ドランゴ(バトルレックスの愛称)を城付近に待機させ城に戻った俺は、英雄として歓迎された。 死体については、ドラゴンキッズをギラで骨にし、「バトルレックスは骨にした」と王に言うというエテポンゲの浅はかな提案を実行した。 バレるかと思ったが、案外簡単にだまされた。王はバカなのかもしれない。 夜、宴が始まった。俺は例によってオレンジジュースをチビチビと飲む。 王は酔っ払い、札束を地面にばら撒き「わははは!金だ金だ!」といいながら金の上をごろごろ転がっている。 マトモな王と思っていたが、王はどこに行ってもバカだらけらしい。 エテポンゲも参加し、「世の中は俺と金と中心に回っているのだ!」と言っている。アホか。妄想は夢の中でしとけ。 夜も大分更けてきたので、寝る事にした。城にある客用の寝室を使っていいらしい。 バカ笑いをしながらのたうち回っているエテポンゲを殴り倒して気絶させ、またエテポンゲに飲まされて酔い潰れたボロンゴと気絶したエテポンゲを引きずって、その日は夜中の1時に眠りについた。 …苦しい。体調を崩してしまったのだろうか。体が重い。 まぶたをゆっくりと開くと、俺の上に何かが乗っていた。 …エテポンゲと王だ。何で俺の上に乗っているんだ。 普段なら俺の膝蹴り→羽交い絞め→ジャーマンスープレックス→起き上がった所にマッハパンチというく○お君ばりのコンボが炸裂していたが、やはり朝は弱く力が出ない。 そう言えば力が出ないと言えばアン○ンマンだが、あのアニメはオープニングに「愛と勇気だけが友達さ」というとんでもない事をがさらっと言っている。気弱で友達のいない園児にはグサリと来る歌詞だろう。これは教育に悪いとして訴えるべきだ。 とりあえず二人とどかして部屋を出ると、兵士に「昨晩はお楽しみでしたね。」と言われたが適当に聞き流した。 城を見回ると、随分散らかっており兵士が片づけをしていた。どうやら昨日は宴で相当散らかったらしい。 数十分後、王が起床して宝を渡されることになった。 俺の目の前に宝箱が置かれる。また大層な箱を用意しやがって。中身は大した事ないんだろう。 左の宝箱…静寂の玉。敵の呪文を封じる玉。 右の宝箱…錬金釜。最大三つのアイテムを合成できる釜。 真ん中の宝箱…雷鳴の剣。振りかざすと雷と呼び起こす神秘の剣。 三つともかなり貴重なアイテムらしい。ドランゴは倒してはいないのだから詐欺に近いが、やはり貰える物は貰う主義と言うのは変わらない。 城を出た俺はドランゴと合流し、開通された南の洞窟を抜けた。 洞窟を抜けると、目の前には砂漠が広がった。 城を出たのは夕方前で、今は太陽も沈みかけているので快適な気温だ。 砂漠は昼夜の気温差が激しいので、夕方と明け方に移動し、昼は岩陰で夕方になるまで待つ。 できるだけ早くオアシスの町につきたいので、俺たちは早足で南下する。 日は沈み、徐々に気温が下がる。夜の寒さが俺たちの体温を奪う。 寒さでガタガタ震えていると、目の前に一匹のともしび小僧が立ち憚った。 その瞬間エテポンゲの目がギラリと光り、ともしび小僧に飛びかかった。 エテポンゲは一瞬でともしび小僧を半殺しにし、こういった。 「おい、死にたくなければ黙って俺たちについてきな。」 ともしび小僧が震えながら頷く。エテポンゲに一瞬で半殺しにされたのが余程恐ろしかったんだろう。 暖かい。非常に楽な砂漠の旅だ。 ともしび小僧の頭にある炎が、俺達の体を温める。ともしび小僧の周囲に密集し歩く俺達。ともしび小僧はむさ苦しそうにしているが、そんな事は構っていられん。 旅人たちは砂漠で体力を奪われ、魔物たちに苦戦する事が多いらしいのだが、ともしび小僧のお陰で楽に魔物を倒すことができる。 いや、寒くないから戦闘も楽ということもあるが、一番はドランゴの存在だ。 ドランゴはパーティの中でもズバ抜けて攻撃力が高く、巨大なバトルアックスで出てくる魔物を次々になぎ払う。ドランゴを仲間にして正解だった様だ。 現時点でのそれぞれの長所をあげるとこうだろう。 俺…呪文が使える。 ボロンゴ…スピードがズバ抜けている。 ドランゴ…驚異的な破壊力。 エテポンゲ…知らん。 ホイミで足の痛みを和らげながら歩いていると、東の空が明るくなり段々と夜も明けてきた。 「これから暑くなってくるな…。」 エテポンゲがそういうと、薬草を取り出してともしび小僧に渡した。 「無理矢理つれてきて悪かったな。もう行っていいぞ。」 エテポンゲが良い笑顔でともしび小僧をポンと叩く。 …実は朝になったらともしび小僧を殺すかもしれないと思っていたが、まさか助けるとは…しかも共有の薬草でなく自分用の薬草まであげて…。 エテポンゲがどんどんかっこいいキャラになっていく。最初の頃を考えると信じられん。 暑い暑い熱い熱いあついあついアツイアツイ。 昼間の太陽の日差しが、容赦なく俺たちの体力を奪う。 ともしび小僧と別れた後、ドランゴより遥かに大きな岩を見つけたので岩陰で休んでいるのだが、それでもかなり暑い。 汗がダラダラ出て眠れん。ボロンゴもドランゴもぐったりしている。 そんな中、エテポンゲは一人瞑想をしていた。文句一つ言わない。 おいおい、エテポンゲってこんな奴だったか?いったい何が奴を変えたんだ。 