現実はそう上手くいかないものだ。うんざりした顔で言った。
「ちょっと……エイコっていつもこの調子なの?」
「あー……ゴメン。普段一人暮らしだから、起こす人もいないし」
「そう……(居たとしてもビックリして出て行っちゃったのかもね)」
ん? 何か悪口言われているような気がする。
「何か言った?」
「いぃえぇ別に……はい」
ゼシカは水差しからコップへ水を移し替えて私に差し出し言った。
「悪いな」水を受け取り、一気に飲み干す。

部屋の外でバタバタ音がする。るっせえな、朝っぱらから。
「大丈夫でげすか?! 今大きな声が!!」
「開けてんじゃねーよハゲデブ!!」
反射的に怒鳴り散らしながら枕を投げつける。
因みに今、私は下着姿である。
激しく寝相の悪い私は、寝巻きを着ても朝には脱げているので、初めから着ない。
とっとと起きたゼシカは、既にきちんと着替えしている。
「ハ、ハゲでばだいでげつ……」
枕はヤンガスの鼻に会心の一撃を与えたらしい。
しゃがみこむヤンガスの後ろに、呆れ顔のククールが立っていた。

「しかしことごとくエイトとは正反対だな、エイコは」
食後のコーヒーを飲みながらククールが言った。
それはエイトは男であり元兵士なだけあって朝は強いし剣も魔法も出来るって事かよ。
「しゃーねーだろ、育った環境が違うんだよ、生き別れだから」
また口からでまかせを放つ。みんなが何かを言いたそうな顔をしたが、制するように続けた。
「しっかし、こんなうまいコーヒーが飲めるとはな」
「サザンビークは都会だからね、今はバザーのシーズンだから豆も手に入りやすいんじゃないの」
普段スターバック○とかドトー○に入り浸っている私としては、こちらでもコーヒーがあるのは嬉しい。

「そろそろ出発しないと昼になってしまうでげすよ」
ヤンガスはコーヒーがあまり好きでないらしい。半分以上残して席を立とうとしている。
「ハイハイ、じゃあこれ飲んだら行くから」
どちらかというとのんびりコーヒーを楽しみたい私。
ヤンガスに引き続き、ゼシカも席を立った。
「じゃ、私も行ってるわね、早く来てね」
「ハイハイ」手をプラプラ振ってテキトーに返事をする。
大体私って、団体行動って苦手なんだよね。特に『早くね』とか言われるのとか。

「なあエイコ」ククールがコーヒーを飲む手を止める。
何だか面倒くさそうな突っ込んだ質問をして来そうな空気だ。
「何?」威圧するために出来る限り低い声を出す。
大体、私がこの世界にいる事なんて誰にも説明出来ないのだ。
「な、何でもない」どうやら威圧は成功したようだ。
「何でもないなら呼ぶなよ。そろそろ私らも出発の準備をした方がいいんじゃねえの?」
「そうだな」
残ったコーヒーをあおり、「おばちゃんごちそーさまー」と声をかけると、
私は部屋へと戻った。

ドラクエ8ってことは、例の生物も一緒に旅をしていることになる。
「おお、エイトに双子の妹がおったとはな」
「ヒヒ~ン……」
緑星人と馬の事までは覚えていなかった。そうそう、一緒に旅していたね。
ところで、しばらく投げ出していたゲームなので、何から手をつけていいのか。
戻れないのなら楽しむしかない。現実でも臨職が切れたし、リフレッシュ旅行のつもりだ。

現実逃避とも言う。

そうそう、久々に冒険を始めたときには、仲間の話を訊くんだったな。
「なあ、ククール、私達はこれからどうすればいいんだ?」
取りあえず一番まともそうなのに訊いてみる。彼はうーんと腕組みをしてしばらく考え、こう答えた。
「とりあえず、エイトを探さなきゃならないんじゃないか?」
すかさず残りの二人が賛同する。
「そうでがす、妹さんがいるとはいえ、エイトの兄貴を探さなければならないでがす!」
「そうね、またこの近くを探してみる?」
そういうことですか。確かに、私ではこのパーティの役に立たない。
何しろ、『エイコ Lv.1』であることには間違いない。

