次の日、体力も全快した俺達は、準備もそこそこに闇の塔に向かった。
闇の塔は、夜になると闇のエネルギーが高まり、魔物が強くなるらしいので、早朝に出発し、夕暮れまでに闇のドラゴンを倒さないといけない。まあ半日もかからないと思うが…。
それにしても気が重い。今から闇のドラゴンと戦いに行くのか…。
ドラゴンって言ったらあれだろ。緑の巨大な体に硬い鱗、口から燃え盛る火炎を吐き、鋭い爪で確実に獲物を仕留めるという伝説の魔物。
しかも闇と来た。闇の力で、攻撃した相手をゾンビ化させたり、即死させるかもしれない。
いや、その気になればアニメの如くブラックホールとかを作り出すかもしれないだろう。
恐ろしい事を次々に想像していく。足がガクガク震えてきた。
などと考えている内に、闇の塔に着いてしまった。もうちょっとゆっくり行こうよヘンリーさん。
数十mの巨大な塔が、目の前に聳え立つ。
紫の淡い光に覆われており、その姿から異様な雰囲気を醸し出す。
はぁ…。闇のドラゴンの伝説が誇張されて村に伝わり、実はドラゴンキッズとかただのドラキーでしたと言うのなら良いのだが…。
世の中そんなに上手く行く訳が無い。そんな雑魚にあのボルンカが従う訳が無い。
確実にボルンカより実力が上回る。…と言う事は、ドランゴの様な戦士系ドラゴンか。
攻撃呪文は効くか?効くのか?効かなかったらもう知らんぞ?

塔の中には、行く手を阻むかの如く地面にビッシリと張られたバリアがあった。
バリアを踏んだ瞬間体中に電流が流れ、俺達の体を蝕んでいく。
しかし、バリアの上を通らなければドラゴンの所に辿り着けないので、痛みを耐えて通る。
4階の宝箱にまどろみの剣があったので、ヘンリーが装備する。ヘンリー曰く、相手を眠らせる事が出来る剣らしい。
その剣でドラゴンを眠らせている間に倒せるだろうか。上手くいけばいいのだが。

最上階に着く。
途中でキラーストーカーに遭遇したが、まどろみの剣を掠らせた瞬間、キラーストーカーはその場に倒れこみ眠ってしまった。物凄い効果だ。
眠った後は、ストレス解消に正拳突きをぶちかまして倒した。気分が良い。
本題に戻るが、最上階の真ん中に大きな台座があり、そこに闇のドラゴンが待ち構えていた。
闇のドラゴンは、ドランゴに勝るとも劣らない紫の巨大な体に、細く鋭い眼で俺達を睨んでいる。
「グギャァァァァァァ!!!!」
奇声と共に、ゆっくりと立ち上がる。
人の頭程度なら簡単に掴めそうな程巨大な足で、触れただけで切れそうな程の鋭い爪を持っている。
「話し合いは通じないか…覚悟の上だが…!」
ヘンリーがゆっくりと剣を抜く。いつもの如く、それに続いて俺も面倒だと思いつつ剣を抜く。
「ギャァァス!!」
闇のドラゴンがいきなり大口を開けて飛びかかってきた!
狙われたのは俺だったが、スピードが無いので横っ飛びで容易にかわす。
「ギラ!」
俺の左手から小さな炎が現れる。これをそのままぶつけるのではなく、破邪の剣の刃に左手を近づけた。
炎に覆われた破邪の剣で、火炎斬りを放つ。破邪の剣はドラゴンの鱗を燃やし、肉を切り裂いた。
「ギャァァァ!!!」
闇のドラゴンは激しく悶える。かなり効いている様だ。
「こっちも行くぞ!」
ヘンリーは軽やかな足の運びで、ドラゴンの周囲を舞う様に走る。
そして隙を見つけては攻撃し、その後は反撃をくらわない様に一歩後ろに退いてから再び舞う様に走り闇のドラゴンをかく乱させる。
どうやら眠り耐性があるようだ。何度もまどろみの剣で斬られているのに全く眠る様子が無い。
闇のドラゴンは体中に傷を負い、今にも死にそうな様子だ。
なんだ、この程度なのか?余りにも弱すぎる。下手するとその辺の雑魚より弱い。

