ミレーユがいた廃村から更に西に歩みを続けると、今度は城に到着した。
この城はメダル王の城と言い、ここの王は世界中に散らばる小さなメダルを集めているらしい。
のん気な奴だな…こんな悲惨な世界だと言うのに…。
城の中に入ると、数匹のスライムがいた。
城の中にはスライムと王しかいない。何だ、王は人間不信なのか?
それにしても、スライムなんて久しぶりに見たな。この世界に初めて来た時以来だ。
あの時のスライムの攻撃は重かったが、今では一瞬で倒せそうだ。
ここの王に特定の数のメダルを渡すと、景品を貰えるそうだ。
景品と必要メダル枚数が書いてある紙があったので読んでみる。
…ふむふむ、5枚の棘のムチや、100枚のメタルキングの盾など色々あるが、俺はその中で奇跡の剣が欲しいと思った。
必要な枚数は60枚…今持っているメダルは3枚。
「おいおっさん!3枚で奇跡の剣クレヨ!」
「ざけんな!死ぬ気で60枚集めてこい!」
「何!死にてえのかこの野郎!」
「メダルは命より重い…!その認識を誤魔化す者は、生涯地を這う…!」
畜生、どうしても渡す気は無い様だ。メダルなんてこの城以外で価値なんかねえじゃねえか。
仕方ない。最終手段だ。この手だけは使いたくなかったが…。
俺は静かに、ゆっくりと剣を抜いた。
ドガッ!
「何やってんだバカ!」
ヘンリーに殴られる。正直すまんかった。今は反省している。
廃村からここまで結構な距離があり、もう夕方なので今日はここの宿屋で泊まる事にした。
宿屋と言っても王の趣味でやっている上に、客はほとんど来ないので、タダで良いそうだ。儲かった。
寝てる間にスライムに襲われなければ良いが…まあ、その時は俺の必殺バベルノンキックの餌食にしてやる。

夜が明ける。
何故か俺のベッドだけ異様にボロボロだったので、あまり寝付けなかった。体が痛い。何の因果でこんな目にあわなければいけないんだ。
ヘンリーは爽やかな笑顔で「おはよう。」と言って来た。二度と笑えなくしてやろうか。
城を出る準備をして、王座の間に行くと、青い服を着た剣士が王と喋っていた。
「ウム。全部で60枚集めたようじゃな。では奇跡の剣を持っていくが良い。」
王が剣士に奇跡の剣を手渡す。
剣士はその剣を暫く鑑賞すると、剣を握り締めた。
「…奇跡の剣の切れ味、早速試させてもらうぞ…。」
「何?」
次の瞬間、信じ難い光景が目の前に広がる。
剣士が突き出した奇跡の剣が、メダル王の腹を貫通していた。
「う…あ…!」
メダル王がその場に倒れ込む。
メダル王の腹からは、見た事の無い程の量の血が流出する。
そして、数秒間指が僅かに動いていたが、やがて動かなくなってしまった。
「ふ…まあまあだな…。ありがたく貰って行くぞ。」
剣士が振り向き、俺達の存在に気付くが、何事もなかったかのようにスタスタと城を出る。
俺は剣士の顔を見た瞬間、背筋が凍りついて全身が震えた。
剣士の正体は、テリーだった。
いや、そんな事は問題ではない。
俺が恐怖を感じたのは、テリーの眼だった。
紅い眼、鋭い目つき…まるで、魔物…いや、悪魔か何かを思わせる様な眼だった。
奴は、人間ではない。
外見は人間だが、人間の皮を被った悪魔の如く、平気で王を刺し殺した。
10年前に会った時は、こんな奴ではなかった。一体、何があったというのだ?
「テリー!!!」
不安と悲しみが混じった様な声をあげ、ミレーユはテリーを追いかける。
「お、おい!」
ヘンリーがミレーユに続く。俺も少し不安になったので、後を追った。

