港町についたのは夕方だった。潮の香が漂う。町と言うだけあって、今までの村よりはるかに大きく、沢山の人々で賑わっている。 山から港町までに、首が長いイタチや大きな目玉の青い魔物、赤いスライムと出会ったが、虎の力を借りずに倒した。この世界にいて少し強くなったようだ。そうなると自信が湧いてくる。 この港町が大陸の最北端らしいので、ここから船に乗って、東の大陸に行く。 まあそれは明日の話なので、とりあえず今日は新大陸上陸の為の準備だ。 防具屋で木の帽子、道具屋で薬草を大量に買う。 宿屋を探していると、道端で倒れている男がいた。 「うう…た、助けてくれ…。」 当然スルーした。が、足を掴まれる。鬱陶しい。ゾンビか。 「さ、さっき魔物にやられた時毒が回ったんだ…ど、毒消し草をくれ…。」 そんな緊急事態で見捨てるとポリさんのお世話になりそうなので、仕方なく毒消し草を取り出す為に袋を漁る。 「ふははは!貰ったぜ!」 男が急に立ち上がり、袋を奪う。が、俺は強く袋を握っていた為、引っ張り合いになった。 「てめえ!よこせ!」 引っ張り合いは続く。 隙だらけだったので、俺は怒りの鉄拳を盗賊らしき奴の顔面にぶち込む。地面に倒れこみ、悶える。 間髪入れずケツにローキックを放つ。ケツを押さえてヒイヒイ言っている。 トドメに脇腹に圧し掛かった。骨が折れる音がしたが、気にしない。盗賊は気絶してしまった。俺に刃向かうからこういう目にあうんだ。 町人の話によると、この町の西に盗賊のアジトがあるらしい。物騒な話だ。今の内に攻め込んで壊滅させた方が良いのではないのだろうか。こんな雑魚がいるんだから大した事ないだろう。 「キャーーー!!!」 朝、突然の女の悲鳴で目が覚めた。下の階からだ。ゴキブリでもでたのだろうか。 眠いので二度寝しようと思ったが、ゴキブリが二階まで来て俺のベッドにインしたらと想像している内に恐くなったので、起きる事にした。 下に降りると、カウンターの所で、二本の短剣を腰にさした盗賊っぽいおっさんが、女を羽交い絞めにしていた。下手な社交ダンスだ。 「へっへっへ!この女を返して欲しければ30000G用意しな!今日、日が沈むまでに西のアジトにもってこい!」 盗賊が女を連れて宿を出る。 何となく状況は分かったが、俺には関係ない。俺は宿を出ようとした。 「旅の方!お願いです!娘を助けて下さい!」 女の母と思われる太ったおばはんに助けを求められた。何故だ。何故俺みたいな弱い奴に助けを求めるんだ。 このご時世にタダで何かして貰おうなんて、考えが甘いんだよボンレスハムが。 「そ、そんな殺生な…。」 その場で泣き崩れるおばはん。その時、宿の主人がこちらに来て俺の手を握った。 「どうかお願いします。旅の方。」 見事に主人にやられた。 手を握って金の感触がした時に、金額を確認しておくべきだったんだ。早まってOKしてしまった。 それにしても5Gは酷いじゃないか。宿屋にすら泊まれない。 まあいい。後でたっぷりとせしめてやる。盗賊と同じ30000G。覚悟しておけ。 暫く進んでいると、人が倒れているのが見えた。神父だ。 生死の境をゆっくりとさまよってくれ。と思いながら横を通り過ぎる。 その時、神父が突然起き上がりこっちに接近してきた。 なんか恐くなったので逃げる。神父は「待ちやがれ!」と言いながら追いかけてくる。ヤバイ。とり憑くのだけはやめろ。 2分程走って、捕まった。神父も俺もハアハア言っている。一体何なんだこいつは。 「はぁ…はぁ…ひでぇじゃないか…人が倒れてたのに無視するのかよ…。」 いや、ピンピンしてるだろ。本当に倒れさせてやろうか。 