闇の塔を出て、町に戻った頃には既に昼前になっていた。
俺とヘンリーは、町を救った勇者として歓迎された。
と言っても、これから今日一日また修行に励むので、宴を開くのは断ったが。
町の人にエテポンゲについて聞いたが、エテポンゲらしき奴は誰も見なかったらしい。
と言う事は、この町に寄らずに闇の塔へ行き、ドラゴンを倒してそのままどこかへ消えたと言うのか。
…まあいい。詳しい事は直接会って聞く。奴なら死なないと信じている。
同時に、俺も生きていなければいけないのだが。まあヘンリーがいるから大丈夫だ。
…他力本願かよ。そんな考えじゃいつか死ぬぞ俺。
その日は疲れが溜まっていたので、修行はいつもより短く、楽なものだった。

次の日、2週間以上滞在したこの町を遂に出る事にした。
ヘンリー曰く、そろそろ海辺の村に行き、既に集まっている戦士達と修行をした方が、より強くなれるとの事だ。
戦士達か…そう言えばエテポンゲは、俺達二人でもかなわなかった闇のドラゴンを、一人で倒したんだよな…。
エテポンゲ並に強い奴らが、何人も集まるのだろうか…。となると余計に俺は足手纏いになるかもしれない。
まあいいさ、前もってメガンテでも覚えておいて、戦闘開始直後に敵の中心に突っ込んでやる。
………。
いや、後方で回復でもしておくから、メガンテだけは勘弁な。



俺達は今、緑色の触手と戦っている。
町を出て、西にある海辺の村を目指し只管荒野を歩いていたら、突然地中から緑の触手が現れた。
呪文こそ使わないものの、攻撃力が高い。
スカラを使っているのに、一撃くらっただけで口から血ィベロベロ吐いてしまった。
しかし、その場から動けない上に攻撃範囲も3m程なので、呪文で遠距離攻撃をしたら簡単に倒す事ができた。
一体何だったんだ今のは。魔物か?それにしては顔面が見当たらなかったが…。
まあ魔物は魔物であって普通の動物ではない。顔がなくても別に驚く事ではないのだろう。 

それは置いといて、俺はこの魔物に出会った時から感じていた。
嫌な予感…俺達は何かやり残している事がある様な…。
…まあ、俺の適当な予感など万に一つも当たらないし、気にしなくていいだろう。



村に着く。
海辺の村でなく、既に魔物に襲われ廃村となった村だ。
家は焼かれた跡があり、人間の骨が散らばり、誰が建てたのか、墓が並んでいる。
酷いありさまだ。全部魔物がやったのか…。益々許せんな。
「もう遅いし、今日はここで泊まって行こう。…あそこに破損していない家があるな。」
そう言うと、ヘンリーは唯一破損していない家に入っていく。
おいおい、大丈夫か…。幽霊が出たりしないだろうな?
幽霊が実在するかしないかなんて考えた事もなかったが、流石に人が大量に死んだ村に泊まるとなると、少し躊躇する。
「うっ!?」
ヘンリーが家の戸を開けた瞬間、驚きの声をあげた。
何かあったのだろうか。気になったので俺も行ってみる。
そこには女がいた。
別に普通に椅子に座ってお茶を啜っていたり、死に絶えていたり、でかい口を開けてイビキをかきながら寝ている訳ではない。
―――――石。
そう、それは石だった。女の石像が、家の中にあった。
…恐らく、俺と同じ運命を辿った女だろう。
魔物に反逆し、石にされ、そして、恐らく約10年…ヘンリーは10年前に初めて魔物に襲われた村と言っていたから、10年で間違いない。
その時、ヘンリーが石化を治す杖を持っている事に気付く。 

「はああ…!」
俺が声をかけるより前に、ヘンリーは既にストロスの杖を取り出し、精神を集中させていた。
そして、空高く杖を掲げると杖が光だし、やがて女の石像を包み込んだ。
徐々に女の石像が鮮やかさと取り戻していく…。

「…えっ…!?」
女が意識を取り戻すと同時に、驚きの声をあげる。
金色の長髪に青い服、身長は女にしては高い167前後だろうか。
「あれ…?私…確か石になったはず…。」
女は完全に混乱している。俺も数週間前、同じ状況にあったので、気持ちは良く分かる。
ヘンリーは淡々とした口調で、この村に到着してからの事を女に話した。
「そうだったの…助けてくれてありがとう。」
女は深くお辞儀をする。
「おい、何故お前だけ石にされたんだ?」
ヘンリーが女に問う。
確かに、さっき俺は反逆したからと思ったが、別にこの女だけ反逆したとしても、わざわざ石にする必要は無い。
…いや、魔族の世界には反逆した奴は石にすると言う規則があるのかもしれないが。
「…ゲマと言う魔道士に『弟を探している』と言ったら、魔道士が『石化で許してやる』と言って、石化されてしまったの…。私の弟と魔族が関係あるのかしら…。」
ゲマ、か…。
石化という時点で予感はしていたが、まさか奴の仕業とは…。
久々に聞いたな…ゲマという名前…。
奴にはまだ、ボロンゴとドランゴについて何も聞いていない。ゲマを殺してでもボロンゴ達と会うつもりだ。
「お前の弟は、どんな奴だ?もしかしたら知っているかもしれない。」
ヘンリーが再び女に問う。 

