魔族の王デスピサロが自らの恋人を守る為に用意したその塔には、
五感と意識を惑わせる、高度な魔法による迷彩がかけられていた。
そこに進入する為には、とある正規の手段で魔法を解呪しなければならない。
だが、ごく稀に正規の手段以外で侵入を果たし得る者がいる。
強力な探知魔法を識る者。
盗賊の技法を究めた者。
或は、内部に通じている者の力を借りるか――
或は更に極々稀に、空から決死の特攻を敢行する者が居ないでもないかもしれないが。

ともあれ、そういった僅かなそして哀れな侵入者達は、即座に、
魔王の無二の腹心である、闇緑の鎧に身を包む騎士に切り捨てられることになる。
此度侵入を果たし得た例外者達も、いつも通りに切り捨てられる――――――――はずだった。





短く一言礼をとり、壁に立てかけた剣をとり部屋を出る忠実で寡黙な騎士。
ただ心配しながら彼を見送ることしか出来ないロザリーの胸に、とある旅人が残した言葉が蘇る。

(――泣き言で人生は開かない)

今まで誰も為し得なかったこの部屋への侵入を、常識破りな方法で果たし得た旅人たち。 

(――勝たなきゃゴミなんだ……!)

勝ち負け以前に自分は戦ってすらこなかった。
扉の奥に目を向ける。
そこから聞こえるのは、金属同士がぶつかり合うけたたましい金切り音。
そして魔法によって空気が引き裂かれる音。

「怖い……」

怖い。恐ろしい。
今まで敵に立ち向かうなど思いもよらなかった。

(――勝たなければ……)

恐れを振り払うように首を振るロザリーの視界に、ふとテーブルの隅に置いてある物が映る。
それは件の旅人が去り際にロザリーに贈ったもの。

コルト・パイソン.357マグナム。
M24型柄付手榴弾・通称ポテトマッシャー。

名前の意味はよく分からないが、説明書きを読めばこれらがどれだけ強力な武器かは理解できる。
そして……。 

薬草マキシカスタムVer3.2通称レッドドラゴン。

やはり名前の意味は殆ど理解できないが、ただ一つ、レッドドラゴンという名前は知っていた。
天空に住まう王者とは流石に比べるべくも無いが、それでも他の魔物とは一線を画す気高く勇猛な空の雄。
あの旅人はレッドドラゴンの如き強靭な精神を得ることが出来ると言っていた。(言ってません)

「ピサロ様……。少しだけ、少しだけ私に勇気をお与えください……!」

ロザリーは知らない。
この薬草どころか毒薬と呼ぶのもおこがましい、
稀代の錬金術師ユーリルがこれでもかという程間違えた方向に改良を重ねまくった魔薬。

それのネーミングが、単に彼の故郷に存在する精力ドリンクの名前からついたという事など――

(――勝たなければ……!!)

ロザリーは意を決して天災錬金術師の贈り物に手を伸ばした。
前衛の戦士二人は曲がりなりにも自分の一撃を受け止め、後衛の魔法使いとの連携もなかなかだ。
自分には遠く及ばないものの、賊にしてはそれなりに腕の立つ手合いではあった。
だがそれだけだ。連中の末路は微塵も変わらない。
しかし、長い護衛生活で騎士の勘が鈍っていたのだろうか。
奇跡的に数度の斬撃を凌ぎ、賊が逃走を図った。格どころか次元そのものが違う相手だと悟ったらしい。
逃がすと後々厄介なことになる。
闇緑の騎士は一撃で全てを薙ぎ払わんと、手にした剣を腰だめに構え――

――――きぃ、と。

騎士の背後で扉が開いた。



女が笑う。



一瞬。
騎士も賊も。
動きが止まった。 

世にも綺麗な女が笑う。



「ロ、ロザリー様!?ここは危険です、部屋にお戻りくだ――」

ぐしゃり。
と。
女のか細い腕で無造作に壁に叩きつけられ、魔界でも屈指の勇士は沈黙した。
息はあるようだが、運悪く衝撃が完璧に延髄を通ったらしく、ぴくりとも動かない。

「え……?」
「あ……ああ……?」

賊たちも動かない。動けない。
――と。

がぁぁぁぁん。

そんな空気を引き裂くような轟音が、塔内の狭く薄暗い通路をがむしゃらに跳ね回る。
それとまったく同時に、いきなり胸から大量の血を噴き出しながら吹っ飛んだ仲間の姿を目の当たりにして――
残された賊たちは、今度こそ、絶叫した。



ケタケタケタとオンナがワラウ。



――――惨劇が幕を開けた。 



闇夜の森。
生き残った最後の賊、戦士風の男はどくどくと血の溢れる自分の体を見遣った。

「ハ、ハハ……やっぱりウワサは本当だったんだ……」

自分の体の、穴だらけの胸から腹から、
ちぎれかけた腕から足からあふれ出るソレを次々に掻き出し、男は哄笑する。

「こんなに、こんなにあるじゃねえかよ。真っ赤なルビーがこんなに
 いっぱい、綺麗なルビーがいっぱい、いっぱいいっぱいおかねも
 ちだあきははははははははははははははははははははははは
 ははははははははははははははははははぎょぺっ!!」

脳漿をぶちまけて、最後の男が永遠に沈黙する。
ゆらゆらと歩きながら、オンナは硝煙の揺れる拳銃をだらりと下げた。
物言わぬ肉塊を見下ろし、禍々しい弧を描く紅い目が闇夜を照らす

女が笑う。

世にも綺麗な女が笑う。

ケタケタケタとオンナが笑う。



「次ハオ前ダ、デスピサロ――」



ケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタケタ――――



ロザリー
HP:375/36
MP:80/80
装備:Eコルトパイソン E光のドレス
呪文:【回復】ベホマ・キアリー・キアリク
   【補助Ⅰ】ラリホー・マヌーサ 【補助Ⅱ】スクルト・フバーハ 

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