「HAHAHA、いやいやお陰で助かりましたよ」
「いえ、当然のことをしたまでです」

いい趣味したテーブルでお茶をしばきながら、目の前の美しい女性と談笑する。
ああ、心が安らぐなぁ。
最近どたばたしてばかりだったからなぁ。
自称良いスライムと部屋の中でも鎧ずくめの護衛らしき男はいい顔をしていなかったが。
綺麗な女性は好きだけど恋愛事には興味ナッシングなので安心してくれ。
科学が俺の奥さんで化学は俺の愛人さー。
何だ君たちその顔は。いや約一名除いて表情なんて全然わかんないけど。



それはともかく、あの時。
エアプレーンでどこぞの塔(後に目の前の女性の住処にして今この場所と判明)に激突。爆発。アフロヘア。
弟子一号ともども瀕死の重傷を負ったところを回復呪文とかいう怪しげパワーで助けてくれたのが、
目の前のエルフ何つーファンタジー種族のお嬢さんだった。激しくデジャビュ。
いや、最初目が覚めて彼女を見たときには戦慄したさ。
何せ、恐らく同じ種族だからだろうがあのピンクの殺戮者によく似ている。
奴がここまで追ってきたのではないかと錯覚したくらいだったからな。
でもすぐにその浮世離れした雰囲気と溢れんばかりの世間知らずオーラで、別人と断じることが出来た。

ちなみに大破したエアプレーンは未だにすぐ傍の塔の窓に突き刺さっている。
オブジェとしては極めてシュールで、趣味の良いこの部屋でめちゃくちゃ異彩を放っていた。

弟子一号はただ今必要物資を揃えるために買出しに出かけているため、ここにはいない。
アトリエと馬車にあらかた荷物を置いてきたため結構な量を買い足さなければなるまいが、
こちとら伊達に王都中で評判の店を営んでいた訳ではない。
持ち出してきた金にはかなり余裕があるから問題なく揃うだろう。
ここは見た目のどかな田舎村の割に、店の品揃えがバトランドとは比べ物にならない程良かった。
何か特別なコネでもあるのだろうか?
あとこの村の雰囲気は弟子一号にとっても好ましいらしく、目が覚めてからはやたらと機嫌が良かった。

とか何とか考えていると、ふと目の前のお嬢さんの表情が、パッと見ではわからない位僅かに曇る。
ううむ。こちとら他人様の家ぶっ壊したうえ命を助けてもらった挙句に、もてなされてまでいる。
ここで見過ごすのは何ぼ何でも気が引ける訳で。
薮蛇かもしれないとも思いつつ、巧みな話術でさりげなく悩みを聞き出したりしてみるとやはり薮蛇だった。

みのさん、出番ですー。
何か相談者の彼女曰く、問題はデスピサロとか言うこの頃よく聞く名前の彼氏君。
人間が気に入らないから全て滅ぼすために魔族の王となって世界征服を企んでいるとか。
スケールでけぇ。
更に人間滅ぼす本当の理由は自分のルビーの涙を狙う人間達から自分を守る為とか惚気られた。
スケール小せぇ。
まぁそんな事を涙を流してルビー製造を実演しながら語ってくれた訳で。
ルビー小さ過ぎる上に歪なので価値は無いに等しい。つーか手に取ったら崩れた。どんな脆い組成しとんじゃ鋼玉。 

……まぁそれは置いといて、この会話の間で俺は何となく理解した。
この娘は『良い娘』なんだと。
だけど、この場合の良い娘っていうのは、毒にも薬にもならない奴というのと同義だ。
少し前の弟子一号と同じだな。
最近になってあいつもようやく口答えの一つも出来るようになったけれど、
出会ったばかりの頃なんて、試しに店で半日以上ぶっ続けでコキ使っても、文句一つ言わない良い子ちゃんぶり。
便利なことは便利だったので本人がキレるまで続けてみたけど、ぶっちゃけキモかった。
弟子一号は置いといて。

そのヤクザな彼氏君だって、遊びでそんなある意味大志を抱いている訳でもあるまいに。
いくら恋人だからって、やめろと言われて簡単に命を賭けた漢の野望を捨てられる訳が無いのである。
ぶっちゃけ単純バカとしか言いようはないのだが、単純でしかもバカなだけに真っ向からの説得は難しい。
相手は単純でしかもバカ、更に愛しの君の為にやってることなのだから、説得するよりもむしろ裏から糸を引き、
彼氏の行動を自分の都合の良いようにコントロールするのが正しい恋人のあり方だろう。多分。

……とはいえ、そんな機転の利く女だったら、その彼氏君がこの娘を恋人に選んだかどうかは微妙だ。
自分とは全くタイプの違う、優しく柔和で純真無垢な温室栽培のお姫様。
そんなヤクザな自分をも癒してくれる彼女に萌え――もとい惹かれたというのは十分に考えられる。

