次の日の朝、タンスを漁ると小さなメダルがあった。最初の村の墓で拾ったのと同じだ。何だろうこれは。
ついでに本棚を調べてみる。「呪文書」と書かれた本があった。宗教の類は信じないが、シャレで貰っていく。

船が来るまで腐った死体パン(1G)を頬張りながらその辺で座って待つ。
それにしてもこのパンまずい。金持ってるんだからケチらなければ良かった。デフォルトでこの不味さなのに、賞味期限が切れたらどんな味になるんだろうか。
しかもエテポンゲに異様に似ている。というかエテポンゲそのものだ。
食ってる内に吐き気がしてきたので残りはエテポンゲにあげた。美味い美味いと言いながら自分を食っている。
昨日は女がエテポンゲにビビリながら宿に戻った後、主人からモンスター図鑑を貰った。こんな分厚い本いらない。金をよこせ。
モンスター図鑑には今まで出会った魔物が記載されている。爆弾岩、ミミック、お化けキャンドル…結構な数と出会っている。因みにこの虎は「キラーパンサー」と言うらしい。
そう言えば宿屋の女に虎にボロンゴという名前をつけてもらった。と言うか勝手につけられた。
トンヌラとか、サトチーとかつけようと思った俺より遥かにネーミングセンスがあると思ったので却下しなかった。



潮風が気持ちいい。雲一つない空で、絶好の船旅日和だ。俺は車や船で酔わないので、気分が良かった。
…俺の両サイドで、海にゲロを撒き散らしている奴らがいなければ。
ええい、邪魔だ!雰囲気ぶち壊しじゃないか!よりによって俺の両サイドで吐きやがって。恨みでもあるのか!
背中に正拳突きをぶちかましてやりたかったが、武骨な戦士二人なので返り討ちに遭いそうだ。
山彦の如く断続的に、おえーおえーと聞こえてくる。いかん。このままでは異臭騒ぎになる。船室に戻ろう。

暇なのでさっき手にいれた呪文書読む事にする。俺は袋から本を取り出し、本を開いた。
…何やら難しい事が書いてあるが、要約すると呪文とは、自分の魔力を消費して治療を施したり、炎や氷を出して敵を傷つけたりする能力、らしい。
どうも胡散臭いが、それっぽいものなら見た事がある、山にいたロウソクの火の玉や、山のおっさんの竜巻。あれが呪文だろうか。
更に読み進めると、呪文習得法というページがあった。 

『ほとんどの人間は呪文を操る事ができる。呪文を操る事ができない人間は、代わりに抜群に身体能力が高い。
呪文を使うには、ホイミ(治療呪文)を使おうと思えば、傷ついた自分が暖かい光に包まれ、体中の傷が癒える。これをイメージする。
イメージをしたら、手に魔力を集中させ、対象に掌を向け「ホイミ」と叫ぶ。イメージが完璧なら成功する。
まあ本なんて読んでるお前には一生無理だけどな。斧でも振ってろバカマッチョ』

…真剣に読んだのに、何て奴だ。この場にいたら殴る所だった。
とりあえずホイミを使ってみる。俺にできない事などない。
隣に座っているじいさんが手に包帯を巻いていたので、じいさんの手に掌を向けて、ホイミ!と叫んだ。
数秒の沈黙の後、客のクスクスという笑い声が聞こえてくる。じいさんは痛い人を見るような目でこちらを見ている。
俺に魔力がないのか、じいさんの包帯は装飾品なのか、理由はわからないが完全に恥を晒してしまった。



港に着く。船を降りても客達にこちらをちらちらと見られていた。
近くにいた戦士に、一番近くの町はどこか聞こうとしたが、避けられてしまった。完全にキ○ガイ扱いだ。
仕方ないので、東に一直線に進む事にする。



港を離れてすぐに、敵と遭遇した。緑のスライムに騎士が乗っている魔物が二匹。何十本も足がある浮遊スライムが一匹。
スライムナイトとホイミスライム。何故かその二つの単語が脳に響き渡った。まさかモンスター図鑑の効果だろうか。
さすがに三対一はきついので、ボロンゴにも手伝ってもらう。エテポンゲは俺を盾にしている。使えん奴だ。
俺とスライムナイト、ボロンゴとスライムナイト、ホイミスライムが対峙する。
二対一はきついだろうが、それでもボロンゴなら…ボロンゴならきっと何とかしてくれる!
俺は銅の剣を構え、スライムナイトとの距離を縮める。スライムナイトがブツブツ言っている。早くも死を覚悟したのだろうか。
…しまった、呪文だ!
「イオ!!」 

