神様、私はどうも過大な期待を寄せていたようです。 や、でも。だって。現代社会に生まれた夢見る乙女だったら誰でも思うじゃない? 王子様=完璧超人ってさ。 でも、そうでもないらしい。 ここグランエスタードの王子様は、そらもうやんちゃ盛りで、朝から晩まで、いや朝から朝まで城を抜けて遊ぶなんてざららしい。 でも、街の声によると王子様は悪い人間ってわけでもなさそうだ。 案外気さくだったりするらしいし、やんちゃっていってもトンでもないゴシップなんかは聞こえてこない。酒も飲まない。 そういう点に置いて駄目なのは意外や意外、アルスの叔父さんだった。 酒クサい部屋に転がる瓶。中身は多分お酒だったんだろう、口から零れてそれが更に発酵しているみたいで、異様な臭いがした。 よーくみると小バエが無数にたかっていて鳥肌がたつ。 そんな中、床に寝転んでいるのが、アルスの叔父さん――ホンダラさんだった。 ホンダラさんはアルスを見つけるなり、なんとかストーンという石っころを自慢した。 ほら、触ってみろ、あったかいだろ?俺が見つけたんだ、羨ましいか?やらねーよ、金、出すなら話は別だけどな。 酒クサい息を吐き散らしながらアルスに絡む。 あーあ、どこにでもいるもんなんだなぁ、酔っ払い。 私の知る限りのそれらは見境がない。この場合次に絡まれるのはもう決まっている。 ん?なんだこの姉ちゃん。浮気か?アルス、マリベル以外の女と一緒とはな。フン、マリベルより体の凹凸ははっきりしてるが…地味な顔してるな 私を爪先から頭のてっぺんまで見渡してホンダラが言う。 「んなっ……!」 頭に血が昇った。頭の中ぐるぐる言葉が巡るけど出てこない。言葉が喉に詰まる。 こんな時人はどんな風な行動をとるか。 グッと我慢してやり過ごす 怒りを物理的に表現する。 グッと我慢してやり過ごす > 怒りを物理的に表現する < ピッ 私は無言のまま腕を振り上げ、そのままホンダラに振り下ろした。 ――…はず、だった。 「うわっ」 私の拳は空を切った。 見るとホンダラさんは床に昏倒していた。 「な、何で?え?」 私まだ殴ってないのに… 足元のホンダラさんから視線を上げると、真犯人がにっこり笑った。 …酒瓶を逆手に持って。 「ごめんね、うちの叔父が。」 「…アルス…?」 「大丈夫。死なない!」 「……そう?(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル」 何か確信を持ったアルスの物言いに、内心ガクブルしながら私は納得しようとした。 まあ、アルスが殴ってなきゃ、私が殴ってたわけだし、結果は同じか。 ………同じか? 床のホンダラさんは白目剥いて倒れてる。 靴の先でツンツンと突っ突いて見る。 返事がない ただの酔っ払いのようだ …多分 私はそっとホンダラさんに、放り出されていたタオルケットを掛け、目を逸らした。 一応顔は広いらしかったホンダラさんが頼りにならないので (頼りにならないというか、ならなくしたというか…) 私とアルスは町中を歩いて回った。 当たり前だけど、私を知る人はいない。 途中、グランエスタードに着くなり別行動をとったマリベルが買い物をしているのを見た。 どこの世界でも女の子は買い物好きってのは共通事項らしい。 「うーん。見つからないね」 「ごめんね…」 見つかるはずがないのだ。 アルスと一緒に歩き回ってるうちに嫌でも実感させられる。 異 世 界 この3文字。私の世界の常識は通用しない。私の世界には傷を一瞬にして直してしまう『薬草』なんてない。 ここは、私の住む世界ではない。 「謝ることないよ」 アルスは優しく言うけれど、多分こうやって探すことに意味なんてないんだ。 ……もう、帰れないんだろうか 「お城に行こう!」 沈む私の肩を叩いてアルスが言った。 彼はきっと、私の家族が、私の帰る場所がここに、この世界にあることを信じて疑わないんだろう。 いや、別世界なんて考えもしないんだと思う。…当たり前よね。 「お城…そうね、うん行って見よう」 行こう。 私の世界に帰る方法が見つかるか、見つからないか。 どちらにせよ私は決めなきゃならない時なんだ。 帰れない時、私はこの世界で暮らしていくことになる。もしかすると、生涯を。