決戦の日の朝、俺達8人は海辺で魔族がやって来るのを待ち続けていた。
ヘンリー、ブラストが先頭に立ち、その少し後ろに俺と武器屋とカシラ、後方にミレーユとカルベ長老とフンドシが構えている。
フンドシはああ見えて魔法使いだそうだ。上級呪文も複数使えるらしい。修行の時は全く呪文を使っていなかったが、本当なのだろうか。
―――――デモンズタワーで、ヘンリーと再会してから1ヶ月。
俺は、魔族との決戦に向けて死ぬ思いで修行を続けた。
僅か1ヶ月で、ジャミ達にどこまで近づいたのかは分からない。寧ろ、10年前より更に実力差を見せつけられるかもしれない。
霞がかった希望なのか、くっきりと、色濃く輝く希望なのか…。
何れにせよ、決戦は目前に迫っている。
やれる事は全てやった、という訳ではないが、この僅かな時間で出来る事は、魔族が襲撃してくるのを待つのみ―――――

「来たぞ!!!」
先頭にいるブラストの声と共に、一気に心臓が高鳴る。
遥か北の魔族の城を見ると、今まさにこの世の悪魔達が押し寄せてくるところだった。
とてつもない魔力が感じられる、一隻の巨大な黒い船。それを取り囲むように、周りを旋回する鳥の魔物。
それを見るや否や、決戦に参加する者達全員の体が大きく震えるのが分かる。それは俺も例外ではない。
全身大きく震え、剣を握る手からは多量の汗が流れ出る。
戦わずとも、分かる…。魔族の圧倒的な魔力が…。
船が徐々に近づくと共に、全身から危険の信号が発せられる。
多量の汗、無意識に食いしばる歯、速さを増す心臓の音…。
「構えろ!!」
ヘンリーがそう叫ぶと、全員が武器を構える。それに遅れて俺も剣を握り締める。
気がつくと、黒い船よりも先に、鳥の魔物が目の前に迫っていた。
魔物達は俺達を確認したのか、鋭い眼光を放ち、巨大な翼を高速ではばたかせ、一気に迫り来る。
そして遂に、魔物達が鋭い爪をたて、唸り声をあげながら襲い掛かってきた!!!
「はあぁぁぁぁぁ!!!!!」
ヘンリーが雄叫びをあげ、臆することなく魔物に飛びかかる。それに続き、ブラストも。
キィン!カァン!!
目の前で繰り広げられる、人類の運命を賭けた決戦。今、その決戦に俺も…。
「はぁっ!!」
――――――――――参入する!!!

繰り広げられる戦闘。鳴り響く奇声、雄叫び、爆音。
怒り、憎しみ、悲しみ…俺の中にある全ての感情を、剣に込め、果敢に振るう。
「とどめだ!!」
ズシャァッ!
「ギャァァァァァァス!!!」
旋回していたスターキメラが、奇声をあげ、パタリと地面に崩れ落ちる。対する俺は、2、3撃攻撃を受けた程度。
信じられない程強くなっていた。この村に来るまで魔物に圧倒されていた俺が、今は互角以上に戦っている。
攻撃を受けても平然としているブラストや武器屋、素早い動きで敵に触れさせもせず仕留めるカシラ、そして、ベギラゴンやメラゾーマといった上級呪文を容易く操るカルベ長老、フンドシ…。
なるほど。これほどの実力者達と毎日瀕死になるまで修行をしていたら、強くなる訳だ。
ヘンリーの動きも段違いに良くなっているし、ミレーユも以前までは使えなかったマヒャドを唱えている。
これは、案外容易に倒すという事も有りうるかもしれない。
「バギッ!クロスッ!!!」
俺に集中砲火をかけてきた三匹のガーゴイルに向かって、巨大な真空の刃が襲い掛かる。
真空の刃は瞬く間にガーゴイル達を飲み込み、全身を切り裂いた。
稲妻呪文の代わり、と言うのもどうかと思うが、バギの最上位呪文バギクロス。カルベ長老に教わった呪文だ。
あの稲妻には及ばないが、それでも、魔物を一撃で仕留める程の威力を持つ。
因みにもう一つ、ホイミの最上位呪文ベホマも習得した。まだ1回成功しただけで、実戦の中では未使用ではあるが…。
まあこの決戦の中で、何度も使う時が来るだろう。それ程、大規模で危険な戦いなのだから。



