俺が地下室から飛び出すと、何か村はすっかり炎に包まれていました。
目に見える範囲では爺さんやらユーリルのお袋さんやらが円陣を組んで何やらぶつぶつと
念仏みたいなのをつぶやいており、時々どういう原理か光ったり燃えたり凍ったり爆発したりしている。
さらに遠くの方からは、金属がぶつかり合う音や、人や獣の雄叫びみたいなのが
ひっきりなしに聴こえてくる。

「何、やってんだ、こいつら…………?」

何かの前衛的な宗教儀式だろうか?とにかく必死の気迫という奴は確実に伝わってくる。
ちょっと関わりたくないけど、あのピンクの殺戮者よりはマシだと思いたい。
俺はぶつぶつと必死に念仏ぶっこいてる爺さんに近付いて話し掛けようとしたが、
それより先に爺さんが気付いて、思いつめた、どこか後ろめたさを感じさせる顔で話し掛けてきた。

「!!……シンシア、か。すまぬ、お主には残酷な役回りをさせてしまったのう……」



――――――――――――――――――――――――――――――――は? 



何を、言っている、この老人は?
シンシアというのは、俺を抹殺しようとしたあのピンクの殺戮者の名前だった筈だ。
……決して、燃え盛る村の熱気のせいというだけではない、冷たい汗が背筋を伝う。
シンシア――ピンクは俺を殺した後で、変な技で俺になりすまし、
俺という存在を闇に葬り去るつもりだったはずだ。
なぜ、こいつがピンクの計画を知っている……?
……考えるまでも無い。
村中がグルだったのだ。
小さな村であり、周囲は森に囲まれて交流はほとんど無さそうだ。
村中の人間が口裏を合わせれば人一人の死ぐらい、簡単に無かったことに出来るのだろう。

……ユーリルという少年が、この村においてどのような存在だったのかは知らない。
或は両親や村中から、最初からいなかった事にされるほどに
徹底的に処刑される程の罪を犯したのかもしれない。
――だが、そんなものはこの俺には何の関係も無い!
俺は生きる!
例え違う人間としてでも、こんな所で訳もわからずに殺されてたまるか!!

「……っ!!」

俺は走った。脇目も振らずに、つっ走った。

「バカな!突っ込むつもりか!?」「まさかおとりになるつもり!?」「待て、幾ら何でも一人じゃ無茶だ!」

何か後方から叫び声が聞こえてくるが無視だ無視!
今はとにかく俺が本物とばれないうちに逃げるしかない!!自分の事以外は考えるな!! 

ある程度走ると、村と森の境で新たな人影が見えてきた。
先程の爺さん達とは違い、ガタイのいいオッサン達ばかりだ。
中には地下室で俺をぶちのめしたオッサンやユーリルのオヤジさんの姿も見える。
皆例外なく血まみれで、何かしらの手傷を負っているようだった。既に事切れてるのもいるっぽい。
普段の俺なら驚くなり引くなりするだろうが、今は自分の命が最優先だ。
小さな村だ。奴らも例に漏れずグルとみなした方がいいだろう。
俺は脇目も振らずにオッサンたちの間を駆け抜けていく。

「くっ、彼女の覚悟を無駄にするな!!」「これを機に敵を分断するぞ!!」「おお!!!!!」

後方からまたなんかよく分からない叫びが聞こえてくるが、気にしない。今はただ走れ。走るんだ。



村を抜け、森の中をひたすら走る俺の前に、複数の新たな人影が――って、人じゃない!?
な――何だ!?あのひたすら放射能に汚染されまくって突然変異を起こした挙句
邪教の館で三身合体して殺意の波動に目覚めたデ○ズニーランドみたいな連中は!?

「いたぞ!」「今までの奴らより歳が若い。奴が勇者か!?」「バカな奴だ、一人でやってくるとはな!」

ヒィ!?何か知らんがロックオンされたっぽい!?