城を出ると、城の前で奇跡の剣を掲げているテリーがいた。
テリーは不気味に微笑んでいる。その微笑みは、無意識にゲマの微笑みを連想させた。
「テリー!!!」
ミレーユが、再びテリーの名を呼ぶ。
テリーはゆっくりと剣を降ろし、こちらを振り返る。
「…誰だ、お前らは。」
これが、俺たちに対してのテリーの第一声だった。
10年以上一人旅をしていて、姉の顔を忘れたのかもしれない。
だが、テリーの冷徹な紅い眼を見る限り、とてもそうには見えなかった。
「忘れたの!?私よ、ミレーユよ!」
「ミレーユ…?女など知らないな。俺が知っているのは、剣の切れ味…血の匂い…「生」ある者を、「死」に変えた時の快感…。」
テリーが奇跡の剣の光る刃を見つめ、不気味に微笑む。
「そ、そんな………テリー…。」
ミレーユがその場に膝をつき、泣き崩れる。
本当にテリーはどうなってしまったんだ。最強の剣を探し求めていただけではないのか?
これでは最強の剣を探し求めているのではなく、ただの殺人狂ではないか。
泣き続けるミレーユを尻目に、テリーは信じられない事を言った。
「そこの二人…。どうやら旅人らしいな。あんな雑魚を殺したぐらいで、剣の切れ味は分からない…。来い、その肉体を全てバラバラにしてやる。」
テリーが剣を構える。その眼からは、明らかに殺意なるものを放っていた。
「な、何だと…ふざけるな!」
「ふざけていると思うならそう思えばいい…。だが、本気で来ないと確実に死ぬぞ!!」
テリーが、信じられないスピードで俺達に襲い掛かる。
俺の体が一瞬反応した時には既に、テリーの剣が俺の腹部を貫いていた。
「はああ!」
テリーが素早い動きで、何度も俺の体を斬りつける。
斬られる度に、俺の視界が血で染まっていくのが分かる。
「調子に乗るな!」
ヘンリーが、俺に気を取られていたテリーに激しく斬りかかる。
が、そんな事はお見通しの如く、ヘンリーの剣を切り払った。

更に、テリーはヘンリーに激しく斬りかかる。
不意をつかれたヘンリーは、脇腹をもろに斬られてしまった。
かなり深く斬られたのか、たった一撃でその場に倒れ込む。
「ははははは!その程度か!弱い!!弱すぎる!!!」
テリーが余裕の表情で高笑いする。
「ぐ…人間同士が…争っている時じゃないんだぞ…!」
ヘンリーの発言を聞いて、テリーは再び不気味に微笑む。
「関係ないな…弱者が死に、強者が生き残る…それだけだ。いずれ人間も魔物もぶち殺して、俺が頂点に立ってやるさ。」
「貴様一人で…魔王を倒せるとでも思っているのか…!」
テリーはヘンリーの背中を踏み、その足に体重をかける。
「ぐ…ああ…!!」
「倒せるさ。魔族など大した事は無い。お前らが弱すぎるから、そう思うだけだ。」
テリーがヘンリーを踏んでいた足を地に戻すと、今度は剣を構えた。
「死ね…雑魚が…!」
「それは貴様だ!!!」
俺はテリー後ろから、魔人の如く斬りかかった。
テリーは完全に油断していたので、俺の魔人斬りが直撃する。
「ぐああ!!」
テリーがその場に倒れ込む。
よし、形勢逆転か?何とか一撃与えた。
ヘンリーと会話している時に、密かにベホイミで回復して後ろから近づいたのだ。
「ヘンリー、今回復して…」
「バカ!後ろを見ろ!」
時既に遅し。
テリーの渾身の一撃が、俺の背中の肉を切り裂いた。
声をあげることなく、再び血飛沫をあげて倒れる俺。
「魔人斬りの直撃をくらったから焦ったが…全然効かんな。やはりただの雑魚か。」 

