前回までのあらすじ

寝相悪い、寝起き最悪、態度は常にフテて口も悪いエイコ、25歳女、独身。
役所の臨時職員の期限が切れ、その送別会でしこたま酒を飲んで記憶をなくし、
目覚めると(というより気が付くと)ドラクエ8の世界の宿屋にいた。
生来のテキトーな性格の賜物で、本編主人公エイトの双子の妹を名乗り(騙り?)、
失職記念のリフレッシュ旅行を兼ねた冒険が始まった。





初めての戦闘から5日経った。
あの日から、とりあえずみんなの足手まといだけにはならないように、
日々鍛錬を積んでいたら、いつの間にかレベルアップしたらしい。
魔法は相変わらず使えないが、槍捌きは板について来た。
こうなると長刀部でも弓道部でも何か実践的なものをやっていればなあと今更後悔。

でもまさか、こういう日が来ようとは、夢にも思わなんだ。当たり前だけど。

「エイトったらまったく、どーしちゃったのかしら」
ゼシカがボヤく。
あの後、そのまま『サザンビーク』から街道沿いに北上し、
そろそろ『ベルガラック』に到着する頃だそうだ。

何処だそりゃ。 

「あー合コン過ぎちゃったなー」
ふと思い出して、一人ごちる。ゼシカの独り言など丸無視だ。
「ゴウコンって何?」
ゼシカの質問が飛んでくる。てくてく歩いてるだけなのでヒマなのだ。
「子供にはカンケーないことだよ」
定番の文句でテキトーにごまかす。
まったく知らない単語を1から説明してやる程、私は人間が出来ていない。
「えッ、私、子供扱い?! エイコって何歳なの?!」

「エイトと双子なんだから、確か20歳前じゃろ」
緑星人が余計な事を言う。あーもーめんどくさいなあ、年の話すんじゃねーよ。
「何よ、あんまり変わらないじゃない」
ゼシカお前は確実に10代だろ。……うーん、私の実年齢は黙っておこう。
「へぇー、もっと若いかと思ったでがす」
えっそうなの? いやーヤンガス君、キミいいこと言うねえ。
「ふーん、もっといってるかと思った」
ククールてめえは後で毒針でプスプスとHPを1ずつ奪ってやるから覚悟しとけ。

「しかし、こちらの大陸は広いのう。徒歩での移動は大変じゃわい」
緑星人がぼやく。てめーは歩いてねーじゃねーかコンチキショー。
「そうだな、サザンビーク国領はトロデーンに比べて広いからな」
「ブルルッ、ブルルッ」
私のひそかなイヤ味は姫にだけ聞こえたようだ。
しかし、車社会で暮らす者として、こう毎日ポテポテと歩くってのはキツい。 

「王様、馬車乗せてよ馬車。何で馬車こんなにちいせえの?」
ていうかフツー馬車あったら8人ぐらいのパーティ組めるだろ。
モンスターだの日雇いだの魔法親父ネリベルだのガッツラ連れて歩けよ。
「馬鹿者、かよわい姫が引く馬車なぞありはせんわ。これは特別じゃ」
確かこの馬車、人一人と錬金釜が入ったらいっぱいになってしまう。
せいぜいストックの道具類しか積めない。

「まあ、仕方ないさ、姫には絶対普通サイズの馬車は引かせないだろう」
「だけどさー、何日も何日も街道を辿って歩いてたら日が暮れちまう」
「何言ってるでがす、何日も辿ってるなら何回も日が暮れているでがす」
おお、よく気付いたなヤンガス。座布団1枚。
と、敵が現れた。キラーパンサーだ。

「あー、ゲレゲレの背中に乗って走ったら気持ちいーだろなー」
「何言ってるの!? 左に回ってよエイコ!!」
あーすんません。どうも不真面目すぎたらしい。
じゃ、習得したての槍捌き、ご披露いたしましょ。 

一瞬どこの田舎の山ン中の国道沿いのラブホの看板かと思ったよ。
ていうか、こういうの、うちの近くにあるよ。

ベルガラックはでかいカジノがあるらしいが、閉まっていた。
着いたのが夜だったので、早速行こうと思ったのに。

「何だ、閉まってるのか~」
ものすごい残念だ。カジノのBGM、好きなのに。
「ま、仕方ない、せっかくの大きい街なんだから、酒でも飲まないか?」
「話が分かるな、エイコ。お前らも行くか?」
早速飲みにいく算段の私とククールを尻目に、残りの二人は宿屋の方面へ行ってしまった。
「何だよ付き合い悪いなー」
「仕方ない、あいつらまだレベル低いから、サザンビークからの道程で疲れちまったんだろ」
「ふーん、そんな事言ったら私だって足イタイのになあ」

酒場への階段を下りると、大きな劇場が目に飛び込む。
片隅にカウンターがあるが、この空間の大部分を占めるのは劇場だ。
色っぽいバニーガールが3人、踊っている。
ひげもじゃの荒くれ者がかぶりつきで一人で盛り上がり、
高そうな服を着たおばさんが目を三角にしている。
常連ぽい爺さん、落ち着きのない若者。
私は椅子を回転させ、出されたカクテルを物色する。 

「なあエイコ、オレにだけ教えてくれ、お前はいったい誰なんだ?」
手捻りのガラスコップの中で妖しく光るカクテルは、意外とフルーティだ。
「オレ達は、古代船を復活させて西を目指した。
途中嵐に遭って、船は若干南に流された。
やっと辿り着いた岸に船を括りつけ、このサザンビーク国領へと入った。
が、圧倒的な敵の強さに翻弄され、命からがらサザンビーク城下町へ転がり込んだ。
その時はエイトは確かにいたんだ」

「あーおめさまがどぁあほでねあの?
 つづみだらばこっつのたいりぐさちゃんときょうかいがあるってかいでっぺ?
 かいでんだがらそさいげばいいべっちゃ、なしてなんもねあどごさきたえ。
 うんだらばおめさまがどがごるどだのさもいってねあべ?
 じゃじゃじゃなんさつづもってあるってんだがいっこはあ」

「・・・すまんエイコ、何処の国の言葉か理解出来んのだが」

ぬ、私のネイティブな方言を理解できぬとは。

「なぬすたずあこのクー坊があおめおれのさげがのめねづのがああ?!」
「お前酒癖も悪いのかよ、最悪だな」
「あーこのもっとさげもってこー」
「分かる言葉で言ってくれ!!」 

こんな青二才では異国の酒もつまらない。
本当に分からない事をいつまでもグダグダと話しても時間の無駄なのだ。
こんなだったらヤンガスの方を誘えばよかった。
あいつなら腹芸の一つぐらいやってくれそうだったのに。

「おいエイコ、もう帰るぞ」
「あにいってんだまだよいのくづだー」

適当に切り上げて退散するのが良いと思ったが、思い通りに動いてくれて嬉しいよククール君。
顔を上げると、勘定を済ませ上の階へ私を促している。
私の見た目は何故かゲームのエイト君によく似ているらしいので、
担がれて客室に向かっても、酔い潰れた男友達同士にしか見えないだろう。
得でもあり、損でもある。

「エイトが見つかったら私は元来た世界へ戻れるだろう。一緒に探してくれ、ククール」

片腕を担がれて階段を上っていた私の口元に、ククールの耳があったもんだから、
ついつい面白がって例の低い声でしっかりとした口調で言ってやった。

「あ、ああ。分かった……」

この日より、エイト探しは本格化する。 

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