妙に耳に馴染んだメロディが、頭の奥に響いてくる。 ―名前を、あなたの名前を決めてください。 男とも女ともつかない不思議な声がメロディよりもくっきりと脳を揺らす。 名前?名前なんて自分で決めるもんなの?俺の名前は、 そこで気がついた。ああ、なんだドラクエだ。ドラクエのオープニングだ。 ―冒険の書を作成します。あなたの名前を決めてください。 そういえば昨夜、寝る前に再プレイやろうか迷ったっけ。だからこんな夢・・・、ああ、そうか夢か。意識があるまま夢、ってたまに見るもんな。それにしてもドラクエって。はまりすぎじゃね?俺。ちょっと痛くね? ―冒険の書を作成します。あなたの名前を決めてください。 えーと、そうだな。名前名前。なんにしよっかな。いっつも悩むんだよなー。前なんて付けたっけ?ああティムだ。ティム・ロビンスのティム。思いつき。ダセ。 ましな名前思いつかねーよ。やべー、どうするかな。 あ、パパスの息子だからサンでいっか。サン。うん、まあ悪くないだろ。ムスコとかよりはいいだろ。多分。 「サンです」 ―サン。あなたの冒険の書が作成されました。ではお気をつけて、冒険をお楽しみください。 言いながら声が遠くなる。 ドラクエ久し振りだなぁなんて思っていると、次第に頭の中の音楽も遠ざかっていく。 やがて世界が暗転した。