次の日の朝、町全体がざわついていた。何か事件に匂いがする。 …しまった!水場の管理人を気絶させた事か!?それはまずい。早くエテポンゲを真犯人としてつき出さねば。 話を聞くと、どうやら違うようだ。城の王子コリンズが行方不明らしい。 それは大変だ。まあ頑張ってくれ。エテポンゲがさらったのではない限り、俺はそんな面倒事には関わらないつもりだ。 荷物をまとめて旅立とうとすると、町の出口に一人の少年が立っていた。 緑の髪で、貴族っぽい服を着ている。王様ごっこでもしているのか? 「おい、お前!」 話しかけられた。ギブミーチョコレート少年か?チョコはないが腐った死体パンなら買ってやろうか? …しまった。今文無しだった。1Gの腐った死体パンすら買えない。エテポンゲでも差し出すか? 「お前昨日水場にいた奴を一発で倒した奴だろ。」 ああ、あいつか。あれはエテポンゲが倒したんだが…。まあエテポンゲが倒せるなら俺でも一発で倒せるだろう。俺はああ、と言った。 「お前たちはしらんだろうが、あいつは一ヶ月前から水場を占領していた奴なんだ。中々手強くてみんな渋々金を出して水を買っていた。」 あのスマイルデブが?そうは思えん。ただの雑魚にしか見えなかった。エテポンゲに倒されたから尚更そう見える。 「その腕を見込んで頼みがあるんだ。」 「だが断る!」 エテポンゲが少年の頭を押しのけて町を出ようとする。 「いたた!何するんだ!俺は王子ヘンリー様だぞ!」 エテポンゲが分かった分かった。と流している。いくら子供といっても、王子にこの態度とはある意味尊敬する。 「ふん!お前はいい!おいお前!頼みを聞いてくれるな!?」 ヘンリーは俺を睨む。面倒だが、ここで嫌だと言えば何をされるか分からないので、一応聞く事にした。 「よし。俺の弟コリンズが行方不明になった事件は知っているだろう。あれは実は昨晩魔物にさらわれてしまったんだ。」 魔物…。このパターンは魔物退治か。まあ今の時点では頼みを聞くという約束だけで、引き受けるとは言っていないのでもう少し聞いてやろう。 「魔物はここから西にある塔に行ってしまった。お願いだ。魔物を倒して弟を取り戻してくれ。」 やはりか。子供の考えは読み易い。そして騙し易い。断ってやるか。 「報酬は30000Gだ。前金として10000Gをやる。」 「引き受けましょう!王子様!!」 エテポンゲがヘンリーの手を握る。態度変わりすぎだろう。 ヘンリーから10000Gを貰った。紫のローブをまとい、不気味に笑っている魔道士の絵がかかれてある。 ヘンリーは頼んだぞ!と言い残し城に戻っていった。 俺は速攻で武器屋へ行き、俺用に破邪の剣、ボロンゴ用に鋼の牙、ドランゴ用に鉄の鎧を買った。 ドランゴに装備できる鎧など普通に考えてないが、ちゃんと用意されてあるのがこの何でもありの世界だ。 因みにエテポンゲはずっと裸一貫だ。装備など必要ない。 西の塔に到着する。町からはそれ程遠くなく、水の消費量も少なかった。 中には火を吹く竜の像がいくつも設置されており、火を避けるのが大変だった。 当たっても回復すればいい、という選択肢はない。 何故なら、像の近くでアームライオンと戦っていると、像に近づいたアームライオンが火の直撃を受け一瞬にして燃え尽きてしまったのだ。 あまりに強すぎる炎。史上最強。向かう所敵無しである。この像を持って旅をしたい。 何とか像を潜り抜け、最上階に辿り着く。 ボスのお出ましかと思ったが、オークとキメーラが襲い掛かってきた。前座という訳か。 こんな奴ら一瞬で倒せるだろうと思っていたが、これが意外と強い。 いくら攻撃してもキメーラのベホイミで回復される。鬱陶しい。 仕方ないので、エテポンゲがオークを挑発し、その間に三人でキメーラを叩くという作戦に出た。 オークがエテポンゲに必死で攻撃するが、エテポンゲは軽くかわす。オークは鼻をブヒブヒ言わせて怒っている。豚か。 キメーラをボロンゴでかく乱させ、混乱したところをドランゴと俺が攻撃する。 俺の攻撃では死に至らなかったが、ドランゴの強烈な一撃で絶命してしまった。 エテポンゲはまだオークを挑発している。エテポンゲも体力がなくなってきたせいか、時々攻撃をくらっている。いかん。さっさと倒してしまおう。 俺は後ろからゆっくりと近づき、オークの肩を叩いた。 「ん?」 オークが振り返った所に俺のバギマが炸裂する。オークの体が宙を舞い、天井に頭をぶつけて地面に落ち、絶命してしまった。 倒し方がエグイかもしれないが、その辺は気にしたら負けである。 俺はダメージを負ったエテポンゲにベホイミを施す。 実は、町からここに来るまでに練習し、習得したのだ。結構時間はかかったが。 奥に進む。さっきから俺達を見ていたボスと思われる奴にゆっくりと近づく。 よく見ると、ボスの容姿は10000G札に載っていた奴に似ていた。 