町の井戸で修行を始めた俺達は、毎日只管戦い続けていた。 修行を重ねるにつれ、俺は徐々にヘンリーに追いついてきた…かどうかは分からないが、それでも俺はヘンリーに追いつく事を信じ、ヘンリーと修行し続けていた。 そして、2週間が過ぎた………。 「さて、今日も始めるか。」 井戸の中で対峙する俺とヘンリー。最早見慣れた光景だ。 「はぁ!」 今まで戦闘開始時はヘンリーから突っ込んできていたが、初めて俺が最初に突っ込む。 キィン! 剣がぶつかり合う音が、井戸の中に響き渡る。外に漏れそうな程大きな音だ。 俺は一歩下がり、ヘンリーに掌を向ける。 「ベギラマ!!」 掌から、ギラより遥かに大きな炎が迸る。 1週間前に、ヘンリーと剣を交えている時に何となく使ってみたら成功し、それ以来頻繁に使っている。 ほとんど逃げ場が無い程大きな炎がヘンリーに襲い掛かる。が、ヘンリーは横っ飛びで難なく避けた。 その隙を突き、俺がヘンリーに斬りかかる。 破邪の剣の先が、ヘンリーの左腕を掠る。 「ちっ!メラミ!」 ヘンリーの掌から、バスケットボール程の大きな火球が現れ、俺の身を燃やす。 致命傷は避ける事ができた。メラミの直撃を受けてしまえば、一撃でダウンしてしまう。 俺は体勢を立て直し、はやぶさ斬りで素早くヘンリーに斬りかかる。 ヘンリーは無駄の無い動きで俺の攻撃を避ける。が、時折俺の攻撃が掠っている。流石にはやぶさ斬りを完全に避けるのは不可能な様だ。 「今だ!」 ヘンリーの後ろに回りこんだ俺は、剣を思い切り振りかぶり、諸刃斬りを放つ。 「くっ!」 ヘンリーは避ける素振りを見せる。が、俺の剣はヘンリーの背中に傷をつけた。 「がはっ!」 直撃ではないが、破壊力が凄いので結構なダメージを与えた。 その場に倒れ込むヘンリー。俺はここぞをばかりに剣を握り締め突っ込んだ。 「メラミ!!」 倒れながらも俺に掌を向け、メラミを放つ。 油断していた俺は、メラミの直撃を受けてしまった。 その場に倒れ込む俺。畜生、まだまだヘンリーにはかなわないか。 ベホイミを唱え、傷を癒し立ち上がる。ヘンリーも既に俺より先に立ち上がっていた。 「やるな。日に日に強くなっているのが実感できるよ。」 そうだろうか。あまり強くなったと感じた事は無いが…。 まあ確かに、初めは剣を掠らせる事も出来なかったんだ。強くなっているのかもしれない。 「さあ、続けるぞ。」 俺とヘンリーは、再び剣を構えお互いを睨む。 「キャーーー!!!」 その時、女の悲鳴が地上から聞こえてきた。 「な、何だ!?何かあったのか!?」 そう言うとヘンリーは走り出し、ロープを伝って地上に戻っていった。 ゴキブリでも出たのだろう、と思ったが、仕方なく俺もヘンリーについていく。 そこにあったのは信じ難い光景だった。 魔物が次々に町に侵入し、町を乗っ取っている。 「こ、これは…魔族の部隊が攻めて来たのか!?」 いや、果たしてそうだろうか。どうも様子がおかしい。 魔物は確かに町を占領しているが、人々を襲う気配が無い。 魔族の部隊が来たのならば、人々を殺し建物を潰しにかかる筈だ。 その時、一匹の魔物が俺達に近づいてきた。ミニデーモンだ。 「キキキ!今日からここはポルンガ様の根城だ!お前らも死にたくなければ大人しくしてるんだ!」 成る程。この町の人間に恐怖を味合わせようと言う訳か。魔物らしいやり方だ。 「…死ね。」 ヘンリーが、ミニデーモンに剣を突きつける。 「ギギ!!何だお前!やる気か!?」 ミニデーモンがモリを構える。まさか、戦わなければいけないのか? …倒せるのだろうか。いくら修行したと言っても、1対2は死ぬ危険性が高い。 「おい、行くぞ!」 「あ、ああ!」 俺とヘンリーは剣を構える。ミニデーモンは1対2と言う状況で、ニヤニヤと笑っている。相当自信があるようだ。 「バカな奴らだ…死ね!!」 ミニデーモンは俺に狙いを定め、飛びかかってくる。 辛うじてミニデーモンの攻撃をかわす。が、ミニデーモンの方に向き直した瞬間、ミニデーモンの放ったメラミがこちらに向かってきた。 直撃を受ける。咄嗟に両腕でガードをしたが、それでも相当なダメージだ。 