ところで、私の職業ってなんだろう。夜遊びもあんまりしないから遊び人じゃないし。
もちろん魔法は使えないし、体力にも自信がない。HPは多分20ポイントもあるかどうか。
スライムにどつかれたぐらいでは死なないだろうが、それ以外のモンスターにどつかれたら生きている自信はない。

街道沿いに北上していると、目の前にバラバラと敵があらわれた。あー、マジ出るんだ。
「エイコ、毒矢頭巾だ!! 後ろに下がってろ!」
ククールが叫ぶ。ヘイヘイ、そのとおりにしますよ。
前方ではヤンガスが、毒矢頭巾の放つ矢を避けながら斧で切りかかっている。
ゼシカは腰に括っていたムチを上手いこと操って攻撃している。
「ああっ!」
ゼシカが飛んで来た矢を避けきれず、転ぶ。そこへすかさず別の矢が飛んで来た。
「危ない!!」ヤンガスが斧を振り回してその矢を叩き落とした。スゲエな。
「やっぱり3人はキツいな、ホイミ!」ククールがゼシカに駆け寄り、回復する。
私はなすすべもなく、戦闘を見届けている。

「でやあああ!」
ヤンガスの攻撃は力任せに見えて、実は遠心力を利用した効率の良いアタックだ。
今も1匹の毒矢頭巾をやっつけた。
「大丈夫でがすか、姉貴!?」
「あー、私は大丈夫。ヤンガスこそ」
「あっしは平気でがす、慣れているでげす!」器用に斧を振り回し、また矢を叩き落とした。
残りの毒矢頭巾は2匹。既にやっつけられたのが4匹転がっている。
これなら余裕だろう。まあ、私が役に立たないから3人は大変そうだ。
「まずい、エイコ、伏せて!!」
ゼシカが叫んだ。

毒矢頭巾は毒矢乱れ打ちを放った! 

「つぇぇい! バギマ!!」
ククールが真空呪文を放つと、残りの毒矢頭巾は吹き飛ばされた。
どうやら毒矢頭巾たちをやっつけたらしい。
「あいてて……みんな平気か?」
ククールはどうやら最後の毒矢乱れ打ちを受けたらしい。
自分で回復やら解毒の呪文やらをかけている。
初めての戦闘だったので、私自身はもちろん何も出来なかったけど、
とりあえず勝って良かった……ってアレ?
「何かクラクラする」

私は傍らのゼシカに訴えていた。
ヤンガスが悲鳴を上げる。
「姉貴! 毒矢が刺さってるでがす! 動いちゃダメでがす!!」
見ると左足の太ももには盛大に毒矢が刺さっていた。うわー……
「ホイミしてくれ、ヤンガス」毒矢乱れ打ちってダメージポイントどんくらいだろう。
「待て、キアリーが先だ」矢を抜き回復呪文を唱えようとするヤンガスを制止し、ククールが解毒を施す。
「あとは薬草を巻いておきましょ、エイコはまだ体力がないから」
ゼシカは薬草を揉んで矢を抜いた傷口にあてがい、包帯で巻いてくれた。

「すまん、足手まといで。本当なら置いて行かれてもしょうがないのに」
いっそそうしてくれと思いながら言う。私がプレイヤーなら即刻酒場行きだ。
あ、8ってルイーダいねーんだっけか。あー足いてーし。
しかしヤンガスは私のダルさなど微塵も感じぬらしく、暑苦しく言い放った。
「何言ってるでがす、姉貴はもうあっしらの仲間でがす!」
「そうじゃ、エイトの妹とあらば、ワシの臣下の家族ということになる。
 そういう者を無下に扱う訳にもいかぬ。な、姫」
「ヒヒーン」
あー、姫のいななきが無感情に感じるのは私だけですかそうですか。
見上げれば、青い空、白い雲。見渡す限りの世界がある。
エイコの冒険はまだ始まったばかりである、とか自分でナレーションをしてしまったりして。

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