「ひゃっほーう♪」 バウムレンの鈴で呼び出したキラパンの背中に乗って、 ベルガラック地方をくまなく走り回るよ。 「おうさま~、ひめさま~、ちゃんと付いて来てるか~?」 「ヒヒ~ン!!」 「何とか大丈夫じゃ~」 オッケ、薬草を錬金釜にぶち込むのも忘れるなよ。 点在する宝箱、やたら追いかけて来るスカモン、もれなくミルクをくれる牛。 どんどん北上して、岬の教会に着いた。 あー、やっぱり海が見えるっていいなあ~。 「んーッ、なあ、あそこの教会で一休みしようよ」 キラパンを野に放し、伸びをしながら提案する。 「そうねえ、今日は結構走り回ったから」 ゼシカも賛成する。 教会の周りは牛が飼われているらしく、草並みもきれいだ。 王様も馬姫も、こういう所の方が休みやすいだろ。 教会の中へ入る。中にいた人がちらりとこちらを見ると何故か驚き、 確認するようにじろじろと私を見つめる。な、なんだよ。 不機嫌にガンをたれていると、誰かがものすごい勢いで私の方へ突進して来た。 「きっ、キミ!! 無事だったかね!!」 「ハァ?」 思わず声がひっくり返った。 それは、この教会の神父さんだった。 太った神父は、暑いのか興奮しているのか、汗だくで詰め寄ってくる。 「ん? よく似ているが違う……」 「エッ、この人に似た人を見たんですか?!」 ゼシカが駆け寄った。興味なさそうに建物内に入ったククールもこちらを振り向く。 「この姉貴と、似た人を見たんでがすか? オッサン!」 神父にオッサンはねえだろヤンガス。デブ同士でそんなに額を突きつけ合うな。 暑苦しい。 「え、ええ、確かにこの方とよく似た方を、見ました」 「何処で!!」 「えーあーあのー」 「どこなんですか!!?」 神父はゼシカの胸をチラ見して慌てて目を逸らしながら叫んだ。 「そんなに寄らなくても喋りますから!!」 そこで二人は初めて、神父を壁際に追い詰めていたことに気付く。 「少しは状況を考えろよなおめーら。脅してどーすんだよ」 私の言葉に、二人とも顔を赤らめながら後ずさりした。 「で、私に似た人って、何処にいたの?」 「ええ、それが……」 改めて訊く私の言葉に、神父は言いよどむ。なんだよはっきりしろ。 「飛んでいきました、空を」 「あぁコラ?! 何ぶっこいてんだよマルデブ!!」 顎をしゃくりながら襟首を持ってガクガクした時、 「こいつ脅してどーすんだよエイコ」 ククールが私を後ろから羽交い絞めにして止めた。 ビクビクした神父が説明してくれた話はこうだ。 私に似た青年――エイトと思われる人物――は、一人旅をしていたらしい。 この教会の近くにある日現れ、ここを拠点にとある人物を探していた。 探していた人物とは、ドルマゲス。 私が3人と2匹の珍道中に乱入した頃、エイトは地道に目標を見失わずに旅をしていたらしい。 1週間ばかり経った頃、リブルアーチの海峡(ここから近いらしい)あたりで、 海の上を歩く化け物の話が聞こえてきた。 エイトは早速そちらに向かおうとしたが、なんせ一人では無謀。 とりあえず偵察に様子を見に行ったところ、帰ってこない。 夜になっても戻らないので、心配した神父が外へ出て様子を伺っていると、 白い化け物が空をバッサバッサと飛んでいて、その足にしっかりとエイトが捕まっていた、とのこと。 「つまり、エイトはドルマゲスと遭遇して、そのまま捕まっているのね」 ゼシカがまとめる。うぬ、そのようだなあ。 ククールは椅子にも座らず、壁際に腕組みしながら立って床を見つめている。 ヤンガスは落ち着かない様子で部屋中をウロウロしている。 こっそり事情を説明して、窓から馬姫が顔をのぞかせ、室内に王様もいる。 外は夕闇が支配し、瞬く星が姿を現し始めていた。 「あー、じゃあ、返してもらいに行くべよ」 私がいとも簡単に言ってしまったので、部屋に漂う緊張の糸が音をたてて切れた。 「あのなあ……何処にいるのかも分からないんだぞ?」 「大丈夫さ、今日ここに泊まって、このまま南下するんだよ。 そしてベルガラック、サザンビークの順に辿れば、きっと手がかりがあるはず。 分かれ道もたくさんあっただろ」 緑の王様を小突いて地図を出させる。 「どうせうまく活用出来ないならとっととよこしな」 濃く淹れたコーヒーをブラックのまま啜りながら、地図を奪い取る。 東側の2つの大陸、つまりトロデーン国領とトラペッタ地方がある北大陸、 マイエラ地方やアスカンタ国領がある南大陸、 そして今いるのは西中央大陸、つまりサザンビーク国領とベルガラック地方だ。 大陸に囲まれた海の真ん中にあるのは、まずゴルドとかいう聖域だろう。 となると、南中央大陸か、北中央、そして。 「北西の島が怪しい。だいいち、記録には樹木の生育が確認されていない」 とんっ、と地図を指差す。大概、ドラクエはこういう場所には何かある。 「ここから近いな。とは言ってもかなりの距離はあるがな」 「ええ、ここからでもちょっと見えませんね。反対側のオークニス地方の山脈は見えるのですが」 どこだそりゃ。訊くとこの教会の塔に登ると見える雪山のことらしい。つまり北中央大陸だな。 「根拠は?」 ゼシカが尤もな質問を投げかける。 「私の長年の経験からなる勘だ」 ふんぞり返って言ってやる。 あたぼうよ、あたしゃI・IIン時からドラクエは並んで買ってるのよ。 あ、スーパーファミコン版だけどね。 「ふぬ、おぬしはこの年まで世界を股にかけた冒険をしてきた、とそういう訳じゃな?」 「おうよ、伊達にあの世は見てねえぜ」 「ブルッ、ブルッ!」 なんだよ馬、文句あっか。 「ま、エイコの話が9割聞かなかったことにしてもだ、俺もその島が怪しいと思う」 黙って聞いていたクー坊が口を開いた。失敬な、私はボケた老人扱いか。 「じゃ、決まりだな。船まで戻って一気に北上だ! 今夜はもう休もうよ」 ガタン、と私は立ち上がる。夜ももう遅かったせいか、特に誰も反対することなく、就寝の準備を始めた。 この時気付かなかった。 翌朝、ベルガラックへルーラで戻ることになろうとは。 寧ろ、教会でルーラして教会から島を目指した方が近い事が判明しようとは。 更に、ルーラ+船酔いになろうとは。