20余りの鳥の魔物を殲滅させる。
ガーゴイル、スターキメラ、ホークブリザード…手強い相手ではあったが、完全にこちらが圧倒していた。
余力はまだ十分に残っている…後は船の中にいる半数程度の魔物…倒せるか、否か。試してやる…!
「中々やりますね…皆さん。」
突然どこからともなく聞こえる高い声に、俺は全身が凍りついた。

船からふわりと飛び降りる一匹の魔物…紫のローブ…不気味に微笑む顔…それは紛れもなく、魔導師ゲマ。
ゲマは、ゆっくりと俺達に歩み寄る。不気味な微笑みを崩すことなく。
10年前の…あの時とは段違いの魔力を感じる…。ダメだ…全身ゲマに縛られているかの様に、身動きを取る事ができない…。
「き…貴様が何故ここに…!!!」
ヘンリーが、ゲマに剣を向ける。剣先が震えて定まっていないところから、ゲマに恐怖しているのが分かる。
「自己紹介がまだでしたね…。私はゲマ…。魔王ミルドラース様の側近の者です…ほっほっほ…。」
「くっ…!」
ゲマは、剣を向けるヘンリーを完全無視。8対1という状況下でも、ゲマから焦りや恐れを感じる事は出来ない。
戦わなくても、分かる…。10年前と比べて、ゲマとの差は、縮まるどころか、圧倒的に開いていた。
「ご安心ください…。あなた達と戦うつもりは毛頭ございません。血の宴を拝見しにきただけですから…ほっほっほ…。」
「ち…血の宴だと…!」
ヘンリーが、一歩前に出る。僅か1m足らずだが、ゲマに対して一歩近づくというのは、常人がなせる『業』ではない。ゲマの前では、そんな容易なことですら行うのは困難なのだ。
「そう…血の宴…。魔族と人間が戦い、傷つけ、殺しあう…。その様な最高の興を見ないわけにはいかないでしょう…ほっほっほ…。」
微笑みながら淡々と恐ろしい事を言うその姿は、まさに狂人…。やはり魔族とは皆、この様な思考をしているのだろうか。
「おっと、戦いの途中でしたね…失礼…。では、船の中で拝見していますので頑張って下さい…ほっほっほ…。」
そう言って、ゲマは船の中へと戻っていく。それと同時に、船の中で待機していた魔物達が、一斉に押し寄せる。
悪魔神官、メタルドラゴン、ゴールデンゴーレム…先程の鳥の魔物とは、段違いの強さを誇る魔物達…。さっきのは余興と言うのだろうか。
さっきより厳しい戦いになりそうだが…それでも、絶対に倒してゲマのところまで行ってみせる…!

ザシュッ!
「つっ!」
シュプリンガーの斬撃が、ヘンリーの脇腹に直撃する。

「メラゾーマ!!」
カルベ長老の放った巨大な炎の玉メラゾーマが、シュプリンガーの全身を焦がし尽くす。
「キシャァァァァァ!!!」
耳鳴りがする程の断末魔と共に、地面に倒れ絶命するシュプリンガー。
「どうしたんじゃ!勝てない相手ではないじゃろう!」
「す、すまない…!」
先程からヘンリーの動きが悪い。やはり、ゲマと対峙したのが原因なのだろうか。
実のところ、俺も同じだった。戦闘中にゲマの事ばかり考えてしまって、集中できていない。お陰で、仲間に助けられ続けるという失態を晒している。
この戦いにだけ集中したい…そう思ってはいるのだが、ゲマを間近に見た直後に、一時的にゲマを忘れ去るなど、至難の業…。ゲマという存在は、それ程脅威…。
さっきゲマが現れたのは、動揺させるためなんじゃないか…?魔族の恐ろしさを見せつける為に、現れたのでは…。
その様な考えが、無限にループする。
戦闘中にそれ以外の事を考えるなど、この世界では『死』を意味する。
実際、仲間がいなければ今頃、確実に屍と成り果てていただろう。
これではダメだ。ジャミやゴンズ、ゲマのところに辿り着くのは到底無理…。
今は、この戦いに集中しろ。ゲマという、最大の雑念を振り払い…。
「―――スカラ!」
再び剣を構え、魔物の海に飛び込んでいく。ゲマという目標に辿り着くため。