「青い服に、白い髪の剣士よ…。10数年前、あの子がまだ子供の頃、最強の剣を求めて一人で旅立ったの…。名前はテリー…。」
「テリーか…すまない。聞いた事ないな。」
青い服に、白い髪の剣士…?どこかで見た事ある様な…。
………確か、ドランゴと戦った時にいた奴か。
ただの雑魚だと思ってあまり気にしなかったが…最強の剣を求めてたのか、あいつ。
…そう言えばあの時、雷鳴の剣とか貰ったな。あの時は重くて装備できなかったんだ。
確かまだ袋に入れてあったな…。
袋から雷鳴の剣を取り出し、握り締めてみる。
あの時と違い、丁度良い重さで、切れ味も破邪の剣より断然良さそうだ。雷の紋章もかっこいい。
思わぬ収穫があった。ヨッシャヨッシャ。
…って一人だけ浮かれてんなよ。こんなシリアスな状況で。
「ところで、今日ここで一泊していきたいんだが、この家を使わせてもらっていいか?」
「ええ、いいわよ。こんな所に魔物は来ないでしょうし。」
そうして、俺達はこの廃村で一泊する事になった。
ハァ…今日は色々あったが何と言っても一番の思い出は
金髪の美人と同じ屋根の下d



次の日、俺達はさっさと廃村を出る事にした。
仲間が一人増える。
本来なら二人で廃村を出る予定だったが、昨日まで石になっていた女、ミレーユが一緒に旅をしたいと言ったのだ。
まあこんな廃村で一人で生活も出来ないし、何より弟を探したいのだろう。
ミレーユは呪文が得意らしい。ピオリムやヒャダルコと言った、まだ見た事のない呪文を見せてくれた。
細い腕と武器は杖という所から、武術は得意でないと見える。
ここは俺が守ってやらねば。なんかかなりやる気が出てきた。

違う。そうじゃない。そんなはずじゃないんだ。
確かに俺は弱い。武術も呪文も得意ではない。
ヘンリーの方が武術に長けているし、呪文もミレーユの方が優れている。
それは納得できる。ここまではいいんだ。
でも、いくら弱いといっても足手纏いにはなっていないと思っていた。
ヘンリーにも段々追いついてきたと思っていた。
ミレーユが、りゅう戦士やグレンデルと言った攻撃タイプの魔物に苦戦しているところを、男としてかっこよく助けてやろうと思ったんだ。
だが、実際はどうだ。
グレンデルにボコボコにされていた俺が、ミレーユに助けられてしまった。しかも呪文でなく物理攻撃で。
つまり実際の所武術面では
ヘンリー>>>ミレーユ>(超えられない壁)>(天と地の差)>(届かぬ翼)>俺
これぐらいの差があるかもしれない。リアルで。
じゃあ、俺は何だ?俺の長所は?俺にしかできない事は?
回復呪文?違う。ミレーユは回復呪文は使える。しかもベホマまで。
補助呪文?それも違う。ミレーユはスカラ、ルカニの上級呪文、スクルト、ルカナンが使える。
攻撃呪文?それも違う。ミレーユにはヒャダルコ、ヘンリーにはメラミ、イオラがある。
特技?それも違う。ヘンリーにも、剣の舞という使い勝手の良い特技がある。
じゃあ、俺は何の為にいるんだ?パーティ内での存在価値は?
俺は、バイキルト以外使用価値の無い、有り得ない頭髪の爺さんよりいらないのか?
―――――嫌だ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ…足手纏いにはなりたくない…。強くなりたい………。
―――――もう、10年前の二の舞はごめんだ。
戦闘が終わる。
また、役に立たなかった。
敵に数撃与えたが、それ以上に仲間に守られている。
このままではダメだ…。2週間後、地獄を見る事になるだろう。
かと言って、2週間で急激に強くなれる訳ではない。 

じゃあ、どうすればいい?何か手段はあるのか?
…分からない。どうすればいいのか、全く分からない。
苦悩する。
俺の中に潜む悪魔が、俺の思考を掻き乱しているようだった。

魔族との決戦まで、あと12日

Lv26
HP93/135
MP45/66
武器:雷鳴の剣 鎧:シルバーメイル 兜:風の帽子
回復:ホイミ、ベホイミ
攻撃:バギ、バギマ、ギラ、ベギラマ
補助:スカラ、ルカニ
特技:はやぶさ斬り、火炎斬り、諸刃斬り、正拳突き

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