「待て!落ち着け!!話合おグヒョッ――」 

聞いてください、みのさん。何か六本足のライオンさんが僕を襲うんです。
思わずすくめた頭の上を、ものすごい唸りをあげて、ぶっとい腕の内の一本が通り過ぎていきます。
余波の衝撃で僕がよろめいたところに、もう一本が、今まさに頭上から真下に振り下ろされようとしてます。
計算なんてするまでも無く、あんなのをマトモに喰らったら死ぬでしょう。
ええ、そりゃあもうあの勢いですから、死体が原形を留めることすら難しいでしょう。
そうならないように、僕は頑張って計算しました。
世界の全てを数字に置き換えて、僕の身体強度とライオンさんの腕の破壊力と動きを仮定し、
どう動けば最も負荷を減らすことが出来るか一生懸命考えたのです。そりゃもう本当に、死ぬ前の走馬灯並の
集中力で頑張りました。脳内に住んでる小人さんや妖精さんたちともいっぱい話し合いました。
まぁ計算の過程なんかは面倒くさいから省略しておきますが、とにかく最終的に、前に2歩、左に1歩半の地点で
やや中腰気味でかがんでいれば、負荷のおよそ8割を相殺できるという計算結果を得ることが出来たわけです。
で、僕もやはり死にたくないわけですから、その通りに動いてみると、ライオンさんは僕の頭の横ぎりぎりを
空振りして、元からあまり良くなかった体のバランスを崩してしまいます。
それと同時、先程よりも凄まじい衝撃波が僕の脳を揺さぶり(つーかかすった)、頭の変な羽根飾りが
彼方に吹っ飛んでいきました。意識がぶっ飛びそうになるのを、まぁ頑張って我慢します。
とにかくそこに、僕がちょっと足を引っ掛けてやると、ライオンさんはあべしと盛大にずっこけました。
六本足の分際で二足歩行なんてするからです。間抜けです。ぶっちゃけ大笑いです。HAHAHAHAHAー!!
つられて他のなんちゃってデ○ズニーどもも大笑いです。ああ、何だか和気あいあいとしてきました。
この状況ならあの奥義も6割の確率で通用するでしょう。先に言っておきますが、バカにしてはいけませんよ。
こういうのは心理的タイミング(その場のノリとも言う)というものが大事なのですから。
それではいきましょう。

「ああーー!!アレは何だーー!?」

和やかな雰囲気から一転、突然の切羽詰った僕の声に、皆びっくりして、僕が指差した方向に
振り返ります。ああ……賢くないのですね。所詮はなんちゃってデ○ズニーです。
まぁそんな訳で、この隙に僕は、1で回れ右をして、2でクラウチングスタートの体勢をとり、3で――

ダッシュ!ダッシュ!!全力でダッシュ!!!!!

それと同時、奴らが図られたことに気付き、この世のものとは思えないような怒声を上げて、
俺を追いかけてきやがりました。特に六本足のライオンはもう本当に、殺意の波動に
目覚めているとしか思えないような、それだけで人が殺せそうな雄叫びをあげて追いかけてくる。

――さて、どうしようか?

もういい加減本気でいっぱいいっぱいでパトラッシュに泣き言の一つももらしたい訳なのだが、
諦めたらそこで試合終了な訳で。さらに今の場合、ゲームではなくてリアルに命がかかっている訳で。
どこをどう走ってきたのか何時の間にか険しい山の中に入り込んでいだり時々でっかいトカゲに火で炙られたり
何処からか飛んできた爆炎に危うく吹き飛ばされかけたりしながらも精一杯生きてる訳で!!
……くっそう、家にあるひみつ道具の数々さえ使えたら、あんな奴ら屁でもないのに……!
悲しいかな、科学の英知がクソの役にも立たない現状では、俺なんかただの歌って踊れて猫好きで
明るく楽しく優しいとご近所でも評判の格好良いお兄さんでしかないのだ。
何かユーリル君の体のポテンシャルがやたらに高いおかげで、何とかここまで頑張ってこれはしたが、
それでもいい加減、限界が近付いてきているような気がしないでもない。くそう、何か手は無いか?

――こうなったら、危険を承知で村まで戻って村の連中をおとりに使うか?
否。この状況でピンクの殺戮者に出会ったら約173%の確率で殺られる。
……う~む、どうも一度殺されかけた恐怖からか、あの女に関しては思考にノイズがかかるなぁ。
つーか173パーって、いったいどういう計算したんだ、俺は。
あ~でもまぁ、それも今となってはどうでもいいことだ。
それより今考えるべき事は、すぐ下は険しい崖だというのに、

何で、

いつの間にか、

足場がぽっかりと消えちゃったりしているのだろうか、という事である。

「…………NOOOOOoooooooooo!!!!!?????」

ほんの一瞬の滞空の後、俺は深い崖下へとまっ逆さまに、転落していった。

「やった!勇者を仕留めたぞ!!」「早速デスピサロ様に報告だ!!」「後は村の連中を片付けるだけだな!!」

暗転していく意識の中、そんな声が聞こえてきた。気がした。
かみさまなんて、大嫌いです。
いつか出会ったら、ケツから腕突っ込んで奥歯ガタガタ言わせてやろうと思います。



HP:1/14
MP:20/132

装備:E旅人の服
特技:集中 閃き

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