それにしてもだ。
ヤクザな彼氏に世間知らずのお嬢様。しかも二人揃って単純バカ。
ううむ、何だか本気でこの娘たちの行く末が心配になってきた。
絶対いつか悪賢い奴に二人揃っていいように利用された挙句、人生を棒に振るような気がしてならない。
…………ふむ。命を救ってもらった上、一宿一飯の恩義って奴もあるし。
お礼としてここは一つ―― 

「――Fuck you」
「……え?」

『利根川式演説』あたりで啓蒙してあげるとしよう。
ちなみに一度やってみたかったからという訳では断じてない。
機会があったらどこかで『ギレン式』や『少佐式』も試してみたいとかは全く考えていない。いないったらいない!

知らない人の為にちょっと説明しておくけれど、『利根川式演説』とは。
言ってしまえば、主に社会から幾度もドロップアウトした筋金入りの駄目人間相手に使われる、
相手を徹底的にコキ下ろした後に檄を飛ばすという極端な話術である。
冷静に一歩引いて考えればあまりにも極論に走ってたり詭弁だったりもするのだが、相手は意外に気付かない。
何故なら言ってる事自体は間違っていないからだ。別に完全に正しいとも言えないのだが。
そして相手もまた間違いなく駄目人間であり痛いところをバシバシ突かれるから、
反論したくても出来ずにあっという間に話のペースを持っていかれてしまう。

……という訳で散々コキ下ろしてエルフの嬢ちゃんルビー大量生産する気満々。
自称良いスライム体当たりは痛いから止めろ。
鎧君殺気満々で剣を構えるのはシャレになってないからやめてくれ。
鎧君に殺される前に次のステップに移行。
精神コマンド激励使用。更に俺の命が懸かってるので連続使用。
さあ目を覚ませ。
泣き言で人生は開かない。
勝たなきゃゴミなんだ……!
勝たなければ……
勝たなければ……

勝 た な け れ ば …… ! !

ちなみにこれ使用する際には、本来はこっちにもそれなりの貫禄と迫力が必要になるのだが、
今回相手は弱気で世間知らずな小娘だったので無問題だった。

「ああ……ユーリル様……。私……私……!勝ちます!!」
「……うむ、わかってくれたか!!」

ああ、本当に良い娘だ……。
このパープリンぶりはきっと弟子一号(初期型)以上だろう。
何故だろう、目から心の汗が止まらない。
あまりに不憫だったので、つい持っていた愛銃と弾薬、手榴弾、
薬草マキシカスタムVer3.2通称レッドドラゴンをありったけ渡してしまった。

「ありがとうございます、ユーリル様……」
「うむ。銃とかは使い方を紙に書いておくからよく読んでおく事。手入れもしっかりな。
 それから薬草マキシカスタムVer3.2通称レッドドラゴンは、
 息さえしてりゃどんな重傷でも直すし身体能力も胡散臭いほど上がるけど、
 副作用で薬が効いてる間は頭の中身もレッドドラゴンになるので注意するように」
「はい!」

まぁ、実際あんな言葉やこんなオモチャで全てが解決するほど簡単な話でもないのだろう。
あの程度で性根が変わるほど人の心も易くは無い。
単純バカというならむしろ尚更だ。バカは死ななきゃ直らない。
だが。何時、何処かで、何かを変える切っ掛け……くらいには、なるかもしれない。
あの娘自身の魅力か、ついガラにも無い親心を出してしまったが、これ以上の手助けも不要だろう。
ここは素直にちょっとだけいい事をしたと思っておくことにしよう。 

さて、ともあれだ。恋人のいる女の子の部屋に必要以上に居座るのもまずいだろうし。
もし今ひょっこりと人間嫌いでヤクザで魔王な彼氏君が帰ってきたりしたら俺マジで殺されちゃう。
……ので俺は今夜中には夜逃げ――もとい出発できるよう、荷物をまとめる事にした。
つーかさっさと帰って来い弟子一号。
そして短い間だったが強く生きるんだぞ弟子二号!

あと別に未だに煙吐いてるエアプレーンの件をうやむやにしようとか考えていない。多分。



ユーリル 旅人?
HP:42/45
MP:9/189
装備:Eピースメーカー E魔法の法衣 クロスボウ
呪文:【回復】ベホイミ・キアリー
特技:集中 閃き 必中 激励

弟子一号 ユーリルの弟子
HP:58/58
MP:47/47
装備:Eまどろみの剣 E魔法の法衣 毒蛾のナイフ 毒針
呪文:【回復】ベホマ・キアリー・キアリク 【補助Ⅱ】スクルト

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