その声と共に俺を中心に周囲が激しく爆発する。痛い。熱い。炎を覆った鈍器で殴られてるようだ。
幸い、死にはしなかった。が、相当のダメージだ。体中痛い。
俺は薬草を取り出してかじり、立ち上がる。さて、どうするか…。
またブツブツ言っている。ヤバイ。殺される。助けてくれボロンゴ。俺には無理だ。
ボロンゴを見ると、かなり苦戦している様だった。ボロンゴで苦戦してるのに俺が倒せる筈がない。
俺はヤケクソでエテポンゲを担ぎ、スライムナイトに投げつけた。が、避けられる。エテポンゲが何か喚いている。役立たずが黙れ。
仕方ない。必殺技を使うか。
俺式ファイナr…最終奥義!はやぶさ斬り!
スライムナイトが呪文を唱える前に、素早く斬りつける。
効いているようだ。ナイトがスライムに押し潰されて悶えている。なんか可愛い、と思った。
はやぶさ斬りというのは盗賊の頭の時に使った技だ。「速くなれ」と強い思いを込めれば使えるようだ。
次の瞬間スライムナイトの体が淡い光に包まれ、傷が回復した。
どうやらホイミスライムがホイミを使ったらしい。厄介な奴だ。
スライムナイトがぶち切れて俺に斬りかかる。俺も剣で対抗する。
が、スライムナイトの剣の性能が良かったのか、俺が弱いのか、銅の剣を弾かれ腹を斬られてしまった。
俺の腹から血が飛沫をあげて飛び散る。俺はその場に倒れこんでしまった。
さて、いよいよ危険が迫ってきた。このままTHE ENDか。
スライムナイトの剣が次々に俺の体を傷つける。何だか気持ち良くなってきた。
これで終わる訳にはいかない訳だが、ホイミスライムを倒さない限りどうしようもない。ボロンゴはホイミスライムを集中攻撃しているが、すぐに回復されてしまう。
このままではダメだ…呪文が…呪文が使えれば…!!
「ホイミ!!」





ブシュッ 





何時間経ったのだろうか。気がつくと平原に寝転がっていた。
どうやら助かったようだ。ボロンゴが始末したのだろうか。
「俺がマッスルダンスで一瞬で片付けた。最強だからな。」
声をあげたのはエテポンゲだった。嘘つけ。俺に一撃でやられたエテポンゲがあんな奴らを片付けられる訳がない。
それにマッスルダンスってどんな技だ。気持ち悪い。名前変えろよ。
まあ経過はどうあれ助かった。



夕方、高さ20m以上はある巨大な城に辿り着いた。
城下町の人の数が凄い。俺が大声を出してもかき消されるかもしれないぐらい人で賑わっている。
兵士の話によると、王様は大らかな人で、一般人でも自由に城の中に入れるようだ。
盗賊とかが入ったらどうするんだろうか。軽率なんじゃないのか?
まあ城の中に興味がない訳ではなかったので、入ってみることにする。

「よくぞ来た!どうだ私の体は!?美しいだろう!?」
王座の間に足を踏み入れた瞬間、フンドシとマントの変態王が俺に筋肉を見せつけてきた。
どうしよう。この状況を打開するにはどうしたらいい?ボロンゴは何も答えてくれない…。
「ハア?今の自分の姿、鏡で見てみろよ変態野郎。」
言ってしまった。このバカゾンビが。処刑される前にこいつだけは俺が処刑してやる。
「…フ。勇気ある発言だな。」
王が不気味に笑う。俺の死が確実に迫ってきた。
が、王が次に発した言葉は、予想だにしない言葉だった。

「そう言ってくれる者を待っていた。その勇気を見込んで頼みがある。」
どうやら公開処刑はされないらしい。助かった。公開かどうかは分からないが。
「実はこの城の地下で虫の魔物がすみついてしまったんだ。そいつらを始末してくれないか?」
虫…。
俺は虫はダメなんだ。特にゴキブリ。小学生の時、生足でゴキブリを踏んでしまった事を思い出しただけで死にたくなる。
虫は嫌だし面倒なので丁重に断ろうとした。が、
「いいぜ。ただし報酬はたっぷりよこせよ。」
く…このバカゾンビが…。王に向かってなんて発言をするんだ。殺されてしまえ。
3000Gに釣られるんじゃなかった。あの時点で俺は負け組だったんだ。
「おお、ありがとう!では頼んだぞ」



地下の虫を始末するのは明日にするとして、この辺の敵の強さは半端じゃないので武器屋に行った。
「やあ、いらっしゃい。」
緑の服の普通の主人だった。良かった。どこかの村の武器屋みたいな奴だったら確実に逃げていた。逃げる準備も万端だった。
とりあえずエテポンゲの装飾品を全て売る。そしてこれからはエテポンゲを先頭にして戦う。なんたって最強らしいからな。
エテポンゲが喚いている。知らん。金になる物は全て売る。
現在の所持金は4000少々。結構強い装備が買えそうだ。
一番強い武器は鋼の剣だった。重さも確かめずに即断で買った。強さはどうでもいい。かっこいい。
他にも鱗の鎧に、ボロンゴ用に鉄の牙、皮の腰巻きを買った。当然エテポンゲには何も買わない。なんたってさいk

その夜、俺はゴキブリが100匹入っている箱とナメクジ100匹の箱、どちらに入るか王に選択を迫られる夢を見た。

Lv7
HP44
MP0
武器:鋼の剣 鎧:鱗の鎧 兜:木の帽子
特技:はやぶさ斬り 

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もし目が覚めたらそこがDQ世界の宿屋だったら@2ch 保管庫