「トドメだ!」
ヘンリーが剣の舞を止め、闇のドラゴンの目の前に立ち剣を大きく振りかぶる。
「ラナルータ!!!」
闇のドラゴンが初めて喋る。
次の瞬間、闇のドラゴンが紫の光に包まれたかと思うと、その光が突然広がり部屋全体を包み込んだ。
部屋全体が歪む。空間を切り裂くかの様に、視界が揺れ動いている。
数秒後、紫の光は突然消滅したかと思うと、辺りが突然暗くなった。と言っても元々雲に覆われていて暗いのでそんなに変わらないが。
「し、しまった…!」
先程まで余裕を見せていたヘンリーの顔が、突然険しくなる。
一体、何が起きたんだ?ラナルータとは何なんだ?
「ラナルータとは、昼夜を逆転させる呪文だ。さっきまで昼だったが、ラナルータを使用した事によって夜になった…。」
…確か、闇の塔は夜になると闇エネルギーが増幅し、魔物が格段に強くなるんだったな。
と、言う事は…もう言うまでもないだろう。今まで形勢が有利だったが、逆転してしまった。
「…今まで散々好きな様にやってくれた様だな…。今度は私の番か…。」
闇のドラゴンの低い声が、部屋全体に響き渡る。
感じる。先程とはまるで違う闇のドラゴンの力を。
「自分達の愚かさを、死をもって後悔するがいい!!!」
闇のドラゴンが、口から燃え盛る火炎を吐き出す。
部屋全体を包む様に迸った炎は、避けようとする俺達を飲み込む様に包み込んだ。
俺達の体は、燃え盛る火炎によって焦がされる。
炎が消えた頃、俺達は力尽きてその場に倒れこんでいた。
…まだ、死んではいないか。ヘンリーはどうだろうか。
俺は激痛を堪え、首を横に動かす。ヘンリーも同じく、その場に倒れていた。
いや、違う。眼を瞑っている。死んでいるのか?全く動かない。
はは…どっちでもいいか…。一撃でこのザマだ。次の攻撃で確実に俺も殺されるだろう。
「まだ一匹生きているか…。意外とやるようだな…。」 

闇のドラゴンがこちらに近づく。足踏みをする度ズシンズシンと大きな音が立ち、地面が揺れる。
さあやれ。俺を殺すのだ。憎いだろう。部下を殺した俺が。さっきまでいい様に斬りまくっていた俺が。
ふははははは。やるんだ。この世は弱肉強食だ。今殺さないといつか俺がお前を殺す。その前に殺せ。
闇のドラゴンが、俺の目の前で歩みを止め、ゆっくりと口を開いた。
「つまらん…。もう一度チャンスをやる。回復でも何でもしてもっと抵抗するんだな。」
…!!!
こいつ、舐めやがって…。お望み通り回復してやる!後悔するなよ!
「ベホイミ!」
俺の体が癒える。完全ではないが、ほとんど全回復した。バカめ、これが命取りだ。
「さあ来い!もっと遊んでやる!」
闇のドラゴンが手招きをする。
俺はそれを正面から来い、と言っているのだと解釈し、裏をかくようにはやぶさ斬りで後ろに回りこんで剣を振りかぶった。
「甘いわ!」
闇のドラゴンが、尻尾を激しく振り回す。俺は不意を突かれ、尻尾で弾かれ壁に衝突した。
畜生、さすがだ。しかし、まだ戦意は喪失していない。
俺は再び立ち上がり、剣を放り投げた。
「どうした…?諦めたか?」
闇のドラゴンは、地面に転がった使い古した破邪の剣に視線をやり、今度は俺を睨んだ。
俺は黙って両手を強く握ると、左手から青、右手から赤の光が現れた。
「バギマ!ベギラマ!」
そう叫ぶと、左手から竜巻、右手から火炎が現れた。
「火炎竜巻!!!」 