苦戦を強いられながらも、合計50匹の魔物を殲滅させる。
安心したのも束の間、次なる試練が待ち受けていた。
既に船から降りて、高見の見物をしていたジャミと、ゴンズ。
ゲマ程ではないものの、とてつもない殺気と魔力が感じられる。
流石ゲマ直属の部下、と言ったところか。50匹の魔物を倒した俺達を見ても、恐れるどころかゲマの様に不気味に微笑んでいる。

「へっへっへ…50匹倒しやがったか…。意外とやるようだな…。」
ゴンズがニヤニヤと笑いながら、口を開く。
「今度は俺達が直々に戦ってやる…と、言いたい所だが…その前にまだ戦って貰わねばいかん奴がいる…。」
まだ他にいるのか…?まさかゲマが戦う訳ではあるまいし…と言う事は…。
「遂に使う時が来たな…魔族の秘密兵器…。」
やはり…来た…!
秘密兵器とは、魔物だったのか。一体、どんな魔物なのだろうか…?
ジャミが、ゆっくりとこちらに手を向ける。それに警戒して、俺は剣を構える。
「秘密兵器、と言うより…実験体なんだがな…。…出でよ!実験体!!」
次の瞬間、周囲が突然光ったかと思うと、ジャミの目の前に、稲妻が舞い落ちた。
ドォーーーーーン!!!!!
「くっ!!」



「へっへっへ…。俺達と戦いたければ、まずこいつを倒すんだな。」
稲妻の後に聞こえたのは、ジャミの声。眩しさで目を瞑っていた俺は、ゆっくりと目を開く。
「―――なっ!?」
そこにあったのは、信じ難い光景…。俺のある一つの期待を、跡形もなく消し去る、最悪の光景…。

「ド………ドランゴ………!」
全長4mの、巨大な斧を持つ恐竜…ドランゴ…。
まさか、こんな形で再会する事になるなんて………。
「コロ…ス………コロスコロスコロスコロス…!」
ドランゴは巨大な斧を振りかぶり、俺に向かって一気に振り下ろす。
ドォォン!!!
間一髪で避けるが、斧の着地点の砂が吹き飛び、砂嵐が巻き起こる。
「ド…ドランゴ!俺だ!思い出してくれ!!」
そう叫ぶが、思い出す可能性が無いに等しい事は、既に分かっていた。
ドランゴの紅い眼は、テリーの眼と同じ様に、悪魔の様な眼光を放っていた。
「ん?お前は…へっへっへ、そうか。10年前にデモンズタワーで、ゲマ様に石にされた奴じゃねえか。まさか復活してたとはな…。」
返事をしたのは、ドランゴでなく、ゴンズ。
「元仲間同士が敵として再会…面白ぇじゃねえか。おい実験体!あいつを集中的に狙え!!」
「ググ…リョウ…カイ………。」
ドランゴは標的を俺一人に絞り、再び斧を構える。
10年前に共に戦った仲間は、最早俺を『敵の中の一人』としてしか見ていなかった。

Lv32
HP121/167
MP69/88
武器:雷鳴の剣 鎧:シルバーメイル 兜:風の帽子
回復:ホイミ、ベホイミ、ベホマ
攻撃:バギ、バギマ、バギクロス、ギラ、ベギラマ
補助:スカラ、ルカニ
特技:はやぶさ斬り、火炎斬り、諸刃斬り、魔人斬り、正拳突き

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