「お、おい…死にたくなければ黙って金か金目の物置いていきな…。」 顔が余りにも必死すぎる。台詞と全く合っていない。 俺は 必 死 だ な と言い放った後、ローキックを放ち、神父、いや盗賊のスネに直撃させた。 「うあ!」 スネを押さえてもがいている。また雑魚だ。こんな奴らばかりだったら魔物に瞬殺されるぞ。 「み、みんな来てくれ…!」 1人、2人、3人…3人の盗賊がこちらへやってくる。 しかし、こいつらも盗賊が倒れてた場所から走ってきたので、ハアハア言っている。間抜けな姿だ。 俺は余裕だと思い、銅の剣を構え敵に突っ込んだ。 3分後、そこには首から下を地面に埋められた俺がいた。 間抜けなのは俺の方だった。こっちも疲れてる上に、相手は4人じゃないか。しかも虎は、俺がタコ殴りにされている横でゴロ寝していた。俺が指示しないと助けてくれない様だ。 このままでは人が来て、写真を取られ全世界に公開されて今世紀最大の笑い者になるので、虎に助けを求め、地面から這い出た。 とりあえず、あの4人(一人はゾンビだったが)に怒りの鉄拳を顔面にぶち込むという目標ができた。良かった良かった。結果オーライ。 いや、オーライじゃないだろうが、無理矢理納得する。納得しないとやってられない。 虎を連れていくのはまずいと思ったので、ここにおいていく。 昼前にアジトについた。入り口にはデブの見張りがいる。とりあえず近づいてみる。 「合言葉だ…やま!」 いきなり合言葉を聞かれる。反則だ。まだ何も考えてないよカーチャン。 仕方ないので、適当にいも、と答えてみた。安心しろ。死ぬ覚悟は出来ている。 「それは俺の好物じゃないか!そうじゃなくて合言葉だ!」 再び回答権が与えられる。何だこの男は。見張り代えた方が良いんじゃないのか? 「只の好物じゃなくて、俺の一番好きな食べ物だよ!」 ヒントまで与えられる。罠なのか、頭がおかしいのかは分からない。 この男の一番好きな食べ物……。この男はデブ…デブと言えば…ピザ。 そうだ。ピザだ。これしかない。というかこれ以外に思い浮かばない。俺は即座にピザと答えた。 「………。」 見張りが険しい顔をしている。しまった。早まりすぎたか。この世界にピザがあるとは限らなかった。 すまない大佐。ミッションに失敗してしまった。やはりブランクがあるというのは命取りだった様だ。 「……………………正解!」 よっしゃあ!1000万円獲得だ!これでうまい棒買い放題だぜ!! 違う!合言葉はピザで合ってたんだ。良かった。奇跡に近い。 珍しくハイテンションになったので、勢いでピザでも食ってろデブと言ってやりたかったが、さすがに勇気スキルが足りなかった様だ。 中は思いのほか盗賊が多かった。その辺でゴロ寝している盗賊、飯を食っている盗賊、刃物を研いでいる盗賊。その他結構な数である。 さっきの4人の盗賊に気付かれない様に慎重に進むと、調理場があった。ゾンビがいる。 よく見るとさっきの4人の内の1人だった。よし、まず一匹目だ。 俺はゾンビの肩をトントンと叩き、振り返った所に、顔面に怒りの鉄拳をぶち込む。 ゾンビは鼻がヘシ折れ、その場に倒れて気絶した。 その後他の3人も発見し、ゾンビと同じ方法で気絶させた。所詮単体では雑魚同然だ。 更に進むと、大きめの部屋があった。奥にはガキが一人寝ている。 ガキが突然起きる。俺を数秒睨んだ後、口を開いた。 「客人か…俺が盗賊の頭だ。用は分かっている。実力で俺を倒してみな。」 いきなり戦闘に突入した。まあ最初からそのつもりだったから良いだろう。 俺が剣を構えた頃、既に頭は俺の視界から消えていた。 次の瞬間、俺の頬が血で染まっていた。鮮血が飛び散る。 