彼女なんて希少生物に出会ったことのない俺は
今日も健やかにエロゲーで一日二回オナニーの日課を順調にこなしていた。

繰り返されるニートの毎日。
漠然とした不安を抱えながらも、某有名なメーカーを自主退社してから
かれこれ五年は経つ。31歳童貞ニート。

朝方になってから、やっとPCの電源を落とす。
最近夜に寝られなくなったなぁと思いつつ消灯。
・・・したはずなのに、モニター画面は明るいままだ。

「???」
電源不良かなぁ、と思い、モニターの電源ボタンを押してみる。
すると「パヂ!!」という電撃音と共に俺の思考回路はショート寸前。
「あばばばばっばばばっばばばばば」
友達をまた一人無くしそうな奇声を発しながら、俺の視界は暗転した。

なにか身体が宙に浮いている。
手足の感覚がまるでなく、堂と頭だけを頼りにぷかぷか浮いてる感じ。
宇宙(そら)ってこんな感じなのかなぁと思いつつ、さきほどの出来事を思い出す。

あれ?これってやべーんじゃね?臨死体験?

そう思うと、おぼろげながらも手足の感触も求めてもがく。
そうやって必死になっていると段々手足の感覚が蘇ってくる。
まるで身体から血管を伸ばし、その伸びた先から順に血肉が現れてるかのような錯覚を覚える。
徐々に、腕や太腿が形成されていくような気がする。

うおおおおお死にたくねぇぇぇぇぇっぇぇ!!!

気張る、とにかく気張る。これが夢だったら絶対寝ながらウンコ漏らしてる。

やっとの思いで、身体の感覚が大体蘇ってきた。なんとなく、指先をピクピク動かすこともできる。
おし、後は起きるだけだな、起きろ俺!起きろ!!
そう願ったやいなや、突然視界が回復する。

「フー、蘇生成功?くわばらくわばら」

心地の良い朝日を浴びながら、臨死体験だか金縛りだかから、抜け出せた俺。
貴重な体験したなぁと思いつつ、今ある確実な現実感に感謝。
なんてスバラシイ朝日!空気!緑!生きてるってサイコウ!!

「ん?緑?」

辺りをよく見回してみる。
そこには見慣れたエロゲーのポスターはない。フィギュア(魔改造)もない。
積んでるエロゲーもない。チン○にやさしい、愛用のカシミヤのボックスティッシュもない。
カシミヤはチン○にへばりつくのが難点なのだけれど・・・

いやいやいや、それはどうでもいいが、緑っぽかったのは木々だと認識。周りは野原。壁なんてどこにもない。

「へ?外?なんで?」
「ええええええ!俺生き返ってなかったんか!ここ天国か?」

夢にしては存在感のありまくる景色に戸惑いを隠せない。
しかもなんてキレイな景色。とうとう俺は天に召されたのか。
ヤダヤダヤダ。せめて童貞卒業してから死にてーよぉぉぉぉぉ!
懐かしいAAを回想しながら、ジタバタする俺。すると異様な臭いに気が付く。

なんだ、これは・・・。もしかして・・・ここは見た目はキレイだけど、実は地獄の一丁目?!
うそぉ!俺地獄行きだったのかよ!確かに!納得!合点承知!!
でも、それにしてはお尻の辺りに違和感が・・・

あ、ウンコ漏らしてただけだった。

「ん?地獄にウンコ?いやまだ天国かもわからんか。天国にウンコ?」

血の池地獄なんて物もあるくらいだし、排泄物くらいできるのかなぁ。
そう思いつつ、このままでは如何ともしがたいので近くに洗面所と洗濯機がないか探す。

ない。つーか大自然の中だから、あるわけない。チクショウ。
近くに水の流れる音がしていたので近寄ってみると小川発見。
とりあえず、ここで洗うしかないのかなぁ・・・。

シャアアアァァァァァァッ

やっと乾いたパンツを履いていると、後ろから奇声が。
振り返ってみると、なんか口が鋏っぽくなっているバカデカイ蟲を発見。
うぇっ!!蟲がガキの頃から苦手は俺は驚きすくみあがってしまう。
眼が真っ青でキモイ・・・。向こうも警戒しているのか、それ以上は寄ってこない。
逃げたら追いかけてくるんだろうなぁ・・・
そう思いつつ、半ば諦めながら脱兎のごとく戦線離脱!
もれなくついてくる青眼鋏蟲!

「やっぱりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!ぃいいいやああぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!!」

逃げる逃げる逃げる。どこまでも逃げる。
全力疾走してるはずなのに、中々体力は尽きない。
人間やればできるもんだ。

しかしそうこう言っている内に、崖に突き当たってしまった。後ろには今だにデカ蟲。
何気にヤバくね?スネークだったら崖から飛び降りても助かるんだろうか・・・
そう思いつつも、やっぱこれは夢なんじゃ。という淡い期待と逃避。
こんな時こそあれだ。お決まりの懐かしいアレを言うときだ!

「もうダメぷぉ!!」
ダメだ、力んでしまって叫んでしまった。悲壮感がない・・・。

あぁ、俺の人生やっぱりこれまでなのかな。
お母さんごめんなさい。お父さんごめんなさい。
姉ちゃん借りた金返さないで死んでごめんなさい。

一通り懺悔は済んだ。よし後は無謀だが特攻おぉぉぉぉぉ!!
倒せるかもしれんもんね!!こっち素手だけど!!
勝てたらラッキー!死んで元々!カナたん俺を守って!!

「きいえぇぇぇぇぇぇえぇ!!」

生まれて初めてこんなに叫ぶ。これが最後の言葉かと思うとカッコわるい。
くらえ!とか、いくぞ!最速風神拳!とかの方がかっこよかったかな。
後悔先にたたず。とはよく言ったもの。

眼前にデカ鋏蟲が迫る。いや、青眼デカ鋏蟲だったか?
そんなのどうでもいい!しかしキメェェェェェ!

飛び掛ろうとした時、横から物凄い速さで何かが蟲に突き刺さる!
よく見ると剣だ。剣が蟲の頭を貫通してる。
青かった眼が光を失い、横にドウっと倒れる。
うはぁぁぁぁ、なんじゃこりゃ。
展開についていけないでいる俺。

「大丈夫ですか~!」

横から声がかかり、茂みから緑の何かが這い出てくる。
女の子だった。ちょっと露出気味ながらもボ-イッシュな服をまとった女の子。
珍しい。というか初めて見た。緑色の巻き毛(クセ毛?)をしている。

「ケガとかないですか?」

あっけにとられている俺に、緑の髪の女の子が続ける。

「なんか変な叫び声とかして騒がしかったので探ってみたら・・・」
「素手ではさみくわがたに突撃してる人がいるじゃないですか」
「どう見ても武術に長けてるようには見えなかったので、援護させていただきました。」

顔を見るとかなりカワエエ・・・。

「大丈夫?」

顔を覗き込まれる。
こんなカワイイ子にこんなに近くに寄られたのは何年ぶりだろうか。
不慣れなのも手伝って、真っ赤になってしまう。

「へ?いや!全然ダイジョーブ!」
「き、君が助けてくれたのか!あ、あ、ありがとう!!」

「いえ、いいんですよ・・・。あなたは助けられてよかった」
フッと緑髪の彼女が寂しそうな笑顔をする。

「え?」
「え?」
「いや、どうしたのかなって。」
「え、いや、なんでも、ないです、よ?」

どう見ても何でもなくはなさそうだ。
でもこれ以上聞くのは、彼女に悪い。
何か話題を変えようか・・・。

「君って天使?」
「え?」
「ここってあの世かなぁ?」

リアルで発したら、大昔のドラマでもやらないような口説き文句とも取れないことを言う俺。
しかし、今は状況確認が先決だ。

「あの、どういうことですか?」
「いや、俺って死んでるんじゃないかと思ってさ」
「・・・。」
「だって俺s」
「生きてるに決まってるじゃないですか!さっき私が助けたでしょう?!」
「いや、そういう意味じゃなk」
「もう!何言ってるんですかアナタは!せっかく・・・助けることができたのに・・・ひっく」

おおおおお、何だか泣きはじめてしまった!
ぐはぁ!なんじゃこれ!なんで泣くんじゃ!

「ごめんごめん!そういうんじゃないんだ!うん、助けてもらってありがとう!」
「グス・・・ひっく・・・」
「俺死んでない死んでない!死ぬなんてことも言わない!ごめん!ごめん!だから泣かないで!」
「・・・・・・はい・・・」

なんだ、この痛少女は。
カワイイから甘やかされてるのか。今時の小学生でもここまで酷くないぞ。小学生ハァハァ。
いや、小学生に萌えるのはどうでもいい。

「とりあえずさ、俺はケイイチって言うんだけど、ここはどこなの?」
聞き方を変えることにした。

「ここですか?私の村の近くです。地域でいうとブランカという国の近くですよ」
ブランカ?それなんてストⅡ?