何て…奴だ。
魔人斬りは凄まじい威力を持っている筈だ。それをまともにくらって…。
…いや、やはり俺が弱すぎるからか…?あいつが強いからでなく、俺が弱いから…?
「き…貴様…!もう許さん…!うああああ!!!」
ヘンリーが立ち上がる。泣き叫ぶ様に、無数の傷から痛みが沸くのを抑えて。
更に、まるでダメージを受けていないかの如く、素早い動きでテリーに斬りかかる。
「くっ!」
キィン!
目の前で、二人の剣士の剣戟が繰り広げられる。
ほぼ、互角。
ダメージを負っていながら、華麗な動きを見せるヘンリーを見て、俺は確信した。
やはり、テリーが強いのではなく俺が弱かっただけだった。
目の前で行われている戦闘は、俺より格段に上を行っている。
しかも、少なくとも俺の遥かに上を行っているヘンリーですら魔物と対等かそれ以下の実力と言う現実。
俺の力が役に立つのか?今まで出会った戦士達より遥かに弱い俺の力が。
呪文はある程度使えるが、敵が一気に攻めてきたら呪文を唱えている間に、攻撃されるかもしれない。そうなっては呪文もまともに使えないだろう。
後方に下がって補助役に回るのも良いが、それは敵の数が少ないから成り立つ事だ。敵が何十と攻めてきたら、360度囲まれて、詠唱の余地などないかもしれない。
キィン!
「しまった!」
テリーはヘンリーの剣を勢いよく切り払い、ヘンリーは体勢を崩してしまう。
「死ね!!」
ザシュッ
テリーの素早い突きが、ヘンリーの腹の肉を貫通する。
「がはっ…!」
テリーが剣を引き抜くと同時に、ヘンリーはその場に倒れ込む。
「とどめだ!」 

「バギマ!!!」
テリーの体を、真空の刃が切り裂いていく。
俺は再びベホイミで回復し、呪文を使うタイミングを窺っていた。
二人は超接近戦をしていたので、広範囲呪文は使えなかった。
ヘンリーが倒れた時、少し吹っ飛びながら倒れたので、二人の間に距離ができてバギマを使う事ができた。
まあ、ほとんど効かない事など承知だが…。
「やはり弱いな…お前は…。」
テリーは何事もなかったかの様に立ち上がる。
「ヘンリーとか言う奴とは比べ物にならないな。恐らく、邪魔者扱いされているだろう。」
「…邪魔、者?」
ヘンリーが?俺を邪魔者扱い?
「そうだ、邪魔者だ。この殺伐とした世界で、貴様の様な雑魚がいると命取りになる。こいつも、嫌々一緒に旅をしてるんだろうな。」
…そうなのか?
確かに、テリーの言う事は正しい。
弱い者がいると、他の者まで死ぬ危険性が高まる。それは承知だった。
しかしまさか、ヘンリーが俺を邪魔者扱いなど………考えた事もなかった。
「この世に弱者はいらない!弱者は醜いんだ!…死ね!!」
テリーが、信じ難いスピードで俺に突進する。
キィン!
俺はテリーの剣を切り払う。
が、一撃一撃、テリーの攻撃が繰り出される度に、俺が押されているのが明らかになる。
こんな奴とほぼ互角に戦っていたのか…ヘンリーは…。
「隙だらけだ!!」
テリーの突きが繰り出される。
ヘンリーと同じ様に、テリーの剣が俺の腹を貫通し、その場に倒れ込む。
痛い…いたい…イタイ…。
でも、もう良いんだ…。次の一撃で、楽になれる…。
エテポンゲ…悪いな…。闇の塔での約束は守れそうにない…。
「今度こそ…死ね!!」
テリーが剣を大きく振りかぶる。
――――――――――生きろよ、エテポンゲ。





ドォーーーーーン!!!