攻撃をした後、こんなに早く呪文を唱えられる訳がない。畜生、攻撃しながら詠唱していたな。器用な奴だ。 「キキキ!ドンドン行くぞ!」 ミニデーモンが両手を強く握ると、二つの大きな火球が現れた。 「くらえ!!」 二つの火球が、それぞれ俺とヘンリーに襲い掛かる。 俺は剣を大きく振りかぶり、メラミが目の前まで近づいてきた所で諸刃斬りを放つ。 勢いよく振り下ろした剣は、燃え盛る火球にクリティカルヒットした。 俺に襲い掛かってきたメラミは跳ね返り、今度はミニデーモンに襲い掛かる。 油断していたミニデーモンは、メラミの直撃を受け黒焦げになってしまった。 「今だ!」 メラミを避けたヘンリーがミニデーモンに突っ込み、激しく斬りかかる。 ミニデーモンは気絶していたので、ヘンリーの剣は容易にミニデーモンの身を切り裂いた。 ミニデーモンはピクリとも動かなくなり、絶命する。 「何とか倒したな。」 ヘンリーはふう、と溜息をつく。 もっと苦戦すると思っていたが、案外楽に倒せた。多少苦戦はしたが。 やはりお互い強くなっているようだ。2週間前の俺達だったら全滅していたかもしれない。 「安心している暇は無い。一刻も早くポルンガとか言う奴を倒しに行こう。恐らく魔物達のボスだ。」 ヘンリーは早足で歩いていく。 幾ら何でもそれは危険なのではないだろうか。修行したと言っても、まともにボスクラスの相手を出来るのだろうか。 とは言っても町の人の命が危ないので、そんな事も言っていられない。黙ってヘンリーについていくしかない。 町長の家に着く。 町の人の話によると、態度も体もでかい奴が町長の家に入っていったそうだ。恐らくポルンガだろう。 町長の家1階には、爆弾岩と町長がいた。 町長は尻餅をついて何かおぞましいものを見たかの様な顔をしており、爆弾岩は何をするでもなくニヤニヤしている。 俺達は町長をスルーして2階へ上がっていった。 爆弾岩は俺達の方を向きもせずニヤニヤし続けている。大丈夫か?脳みそにプリンでも入ってるのか? 2階に上がると、すぐにポルンガがいる事が分かった。 ポルンガの鍛え抜かれた巨大な肉体が、俺達を威圧する。 ポルンガの周りには4匹の魔物が囲んでいる。2対5は流石に無理があるんじゃないか? しかしヘンリーは、そんな事はお構いなしにポルンガの前へと突き進んでいく。なんて奴だ。 「ん?何だお前らは?」 俺達の存在に気付いたポルンガが、俺達を睨みつける。 その鋭い眼光は、更に威圧を感じさせ、背筋を凍らせる。 「迷惑だ…出て行ってもらおうか。」 睨まれると流石に恐れをなすかと思ったが、それ所かヘンリーはポルンガを睨み返した。 「ほう…良い度胸だな。」 ポルンガがのっそりと立ち上がる。身長は優に3mを越え、ポルンガは俺達を見下ろしている。 「俺様にそんなでかい口を聞くからには、覚悟は出来てるんだろうな?」 ポルンガはバキボキと指を鳴らす。 「初めからそのつもりだ。」 ヘンリーは剣を抜く。俺もそれに続き、慌てて剣を構える。 「上等だ…。おい、お前らは手を出すなよ。」 「分かりました、ポルンガ様。」 良かった。1対2で戦って頂ける様だ。感謝致しますポルンガ様。 あまりの威圧感に思わず敬語になる。これではいかんな。 「行くぞ!」 ポルンガが右腕を思い切り振るう。 俺は後ろに跳躍し、ポルンガの攻撃を避ける。 スピードは無いが、攻撃力が凄い。右拳が床に当たった瞬間、家全体が揺れ動いた。 「はぁ!」 ヘンリーが、ポルンガに激しく斬りかかる。 が、ポルンガの肉体は、ヘンリーの剣を全く通さなかった。 「甘いぞ!!」 左腕でヘンリーを弾き飛ばす。ヘンリーは壁に衝突し、倒れこんだ。 俺はそれを見て、咄嗟に詠唱を始める。 「貴様も死ね!!」 ポルンガの右拳が、猛虎の如く俺に襲い掛かる。 「スカラ!!」 俺の体が赤い光に包まれた瞬間、ポルンガの攻撃が俺に直撃する。 俺は吹っ飛びそうになるが、踏ん張って壁には衝突しなかった。スカラの効果があった様だ。 「小癪な…!しかし呪文など、俺の鋼の肉体の前においては無駄だ!!」 何をふざけた事を。戦士系は呪文に弱いと定説だ。 脳みそまで筋肉で鍛えてしまった愚かさを思い知れ!! 