バギマとベギラマを同時に放つと、それが合体し、火炎の竜巻に姿を変えた。
「面白い…受け止めてやる!」
闇のドラゴンはその場で踏ん張り、火炎の竜巻を待ち構える様に静止する。
火炎の竜巻は闇のドラゴンを包みこみ、肉を火炎で燃やし、更に風の刃で切り裂く。
その状態は、数秒続いた。あまりにも不安で、それが数十秒にも感じられたが。
そして、不安は的中してしまう。
闇のドラゴンはほとんど傷を負っておらず、平然とした顔をしている。
もう、ダメだ。そう悟った。
10年前のあの時と同じ、絶望感しか俺の中にはなかった。
ボルンカも呪文は効かず防御も堅かったが、ルカニを使えば何とか勝てた。
闇のドラゴンには、弱点が無い。
まず、見ての通り呪文が効かない。バギマとベギラマを同時使用したのにほとんど無傷だ。
ルカニは効くかもしれないが、それ以前に攻撃を当てる事が出来ない。
少し近づこうものなら、すぐに尻尾で弾かれる。ある意味鉄壁の防御だ。
「そろそろお前と戦うのも飽きた…。終わりにしようか。」
闇のドラゴンが、大きく息を吸い込む。
俺のゲームもここで終わりか。中途半端な終わり方だ。だが、それがいい。
………。
よくねええぇぇぇぇぇ!!!!!
闇のドラゴンが、凍りつく息を吐き出す。
俺の全身が凍りつく息に包まれ、体が凍り、時折飛んでくる氷によって徐々に体が血で染まっていく。
それは、俺の意識が途絶えるまで続いた…。

ドガッバキッ!ズシャッ!
…ん?
ドォン!ブチュグチャザシュ!
…何だろうか。何か音が聞こえる…。ヘンリーが…戦っているのか…?
まあ…何でもいい…。眠い…。寝てしまおう…。今度こそ天国だろうか…。
……………。
音が…消えた…?
どっちが…勝ったんだろうか…。ヘンリー…?ドラゴン…?
気になるが…眼を開けられない…。眼を手術した後病室まで運ばれる時、何か声は聞こえるが眼を開けられなかった…あの時に似ている…。
…あれは眼の手術とは関係なく、「どうせ眠いし眼開けるの面倒だからもう一度寝てしまうか」みたいなノリだったんだが…。
―――――おい…。
…話し掛けてきた…。ヘンリーの声とは違う…もっと低い…。誰…だ…?
―――――意識はあるはずだ…。そのまま聞いてくれ…。
…うん。
いや…心の中で返事しても意味ないが…。
―――――お前の事だ。2週間後の、魔族との決戦に参加するんだろう。
…カンダタか?
いや…違うな…。参加すると断定はしていないし、第一声が違う…。
―――――俺も参加するつもりだ。その時に、お前と会えたら俺の正体を言うよ。
仲間、と言う事か…。
一体、誰だろうか………。以前から俺を知っている奴か…?
―――――今は急いでいるからもう行かないとだめだ。生きていたら2週間後にまた会おう。
そして、最後に意味深な事を言った…。 

―――――俺達で、リベンジしようぜ。あの時の借りを、返してやろう。…じゃあな。
そうして、謎の男は去っていった。
謎の男…そう、最後の言葉を聞くまでは謎の男だった…。
だが…今、男の正体が分かった。
最後の言葉、あの声、間違いない………。
久しぶりだな………。





――――――――――エテポンゲ。





数十分後、意識が完全に回復する。
既に夜は明け、空には紫の雲がはっきりと見えていた。
ヘンリーもほぼ同時に意識が回復し、闇のドラゴンが骸になっているのを見て驚いていた。
そこに、エテポンゲの姿は無かった。やはりもう帰ったのか…。
俺は、黙ってお互いにベホイミを施す。
「何があったんだ…お前が、倒したのか…?」
ヘンリーは完全に混乱している。まあ、ずっと意識を失っていたのだから当然か…。
俺はフッと微笑み、ヘンリーの肩を叩いた。
「魔族との決戦、絶対に勝とう。」
「…?あ、ああ…。」
ヘンリーは不思議そうな顔をしている。
そんな事は気にもとめず、俺は黙って階段を降りた。
俺の、今まで絶望という名の闇で染められていた心に、一筋の眩しい光が差した。
決戦の日は、近い。

魔族との決戦まで、あと14日

Lv25
HP105/129
MP19/63
武器:破邪の剣 鎧:シルバーメイル 兜:風の帽子
回復;ホイミ、ベホイミ
攻撃:バギ、バギマ、ギラ、ベギラマ
補助:スカラ、ルカニ
特技:はやぶさ斬り、火炎斬り、諸刃斬り、正拳突き

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