「ブ、ブランカ?なにそれ、国なの?」
「? はい。」
ブランカなんて国あったっけ・・・?

「んー、つーか日本って知らない?」
「ニホン?」
「もしくはジャパンとかジパングとか」

「ジャパン???聞いたことないです・・・」
「私も村から出たことないので、地理に疎いんですけど・・・旅人さんですか?」
「いや、旅とかじゃないんだけど・・・気付いたからここにいたってだけで」

なんだか怪しまれてしまったかな?
居心地が悪くなってくると、彼女がハっとしたように見上げてくる

「も・・・もしかして、魔物に攫われていたんですか?」
「魔物?」
「あなたももしかしたら、私と同じように村を襲われて・・・?」
「村を襲う?」
「あぁ!そこから逃げ出してきたんですね!」
「???」
「デスピサロとかいう魔族は知りませんか?!」
「デピスロト?」

なんだか変な話になってきた。

「あの・・・何がなんだか・・・というか魔物とか全然わからないんだけど」
さっきの蟲とかのことだろうか。

要領を得ない俺を見て彼女がまたハっとした顔をする。
しかし、この子カワイイな~。頭がヤバそうなのが玉に傷だけど。

「あまりの恐怖に記憶喪失になってしまったんですね・・・」

マテ。

「大丈夫!私がついてます!とりあえず私と一緒にブランカのお城まで向かいましょう!」
「え?城?」
「そうです!お城に行けば何とかなるかもしれない・・・少なくともずっとここに居るわけにもいきません」
「私はソニアっていいます!アナタはケイイチさんって言うんでしたっけ?よろしくお願いします!」
「道中は私が命に代えても守って見せます!命に代えても・・・もう二度と・・・」

自分の知らない間に話がドンドン進む。喋る隙が全然ない。
元気で勢いのある娘だなぁ。てーかテンパってる気がするのは気のせいか?
でも、今は従うしかないのかなぁ・・・。少なくともあの世ではなさそうだし。
外国なのかな。
ハァ、なんだか疲れた。

「ブランカだっけ?そこって近いの?」
「ええ、ここからだと恐らく半日ほどで着きます」
「半日?!それ凄い遠いじゃん!車は?バイクは?・・・まさか徒歩?」
「クルマ?というのはよくわからないですけど、徒歩で半日くらいですよ」

マジか。
近くに、他に村はないのかとか、途中で休憩所とかないのか聞いてみるも
一切ないとのこと。夜になる前にブランカに着いた方が良いとのこと。
出発したときは、まだ昼にもなってないようだったが、俺の歩行ペースが遅いらしく
ブランカとやらに着いた時には、もう日がとっぷりと暮れていた。

話は戻り、ブランカへの道中、暇だったので
せっかくだから記憶喪失のフリをして、この国(世界?)の常識とやらについて聞いてみた。
どうやらマヂで魔物とかそういうのがいるらしい。
まぁ、考えたらあの青眼鋏蟲(なんかクワガタの仲間らしいが)も魔物とのこと。
凶暴な動物=魔物ってわけでもなく、人語を解する奴らもいるとのこと。

なんか面倒な世界だなぁ・・・。これってファンタジーじゃね?
リアルにファンタジーな所に来ると結構厄介なんだなと、認識。
普通にのんべんだらりと暮らせるところはないものか。
日本って良いところだったんだなぁと、しみじみ思う。

フと、日本に戻れるんだよな?と不安になった。残してきた物が大きすぎる。
11年待った、やりかけのゲームが先日出たばかりなのだ。
二番目に来週発売されるフィギュアが届くことが気になった。
両親や友達のことを思ったのは6番目だった。

道中、何度かカワイイ魔物に出くわした。
ソニアはえらい強かった。
剣を振り回して必死に自分に敵をひきつけ、俺を守ってくれる。
結構グロいシーンもあったが、虹黒・三次黒の住人でもあるので、むしろ大好物だった。
蟲は嫌だけど・・・

驚いたのがトイレで、設備とか何もないためにその辺ですることに。
当然ソニアも二度ほど用を足しに行っていた。
魔物が出たら困るので、つかず離れずの距離にいてくださいといわれたので
無類の尻フェチ、尻マイスターでもある俺は当然覗いた。ごちそうさまでした。
若い子の生尻をリアルで見れる日が来るとは・・・!感涙モノですな。

足が棒になるのと魔物に襲われるのを除けば、こんな旅なら何度でもしたいと思った。

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