!?
予想していた効果音とは全く違ったので、驚いて眼を開ける。
そこにあった光景は、地に倒れるテリーだった。
一体、何があったのだろうか。今の音は…?
テリーはまだ意識があるらしく、必死で立ち上がろうとする。
「そ、それは雷鳴の剣…!貴様、あの時の…奴か…!」
雷鳴の剣?これが、どうかしたのか?
剣を見ると、雷の紋章が淡く光り、刃に電流が流れている。
それを見て、何となく予想はついた。
恐らく、この剣は雷を発する事の出来る剣。俺が危機に陥って、剣の力が発動した。
…と、こんなところだろうか。多分。
それにしても凄い威力だ。先程まで余裕だったテリーが、全身ボロボロである。
これを見た瞬間、俺にある考えが閃いた。
この雷は剣の力だ。だが、俺自身が雷を出せる様になれば、剣の力でなく、俺の力になる。
もし雷が出せれば、足手纏いにはならなくなるだろう。テリーを一撃で瀕死にさせる程の威力なのだから。
普通に剣で雷を出せよと思うかもしれないが、どうやら所持者がピンチでない時以外雷は発動しないようだ。
それではダメだ。常時使える様にならないといけない。だから、何としても雷を出せる様にしてやる。
…と、その前にテリーを何とかしないといけなかった。
俺はベホイミを施し、素早く立ち上がり剣を振りかぶる。 

「くらえ!」
「くっ!」
俺は憎しみを込めて、剣を振り下ろす。
「やめてーーー!!!」
辺りに女の叫び声が響き渡る。ミレーユだ。
今まで膝をついて泣き続けていたミレーユが、立ち上がって叫んだのだ。
「くそ!覚えてろよ!いつか復讐してやるからな!」
テリーがその場から逃げていく。
全快の俺なら十分追いかけられたが、確実に勝てるとは限らなかったし、何よりミレーユに止められたので追いかけなかった。
「ごめんなさい…。憎いかもしれないけど、あれでも私の弟なの…。」
そうだった、忘れていた。
ミレーユに止められなかったら、そのまま殺していたかもしれない。危ない所だった。
「テリーに何があったのかわからないけど、次に会った時は、絶対に私だけで正気を戻して見せるわ…。」
正気に、か…。
あんな殺戮者が、簡単に正気を戻すとは思えないが…。
まあ、姉のミレーユなら何とかなるかもしれない。
殺されそうになっっても、俺とヘンリーで助ければ良いだけだ。次にあった時は、奴を超えてやる。
…そうだ、忘れていた。ヘンリーだ。
テリーに刺されてから回復していない。早く回復しないと危険だ。
俺はヘンリーの所へ行き、ベホイミを唱える。ヘンリーの体は、淡い光に包まれた。
………。
…ヘンリー?
どうしたんだ?起き上がらないぞ。ベホイミは成功した筈だが…。
「おい、どうした?起きろ!」
ピクリとも動かないヘンリーの体を揺さ振る。
何度も繰り返すが、全く動く気配がない。
…まさか………。冗談だよな?ヘンリー…生きてるよな…?
俺は最悪の事態を予測し、恐る恐るヘンリーの胸に耳を当てる。

……………。
最悪の事態が、的中してしまう。
ヘンリーの心臓は、機能していなかった。
地面に流れる大量の血…恐らく、出血多量………。
「死んで…るの…?」
ミレーユが、か細い声で俺に聞く。
俺は、それに答えなかった。認めたくなかった。ヘンリーが、死んだとは………。
しかし、心臓が動いていない。これは、その者の人生が幕を閉じたという証拠。
嘘だ…ヘンリー………お前は…魔族と真っ向から戦うという固い決意があった筈だ…。
それに…今生きている唯一の家族…弟も探していた………それなのに………こ、こんな所で…死ぬなんて………。
なあ、冗談だろ…?起きてくれよ…ヘンリー………。
しかし、ヘンリーがそれに答える事はなかった。
今朝、笑顔で俺に挨拶をしたヘンリーが、死体となって地面に倒れている。
この世界に来て初めて、俺が涙を流した時だった。

魔族との決戦まで、あと11日

Lv27
HP82/140
MP47/70
武器:雷鳴の剣 鎧:シルバーメイル 兜:風の帽子
回復:ホイミ、ベホイミ
攻撃:バギ、バギマ、ギラ、ベギラマ
補助:スカラ、ルカニ
特技:はやぶさ斬り、火炎斬り、諸刃斬り、魔人斬り、正拳突き

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