さすが盗賊だ。動きは素早い。 俺に長所など無いので、何も考えずに突っ込んだ。が、やはり簡単に避けられ、背中を斬られた。 数分後、俺の体中真っ赤に染まっていた。強すぎる。さすが頭だ。 こうなったら必殺技だ。アレだけは使いたくなかったが、仕方ない。 俺は目を横に逸らし、盗賊の横に置いてある壷を凝視した。頭はそれが気になったのか、壷を見る。…今だ! 俺はその隙をついて、盗賊に斬りかかる。が、頭がこちらに振り返ると同時に、上にジャンプされて避けられた。掠りもしなかった。 「あ、危なかった…卑劣な奴だ…。」 盗賊に言われたくはない。それより、俺の必殺技を避けられてしまった。あんなものを必殺技にする奴がアホかもしれんが。 「許さんぞ小僧!」 盗賊の目つきが変わる。完全に切れられた。しかも小僧に小僧と言われた。もうダメだ。 痛い。次々と俺の体に刃物が刺さる。痛みもなくなってきた気がする。 俺も適当に剣を振るが、段々弱弱しくなってきた。 あいつ以上のスピードがあれば勝てるのに…。 スピードが欲しい…スピードが欲しい…………スピードが―――――――――― ヒュンッ え? 俺の頭にスピードという言葉が駆け巡っていた時、急に剣が軽くなり、振るスピードが段違いに速くなった気がした。 いや、違う。本当に軽い。速い。これならいける…! 俺はフハハハハ!と奇妙に笑いながら盗賊に素早く斬りかかる。今まで一撃も当たらなかったが、簡単に命中した。頭の動きがゴキブリより遅く感じる。頭はよろめき、苦しんでいるというより驚いている。 スピードがある分ダメージは少ないらしい。が、ダメージも蓄積させれば倒せる。 俺は盗賊に次々に斬りかかった。盗賊も反撃するが、余裕で避ける事ができる。 太ももへの一撃で、盗賊が倒れこんだ。今だ、くらえ!! 「ま、まいった!」 大きく振りかぶった剣を振り下ろそうとした所で止める。 「俺の負けだ!盗賊の鍵はやる!ほら!」 頭から鍵を渡される。何だこれは?宿屋の女は? 「え?盗賊の鍵が欲しいんじゃないのか?宿屋の女?」 どうやら頭は何も知らん様だ。俺は事の次第を頭に話す。 「そうか、俺の手下が…ちょっと待っていてくれ。」 「てめえ!さっさとその女性を返しやがれ!」 「ひい!なんですかい頭!」 「うるせぇ!てめえなんか今日から三食ともゴキブリ唐揚げだ!」 「そ、そんな…せめてナメクジの塩焼きに…。」 「黙ってろ!」 ドカバキザシュグチャッ グロイ音が響き渡る。死ぬなよおっさん。 ナメクジもゴキブリも食うのは死ぬ程嫌だと思うが、ゴキブリの唐揚げというとあれか。10年以上前、唐揚げ買った時ゴキブリ型の唐揚げがあったが、アレを毎日食わされると思うと生き地獄だな。 頭が宿屋の女を連れてくる。 「悪かったな。うちの手下が無礼な事をして。」 正直いきなり襲い掛かってくる頭も礼儀が無いと思う。が、俺も人のことは言えないので黙っておいた。 「それと…こいつを連れて行ってやってくれないか?」 頭が連れてきた盗賊。―――――――――――――――ゾンビ。 丁重に断る。が、どうしても連れて行けと言う。嫌だ。勘弁してくれ。 「お願いだ!これをやるから!な?」 3000Gを渡される。そこまでこいつが嫌か。しかも金。世の中なんでも金金金…汚い男だ。金があれば何でも出来ると思ってるのか。人間の風上にもおけんな。 俺は快く了承した。 「ありがとう。こいつの名前はエテポンゲだ。可愛がってやってくれ。」 エ テ ポ ン ゲ が 仲 間 に な っ て し ま っ た ! Lv7 HP44 MP0 武器:銅の剣 鎧:旅人の服 兜:木の帽子 特技:はやぶさ斬り