「ほっほっほ…。ようこそデモンズタワーへ。待っていましたよ…。」 魔道士が不気味に微笑む。俺はこの魔道士から底知れぬ魔力を感じた。 「私はあなた達に会いたかった…。近頃強い魔物を次々に倒しているという魔物使いがいると聞きましてね…。王子をさらったのも、あなたに会えると思ったからです。」 なるほど、それで俺達がこれ以上調子に乗らないように、殺そうという訳か。面白い。 「まあ、強い魔物と言っても所詮それは人間レベルでの話…。私たち魔族の世界ではせいぜい下の中といった所ですか…。」 「そうだな…その程度だろう。あんな魔物が強いなんていったら俺はがっかりだぜ。」 エテポンゲが一歩前に出る。 「随分自信がおありのようですね…。しかし、先程の戦闘を拝見させて頂いて、答えは出ました。」 「ほう…。お前は俺たちに一瞬で殺される、という答えか?」 魔道士はニヤリと笑い、少し間をあけて言った。 「…あなた達の力は、私の部下二人、いや一人にも及ばない。」 その瞬間俺は背筋が凍りついた。 「面白い…。ならやってみるか?」 エテポンゲが構える。 俺は嫌な予感がした。奴の言っている事は当たっている気がする。そう感じたのだ。 「いいでしょう…出でよ!ジャミ!ゴンズ!」 次の瞬間、落雷と共に紫の鬣の馬ジャミ、盾を持っている紫の豚ゴンズが現れた。 よく見りゃ1000G札と5000G札に載っていた奴らじゃないか。そんなに有名なのか? 「へっへっへ。お前らなんざ俺達で十分だぜ。」 ゴンズが嘲笑う。ジャミも同じく明らかに俺達を見下していた。 「死んでも恨むなよ!」 エテポンゲが一直線にゴンズに突っ込む。 「遅すぎる!」 ドガッ!!! ゴンズが繰り出した拳は、エテポンゲの腹を抉る様に打ち込まれていた。 「あが…が…。」 エテポンゲがその場に倒れこみ、気絶する。 「へっへっへ、こんなもんか?」 ゴンズがニヤニヤと笑う。 まさか…ここまでとは…力の差がありすぎる…。 「ググ…ナメルナ…!」 ドランゴがバトルアックスをジャミに向かって振り下ろす。 「おっと。」 ジャミはその巨大な斧を片手で受け止めた。 「おねんねしてな!魔族に刃向かう悪い子が!」 ジャミの回し蹴りがドランゴに炸裂する。ドランゴは勢いよくその場に倒れこんだ。 次々と仲間が突っ込んでいく中、俺はというと、完全に震えていて動けなかった。 どうあがいても勝てない。そう悟った。 「グルルル…!」 ボロンゴが牙を剥き、魔道士達を睨む。 やめろ、ボロンゴ!殺されるぞ! が、俺の叫びも虚しく、ボロンゴは敵の中心に突っ込んでいった。 結果は、言うまでもなかった。 ゴンズの頭突きで口から大量の血を吐き、その場に倒れ気絶するボロンゴ。 そして遂にこちら側で立っているのはただ一人、俺だけとなった。 「ほっほっほ…。後はあなただけですね…どうしますか?逃げてもいいんですよ?」 ………。 「どうせ初めから殺すつもりなんだろ…さっさと殺せよ…。」 俺は死を覚悟した。 俺の様な一般人が少し強くなったところでどうにかなるようなものではない。 それが可能なら、もうとっくに実力者たちが集結して魔族を壊滅させていただろう。 魔族に刃向かうなど、愚か過ぎる行為だったのだ。 「諦めましたか。しかし下の中程度の魔物を倒されたと言っても支障が出るわけではない。命はとりません。ただし…。」 魔道士は倒れているボロンゴ達を一人ずつゆっくりと見て、再びこちらに向き直す。 「ただし石になってもらいますよ。魔族にとって邪魔な存在に変わりありませんから…。」 魔道士がゆっくりとこちらに掌を向ける。 「最後に…。」 「ん?」 「最後に聞かれてくれ…お前の名前を…。」 魔道士は少し考え、俺の目を見つめ不気味に微笑んだ。 「ゲマ…。次期魔王三大候補の一人…。」 ゲマの掌から灰色の煙が放たれ、俺の体を包んだかと思うと足の先から徐々に石化しだした。 それ以降、俺の意識は完全に途絶えた…。 「この二匹は元々凶悪な魔物のようですね…。かなりの実力があるようなので利用させてもらいましょうか。」 「こっちの腐った死体はどうしますか?」 「一見腐った肢体に見えますが、一応人間のようです。…こうしてしまいましょう。」 ゲマが掌をエテポンゲに向けると、エテポンゲの体が光の包まれ、ふわりと宙に浮いた。 「バシルーラ!!」 次の瞬間、エテポンゲの体が動き出したかと思うと窓を突き破ってどこかへと飛んでいった。 「魔族に刃向かう人間はこうなるのです。では行きましょうか。ほっほっほ…。」 そうして、ゲマ達はボロンゴ、ドランゴと共に消えていった。 石化した俺一人を残して…。 第一部 終 Lv18 HP93/93 MP39/39 武器:破邪の剣 鎧:鉄の鎧 兜:鉄兜 呪文;ホイミ、ベホイミ、バギ、バギマ、ギラ、スカラ 特技:はやぶさ斬り、火炎斬り、正拳突き