「バギマ!!」 巨大な竜巻が現れ、ポルンガの身を風の刃が切り裂く。 ポルンガは「ぬうううう…!」と言いながら歯を食いしばっている。 やがて竜巻は消え去り、そこに残ったのはニヤリと笑うポルンガだった。 「ふっふっふ…効かんわ!」 確かに効いていなさそうだ。やせ我慢にも見えない。こいつ、本当に呪文が効かないのか。 「メラミ!!」 その声と共に、ポルンガの左から迫ってきた火球が、ポルンガの身を焦がす。 ヘンリーが立ち上がり、呪文を唱えていたのだ。 「ふふふ…ちょっとチクッとしたかな?」 ポルンガの表情は笑ったまま変わらない。畜生、単体攻撃で威力の高いメラミもほとんど無駄か。 「そろそろとどめと行くか…はああああ!!!」 ポルンガが拳を握ると、ポルンガの体全体が黄色の淡い光に包まれた。 まずい。気合ためだ。バイキルト程持続力はないが、一時的に攻撃力が上がる技だ。 「死ねぇぇい!!」 ポルンガが、俺に向かって跳躍する。 スピードが遅い為横っ飛びで回避できたが、右拳が床に当たった瞬間、床が抜けてしまった。とんでもない奴だ。 「甘いぞ!!」 体勢を立て直した瞬間、ポルンガが回し蹴りを放つ。 ポルンガの蹴りが俺の顔を掠った瞬間、物凄い勢いで吹っ飛ばされた。 壁に衝突し、その場に倒れ込む。恐ろしい奴だ。攻撃力だけを取ったら、10年前のジャミ、ゴンズより強いかもしれない。 「さあ、覚悟しろ。」 バキボキと指を鳴らし、俺に接近するポルンガ。 …鋼の肉体か。そうか。…ならば。 俺は座り込んだまま、詠唱を始めた。 「へっへっへ、呪文は効かねえって言っただろ。」 ポルンガが俺の目の前まで迫る。そしてポルンガは右拳を思い切り振るった。 その瞬間俺はポルンガに掌を向けた。 「ルカニ!!」 ポルンガの鋼の肉体が、青い光に包まれる。 「こ、これは!?か、体が…!!」 成功だ。まだ練習も何もしていなかったが…。初級呪文なら案外簡単に使えるのかもしれない。 「い、今だヘンリー!」 座っている俺とは違い、立っているヘンリーは今すぐにでも攻撃できるので、ヘンリーに任せる事にした。 ヘンリーは防御力が低下したポルンガに斬りかかる。 ヘンリーの剣は、先程とは打って変わって次々にポルンガの肉体を切り裂く。 スピードが無いので、容易に攻撃が当たる。こうなればもう雑魚同然だ。 「ぐあああ!!き、貴様ら………!!」 「トドメだ!!」 ヘンリーが渾身の力を込めて斬りかかる。次の瞬間、ポルンガの肉体を真っ二つに切り裂いた。 ポルンガは叫ぶ間もなく絶命してしまった。 「ふう…な、何とか倒したな…。」 ヘンリーが安堵の表情を浮かべる。俺も恐怖から開放された気分だ。 「ポ、ポルンガ様が…!み、みんな逃げるぞ!!」 4匹の魔物が逃げていく。とりあえず勝った様だ。 「み、みなさん!」 町長が、階段で足を滑らせそうになりながら慌てて駆け登る。 「魔物が逃げていきましたが…まさかあいつを倒したんですか?」 「ああ、何とかな。」 「そ、そうですか…ありがとうございます………しかし…。」 町長はあまり喜んでいない様子だ。何故だろう。魔物に支配されていたかったのか?Mか? 「…いや、この際頼んでみよう。お願いします。闇の塔のドラゴンを倒して頂けませんか?」 「ドラゴン?」 町長の話によると、ポルンガ達は南にある闇の塔から来た奴らで、闇の塔にいるドラゴンを倒さないとこれからも町は襲われ続けるらしい。 いや、助けたいのは山々だが、今度はドラゴンか…。桁違いに敵がグレードアップしていくな。 「分かった。闇の塔のドラゴンを倒せばいいんだな。」 「あ、ありがとうございます!これは、闇の塔の扉を開ける鍵です。お持ち下さい。」 町長から闇の塔の鍵を貰い、目指すは闇の塔になった。 まあ今日は疲れたので、闇の塔などスルーして宿屋で思いっきり寝るがな。その間に町が滅んでも知らん。 魔族との決戦まで、あと16日 Lv24 HP67/124 MP12/60 武器:破邪の剣 鎧:シルバーメイル 兜:風の帽子 回復;ホイミ、ベホイミ 攻撃:バギ、バギマ、ギラ、ベギラマ 補助:スカラ、ルカニ 特技:はやぶさ斬り、火炎斬り、諸刃斬り、正拳突き