水がめに入っている水も、夜に比べ消費量が激しい。出来るだけ飲まないようにしているが、それでも見る見るうちに水が減っていく。 その上、360度回りを見渡しても砂漠しか見えない、砂の海。体力だけでなく精神力までも奪われてしまう。 こんなときにヒャドが使えたら良いのだが、魔力があっても心身ともに疲れているので使えない。 これは、夕方になるまで持久戦か。辛いが頑張るしかない。 そう言えば錬金釜を早速使ってみた。500G玉を2つ入れると、1000G札に変わった。便利なので全て1000G札に変えてやった。城の秘宝なのになんか夢のない事をしてるな、と思ったがその辺は気にしない。 オアシスの町が見えてきたのは、次の日の明け方だった。 昨日の夕方からダラダラと歩き出し、ほとんど寝ていなかったので夜中に毛布を被って仮眠を取り、明け方にはまたダラダラと歩いていると南の方にやっと町が見えてきた。 「ヒャッハー!!水場だ!!これでもう旅はしなくていいぜー!!」 エテポンゲが馬鹿笑いをしながら走り出す。 今まで文句一つ言わなかったが、多分あまりに疲れて喋る気力もなかったのだろう。 オアシスの町はかなりの人で賑わっていた。 大きな水場、砂漠の城、城下町、カジノ。 取り敢えず水は尽きて、喉がカラカラだったので水場へ直行した。 「水はコップ一杯10Gです。」 ニコニコと笑うデブ。何だこいつは。金を取る気か? いや、オアシスと言っても砂漠での水は命同然。それも仕方ないか。 突然エテポンゲがデブのビール腹を鷲掴みにし、真上に投げる。 「水一杯に金を取るデブなど必要ない!」 落下してきた所にエテポンゲの鉄拳が炸裂する。デブはその場に倒れこみ気絶してしまった。 エテポンゲは何もなかったかのように水を飲む。こいつ、一般人にまで手を出すなよ。 喉も潤った所で、今度はカジノに行く事にした。最近戦闘ばかりで全然遊んでいなかったので、たまには遊ぶのも良いだろう。 カジノにはスロット、モンスター格闘場、スライムレースがあった。 思っていたより狭く種類も少ないが、娯楽があるだけマシだろう。 俺は200Gでコイン10枚を買い、5枚をエテポンゲに渡すと格闘場の方に行った。俺はスライムレースでもすることにする。 スライムレースは5匹のスライムが競争し、一着二着を当てるというものだ。 取り敢えず1-4に2枚かけた。倍率は4倍だ。 レースが始まると、一斉に客がレース場の周りに集まってきた。かなり賑わっている。 「行けー!突っ走れー!!」 「隣のスライムぶち殺せ!構わん!俺が許す!!!」 時々罵声が飛び交う。恐ろしい。ギャンブル狂か。 結果、1-4が見事に当たった。2×4=8枚のコインを入手する。 コインを貰っている時に大金を賭けて負けた奴に足を踏まれたので、正拳突きを放って気絶させた。 本当なら即ポリさんが駆けつけてくるが、そこは殺伐とした世界だ。誰も関わろうとしない。弱肉強食の世界である。 さっきエテポンゲに一般人に手を出すなと言ったが、まあ今回は正当防衛ということで。あまりに無理矢理だが。 もう一度スライムレースをしようかと思ったところで、エテポンゲが俺の所に来た。 「稼いでるじゃねえか。少しまわしてくれ。」 エテポンゲに11枚全てのコインを奪われる。ちょっと待てお前。もう5枚使い切ったのか。 エテポンゲについていくと、格闘場でコイン11枚全てを賭けていた。 メタルスライム、ホ意味スライム、バブルスライム、スライムで、倍率108倍のスライムに賭けていた。 ちょ、待てやお前!あたるはずないだろ!? 開始直後、三匹のスライムにノーマルスライムが集中砲火をかけられ、秒殺された。 「ガッデム!金返せこの野郎!!」 それは俺の台詞だ。大穴にも程がある。 エテポンゲが袋を漁る。何を取り出すのかと思うと、その手には全財産約2000Gが握られていた。 「全部コインにしてやる!待ってろ!」 ちょっと待て!ギャンブルジャンキーかお前は! 走って追いかけるも、信じられない速度でコイン売り場に走っていく。 俺が辿り着いた時には、全財産は100枚のコインに替えられていた。 「へっへっへ。これで一回100コインのスロットで当ててやるぜ!」 そう言ってスロットのほうへ行く。…もういい。好きにしてくれ。ボロンゴ、疲れたろ。僕も疲れたんだ…。 数分後、エテポンゲはスタスタとこちらに戻ってきてすれ違いざまに俺の肩を叩いてこう言った。 「中々楽しかったぜ。」 一瞬殺意を覚えた。こいつ、装備や道具を買う為の金を100コインスロットで一瞬で消しやがって。 さて、今日はもう宿屋で休みたいが、金がない。どうしよう。 俺が考えていると、エテポンゲが突然歩き出した。 「金なんて魔物を倒せば手に入るだろ。待ってろ。」 エテポンゲが一人で町を出た。まあこいつのせいで2000Gすったんだから、これぐらいは当然だ。 数時間後、町に戻ってきたのは、本物のゾンビの如く地面を這って水を求めるエテポンゲと、ギリギリの宿屋代(4人で48G)であった。 Lv17 HP89/89 MP35/35 武器:鋼の剣 鎧:鉄の鎧 兜:鉄兜 呪文;ホイミ、バギ、バギマ、ギラ、スカラ 特技:はやぶさ斬り、火炎斬り、正拳突き